第29話 仲良くなれて嬉しいです

「それはいいですね。折角会えたのですし、一戦交えましょうか」


「ホントですの!?」


 と、クロエさんは目を輝かせます。


「おいおい、あんたら正気か? ここはシーク領だぞ。身内同士でやりあえる場所じゃねえよ」


「もちろん正気ですよ。冗談ですし」


「あんた、冗談言えたのかよ……」


 セナさんがいつもの呆れ顔で見てきますが、冗談を言えないと発言した覚えはないので私は少し不満です。


わたくし、ちょうど領地に戻る予定でしたの。あなた方は?」


「私たちも目標を殺害し終えた後ですが──」


 この後何をするか知らなかったので、セナさんを見ます。


「ああ。帰る予定だ。あんたのホームは?」


「ルベリスクですわ」


 私たちがよく宿屋を借りるのは最初に出会った場所とは違う──確かオビニアという名前です──ので、一緒に帰ることは出来なさそうですね。


「残念です」


 戻ったら戦えると思ったのですが。


「何がですの?」


「俺たちのホームはオビニアなんだ」


「でしたら、私が一度そちらに赴きましょう! どの拠点にも訓練場はありますから、なんの問題はありませんわ!」


「それで万事解決ですね。すぐ向かいましょう」


 私が早速マップを開くと──マップから行きたい場所を選択し、瞬間移動できるのです──セナさんの目線を感じました。


「あんた、やけに積極的だな」


「ええ。以前のクロエさんとの戦いはとても楽しかったので、気持ちがはやっているようです」


 それに、あの戦いは私の代わりにセナさんが決着をつけてしまったので、少し悔しいのもあります。


「ところで、クソガキがどうしてるりさんと一緒にいるんですの?」


 クロエさんがジトッとした目でセナさんを見下ろしています。

 セナさんはかわいらしく目と口を開けて驚いてみせました。


「今更? もしかして俺のコト認識してなかった? 会話してたのに?」


 確かに会話は成立していましたが、クロエさんはそれを完全に無視して話を続けます。


「というかあなた、また卑怯な方法で私を倒しましたわね! 許せませんわ!」


「んなこと言ったって、漁夫の利はスナイパーの得意技だろ? 知らんけど」


「卑怯も卑怯! ぜんっぜん! 豪華絢爛じゃありませんわー!」


 クロエさんの叫び声が、森の中に響き渡りました。


▼▼▼▼▼



「ふふん! やっぱり実力は私の方が上ですのね!」


 クロエさんは鼻を鳴らしながら、お酒に模した飲み物の入ったジョッキをテーブルに叩き下ろします。


「実力ってより、あんたのユニークが強いだけだろ」


「ユニーク?」


「ユニークスキルのことだよ。特殊なクエストをクリアすると貰えるスキルで、クロエ……は大方、武器を貫通させる系のスキルを持ってんだろ。派手な戦い方の割には、結構地味なスキルだよな」


「それは言わないお約束ですわ! それに、物を貫通してズバーッと斬れたほうが気持ちよく──って、何を言わせるんですの! ユニークスキルについては企業秘密ですわ!」


「なるほど」


 クロエさんと戦っている時、私の短剣でクロエさんの攻撃を防ごうとするとすり抜けて来てしまうことがよくありましたが、そのような仕組みがありましたか。

 ついうっかり先入観で動いてしまうので、今回は負けてしまいましたが、次回からは念頭に入れて戦うことにしましょう。

 あと、腕が鈍ってしまっていたので、さらなる鍛錬が必要でしょう。


「ところであんた、いつまでいるんだ? 俺たちはそろそろ作戦会議に移りたいんだが……」


 そうでした。何となくクロエさんがいることに慣れてしまっていましたが、私たちはこれから作戦会議の予定なのでした。

 会議の前に少し飲みたいとクロエさんが仰るので、一緒に酒場で飲んでいるのですが。


「ひどいですわね! まだ10分しか経ってませんのに。……作戦会議ってなんの作戦会議ですの?」


「領土戦についてです」


「まあ! 楽しそうですわね。確かにそろそろどこかで誰かが始めるのではないかと思っていましたが、まさかこんな身近にいるなんて! でも、二人でやるんですの?」


「ええ。足りないとは思っているのですが」


「なら、わたくしも入れてくださいまし!」


 その予想外の提案に、私もセナさんも驚きを隠せません。


「えっ、いいのか?」


「ええ、もちろん。知っての通り、わたくしはソロですもの。とは言っても、ハイドはソロばかりですから、別に珍しくはありませんけど」


「それは助かるぜ。つっても、あんまり役には立ってもらえないかもしんねえけど」


「ホントですの? わたくし、これでも一応ランキング2位ですのに」


「さっき俺が考えた作戦がだな──」



▼▼▼▼▼



「いらっしゃいませー」


 その日は、いつも通りのつまらない日だった。

 郊外にある武器屋がつまる日を過ごすのも無理な話ではあるが、それでもつまらないくらいがちょうどいい。いつも通りが、ちょうどいい。


 それを如実に表すかのように、そろそろ店仕舞いをしようかと言う時には現れた。


 最初は、ただ美人だなあと思った。色白で、左右の目の色が違って、紅をさした唇が細くて。背が低いのにもかかわらず、気品すら感じる。

 彼女は飾ってある武器に目もくれず真っ直ぐに歩いてくると、美しい鳥のような声で言った。


「この村の武器屋さんはここだけですか?」


「はい。いかんせん、小さな村なものですから」


「そうですか。ところで、今日ここに訪れたプレイヤー……降臨者はいますか?」


「いいえ。いませんよ。そういったことは、宿屋の店主に聞くといいですよ。この村に訪れる方々は大抵、お休みになるために来られますから」


「そうですか。ご親切にどうもありがとうございます」


 それから少女は女神のような微笑みを浮かべると、一礼する──かと思いきや、素早く腕を振った。

 ピッ、と彼女の美しい頬に血が吹き飛ぶ。

 誰の血か?


 ──私の血だ。


「痛……い。死──」


「あら。すみません。痛い思いをさせるつもりはなかったのですが」


 武器屋の店主は首の前半分を断たれ、カウンターの上に倒れ込む。


 ひとり残った少女は返り血も拭き取らないまま、どこからともなく火のついた木の棒を取り出した。


「あ、と。忘れていました」


 そう言って彼女は木の棒を手に持ちながら、室内を木の葉で埋め尽くし、店の外へ出る。

 少女が木の棒を店の中に投げ込むと、木の葉に燃え移った炎がすべてを燃やし尽くしていく。


「さて、お楽しみはこれからです」


 そう、悪魔のような笑みを浮かべて、エルフ耳の少女──るりは言った。

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