シュウくん、チョウくんの自転車

岩田へいきち

シュウくん、チョウくんの自転車


 自転車が四、五台倒れている。でも立ててあげたりしない。

台風が通過するような強風の時に立て直しても無駄だ。結局、また倒れて遂には自転車を破損してしまうだろう。

 外国人就労者のシュウくん23歳は、こんな強風の日もいつものスーパーにいつものように自転車でやってきた。

置き場に自転車を立てて店の中に買い物へ。

 大丈夫か? 案の定、自転車は、強風で倒され、大きな音をたてた。収納しておいたカッパも半分はみ出している。

 そこへまた自転車に乗った先輩、チョウくん34歳がやって来た。

チョウくんは、無残に倒れたシュウくんの自転車を横目で見て、ちょっと考えた。

チョウくんは、最初から自転車を倒して置いて店の中へ入って行った。

 チョウくん、君は正解だ。

間も無く、買い物を終えたシュウくんが買い物袋を二つ下げて帰ってきた。

――ああ、倒れてる。なんて無残なんだ。誰も救ってくれないのか。なんて酷い国なんだ。

 シュウくんは慌てて自転車を立て直して、カッパを入れ直し、とりあえずベンチに置いていた買い物袋もカゴに載せた。そしてチョウくんの自転車に気付いた。

――そうかそうか、この自転車も風で倒れたんだな。この国の人は冷たくて誰も立て直してくれないからぼくが立て直してあげよう。

シュウくんは自分の自転車を離れた。

 大丈夫か? シュウくん、その間にもまた君の自転車は倒れないか?

シュウくんは、なんなくチョウくんの自転車を立てて、ぼくはやっぱり好青年だと思った。そして運良く2度目の倒車を免れた自転車に乗って颯爽と帰って行った。

間も無く、自転車置き場に帰ってきたチョウくんは、叫んだ。

「自転車が立つほど風が吹いたのか、なんて風当たりが強い国なんだ」


  終わり

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