第一話  石ノ宮家

ブー ブー   ブー ブー  ブー


カチャ


 デジタル時計の目覚ましをノールックで止める。日付は6月の20日、先日のニュースの予報では今日からが梅雨入りの予定だ。例年より少し遅い。


「ん~」


窓際にベットを置いているせいか、嫌な音がはっきりと耳に入ってくる。


「今日は雨か」


 いつもに増して、憂鬱なわけだ。気分のせいか、体がいつもより重く感じる。目覚めの感覚も普段より悪い。


 ただでさえつまらない日々の連続だっていうのに、こんな日には何もかもを投げ捨てたくなる。


 スマホを見るとメッセージアプリの通知がかなり溜まっている。一日でスマホを使っている時間は少ないほうだと思うが、毎朝一番初めに確認するのがスマホという習慣は身についてしまっているようだ。朝確認することが直接害のあることではないが、スマホっていうのはつくづく厄介な道具である。


「あ~今日歴史の発表だっけ」


 クラスのメッセージグループでは歴史の発表の話で持ち切りだ。クラスのメッセージグループっていうのはこういう時に役に立つ。特に発言することもないが、必要な情報はグループ入っていればいやでも目に付く。なるほどスマホっていうのは厄介なことだけではないらしい。


 普段は10時には寝てしまうのでそれ以降の出来事は次の日にならないと確認できない。人に話すと『はやっ!』とか言って驚かれるが、遅くまで起きている人っていうのは言った何をしているのだろうか。


 厄介ごとっていうのは起きている時に起こるのだから、さっさと寝てしまうのがうまい人生のこなし方だと思っている。


「何発表するか・・・」


 重い体をベットから起こし洗面所に向かう。目を覚ますついでに顔を洗って歯を磨く。口が爽やかになったところで制服に着替えた。うちの制服は学ランだ。学ランは首元が苦しいのからあまり好きじゃない。


 勉強はできるほうだ、あまり好きではないが。特に学校の授業では成績が付く、それがなんだか気持ち悪い。俺にとってはどうでもいいことなんだが・・・


 今回の発表だって特に困ったことは一つもない。いつも通りやればいい。今の時代は本当に便利なのだろう、インターネットを使えば歴史についても簡単に調べることが出る。情報の真偽を問わないのであれば、スマホ一台持っているだけで世の中のことはたいてい出てくる。


 朝ごはんは部屋の外にある配膳に用意されているのでそれを部屋に持ち込んでいすに座る。今日の朝ご飯はケチャップのかかったオムレツにクロワッサン、トッピングにソーセージなんかもついている。味気ない気もするが、朝ごはんなんてこれぐらいがちょうどいい。


 朝の支度も落ち着いたところでメッセージをスクロールしていくと、どうやら発表する歴史の年代は既に割り振りが行われていたらしい。


 自分の担当は2020年代—―――――2020年代と言われて頭に浮かぶのは石ノ宮グループへの国家全権委任宣言だろう。この2020が日本にとって大きな転換点となった年だ。2026年の宣言がきっかけで今の日本では石ノ宮グループによる独裁政治が行われている。詳しくはよくわからないが・・・というか政治にはあまり興味がない。


 スマホを片手に石ノ宮グループについて調べながら食事を済ましたら、授業に必要な道具をカバンに入れて学校の準備も終わらせてしまう。基本置き勉なので特に入れるものはない。食器をもとあった配膳に戻しさっさと部屋を出ようとすると、洗面所の脇の方に小さな水たまりができているのが目に入った。


「なんだろう、雨漏り・・・なわけないか」


 この上にはまだいくつか部屋がある。確か、父親の研究室だった気がするが。とにかく雨漏りがこの部屋で起こるわけがないのだ。とりあえず今は時間がないので、応急処置として口をゆすぐ用のコップを水溜まりのところに置いておいた。


 部屋を出るとすぐ燕尾服えんびふくを着た髭の濃い男と向かい合った。身長は平均的で見た目は完全に執事なのだが・・・髭がなんか違う。一般的な執事のイメージだと髭は顎髭が長く伸びた感じだと思うのだが、この人は何だかただ単に濃い、しかももみあげと髭がつながっている。


「守様お待ちしておりました。学校までお送りします。車の御用意は済んでおりますので・・・」


「善知さん、送りはいつも要らないと言ってるだろ」


 せっかくのお誘いだが食い気味で断っておく。学校まで行って目立つのはごめんだ。そういうのが似合うやつもいるのだろうが、俺はそういう柄じゃない。学校ではなるべく静かに過ごしていたいのだ。


「それでは気をつけていってらっっさいませ。是非楽しんで」 


 善知は手を胸に当てて律儀にお辞儀までしている。こういう堅苦しいのも嫌いだ。


「はいはい。行ってくるよ」


 適当に返事をして先に進む。部屋を右手に出るとすぐのところに角があり、そこを曲がるとエレベーターが設置されている。このエレベーターを使って1階まで降りる。自分の部屋が13階にあるので下まで降りるのに時間がかかるのが面倒だ。


 一回まで降りると大きなロビーになっている。警備員が何人かがエントランスの警備についていてつまらなさそうに立っている。給料をどれくらいもらっているのか知らないが、こんなに退屈な仕事をよく続けられる。たいていの場合2、3カ月で人が変わっているが、退屈が原因ではなさそうだ。


 エントランスを出ると大きな門が待ち構えている。いつ見てもでかすぎる。牢獄にでも入っている気分だ。そんな牢獄の脇には、石ノ宮の文字が彫られている。


 そう、俺は日本の独裁政権を握っている石ノ宮グループ会長の一人息子、石ノ宮守なんだ。

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