覡の御占

 乳母めのとかんなぎもとき、「御齢十五にお成り遊ばす姫様ひいさま九月ながつき晦日つごもり酉刻とりのとき程より御具合のかんばしからずお成りなのは、如何いかなるゆえのございますのか、御占みうらして下さいませ」と申し上げると、かんなぎ禰宜ねぎの申すには「何ともはや判じがた御占みうらかたちしや姫はみごもっておられるのではありますまいか。いずれにしても気懸かりな占相せんそうでございます」とのことで、乳母めのとは心当たりもなく不思議の思いを抱きつついそ帰参きさんしてそのように申し上げたところ、御母君は「私も懐姙かとはかっておりましたが、そのようなことは乳母めのとたる其方そこもとの気付かぬなど豈然よもやあるまいと思うておりましたから、えて私より口端くちばしれること流石さすがに慎んではいたのですけれど」と仰って「一体、どのような事訳ことわけか、能々よくよくなだすかして問いあきらめるように」とお申し付けになったので、乳母めのと対屋たいのや参上まいのぼうて姫君の御傍おそばはべり「姫様ひいさまの御姿を拝しますに、すで身重みおもにお成りとお察し致しておりますよ。わらわめに何の気兼ねすることございましょうや。腹蔵つつみかくしなく御心みこころうちをお話し下さいましな」と、細々こまごましくつつめき促すので、姫君はとても秘めおおせることでもないのだから白地ありのままに語ってしまおうとお考えになって、気後れしながらも、少将との馴れ初めからわかれに至るまでの委細いきさつ悉尽ふつくにお話しになると、乳母めのとおどろあきれるばかりであった。


 その後、乳母めのとは御母君のもと退帰のきかえり、姫君の話されたことそのままに申し上げると、御父君の中納言殿もこれをお聞き遊ばして「何とも嘆かわしきことかな、后がねとして長秋宮ちょうしゅうきゅうにもまいらせんと夙夜あけくれ思い定めておったに、そのままにてとどめねばならぬとは無念なることだ」と銷沈しょうちんなさって、その後の日々をお過ごし遊ばされる。


 そうこうするうちに、御躰おからだも優れない中でようよう御産の差し迫るにつれ、姫君には御気力もすっかり衰弱おとろえてしまわれて、愈々いよいよ儚き御姿にお見受けされる。それでも乳母めのとを始め、他の数多あまたの女房達がお介添え申し上げたので、真実まこと可愛ろうたき姫君はれました。【御父中納言殿も御母北の方もこれをいつくしみなさることこの上ないものの、翻ってかざしの姫君は今際いまわきわと拝せられたのであった。


※【以下、異本在り。補遺参照。

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