第949話 クリスマスを前に山の上の拠点が騒がしい件



 山の上の拠点と言うか、来栖家のリビングは香多奈のもたらした報告で天地が引っくり返ったような大騒ぎに。特に末妹が騒いでいたのだが、それも確かに納得が行く。

 何しろ、来栖家が留守の間に強盗が家を荒したそうなのだ。それに気付かなかった来栖家も大概たいがいだが、まぁ田舎ののんびり家族なので仕方がない?


 そうして、異世界+土屋チームも一緒に見守る中、来栖家の空き部屋チェックが行われた。その結果だが、香多奈がもたらしたように幾つか無くなっている品があるとの長女の報告。

 さすが紗良は、アイテム管理もある程度出来ていてその報告に偽りは無さげ。ただし、何が無くなっているか全てを記憶は出来ていないそう。


 それは仕方がない、護人や姫香だって倉庫に何が入っていたかなどほぼ覚えていないのだ。もっと言えば、家に強盗が侵入したのにも気づかなかった有り様。

 その報告をもたらした香多奈は、犯人ははぐれ鬼とその一派だと衝撃の告白。小鬼ちゃんがそれを発見して、何とか防ごうとしたのだがまんまと逃げられたそう。


「それはご苦労だったな、香多奈からもお礼を言っておいてくれ……まぁ、盗まれてしまったモノは仕方がない。

 ただし、今後そうならないように対策は考えなきゃな」

「そっか、A級で名前が売れるとこんな目のつけられ方もしちゃうんだねぇ。確かに留守をしてるのも、遠征レイドの動向とかですぐ分かるしねぇ。

 誰もいない家なら、遠慮なく盗みに入れちゃうのは納得かも」

「それにしても腹が立つよねっ、せっかく私達が苦労して集めた魔法アイテムだったのにっ! ってか、外に出したら危ない魔法アイテムも、中にはあったんじゃなかったっけ?

 例えば呪いのアイテムとか、モンスターの召喚装置とか」


 姫香にそう言われてハッとした表情の紗良は、もう一度アイテム確認して衝撃の事実を一行に伝える。つまりは、両方ともこの場から消え去ってしまっていると。

 あ~あと言う表情の末妹は、今やすっかり諦観ていかんした表情で失ったモノに対する執念は無いみたい。逆にプリプリ怒っている、姫香を見て冷めてしまったのかも。


 それはともかく、この件は協会にも報告すべきかなと同じく冷静な土屋の問いに。やっぱ言わないと駄目かなぁと、警備の不備を自覚する姉妹は思い切り及び腰と言う。

 何しろ、押し入れに簡単な鍵を掛けただけの場所に、呪いの品や高価で危ない魔法アイテムを無造作に仕舞い込んでいたのだ。能見さんに怒られると、条件反射で蒼褪める姉妹である。


 そこからは、今いるメンバーを含めて対策を練り始める一行である。小鬼ちゃんに怒られたんだからねと、ちゃんとしてと口にする末妹は確かに正論まっしぐら。

 取り敢えず残った品は、特定の登録者しか入れない鏡のシェルターに運び入れる事に話はまとまった。シェルター内に鍵付きの部屋は無いが、物置はあるのでそこを利用する事に。


 鍵はあと付けして、随時警備状況を上げて行く予定。これでも最初に較べたら、強盗からは随分と手出しはしにくくなった筈である。

 これで何とか、小鬼ちゃんも怒りを収めて貰えれば幸いだ。




 その日の夕方まで、子供たちは大いに休みを満喫して午後は雪遊びに興じていた。その子供の集団には、ちゃっかりと小鬼ちゃんも混じっていたと香多奈からの報告が。

 どうやら、彼の怒りは友達と遊ぶ事で雪のように溶けてしまった模様。それは良かった、何しろ小鬼ちゃんには警備の面でお世話を掛けたようなので。


 そして来栖家の夕食前に、麓から1台の車が上がって来た。電話で前もって到来を伝えられていたので、護人もそれなら夕食を一緒にと歓迎する構え。

 チェーン付きのその車には、日馬桜町の協会支部の仁志支部長と能見さんの姿が。それから、ついでに『ライオン丸』の勝柴かつしばと『坊ちゃんズ』の氷室ひむろも同乗していた。


「やあっ、雪の酷い道をはるばる皆さんご苦労様です……今日はゆっくり夕食を食べて、何なら泊って行って貰っても大丈夫ですので。

 まぁ、今からする話題に関しては、少々重いかも知れませんが」

「ありがとうございます、夕食にお招き頂いて……いやまぁ、こちらも実は謝罪しなければならない案件を抱えてまして。

 来栖邸に盗賊が入ったのと、もしかしたら関連があるのかも」

「えっ、何があったの……協会の職員が謝る事態って、ちょっと想像つかないんだけど。あっ、能見さんはついでに動画編集をお願いしていいかなっ?

 今回は、“松江フォーゲルパークダンジョン”と“津和野ダンジョン”の2本だよっ」


 そんな騒がしいやり取りを行ないながら、リビングへと招かれる来客一同である。その後ろを肩身が狭そうな勝柴と氷室のカップルが続く。

 彼らも来栖家が戻る際に、一緒にこの町へと戻って来ての1泊である。それから冬の間に、“アビス”へと探索に通う為の伝手をお願いするつもり。


 現在は、協会と地元の自警団にお世話になっており、空き家も紹介して貰えた両A級チームの面々である。それを聞いた護人や姫香も、良かったと言う表情に。

 さすがに8人もの人数を、冬の間ずっと来栖邸で世話する訳にも行かない。集会所や鏡のシェルターもあるにはあるが、あれらは別に他人に長期貸すための施設では無いのだ。


 居座られたら逆に迷惑と言うか、まぁ本音を言えばそんな感じだろうか。ギルドのメンバーなら別に構わないけど、A級チームと言えどそこまで義理は無い。

 近所の住民から、食事や掃除をしてくれるお手伝いさんも募ったとの事でまぁ良かった。もちろんそのお給金は、彼らの懐から出してくれるそう。


 むしろそう言う地元に慣れている人がいないと、こんな山中での冬越しは辛いと思われる。まぁ、探索に関しては『ワープ装置』を貸し与えれば済む話ではある。

 このワープ装置だが、異世界+土屋チームも実は1台交換して持っている。もちろん“アビス”へのルートも繋がっているので、貸すならそちらが良いかも?


 何故なら、まだ“巫女姫”八神の冬の予知案件は残り2つも残っているのだ。そちらを早急に対処するには、来栖家が所有する『ワープ装置』は絶対に必要である。

 ホイホイ貸し与えて、緊急事態に間に合わなかったでは話にならない。


「それより護人さん、島根の協会から“たたり”案件が発生したって連絡が来たんですけど。大丈夫だったんですか、見た目は元気そうですけど」

「ええ、幸い表面化はしてないし、今の所は特に違和感もありませんよ。ギルド員のメンバーも、除去のために動いてくれるそうですし。

 それより、謝罪案件ってのは一体何があったんです?」

「そうだよっ、ウチの盗難騒ぎと関係があるって言ってたけど……あっ、ひょっとして協会にも強盗が入ったとかっ?」


 姫香の推測は完璧に当たっていたようで、しかも盗まれた品には来栖家が売った厄介な宝珠も含まれていたそう。それを聞いて、あちゃ~って表情の子供たち。

 まぁ、それは盗んだ奴らが悪いのであって、協会にも不手際はあったかもだが仕方がない。盗んだ者達は指名手配が掛かっているそうだが、足取りはまだ掴めていないそう。


 その者達の風貌だが、普通に若い探索者風の3名だったみたい。香多奈が小鬼ちゃんから聞いた、はぐれ鬼とその一味ともまた違っていて、関連性についてはこの時点では窺えない。

 それを聞いた仁志支部長は、ふぅむとうなって渋い顔で黙り込んでしまった。そうこうしている間にも、夕食の支度は整って来栖邸での夕食会はスタート。


 今夜は珍しく、近所のお隣さんの来訪が無いのはあらかじめの来客を話しているせいか。とは言え、夕食の場はいつもと同じ程度には賑やかで雰囲気も良い。

 紗良の鍋料理は絶品で、今夜のは普通に昆布だしなのだが野菜との調和は神レベル。そこに“津和野ダンジョン”で回収した、猪肉が投入されて行く。


 ちなみにワイバーン肉の方は、何故かコロッケの方に使用されている次第。こちらも好評で、氷室は超好みだった様で絶賛のコメントを飛ばしている。

 お鍋の方も、既に野菜とお肉の投入が3回目とハイペース。ただまぁ、来栖家とお隣さんで囲む鍋だと通常通りのペースとも言える。


 そんな中でも、会話は和気藹々あいあいと進行して場は良い感じ。話題は日馬桜町の事とか、後はダンジョン関連にかたよるのは致し方のない事。

 そんな夕食会が終わって、子供たちは島根の探索動画を持ち出して能見さんと視聴会を始めてしまった。リビングの隅っこで、動画で盛り上がる女子連合である。


 そんな中、大人たちは犯人の目安をつけようと真面目なトークを繰り広げていた。仁志支部長の伝え聞いた話では、三原を拠点とする若い元探索者なのではって推論が強いみたい。

 確定では無いが、ひょっとしたら例の“ダン団”の生き残りなのではないかと。そんな推理で、三原の復興にたずさわっている“皇帝”甲斐谷にも忠告済み。


「あっちはもう騒ぎは完全に収まったと思ってたけど、まだまだ火種はくすぶってたみたいですね。それがどれだけ燃え上がるか、どこで燃えてるかも定かでは無いですが。

 甲斐谷チームも、三原の協会の立て直しの最中なのに厄介な案件を抱え込みそうな雰囲気ですよ。何しろ向こうは、宝珠《竜化》や《暴食》なんて特殊スキルで、自己をパワーアップさせてるのに間違い無いんですから。

 他にも色々、広島の協会本部の金庫は根こそぎ盗られたそうです」

「それはさすがに酷いな、人の事は言えない立場だけど……ただまぁ、盗んだ相手もそれなりの力量があったって事なんだろうし。

 難しい問題だが、犯人を特定して捕らえなきゃ協会も面目丸潰れだろう」

「そうだな、金銭的な被害も出てるんだし……しかしまぁ、広島は島根や愛媛より平和だと思ってたけど。実はそうでも無いってのが分かって、ちょっと安心したぜ。

 まぁ、護人のダンナには借りもあるし、人手が必要なら気軽に声掛けてくれや。A級チームの『ライオン丸』と『坊ちゃんズ』が、何を置いても駆けつけるぜ!?」


 そんな調子の良い勝柴の台詞に、何で安請け合いするのよと小声での氷室の抗議が。何だかんだとイチゃついていて、案外と良いカップルなのかも知れない。

 そんな姿を見て、是非ともよろしくと冷や汗交じりの仁志支部長の返答。その背後では、これがヤマタノオロチ戦の全貌だよと、子供たちが動画視聴に盛り上がっている。


 2本の探索動画チェックは、さすがに長いので要所だけを飛ばし見しているらしい。そんなレア種戦だが、来栖家の動画を見慣れた能見さんでも開いた口が塞がらない模様。

 それを見た後、萌ちゃんやルルンバちゃんは無事なんですかと、思わず問うて来る能見さんは本気で心配そうな素振り。それに対して、ルルンバちゃんはそこにいるよとお掃除ロボを指し示す香多奈である。


 それから萌も、今日1日は念の為の休息を言い渡されていたけど全然元気。レイジーやツグミも、午後には完全復活して敷地内を走り回っていた。

 ミケに関しては、ムームーちゃんと共に護人の膝の上で微睡まどろんでいる。こちらもいつもの調子で、遠征レイドの疲労は特に窺えない。


 実は一番疲れていたのは護人と言う、まぁ言ってしまえば毎度のパターンだったり。後は問題のルルンバちゃんの魔導ボディだが、無理したせいで多少のがたは来ているかも。

 折を見て、隠れ里のドワーフ親方にメンテして貰う必要はありそうだ。





 ――年末の来栖邸は、そんな感じでまったりムードに包まれていた。







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