第950話 山の上の拠点で派手にクリスマス会が開かれる件



 今年のクリスマス会だが、小学校でも今日の午前から先生と在校生で開催された。それに出掛ける山の上の年少組は、出し物の練習もバッチリで楽しそう。

 それから学校の先生に、りょうも特別に参加させてよと頼み込むのも忘れない。その辺の配慮はバッチリで、熊爺家の双子も当然のごとく連れ出すのに成功していた。


 その辺の香多奈のマネジメント力は、最近めっきり強化されて来たような気も。とにかく小学校の体育館で催されたクリスマス会は、出し物を含めて成功に終わったそうな。

 それについては、楽しそうな笑顔で戻って来た子供たちを見れば一目瞭然。車で迎えに来た保護者の護人も、そんな子供たちに良かったねと言葉をかけている。


「まだまだこれからだけどねっ、山の上の集会所でもみんなでクリスマス会を開く予定だしっ! それより熊爺家のお兄ちゃんたち、招かなくても良かったの、天馬てんまちゃんに龍星りゅうせいちゃん?

 集会所は広いから、詰め込めば何人でも参加可能だよ?」

「兄ちゃんたちは、熊爺とパーティするって言ってたよ。私たちは探索者とかの付き合いがあるから、行っておいでって言われたの」

「それは孝行者だね、お兄ちゃんたちは……熊爺もいい子供たちを持ったね、あそこの家や農地はこの先も安泰だね。

 双子も熊爺やお兄ちゃんたちを、しっかり支えてあげてくれな」


 運転中の護人の言葉に、兄たちを褒められて誇らし気な双子は大きくうなずきを返す。あまり喜怒哀楽を表情に出さない双子だが、家族を褒められるのは嬉しいようだ。

 そんな感じで、車内はホンワカと良い雰囲気で険しい山道を登って行く。それからようやく、子供たちを乗せたランクルは来栖家の敷地に到着を果たした。


 それから元気に車を降りて、山の上の集会所へと駆けて行く子供たちである。今からみんなで、夜のクリスマス会の飾りつけを始めるとの事。

 そんな子供たちの楽しみの熱量は、留まる事を知らぬ模様。




 来栖邸、つまりは母屋おもやの方では現在女性陣が熱心にパーティの食事の準備を進めていた。それにはもちろん、島根のダンジョンで回収した材料も使う予定。

 お肉にしても猪肉や鹿肉、それからワイバーン肉など種類も多い。ついでにリンゴや山菜、お酒にしてもワインや問題のオロチ酒なんてのもたるである。


 酒飲み達にしたら、楽しみで仕方無いだろう……まぁ、ケーキとは合わないだろうけど。ちなみにクリスマスケーキも、お店で買ったのもあるし今から大きいのも作る予定。

 そんな感じの来栖邸の台所だが、護人は邪魔しないようにリビングの隅っこに避難していた。集会所にも台所はあるのだが、女性陣は使いやすいこちらが良い模様。


 子供たちがいない分は静かだが、護人の周囲にはミケやムームーちゃんが集まって賑やか。ちなみに萌やルルンバちゃんは、子供たちと集会所の方に詰めている。

 心配された萌の怪我だが、今ではすっかり元通りと言うか元気になってくれた。心配した香多奈は、昨日わざわざ診察に訪れた孝明先生に診て貰おうとしたのだが。


 さすがの老獣医師も、仔竜など診た事無いと断られてしまった。ただし、ハスキー達に関してはどこも異常なしとの嬉しい診断結果。

 それから牛やヤギなどの家畜たちも、みんな元気に冬を過ごしてくれていてまずは良かった。茶々丸も逃げ回っていたが、最後はツグミとコロ助に捕まっていた。


 そんな感じで、ペット達の健康は島根遠征の激戦を経て、何とか正常に戻ってくれた。問題はルルンバちゃんの魔導ボディなのだが、これは名医の孝明先生にも診察は無理!

 護人の装備と同様に、随分とヘタっている印象だが幸い故障って訳でも無いようだ。人間で言うと、ハードワークで筋肉痛って感じなので、時間を置けば何とでもなる問題。


 とは言え、疲れた肉体にマッサージ的なメンテくらいはと思う家族の面々ではある。その為に隠れ里のドワーフ親方に見て貰おうと、そう話すのだがなかなか行く機会が無いと言う。

 そんな感じで、とうとう年末を迎えてさてどうしたモノか。まぁ、行くとしたら護人の装備品もチェックして貰ったりと、頼み事は多くなるだろう。


 用件が多いなら行くべきなのだが、年末は何かと所用が舞い込むのも事実。大掃除をしたり、植松の爺婆からお餅つきの日程を相談されたり。

 来栖家は門松や正月飾りも自作なので、それをお隣さんの分まで作ろうと思ったらそれなりに大変だ。お手伝いの子供たちははしゃいで手伝ってくれるけど、ノコギリなど用具を使う時は大人の目は絶対に必要。


 幸い、こんな時は土屋女史が張り切って手伝ってくれるので人手は足りていた。何しろ、最近の山の上は子供たちの数も以前に比べて随分と増えて嬉しい限り。

 あかね久遠くおんも何気に参加しており、すっかりこの辺鄙へんぴな山の上の暮らしにも慣れて来た感が。ちなみに桃井姉弟の姉の茜は、島根遠征のお土産のスキル書で、新しく『雷光』と言う名の魔法系スキルを取得した。


 このお隣さん総出のスキル書とオーブ珠の相性チェックだが、既に毎度の恒例行事で皆が違和感なく受けてくれる。何しろ来栖家チームは、もうチェックが終わってるのは了承済み。

 そして末妹が騒いでないので、全部スカったんだなと確認出来ると言う。実際その通りで、残念ながら来栖家チームのスキル取得は今回も無しの結果に。


 ただし『ライオン丸』チームの勝柴が、来栖家所有の【天女の櫛】が欲しいと宝珠との交換を申し出て来た。どうやら恋人の氷室に贈りたいそうで、それならと護人と子供たちも了承する流れに。

 そうしてゲットした宝珠《分身》だが、これまた微妙な性能である。どうやら姫香の分身技とも違って、独立した動きが可能な分身が出て来るっポイ。


 それに対する忌避きひ感は、人間なら誰しも持っているので向こうも使い手が現れなかったそうな。ただし、分身スキルは強力なのも確かで、単純に戦力が2倍になるのは凄い。

 家族で話し合った結果、やはり護人も子供達も使いたがらず。それならペットの誰かかなと、そんな流れでムームーちゃんが候補に挙がる事に。


 これも何と言うか偏見で、スライムなら幾ら増えても大丈夫でしょみたいな思考なのかも。そして軟体幼児も、強くなるのに何の躊躇ためらいもないデシって男前な発言。

 そんな訳で、新たな特殊スキル《分身》を覚えたムームーちゃんだが、さすがに《蛇身化》は嫌らしい。奴らはスライムにとっても捕食者で、嫌悪感は半端無いそうな?



 そんな感じで、ちょっとだけ強くなったギルド『日馬割』だが問題点も少々。紗良が盗まれた品を思い出して、リスト作成してくれたけど内容がまぁ酷い。

 例えば『宵闇の魔核』や『魔炎の珠』などは、使い方は分からないが何かの核としてエネルギーに使えそう。それから『釣り鐘型の装置』は、来栖家チームもそれを止めるのに苦労した覚えが。


 他にも呪いの品は根こそぎやられたが、不思議な事に普通の魔法アイテムはほぼ手付かずで残っていた。中には強力な効果特大の品もあったのに、選定理由が良く分からない。

 案外と、小鬼ちゃんに犯行現場を見付かって慌てていたのかも。そう思うと感謝しか無いが、割と最近見付かった『封印の鉱石』も無くなっていたとの事。


 あれは協会に高値で売れるかなと思っていたが、まさか強盗の方に先に目を付けられるとは。例えばスキル持ち犯罪者の確保など、使い道は多い気がするがどうなのだろう。

 盗まれた後で気にしても詮無せんない事だが、悪用されなければと切に願う。ただまぁ、これも今更願っても仕方のない事なのかも知れない。


 それからもう1点、厄介な事に姫香の所有する白百合のマントがねちゃった問題が。これはどうやら、“津和野ダンジョン”のヤマタノオロチ戦で姫香が『天狗のマント』を使用した事に起因する模様。

 確かに「アンタが役立たずだから、他のマントに浮気しちゃった♪」ってのは、本人を目の前に言うべき事ではない。とは言え、実際にそう言う行為をしたのは紛れもない事実。


 拗ねるのも当然で、さてどうしたモノかと色々と家族で相談した結果。どうせ『天狗のマント』には意思も無いし、紗良も扱い切れていないので白百合のマントに進呈する事に。

 かくして、無事に仲直りも済んで姫香も『飛行』や『神通力』的な能力も扱えるように? まぁその辺は、この先の努力に大いに起因する事にはなりそうだ。

 遠征終わりのギルド『日馬割』の、成長と問題点はそんな感じ――




 その夜、華やかに開催される山の上のクリスマス会は始まりから騒がしい限り。その理由の半分は、会が始まる前から酒盛りを始めた酔っ払いが原因である。

 そしてもう半分は、会を仕切る子供たちのテンションにあるのは間違いのない事実。土間に勢揃いしているペット達も、子供の用意した帽子や紙飾りでお洒落に彩られている始末。


 もちろん壁や天井も、クリスマス飾りで派手に演出されてとっても素敵。護人の用意したクリスマスツリーも、サイズ的にも立派で1度の使用だけなど勿体もったい無い感じもする。

 そして鳴り響くクリスマスの歌に混じって、何故かハッピーバースデーの曲も。そちらは12月生まれの土屋女史と、それから凛香チームの隼人を祝っての事。


 それを知った山の上のメンバーは、ついでにお誕生日会も開こうと話し合ったのだった。サプライズの演出だが、事前にプレゼントも用意出来てまずは良かった。

 こちらは護人と姫香が、さっきまで買い物に出掛けて何とか用意した実用品。土屋女史には趣味と実益を兼ねての、上等なDIY工具セットをプレゼント。


 それから隼人には、園芸と言うか農機具や新品の作業着などの詰め合わせ。最近は本当に、護人以上に畑の世話を頑張っている隼人を評しての贈り物である。

 取り敢えずは両者とも、気に入って貰えそうな雰囲気で良かった。


「それにしても、香織かおりちゃんたら自分の誕生日をずっと黙ってるんだもんっ! あきらちゃんが言ってくれなかったら、危うくスルーする所だったよっ」

「隼人のお兄ちゃんもお誕生日おめでとう、贈り物は仔ヤギか子牛がいいかなって思ったんだけど。何か、無難なモノしか上げられなくてゴメンね?」

「いや、これで丁度いいよ……でも仔ヤギはちょっと欲しかったかな?」


 そんな事を話し合う今日の主役たち、他の面々はそんなやり取りを生温かい目で眺めている。今夜の主役は子供たちに間違いはなく、ついでの土屋女史と隼人には生贄になって貰う所存。

 この後は秘かに子供たちに買っておいた、クリスマスプレゼントの分配が待っている。それからもちろんケーキも食べるし、チキンも丸焼きが机の上に乗っている。


 幾ら騒いでも大声で歌っても、ここは山の上のポツン集会所なので関係ない。誰の迷惑にもならないし、苦情はまぁ家畜やペット達が騒がしいなって思う程度だ。

 それも小鳩や和香が、お肉の差し入れをすればスルーして貰える筈。クリスマス会は始まったばかりで、これから大いに盛り上がる予定。


 小島博士も既に出来上がっているし、キリストを知らないムッターシャやザジ達も浮かれている。酔っ払い組は、総じて酒を飲む機会があればそれで良い感じ。

 後は何とか、護人がその組に目をつけられないようするだけ。





 ――そんな思惑の中、子供達の歌声は元気に何度も繰り返されるのだった。







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