第948話 護人の祟りが判明しつつ島根遠征が終わる件



 何かと波乱が巻き起こった島根への遠征レイドだが、取り敢えず全チーム無事に戻って来れた。これにて“津和野ダンジョン”を始めとする、A級ダンジョンの間引きは遂行出来て何より。

 今回は来栖家チームが仕切り役をになったので、その点でも無事に終わって一安心。大役をこなし終えた護人だが、もう二度とやりたくないってのが偽らざる本音である。


 しかも護人は、“津和野ダンジョン”のレア種との戦いで“たたり”なるモノを受けてしまった。それが判明したのは、家に戻って鑑定プレート(人物)でチェックしての事。

 そこには見事に、勝柴の言うようにダンジョンの悪戯いたずらが記されていた。



【Name】来栖 護人/Age 44/Lv 42


HP 445/421  MP 158/120  SP 257/257

体力 B  魔力 D+  器用 B+  俊敏 B  

攻撃 B- 防御 A+  魔攻 C- 魔防 A-

理力 C+  適合 C+  魔素 B  幸運 C+


【skill】『硬化』『射撃』『掘削』

【S.Skill】《奥の手》《心眼》《耐性上昇》《異世界語》《堅牢の陣》

【Title】《大器晩成》《神殺し》《水神の祟り》



【Name】ミケ/Age 13/Lv 44


HP 165/152  MP 386/327  SP 298/256

体力 D- 魔力 A  器用 B  俊敏 A

攻撃 C+  防御 D+ 魔攻 A  魔防 B+

理力 B- 適合 A  魔素 A- 幸運 A

 

【Skill】『雷槌』『透過』

【S.Skill】《刹刃》《魔眼》《九魂九尾》《昇龍》《猫パンチ》

【Title】《準猫又》《天性のハンター》




 比較検討のためにミケの鑑定もしてみたが、どうやら家猫ミケの方は祟りとは無縁だった模様。取り敢えず良かったが、称号はやはり酷かった。

 ミケの《天性のハンター》はともかくとして、護人のは《神殺し》と《水神の祟り》である。この新しい称号は、どう考えてもヤマタノオロチ戦が原因に違いない。


 とは言え、護人の身体に特に異変の類いは見付けられず。探索終わりは確かに疲労が酷かったが、1日ぐっすり寝た後はいつも通りの体調に戻っていた。

 もちろん、疲労がすっかり抜けた訳では無いが、そんなのは農業仕事でも良くある事。冬の寒さで、肩や首回りがって辛いのもいつも通りで改めて口にするほどでもない。


「そんな訳で、皆を心配させてしまって申し訳ないんだが、取り立てて不調だと思える症状は今の所は無いかな? 遅効性だとしても、どんな不具合が生じるかは想像出来ないんだろう?

 それなら、今の時点であれこれ心配しても無駄だろう」

「それでも心配だよっ、何とかならないの紗良姉さんっ? リリアラと妖精ちゃんでも良いけどさ、レア種のいた層で回収した『古代の冊子』に、呪いの解き方とか書いて無かった?

 本当にもうっ、蛇のたたりなんて洒落にならないよっ!」

「蛇は祟るって言うからねぇ……ちなみに妖精ちゃんの見解では、チームで叔父さんだけが祟られたのは、称号からして間違い無いらしいって。

 ただし、前に飲んだ若返りの薬の効果とかで相殺されてる可能性があるってさ」

「それなら良かった……のかな? 一応は呪い解除の聖水的な秘薬の製作、リリアラと一緒に頑張ってみますね、護人さんに姫香ちゃん。

 実は材料については、貴重な品を含めて割と貯まってるんですよ」


 そんな事を話す紗良は、師匠のチビ妖精の見解を信じて疑っていない模様。それから自分達の錬金の腕前も、以前よりずっと上がっていると報告して来る。

 具体的には、以前と言うのはミケの為に『若返りの妙薬』を作った頃の事。その時より、再現性やレシピの数は断然上がっていると紗良は請け合う。ただし、それも素材が全て揃っていればの話ではある。


 『若返りの妙薬』など、レア素材ばかりで再現性は向上しても材料が揃わない典型である。何しろ素材も、使用期限があって駄目になる奴も多いのだ。

 その為に、植物系の素材は温室で育てて常時採取が望ましいそう。そんなループにはまっている紗良やリリアラは、研究職肌でかなり凝りしょうな性格みたい。


 そんな紗良や妖精ちゃんの言葉を聞いて、明らかにホッとした家族の面々である。今は遠征レイドから地元に戻って、一夜明けてのお昼の時間。

 外は晴れ模様だが、積雪はまだ残っていて地元では数日雪模様だったみたいだ。その反対に、来栖家のリビングは暖房が効いていてとっても暖ったか。


 集まった一同は、護人のアクシデントを聞き及んで心配したご近所の面々だった。異世界チームは全員揃っているし、土屋チームも同じく。

 このメンツは、遠征レイドを一緒にこなしたので当然かも。リリアラも、全面的に治療の協力を約束してくれて、それには星羅(ルナ)も同意する。

 ただし、元三原の“聖女”もたたりを消滅させるスキルは持っていないそう。


 何だか称号1つで、やたらと大袈裟になってしまった護人は、平気だよをアピールするのに忙しい。何しろ、その顛末を心配した『ライオン丸』と『坊ちゃんズ』も、日馬桜町にしばらく居座る事を決定したのだ。

 ただまぁ、これは方便で本音は来栖家のワープ装置を使わせて貰っての、“アビス”攻略がメインなのだろう。冬の間で、どうやら自前のワープ装置をゲットする算段なのかも。


 その協力には、来栖家としてもやぶさかでは無いが、山の上の拠点に8人も居座られるのはさすがにちょっと迷惑。そんな訳で、彼らの冬の間の生活拠点も探してあげないと。

 そう思うと、年末なのに忙しく感じてしまう不思議。彼らも年末位は地元に帰ればいいのに、探索者ってなんて因果な職業だろうって思う。


 確かにダンジョンの活動は、年末年始だからって休む事は無い。とは言え、年末年始も働く姿勢を見せる両A級チームには脱帽の思いしかない護人や子供たちである。

 来栖家としては、お正月は働いちゃダメと言う植松の爺婆の指示を、ガッツリと守る気満々だ。香多奈でさえ、お正月はダンジョンではなくお年玉で稼がなきゃと現実的。


 ちなみに、昨日の後始末だが来栖家チームはしっかりと、島根の協会に魔石やポーションの換金をして貰った。護人の祟られ疑惑で、ゴタゴタしたのは確かだがそれはまた別の話。

 と言うか、各種事務作業はきっちりとしなきゃ、そもそも帰れないので仕方がない。慌てる大人たちを尻目に、キャンプ地を畳んだり換金作業を行なう子供たちはとても立派だった。


 護人の面倒は、こちらも無事に戻って来れたリリアラや星羅ルナに任せる事に。事情を聞き及んだ両者は、リーダーの事は任せてと頼もしい限り。

 そんな来栖家の魔石の換金額だが、さすがのレア種のドロップが効いて520万円と高額だった。それをきっちり、現金で支払う島根の協会は資金が潤沢で素晴らしかった。


「昨日は帰りが遅くなってバタバタしちゃったけどさ、今回の遠征レイドの取りまとめ役は上手く行ったんだっけ? だとしても、もう2度とゴメンだって各協会には通達しておかなくちゃね!

 護人さんの負担ばっか増えて、良い事なんて1つも無かったじゃん!」

「えっ、リーダー手当てとか貰えたんでしょ、叔父さんっ? でもまぁ、お仕事が増えてばっかりじゃ大変だし、年末年始はゆっくりしようね?

 家畜のお世話も、全部私達に任せておけばいいから」

「そうだな、その位は許されるだろう……祟りの有無はともかくとして、年末年始はゆっくり休むとするよ。ただまぁ、『ライオン丸』と『坊ちゃんズ』のお世話はしてやらなきゃな。

 しばらくウチの地元を拠点とするそうだから、不便の無いようにしてあげないと」


 それは私がするから、護人さんはミケやムームーちゃんとのんびりしててよと姫香の言葉に。来栖家の子達は働き者だニャと、ザジが混ぜっ返す。

 そんな異世界+土屋チームも魔石の換金額は400万円以上とレイド作戦では大ハッスルしていた。ただまぁ、レア種とは無縁で敵の数で稼いだって感じか。


 もちろん、もう1つの『ライオン丸』と『坊ちゃんズ』チームも、400万円前後を稼いで戻った模様。それどころか、他の参加B級チームも普段より多く稼げたとホクホクだったとの噂。

 これもミケの効果なのかなぁと、その話を聞いた末妹は妙な事を口走っている。それをえて否定しない姉妹も、来栖家のミケのパワーの信者に違いない。

 そんな訳で、しばらく“津和野ダンジョン”の祟り騒ぎは尾を引きそう。




 そんなお土産話(?)を持って、積雪の酷い道を歩いてお隣さんへと向かう香多奈である。その後ろからは、コロ助と茶々丸が呑気に護衛役に付いて来ている。

 目的地は当然、和香と穂積のいる凛香チームのお宅である。ついでにりょうも連れ出して、午後から雪遊びをしようと言う算段の少女。


 ところが、怒れる小鬼ちゃんを視界の隅に見初め、その目論見は大きくれて行く事に。何で怒ってるのと、末妹は飽くまでフレンドリー。

 その怒気は、護衛犬のコロ助が思わず身構えるほどに強烈だった。小鬼ちゃんの恰好だが、雪の中と言うのに薄着の着物でちょっと寒そうにも見えてしまう。


 そのせいかなぁと呑気に考える香多奈は、温かいコートを貸してあげようかと提案する。それに毒気を抜かれたのか、ようやく落ち着きを取り戻す小鬼ちゃん。

 それから、コッチ来いと手で末妹を差し招いてのヒソヒソ話の提案に。何だろうと、何の警戒も無い香多奈はそれに従って、お隣さんの納屋の死角へと歩いて行く。


「どうしたの、小鬼ちゃん……あっ、コレお土産の和菓子あげるねっ? 昨日まで家族と一緒に、島根に遠征レイドに出掛けてたんだよっ。

 そうだ、これから一緒に雪遊びをしようよっ!」

『何を呑気な事を言ってる、カタナ……お前ん、今大変な事になってるんだろう? その被害確認を、家族で真っ先にすべきじゃないのか?

 コッチも勝手に、人の家に入る訳には行かないからな』


 そんな小鬼ちゃんの話を聞いて、耳が早いなぁと感心する香多奈である。叔父が祟られた話は、今の所は実害が無いとは言え大変な事態なのかも知れない。

 コロ助と茶々丸は、呑気に小鬼ちゃんの臭いを嗅いで不審者チェックに余念がない。それをマルっと無視して、腹を立てている小鬼ちゃんの追及は尚も続く。


『全く、家に強盗が入ったってのに呑気なモノだな……恐らく、お前たちが探索で手に入れた魔法系のアイテムを、ゴッソリと盗まれて行った筈だぞ。

 犯人は分かっているが、厄介な連中でこちらも迂闊うかつに手は出せない。奴等もこちらの世界に渡って来て、知らぬうちに勢力を拡大させていたようだ。

 全く、この土地は次から次へと厄介事が巻き起こるな……』

「えっ、えええっ……私たちの回収品、盗まれちゃったのっ!?」





 ――そんな素っ頓狂とんきょうな末妹の叫びが、雪の積もった山の上で響き渡るのだった。







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