第943話 レア種との激戦を制して信じられないお宝をゲットする件
吹き飛ばされた萌は、彼にしては珍しく腹を立てていた。ヤマタノオロチの
まぁ、それはある意味仕方がない……技の範囲は360度で、接近し過ぎていると避けようが無いのだ。それでもミケやレイジーは上手い事間合いを取っていて、直撃を避けていた辺りはさすがだなぁって思う。
そんな感じで、まだまだ未熟な自分の立場を思い知らされたのがまず1点。それから何と言っても、家族の前で役に立つぜと《巨大化》まで披露して出て来たのにこの
恥ずかしいったらない、穴があったら入りたいと仔竜は珍しく赤面の至り。それがある地点で反転して、みんなアイツのせいだとレア種に対して腹を立てたのだ。
幸いにも、覚えていた『頑強』スキルがダメージをある程度軽減してくれた。それでも山裾まで吹き飛ばされた萌は、小さくない怪我を負って特に自慢の翼は穴ぼこだらけに。
その位で済んで良かったとも思うが、問題は騎乗していたお姉ちゃんのツグミである。自分の身体で間違って潰していたらと思うが、幸いツグミは影に忍んで無事だった模様。
さすが忍犬ツグミである、そして彼女も萌同様にめっちゃ腹を立てていた。それでも弟分の怪我の具合を確認して、まだ行けるかと目で合図を送って来る。
萌も、飛ぶのは無理だけどまだ戦えるとガッツのある所を見せる。来栖家チームのメンバーは、少々の事でへこたれなどしないのだ。
それは日々、行動を共にする
そんな訳で、精魂尽き果てるまで戦うよとの、姉ちゃんの無茶振り作戦に乗っかる萌である。現にさっき、2匹はルルンバちゃんの華麗で献身的な、機体が煙を吹く程の猛攻を見せられたばかり。
ただしそれは負けではない、本当の敗北と言うのはペット達の基盤である
そうならない為の戦いなら、自身の全てのリソースを注ぎ込む事に何の
悲しい事に、ツグミは母ちゃんみたいに超攻撃的なスキルを持っていない。その為に、自分に今できる事を懸命に模索した結果がこの技である。
出来る事なら、重力操作であの忌々しい敵を
それは意外に効果があって、ヤマタノオロチの首2本をがんじがらめにする事に成功。動きも鈍った所に、態勢を整え直したミケとレイジーが再び攻撃を加え始める。
とは言え、攻撃勢のMPもさすがに限界のようで、最初に首を落とした時の威力には欠ける。そこに満を持しての、萌の隠し技が炸裂した。
《宝石魅了》のスキルは、厳密に言えば萌が宝石だった時代から所有していたモノである。これで知性のある者達を操って、宝石時代はあちこちに移動していたのだ。
子竜の身体を得た今も、その宝石はしっかりと額の部分に存在している。今はそれが神々しく光を放って、何とかヤマタノオロチの首の1本の魅了に成功した。
このスキルは、身体を得て以来初の使用なので、萌は上手く行くか割と不安だった。それでも何とか魅了に成功して、首の1本が隣の鎖で動けない首に咬み付いている。
この調子で全てやっつけたいが、さすがにレア種は抵抗力も凄い。気を抜けば簡単に魅了が解けそうで、これはマジでMPが尽きるまでの気力の勝負になりそう。
こんな感じで、墜落させられた2匹の戦いは続くのだった。
「うわっ、敵の蛇さんが突然仲間同士で喧嘩を始めちゃった! 何があったんだろう、ミケさんやレイジーの仕業じゃないよねっ!?
だとしたら、ツグミか萌って事かな?」
「あっ、萌ちゃんも無事だったみたい、良かった……あの大きな黒い鎖が、多分だけどツグミちゃんのスキルが発動してる証拠だと思う。
だとしたら、仲間割れは萌ちゃんの仕業かなぁ……ほら、萌ちゃんの額の宝石が光ってるのが見えるでしょ、香多奈ちゃん」
本当だと、興奮した様子の末妹は山の頂上でも騒がしい限り。とは言え、こんな所で置いてけ堀の精神状態は地味に
本当はもっと近くで皆を応援したいのだが、そんな事をしたら足手
まさに体を引き裂かれそうで、その身を
この山頂まであのレア種が上って来た時は、恐らく
ただし、現在はそこまで悲観的な戦況でもない模様で何とも凄まじいペット達の底力である。その献身的な貢献振りは、思わず
今も仲間割れを誘って、もうすぐ5本目の首も行動不能になりそうな気配。そしてじりじりと移動していた本体も、ツグミの重力魔法のせいか随分と移動速度は遅くなっていた。
戦いが始まって、既に20分以上は経過しただろうか。紗良や香多奈の体感では、もう1時間近く戦っている感覚で、戦ってない彼女達も精神の消耗は酷い有り様。
それでも家族チームの勝利を願って、距離的に届かない応援を捧げる姉妹である。いや、実際には届くかもと大声を上げ過ぎて、末妹の喉は現在潰れてしまっている次第。
そんな声にならない応援が届いたのか、リーダーの護人が墜落した地点に変化が訪れた。そこから舞い上がった小さな人影は、空中で何やら変貌を遂げ始めたのだ。
いや、人影はそのままなのだが背中の《奥の手》が凄まじい変化を始めていた。それは数倍に膨れ上がって、更には2本の神剣を組み込んでまるで龍の
それを背中に生やした護人は、敵を見定めて再び近接戦を挑む構え。それを見たペット勢は、
それを遠目で見た末妹も、枯れた声で叔父さん頑張ってと渾身の『応援』を飛ばす。それが辛うじて届いたのか、護人の視線は束の間だが後衛陣の方向へ。
それから小さくサムズアップして、いざ再度の接近戦を挑みに掛かる。
その頃には、萌の仲間割れ戦法で残りの敵の首の本数は残り3本にまで減っていた。それでも近付いた護人を呑み込もうと、残りの首が一斉に襲い掛かって来る。
それを次々に返り討ちにして行く、神剣を呑み込んだ《奥の手》はいつにない斬れ味を示していた。まずは最初のパイソン顔の首を
最後に残った中央の首は、モロに竜の容姿でコイツが恐らく大将みたい。ブレスを放つのもコイツのみで、今も最後のあがきで炎の柱のようなブレスを吐いて来た。
それをブロックするように、炎の鳥が割って入ってレイジーが『魔喰』を発動。流れるようなフォーメーションは、さすがのチームワークである。
そうして、最後の首の攻撃が終わった瞬間、護人の《奥の手》が容赦なく物理法則を無視した首刎ねを敢行。首が綺麗に無くなった後、護人はヤマタノオロチの本体の心臓を、《心眼》で見抜いて《奥の手》と『掘削』のコンボで破壊する。
次の瞬間、薄暗かった空から一筋の陽光が山の麓へと差し込んで来た。そして出現する、ワープゲートと大振りの宝箱のセット。
――長かった戦いは、ようやく終焉を迎えた模様。
そうしてヤマタノオロチの討伐地点で、ようやくの合流を果たす来栖家チームの面々である。そこから紗良の『回復』スキルで、治療を受けるルルンバちゃんと萌。
残りの面々だが、ミケやレイジーは完全にガス欠で動くのもしんどいって状態。茶々丸やヒバリが、大丈夫って横たわってる両者を
そして凄かったねぇと、相変わらず騒がしい香多奈は宝箱の中身が気になって仕方がない様子。ちなみにドロップ品は、2号ちゃんに協力して貰って回収済み。
その内容も凄くて、まずは魔石(大)が8つに魔石(特大)が1つ、更にはオーブ珠が3つも落ちていた。普通のソロのレア種では、まず考えられないドロップの山である。
「それにしても、叔父さんや萌が吹き飛ばされた時はビックリしたよねっ。ビックリし過ぎて、心臓が喉から飛び出しそうになっちゃったよ!
萌のダメージが酷かったけど、紗良お姉ちゃんに治して貰って良かったね。ルルンバちゃんは、魔導ボディがオーバーヒートしてるから、この先は無理しちゃダメだってさ。
残念だけど、残り2層は後ろからついて来るだけにしてね」
「そうだね、萌も休んでなさい……レイジーはどうしよう、まぁ今から休憩を取るけど。ミケは紗良姉さんの肩の上で休めるから、いつも通りで良いよね。
ツグミもちょっとヘタってるね、残りの2層は休んでたら?」
「そうだな、退出用の魔方陣がある15層まで、進む必要はあるから探索はあと2層続けなきゃならないし。陣形を
ちなみに俺も、スキルの副作用で動くのもしんどいよ」
それはもちろん休んでいてよと、姫香は今後の2層は自分が仕切る心積もりのよう。それから頑張った組は休んでいてねと、末妹と共に宝箱のチェックに
その頃には紗良の治療も終わっており、頑張った組のMP補給も
そしてお待たせの宝箱の中身だが、まずは鑑定の書(上級)や薬品類や魔玉(光)が割とたくさん。それから魔結晶(中)や、大サイズと特大サイズが10個前後ずつ入っていた。
それから金の延べ棒やミスリルインゴット、オロチの素材らしい骨や皮が結構な数。一番場所を取っているのは、大樽のどうやら酒樽のよう。
そしてお待ちかねの魔法アイテムだが、妖精ちゃんが反応したのは一振りの剣と古い
それらを見ながら、大当たりだねとホクホク顔の末妹である。宝珠が出たのは確かに凄いが、まぁレア種討伐の報酬としては順当かも。
このダンジョンは、中ボスの間にしか退去用の魔方陣が無い仕様となっている。なので退出には、15層を目指すのが最も手っ取り早い手段。
そのため、レア種討伐の後にも惰性で探索はもう少し続きそう。被害も
それにしても、今回もレア種を引き当てる来栖家の奇運は健在だ。
――とは言え、これ以上のハプニングはもう懲り懲り。
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