第944話 惰性で14層以降の間引きを行なう件



 長めの休憩を取っていたら、既に5時近くになってしまった“津和野ダンジョン”の間引き作業である。現在、来栖家チームは13層のレア種を倒して休憩中。

 それから時間を確認して、慌てて再出発の準備を始めている所。それもレア種戦で、相当なダメージをチームが負ってしまったので陣形決めが大変だ。


 まずは後衛は確定していて、オーバーヒートしたルルンバちゃんは2号ちゃんに押されて一番後ろ。その上に、萌が乗っかって完全に休憩モード。

 それは家族に言われたからで、ただまぁ体調がベストでないのは事実。それからレイジーとツグミも、MP枯渇で中衛か後衛に下がって貰う事に。


 そんな訳で、必然的に前衛は姫香とコロ助と茶々丸が担う流れになりそう。出番が来たぜと有頂天な仔ヤギはともかく、やや前衛不足な感が。

 そこに立候補するムームーちゃんは、自分も家族の一員デシとの発言でとっても親孝行。とは言え、例の魚人型オートマタの操作はまだまだ不完全な軟体幼児である。


 姫香の肩に乗っての魔法支援が良いのだろうが、ムームーちゃんは自分1人で出来るデシと言ってきかない。どうやら彼は、先ほどのレア種との戦いの汚名返上をしたい模様。

 そんな訳で、色々と考えた末に中衛に妖精ちゃんの指揮するヒバリとムームーちゃんを配置する流れに。リスキー過ぎるが、非常事態なので仕方がない。


 なるべくそっちに敵を流さないようにするよと、姫香も慎重に進む事を明言する。とは言え、オートマタ鎧の軟体幼児はそれなりに頑丈で魔法の威力も申し分なし。

 ヒバリにしても、《巨大化》を覚えてからいっぱしの動きをするようにはなっている。後はヤンチャな性格とか、スライム幼児への対抗心とかそこら辺を抑えて貰えれば。


 妖精ちゃんも、今や《女王冠》と言うとっておきの補助魔法を使える身分である。この辺りのパースがきちっとかみ合えば、残り2層くらいは何とかなりそう?

 まぁ、いざとなれば護人も戦いには参加する予定ではいる。それはレイジーやツグミも同じく、後衛よりも中衛寄りに自然と位置取りしそうな雰囲気。


「まぁ、取り敢えずこの陣形で行ってみるよ、護人さん。駄目ならその時また考えて、良さそうな感じに組み直してみようっ。

 それじゃ、コロ助に茶々丸っ……ちゃんと言う事聞くんだよっ!」

「頑張ってね、みんな……いざとなったら、私も《烏天狗》の召喚するから。ただまぁ、これも長時間の召喚キープは辛いみたいなんだよねぇ」

「辛いよっ、私の《精霊召喚》だって向こうの気分次第で、ズンズンMP吸われちゃうもんっ。ここで紗良お姉ちゃんが倒れたら、チーム崩壊待ったなしだからね。

 ここは無理しない方がいいかもっ?」


 確かにその通りだと、護人も思わず末妹の言葉に追従する。それにしても、ここまでチームのバランスを考えてるとは、香多奈のマネジメント能力もあなどりがたしである。

 そんな事を考えていたら、姫香が率先して魔方陣型のゲートを潜って行ってしまった。それに続く一行は、大半がよれよれ状態と言う。


 本当なら、虎の子の強制退出の巻物を使うべき事案なのだろう。それを数が無いから勿体無いよと、子供たちが制して今のこの状態である。

 ゲームとかでも良くある、『使ったら無くなるから取っておく』問題がまさにこれ。と言う訳で、ゲートを潜ってチーム全員が14層へと到着した。


 そしてビックリ、一行が出た先は町の片隅のお稲荷様の小さなほこらの前だった。ちゃんと小さな赤い鳥居もあるのだが、間違ってもここは“神社エリア”では無さそう。

 アレッと言う表情の前衛陣は、周囲を見回ってここは“町エリア”じゃ無いかなと推測を述べる。確かに周囲に並び建つのは、民家や商店など軒は低いが町並みそのもの。


 そして出て来たモンスターも、リザードマンやコイ魚人と水属性の敵がメインだった。それらをさっそく始末に向かう、今回の前衛陣とオマケの中衛陣である。

 おもむきのある街並みの通路で、戦いを繰り広げる来栖家とモンスター達。さすがに14層ともなると、敵の強さと密度はなかなかのモノ。


 それを物ともしない、姫香が率いる前衛陣はさっきのさ晴らしに全力でハッスルしていた。その結果、5分と掛からず15体ほどいた群れの撃破に成功。

 軟体幼児とヒバリのチビッ子コンビも、何とかキル数を上げてそれぞれ盛り上がっている。それを指揮した妖精ちゃんも、仔グリフォンに騎乗したまま満足そう。

 このチビ妖精、実は意外と指揮官の才能があるのかも?



 そんな町中の戦いを、2度3度と姫香たちが繰り返している間。後衛で暇をしていた、レイジーとツグミがこっそりと正解のルートを見付けてくれた。

 戦いに参加しちゃダメと言われた彼女達の、せめてもの貢献だけど来栖家的には大助かり。何しろチームは、割と切羽詰まった状態だったのだ。


 そんな“町エリア”の探索だけど、景色だけはとっても綺麗でいやされる。今も通っているのは、椿と山茶花さざんかの垣根の小道だった。

 この突き当たりに、次の15層へのゲートがあるらしい。ちなみに椿と山茶花さざんかは、見た目はとても似ているけど花が咲く時期が微妙に違う。


 秋から冬にかけて咲くのが山茶花さざんかで、冬から春にかけて咲くのが椿である。散り方も、椿は花首ごとボトっと落ちて、昔は縁起が悪いとされたりもした。

 ちなみに山茶花さざんかは、ちゃんと花びらが散るので簡単に見分けがつく。ただまぁ、花のつかない葉っぱだけの時期は見分けはつきにくいかも。


 そんな紗良のウンチクを聞きながら、ピンクや赤や白い花の満開な小路を進んで行く来栖家チームである。季節感の関係ないダンジョン内では、どちらも満開でとっても綺麗。

 そんな感じで、これで14層も呆気なくクリアの運びに。姫香とコロ助と茶々丸を先頭に、次々とゲートに吸い込まれて行く一行である。


 そして出た先も、やっぱり“町エリア”に間違いは無さそう。取り敢えず土屋チームに連絡を入れて、そのむねを知らせるけどどうせ残りちょっとである。

 “町エリア”も2チームで間引くにも広過ぎるので、譲り合ったりとかしなくて良いかも。そんな事を巻貝の通信機で話し合って、お互いもうすぐ終わるねなどと話し合ってみたり。


「向こうももうすぐ15層に到着するみたい、お互い順調で良かったね、叔父さんっ。まぁ、向こうはレア種とかとは遭遇せずに、真面目に間引きをしてたみたいだけど。

 こっちはミケさんの豪運があるから、イベント多いのは仕方ないよね?」

「う~ん、それでも1度の探索で、2度も妙なエリアに迷い込むのは多過ぎじゃないか? これで運がいいって言われても、ちょっと納得が行かないぞ」

「本当、さっきの13層でのレア種との遭遇なんて、みんなが無事に脱出する事が出来て良かったってレベルだし。

 ミケちゃんのせいとは思わないけど、うちのチームの宿命なのかなぁ?」


 通信を交わしながらの、後衛陣のそんなボヤきをミケは当然のごとくガン無視している。その間にも、前衛陣は槍や弓持ちのリザードマンと熾烈な戦いを繰り広げていた。

 そして結局、戦闘に参加するレイジーとツグミである。彼女達にとっては、何もせずに探索に同行している方がストレスなのかも。


 あ~あって表情の後衛陣だが、香多奈はガッツあふれるハスキー達に『応援』を飛ばしている。少女もそんなノリが嫌いでは無いみたいで、それ行けとか熱心な声援振り。

 その甲斐あってか、今度の戦いも怪我人も出ずに無事に終了の運びに。ドロップ品を拾う間も、紗良はペット達の怪我チェックにてんてこ舞い。


 見た目の怪我は無くても、ちょっとした体調の変化で大怪我に繋がる事だってあるのだ。そんな感じでレイジーやツグミをさとす長女だが、両者ともあまり感銘は受けていないよう。

 結局そんな間引き作業は、ツグミが中ボスの間を見付けるまで続く事に。それでもいっぱしに前線をになった、ムームーちゃんとヒバリの両者は大満足の様子。


 まぁ、それも妖精ちゃんの《女王冠》と指揮があっての事だけど。このチビ妖精の指示には、不思議と仲良く従うチビッ子コンビだったり。

 案外とそれは、頭に浮かんでいる魔法のかんむりの効果なのかも? つまりは妖精ちゃんの及ばすバフ効果は、強化と共に命令順守の効果もついているのかも。

 だとしたら、チビ妖精もなかなかの策士ではある。



「もう5時も過ぎてて、もうすぐ6時だよ……お腹も空いて来たし、この中ボス戦で間引き探索もスパッと終わりたいよね。

 この屋敷の庭にいるのは、アレはキメラかな?」

「そうみたいだな、水属性で何らかの能力持ちと思った方が良いかな? 15層の中ボスだから、それなりに強いだろうし気を付けて。

 ムームーちゃんは、鎧を脱いで姫香を守ってあげてくれないか?」


 父ちゃんにそうお願いされて、渋々と軟体幼児はオートマタ鎧を収納に仕舞う。それから姫香の肩に乗っかって、得意の魔法支援に切り替えて中ボス戦に参加する流れに。

 ヒバリは今回は見学で、それを言い渡された仔グリフォンは驚愕の顔付きに。当然の決定なのだが、本人はすっかり戦力と認められたと思い込んでいた模様。


 そんな訳で、今回は姫香&ムームーちゃんとコロ助&茶々丸の両コンビで中ボス戦に挑む事に。もちろん何かあれば、他のメンバーもフォローに入る予定。

 そんな対戦相手だが、ツグミが見付けたのは大きな屋敷の中庭だった。その前を通っただけで、独特な雰囲気がただよって来たのでこれは見逃しようがない。


 そんな15層の中ボスのキメラは、ヤモリがメインで水カマキリや水蛇やヤゴがくっ付いている感じ。ヤモリの身体に、ヤモリとヤゴの双面はややユーモラス。

 ただし、水カマキリの鎌と尻尾の水蛇は結構強そうで注意は必要かも。そんな話し合いを姫香がペット達と行った後、いざ中ボス戦のスタート。


 広い庭園は、障害物の石灯篭や松や樹木の植え込みもあって、完全にフリースペストは行かない。池も割と大きいのがあるし、ただし屋敷の建物と垣根の距離は随分広い。

 そうして始まるキメラとのド突き合いだが、開始早々にイレギュラーが巻き起こった。まずは池の中から、コイ魚人がわらわらと1ダースほど出現して来たのだ。


 ついでに石灯篭が動き出し、コイツは恐らくゴーレムなのだろう。慌ててそいつ等にタゲを切り替える、コロ助と茶々丸組はさすが戦い慣れしている。

 それでも数の多さに、やったぜとレイジーとツグミも参戦。


「わっ、雑魚追加の仕掛けだぁ……さすが15層だね、簡単に終わるとは思ってなかったけど。ってか、あっちの屋敷の開き窓も何か怪しくない?」

「えっ、あっ……本当だ、アレはヤモリ獣人かな? 香多奈ちゃんの言った通りに、そっちからも10匹以上出て来ちゃったねぇ。

 護人さん、まずは私が魔法で攻撃しますね?」

「ああ、頼むよ紗良……その後は、俺と2号ちゃんで抑え込もうか。やれやれ、ダンジョンはやっぱり最後まで楽をさせてくれないな」


 そうだねぇと末妹の追従に、長女の《氷雪》スキルの発動が重なる。そして出オチだとツッコミを喰らう程の成果で、ヤモリ獣人の出番は無い有り様。

 残った敵の討伐に、向かう護人はヤレヤレとオッサン臭さが漂っている。その反対側では、元気に姫香やムームーちゃんが見事に水属性キメラを討伐し終えていた。

 それを横目で見ながら、護人はやっぱり元気だなぁってため息一つ。





 ――そんな愚痴交じりの中、15層の中ボス戦はもうすぐ終了見込み。







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