第942話 来栖家チームの家族揃っての反撃が始まる件



「ああっ、叔父さんが奴のうろこ飛ばし技で、山の斜面まで吹き飛ばされちゃった! どうしようっ、レイジーは無事っぽいけど向こうの山まで助けに行けないよっ!?

 誰か飛行能力……あっ、紗良お姉ちゃんの『天狗のマント』っ!!」

「ああっ、その手があったか……でも、紗良姉さんはまだ飛べないんだっけ、それじゃあ私が護人さんを助けに行って来る!

 紗良姉さん、そのマント貸してっ!」

「えっ、あっ……了解っ、本当は私も何かお手伝いしたいんだけど……あっ、この前のカラス天狗ちゃんなら、何か役立ってくれるかなっ!?」


 あわただしい後衛陣は、リーダーのピンチに打てる手を何とかひねり出そうと必死。とは言え、護人が死んだとは誰も思っていないようで、救出作戦は順次練り上げられて行く。

 その筆頭として挙がったのは、姫香が『天狗のマント』を装備して護人を救出に駆けつける事。その護衛として、召喚された烏天狗のカー吉が付く流れに。


 その頃には、いったん戻って来たミケもエーテルの補給を終えてリベンジに燃えていた。さすがに家のおさをコケにされて、黙っていられるニャンコではない。

 年下のレイジーだって、8本首の内の1本を行動不能に追い込んだのだ。このままキル数無しだと、ペット勢の最年長としての沽券こけんにかかわる。


 そんな事をミケが思っていると、出発前の救出班に意外な立候補が出現した。それは何と萌で、クゥーとの鳴き声を戸惑いながらも末妹が通訳する。

 つまりは、救出作業中に敵を引き付ける役目は必要でしょとの事らしい。それを萌が買って出るとの、何とも献身的な提案ではある。


「えっ、でもどうすんのよ萌? アンタは確かに竜だけど、そのサイズ感じゃ……えっ、ええっ、マジッ!?」

「うわっ、萌ってばいつの間に巨大化スキルを操れるようになってたのっ!? 凄いっ、これならアイツの首の1本くらいは倒せるかも知れないねっ!

 いいねっ、男だね萌っ、頑張っておいで!」


 そんな香多奈の声援を受けた萌は、現在は仔竜の姿で『巨大化』を披露した所。そして姉妹も驚く10メートル超の姿は、意外と強そうで期待は持てるかも?

 普段は和香や子供たちに、愛玩動物扱いされる仔竜ではあるのだが。さすがにヒバリにも負けない戦闘種族、巨大化した今はその牙や首元の『全能のチェーンベルト』など、とっても強そうに見える。


 そんな萌に、それじゃ途中まで乗っけてってと飛び乗る姫香。さすがに初使用の『天狗のマント』を、ぶっつけ本番で操る自信は無いとみえる。

 そのご相伴に追従する、烏天狗のカー吉とツグミである。ご主人の姫香のフォローをしようと、その心意気はアッパレで目頭が熱くなるレベル。


 もっともツグミには、最近覚えた《アビスドーム》があるので、高い所から落ちても多少は平気だろう。そんな訳で、残った面々は頑張ってと救出部隊を送り出す。

 対ヤマタノオロチ戦は、こうして第2ラウンドへ――




 さて、ようやく有効射程内へと辿り着いたルルンバちゃんは、改めて敵の大きさに感心していた。こんな巨大な対戦相手は、今までの探索生活で遭遇した事など無かった。

 ビビっている訳では無いが、アレの進行を止めるのはかなり難しいかも。何度か戦闘で辛い目を見た事のあるAIロボは、自身の限界も良く知っていた。


 そして体積の大きさの有利と不利も、他の者よりはよく理解しているつもり。そんなレア種の現在だが、呆れた事に8本首の1本が行動不能におちいっていた。

 これにはルルンバちゃんもびっくり仰天、ウチのチームって凄いんだなぁと改めて思う次第。自分も気合を入れて頑張らないと、チームにいる意味が無くなってしまう。


 そこまで深く考えていた訳では無いが、後衛陣を守るために自分の限界を突破するのは当然の事。そこまでしないと、あの怪物は歩みを止めないだろう。

 そこでルルンバちゃんがまず最初にしたのは、《魔力炉心》をフル稼働させて自身のMPを全てエネルギーに変換する事だった。それから空間収納に突っ込んであった、全ての武装を《合体》スキルで魔導ボディに強引にくっ付ける。


 その姿は、まさにフル武装した機動戦士ガンダムごとし……その武装の全てから、オーラのようなモノが立ち込めて威容も凄い。

 そして放たれる『殺戮さつりくのバルカン砲』は、放たれた弾丸全てがヤマタノオロチに吸い込まれて行った。ついでのようなライフル魔銃の射撃も、全て着弾してかなりのダメージに。


 その攻撃が効いたのか、8本首の内の右寄りの奴がかなり与太よたって来た。それを見逃すルルンバちゃんではない、残りの弾丸は全てそいつに集中させてやる。

 そのお陰で、バルカン砲の砲身は完全に熱を持って使い物にならなくなってしまった。それを意に介さず、最後の仕上げに《限界突破》を発動させるAIロボ。

 それ込みのレーザービームは、まるで太い棍棒を振り回したかのよう。


 その一撃で、何と追加で2本の首を戦闘不能に追い込んだルルンバちゃんであった。その代償はかなり酷く、さすが《限界突破》の使用は魔導ボディに負担が掛かり過ぎる。

 そんな訳で、体中から蒸気をあげて魔導ボディもしばし行動不能に。こればかりはどう仕様もない、オーバーヒートを即座に回復するスキルがあれば別だが。

 とにかく、これでヤマタノオロチの首はあと残り5本である。




 その頃、レア種にものの見事に吹き飛ばされた護人は、気を失って地面に埋まっていた。魔法の装備のお陰で外傷は見当たらないが、脳震盪のうしんとうは避けれない衝撃を受けたのも事実。

 そんな護人が意識を取り戻したのは、ルルンバちゃんの発する物凄い射撃音によるモノ。騒がしい戦闘音に、意識が覚醒して思わず周囲を見渡す。


 すぐ側には、やはり意識を失ったムームーちゃんがコテンと転がっていた。潰れたりはしていないので、お互いの気絶は吹き飛ばされたショックによるモノらしい。

 ちなみに、同じく薔薇のマントも気を失っていたようで、護人がゆっくりと上体を起こすとビックリしたように飛び跳ねて再活動を始めた。しかし、気絶するマントって珍しい。


 それはともかく、あれだけの攻撃を至近距離で受けてほぼ無傷とは驚いた。薔薇のマントと共に体を触りまくるが、どうやら負傷したり骨折したりしてる箇所は無いようで良かった。

 軽く叩いてやると、軟体幼児も意識を取り戻してくれた。それから護人は、自分が何故に無事に済んだのかを考え始める。

 その手元には、思わず防御に使った『神封の大盾』が。


「あっ、護人さんっ……良かった、無事だって信じてたよっ! 今ペット達が、護人さんと後衛陣がタゲにならないよう、頑張って敵の気を引きながらダメージ与えてるよっ。

 今さっき、ルルンバちゃんがオロチの首を2本も行動不能にしてさ。今は巨大化した萌が、追加で参戦して割と押せ押せムードだねっ!

 でっかい敵だけど、このまま倒せちゃえるんじゃないかなっ!?」

「おっ、そうか……しかしウチの子達はさすがだな……おっ、ミケの雷龍がもう1本行動不能に追い込んだなっ。これで半分か、これは本当に……

 うおっ、また例のうろこ飛ばし技が来るぞっ!」


 ヤマタノオロチの瞳の色を注視していた護人は、技の初動を察知して慌てて姫香を抱き寄せての防御態勢。四方へ飛ばすこの乱暴な技は、相手がどこにいようと穴だらけにしてしまう可能性を秘めているのだ。

 案の定と言うか、護人が構えた大盾に1度だけ大きな衝撃がやって来た。それからペット勢だが、巨大化が仇になって萌が撃沈される破目に。


 護人達と反対の山裾に落ちた萌だが、幸いにも『頑強』スキルと『全能のチェーンベルト』の防御で致命傷にはならなかった模様。とは言え、翼にダメージを受けて再び飛ぶのは無理そうだ。

 レイジーとミケの召喚獣たちも、その一撃で一気に与太よたってしまっていた。ただし、本体には被害は無さそうで、その点は本当に良かった。


 それにしても、首の半分を失ってもまだまだ元気なヤマタノオロチの生命力と来たら。リーダーの救援に来た姫香も、慌てた表情でそちらを気にしている。

 それから、持って来たポーション類を取り出しながらどうしようと護人に指示を仰ぐ素振り。頼みの飛翔ペットの足止めも、荒ぶるレア種にあっという間に崩されてしまった。


 それでも反撃のミケの雷撃で、向こうも動きが鈍っているのは確か。ついでに、萌に騎乗していたツグミも無事だった様で、《アビスドーム》で重力の鎖を敵の首に巻き付けている。

 これがハスキー犬の仕業とは、恐らく見ている誰も思わないだろう。それはともかく、献身的なペット達の働きにこちらもそろそろむくいないと。


 姫香にポーションを浴びせかけられながら、護人は目まぐるしく思考を働かせる。あのヤマタノオロチと言う怪物は、ひょっとして神の眷属なのではなかろうか。

 その為に、『神封の大盾』が意外な作用を及ぼしたのなら納得が行く。そもそも、あんな至近距離で敵の攻撃を受けたのに、ほぼ無傷なのは盾の“神封”作用のせいでは?


 そう言えば、護人の所有する2本の剣も“封神”作用が何気についていた。最初ゲットした時は、神剣なんて大袈裟な名前だなぁと考えていたのだが。

 ダンジョンはそんな言葉遊びが好きなのかなと思っていたが、どうやら強大な敵の攻略ヒントと言う可能性も。姫香の簡易治療に礼を言いながら、護人はようやく立ち上がって2本の神剣を取り出す。


 『ヴィブラニウムの神剣』については、現在のメイン武器で特大効果のついている逸品で使用感には満足している。ただし、その前の『魔断ちの神剣』にも実は“封神”効果はついていた。

 そんなにホイホイと神様級の敵は出て来ないだろうと、護人は呆れた記憶があったのだが。コイツがそうだとすると、この2本の剣はヤマタノオロチに作用を及ぼしてくれるかも知れない。


「どう思う、姫香……あの巨大な化け物に、剣で斬りかかるのは確かに無謀だとは思うけど。神剣の効能説明書フレーバーテキストを信じるなら、一定の効果はあると思うんだ。

 幸い、今はペット達のお陰で奴の動きは相当に鈍っている。接近戦を挑むなら、恐らく今の内だろう……まぁ、それにしても相当の覚悟がいるけどね」

「えっ、また飛行戦闘を挑むつもりなの、護人さんっ!? ついて行きたいけど、私は紗良姉さんに借りた『天狗のマント』を上手く操れて無いよっ!

 またあの技を喰らったら不味いよ、心配だよ……」


 戦場で、こんな心細そうな表情の姫香を見るのは初めてかも知れない。護人は少女をなだめながら、家族の為なら何でもないさと無事の帰還を約束する。

 その時、レア種のヤマタノオロチに意外な変化が訪れていた。何と首の1本が反逆を起こして、仲間同士でいさかいを始めてしまったのだ。


 大型モンスターの首のド突き合いは、とっても派手で見ていても呆気にとられるレベル。それでもこれは、大きなチャンスに違いないと護人は再戦を姫香に告げる。

 それから、肩に上ろうとしていた軟体幼児を少女に預けて空へと舞い上がる。





 ――13層のレア種戦は、そんな感じでいよいよ佳境へ。







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