第940話 “津和野ダンジョン”探索も後半戦に差し掛かる件
10層の中ボスの間で、呑気にオヤツ休憩をする来栖家チームはいつもの調子でリラックスムード。紗良の用意したお茶とお摘まみを食べながら、のんびり休憩中である。
ハスキー達も、末妹にジャーキーを貰ってご機嫌に家族の側に寝そべっている。それを真似するヒバリは、家族に見守られて幸せそう。
それから末妹による、定期的な巻貝の通信機チェックで他チームの情報集め。こちらも特に何の変化もなく、つまりは各チームとも順調に間引きが進んでいるとの事。
それを聞いて、よかったねと安堵する面々……探索の度合いだが、珍しく来栖家チームが先行している感じみたい。まぁ、間引き依頼なので、ただ先に進めば良いって話では無いのだが。
それでも気を良くした子供たちは、この調子で夕方まで頑張ろうと意気も高い。それに釣られて、ペット達も頑張るぞと盛り上がるのは毎度の事。
護人の心中に関しては、ようやく後半戦かって気苦労しかない。実際はあと3分の1なのだが、11層から先は更にダンジョン深層である。
難易度が上がるのは必須で、手強い敵やら妙な仕掛けやらが出て来るのは間違いない。しかもこの“津和野ダンジョン”は、探索慣れしてない複合&広域ダンジョンなのだ。
何があるか分からないので、気を引き締めて行かなければ。そう子供たちに声を掛けるのだが、返って来るのは相変わらずは~いとの軽い返事のみ。
「えっと、このまま私達は“神社エリア”の間引きで良いみたい。『ライオン丸』と『坊ちゃんズ』チームは、ちゃんと“汽車エリア”に移動出来たみたいだね。
逆に異世界+土屋チームは、そろそろ“町エリア”の探索に飽きて来たみたい。それなら私たちが、代わってあげてもいいかもねっ?」
「そうだね、私達も最初の方に観光気分で通り過ぎただけだったし。この後で結合部に近付くタイミングがあったら、交代しようって打診してみようか?」
「まぁ、それで間引きがスムーズに行くのなら、別に構わないかな。それじゃあ俺たちは、しばらくこの“神社エリア”の間引きをして、結合部が近付いたらエリア渡りをしようか。
まぁ、そうは言っても予定ではあと5層だけどな」
そうだねぇと、どう言う割り振りになるかなと話し合う子供たちは、休憩も終わって気力充分。それじゃあゲートを潜るよと、気合も新たに探索を再開する。
そうして久々の11層の深層探索の一行は、定番のハスキー前衛でいつも通りのテンション。この11層も“神社エリア”で、出て来る敵は動物系か妖怪系だと思われる。
案の定、1発目に出て来たのはタヌキ獣人とのっぺらぼうの混成軍。場所はこのエリアの定番らしい、土の階段の続く山道である。
定期的に鳥居と休憩所付きの広場はあるが、ずっと階段を登り続けると結構疲れそう。ただまぁ、その程度の移動は探索の常なので文句を言う程でもない。
戦闘も割と呆気なく終わって、ドロップも魔石くらいのモノ。そして再開する山登りだが、景色的には“町エリア”や“汽車エリア”と違って至って平凡だ。
本当に山を縫って登って行く参拝ルートって感じで、田舎育ちの来栖家としては落ち着く景色。“神社エリア”なのに本殿や境内は、中ボスの間でしか見れないと言う。
それは別に構わないが、敵の出現は意外と多くてビックリなエリアかも。今も大シカや大イノシシが、山の茂みをかき分けて飛び出して来た。
単発のそんな襲撃は、しかし魔石の他にもお肉や角がドロップして意外と好評。そして途中の平らな踊り場と言うか休憩所では、大規模な襲撃があるパターン。
今回も
後衛陣もフォローに動き出し、戦いは一気に騒がしくなる。
とは言え、特に珍しい敵も混ざっておらず、敵の間引きは至って順調に進んでいる。タヌキ獣人だけは地元ではあまり見かけないけど、コイツはパワー系の戦士のよう。
オーク兵とそんなに変わらず、ただし丸い尻尾はチャーミング。そして魔術師系のスキルなどは、また少し違って来るのかも知れない。
そんなタヌキ獣人も、ハスキー達は苦も無く倒し切って山中の休憩広場の掃討は無事終了。そして今回の
やったねと喜ぶ末妹は、ルルンバちゃんを従えてその中身チェックに忙しい。宝箱は小さいだけあって、中身は魔玉(風)や魔結晶(小)など小さい品ばかり。
それでも、それぞれ10個以上あって儲けとしてはかなり大きい。他にも木の実やら薬品系やら、後はワラビなどの山菜も少々入っていた。
それらを魔法の鞄に放り込んで、ウキウキ模様でさあ次に行こうと号令を掛ける香多奈である。午後も4時に近付いているけど、まだまだ元気は損なわれていないよう。
「まだ無駄に元気だね、香多奈……まぁ、もう少し探索は続くから元気が余ってるのは良い事だわよね。ペット達も、体調不良や疲労が酷い子はいないみたいだし。
あとちょっと、間引き探索を頑張ろう、みんなっ」
「そうだね……それにしても、ここに来て上り坂ばかりのエリアってのは疲れるねぇ。ただまぁ、ハスキー達の足並みがまだ軽やかなのは安心だねっ」
「でもここのエリア、あそこが終点じゃ無いかなっ? ほらっ、次の鳥居がゲートになってるから、アレを潜ればもう次の層に出ちゃえるよねっ」
あっ、本当だと意外と近場にゲートがあるのを見付けて、ビックリ顔の姫香である。あれが次の層へのゲートだとすると、この11層は20分程度でクリア出来てしまえそう。
何と言うか、間引き目的なのにこのスピード攻略は、それはそれで気まずい感じを覚える一行である。ただまぁ、魔石の数からしてここまで400体近くの敵を確実に倒しているのも事実。
それで手抜きをしたとは、間違っても言われないだろうし心配する必要は無いのかも。そんな護人の言葉に、それもそっかと安心顔の子供たち。
そんな訳で、あのゲートへ向かうよとの号令に再出発する前衛陣である。途中に出現する大シカや
そうして到着した12層だが、ここも少し様子がおかしかった。山へと上る鳥居付きの階段だが、出発地点から既に広場が2つ程窺えるのだ。
その上に続くルートだが、2つ目の広場からは連続した鳥居のトンネルでまるで異界への入り口のよう。アレは果たして潜って良いのかなと、子供たちも戸惑いを隠せない。
まぁ、嫌なら反転して山を下れば、階段は“町へリア”へと繋がっている模様だ。ただし、結合部までパッと見で10分以上は歩く事になりそう。
実際、このダンジョンのモデルだと思われる『太鼓谷稲荷神社』には、こんな感じの鳥居のトンネルはあるらしい。なので、そんな怖がる必要もないとも。
「ええっ、でもやっぱりあの鳥居のトンネルは怖いかも……あれを潜った先が、変な仕掛けだったら嫌じゃん。
香多奈っ、アンタの勘はどっちだと言ってるのっ?」
「えっ、そんなの分かんないよっ……まぁ、私も何となく嫌な予感はするけどさ。ここから戻って他のエリアにお邪魔したとして、ゲートを見付けるのはかなり時間掛かっちゃうよね。
だったら、素直に進んだ方がいいんじゃない?」
「う~ん、悩ましい選択肢ではあるな……とは言えウチのチームは、もう既に4層で妙なエリアを引き当ててるからなぁ。
2度目は無いと信じて、進んでみるのもアリかな?」
確かにそうだねと、姫香はあっさりと前言を撤回して護人の言葉に乗る構え。調子がいいなって末妹の視線は、マルっと無視して超前向き少女である。
一方のハスキー達は、次の広場に見えている敵の集団を
そんな訳で、楽観的な意見での引き続きの“神社エリア”の間引きの続行が決定の運びに。それを聞いたハスキー軍団は、それじゃあさっさと奴らを倒そうと、さっそく広場の敵に喧嘩を売っての戦闘態勢に。
広場にいたのはタヌキ獣人やイタチ獣人の群れに、それから石灯篭ゴーレムや狛犬ガーゴイルも数体ずつ混じっていた。結構な集団だが、ハスキー達はお構いなし。
そうは行かない後衛陣は、少しは働こうと護人がシャベルを持って参戦を決め込む。硬い敵は任せておけと、ハンマーを振るうコロ助のお手伝いを始める。
それを受けて、獣人軍の相手を始めるレイジーとツグミ&茶々萌コンビである。姫香とルルンバちゃんも、遅ればせながらそれに参戦を決め込む。
後衛からは末妹の『応援』が飛んで、それも含めて騒がしい状況がしばらく続いた。それも段々と、敵の数が減るにつれて静かになって行く。
やがて全ての敵を倒し終えて、場は完全に敵の立てる音は消え去ってくれた。場は香多奈の
それをもう1セット、もう1段上の休憩広場でたむろっていた敵の集団相手にも行なう。今回は省エネと言う事もあって、まずは紗良の《氷雪》魔法からスタート。
この氷系の範囲魔法によって、何と半分以上の敵がいきなり魔石へと変わって行った。残った連中も大ダメージで動きが
ただし、魔法の威力は随分増したが、使用するMPも紗良の感覚で全体の3割以上と消耗も激しいとの事。ゲームみたいに、無限にエーテルでMP補給はさすがに無理がある。
まずは胃に負担が掛かるし、トイレが近くなって探索中は
とは言え時短の威力も素晴らしく、残った敵は前衛陣がサクッと倒し終えての戦闘終了。そして続くルートは、等間隔に赤い鳥居が道なりに続くエリアとなった。
その道は、約1メートルごとに同じサイズの鳥居が設置されていて、どうやら山頂まで続いているよう。どんな仕掛けか分からないけど、嫌な予感は近付くにつれ増して来る。
本当に異世界に繋がってたらどうしようとか、最初は軽口を叩いていた後衛陣だったのだが。それに近付くにつれ、段々と会話も少なくなって行く。
ハスキー達も、この中を通るのと中衛の姫香リーダーに振り返って窺う素振り。普段はルートを示されたら、一直線の勇猛な集団が、何だか怖気づいているような雰囲気だ。
「えっと……何だか近付くにつれて、嫌な感じが増して来たんだけど。本当に、ここを潜って山の上に向かうの、お姉ちゃん?
多分だけど、山の
「アンタの先読みは、結構な確率で当たるから助かるよっ。つまりは、階層主とか、レア種が待ち構えているって感じで間違い無いのね?
モンスターなら良かったよ、倒せば済む話だからさ」
「まぁ、変なゲートトラップじゃない方が、確かにウチとしては嬉しいかな? 一応土屋チームに、こっちの動向を知らせておいてくれ、香多奈。
アレでも万が一、救出を頼む事になるかもだからな」
それはそれで怖い想像だが、転ばぬ先の杖は確かに大事だ。言われるままに巻貝の通信機を操る末妹と、とうとう鳥居のトンネルに入り込んで行くハスキー達。
後衛陣もそれに続いて、一応は神秘的な景色を眺めながら階段を登って行く。途中に出て来る敵は1匹もおらず、頂上に到達するまで約5分程度だろうか。
或いは、この状況を知らせる相手が『ライオン丸』チームだったら、勝柴にこの蛮行を引き留められていたかも。それだけ不味い事態へと、実は突き進んでいる来栖家チームである。
そうして到達した山頂には、次の層へのゲートが待ち構えていた。
――それを一斉に潜った一行は、信じられないモノを目にするのだった。
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