第939話 “神社エリア”の癖もやっぱり相当に強かった件
山登りの最中に、来栖家チームは追加で大シカと
火車は妖怪カテゴリーで、その正体は猫の妖怪とされる事が多いそうだ。悪者が死んだら、その死体を奪いに来ると言われているそうで、全国に伝承があるメジャーな妖怪だとの話。
そんなウンチクを語る紗良は、恐らく前回の探索に目撃した後に情報を調べてくれたのだろう。へえっと感心する香多奈だが、ここには悪者いないよねとちょっと不安そう。
その姿は、猫の化身と言うより小鬼だかカッパのような容姿で、燃える台車を引いていた。炎属性には間違いなく、それが平気なレイジーが蹴散らして回っている。
大シカの方は、茶々丸がまたヤンチャを発動して角の突き合いをして遊んでいた。ツグミやコロ助は、無難に『土蜘蛛』や『牙突』で弱らせて確実に仕留めて回っている。
それをフォローする姫香やルルンバちゃんも、こなれた動きで不安は無し。ただし茶々丸のフォローは、またかって感じで半目で呆れ返っている表情。
幸いにも、萌の横槍で大怪我する前に敵は倒せたようで何より。
「本当に、ヤン茶々丸には困ったモノだよねぇ……最近はずっと萌と組ませているけど、ヤンチャが改善はされる気配は無いしさ。
そもそも、2人を組ませるのも微妙に勿体無くない?」
「う~ん、とは言え茶々丸だけで暴走されてもフォローは仕切れないわよ。レイジーに付きっ切りにさせるのも、負担が重くって可哀想だしさ。
そんな感じで、確か萌に任せようって話になったんじゃ無かったっけ?」
「そうだな、茶々丸の機動力と萌のパワーは一定の評価は出来るとは思うんだが。萌の負担が大きいようだと、それも考え直さなきゃなのかもなぁ」
最近はすっかり、茶々萌コンビとして1ユニットの扱いが慣れてしまった家族の面々である。ただし、それを本人達が不便に感じているなら、ユニット解消も致し方が無い。
そんな話を萌に向けると、ちょっと考えた末にクゥーと返事が戻って来た。それを香多奈が翻訳するに、今のままでいいよって感じのニュアンスらしい。
それは良かったと、茶々丸の意向はガン無視の子供たちである。まぁそれも仕方がない、これも仔ヤギのヤンチャ矯正トレーニングの為なのだから。
これからも頑張ってねとの姫香の励ましに、仔竜の萌はクゥーとさっきより力強い返答。そんな話をしている間にも、ようやく一行の前に頂上の神社の境内が見えて来た。
さぁ中ボス戦だと張り切る一行だが、作戦は特に考えない模様。何しろ敵の数も種類も、パッと鳥居越しに見た感じでは判然としなかったのだ。
ただし、ここが中ボスの間だってのはほぼ間違いのない事実。それだけの緊張感と言うかプレッシャーが、境内の中に漂って見間違い様も無い。
「さあっ、今回は何が出て来るかなっ……敵が1体だったら、私がメインで戦うからねっ。複数だったら、ハスキー達も参戦していいよっ。
ちゃんと仲良く、みんなで敵を分け合うんだよっ!」
「出て来る敵は妖怪系かな、それとも動物系かなっ……境内も広いから、大きい敵が出て来る可能性があるよっ、姫香お姉ちゃんっ!
頑張って、ハスキー達も暴れちゃっていいからねっ!」
「そうね、茶々丸ちゃんはちょっと自重して欲しいけど……みんな、怪我の無いように頑張ってねっ!」
スキルの効果は一切ないが、温かな気持ちの乗った紗良の応援も後衛から飛んで来る。それを受けて、鳥居を潜って境内へと入り込む前衛~中衛陣。
その途端に、周囲に耳鳴りが響き渡ったかと思ったら、境内の中央に2つの魔方陣が出現した。1つは赤い
もう1つ、緑色の発光ラインの魔方陣からは、4メートル級の巨大グリフォンが現れた。こちらも獰猛そうで、それを見たヒバリは特に何の反応も無し。
ひょっとして、自分はハスキーの仲間だとでも思っているのかも? 育ちが複雑すぎて、その辺の感情は家族の誰にも分からないと言う。
とにかく、幻獣と妖怪の2種の中ボスを前にして、来栖家チームも迎撃に動き出す。グリフォンの相手はヒバリの手前悪いと思った姫香は、妖狐を相手するねと仲間に通達する。
その相棒にツグミと茶々萌コンビを指定したのは、妖狐がテクニカルな敵だと判断したため。つまりは、グリフォンの相手はパワー系のコロ助やルルンバちゃんを当てるべき。
その指揮を執るのは、もちろん来栖家のエースであるレイジーである。役目を貰えて、レイジーとコロ助は勇んでそいつに向かって攻撃を仕掛け始める。
まずは軽く、ジャブとして炎のブレスや『牙突』を飛ばすも、グリフォンは軽く風の防御でいなして来た。そして巻き起こった風は、徐々に突風へと変化して行く。
そんな中、ルルンバちゃんの魔銃が敵の羽毛にヒット。それは致命傷には程遠かったが、確実にグリフォンの怒りは買ってしまった。
一瞬で宙に舞い上がった中ボスの片割れは、ルルンバちゃんが次の標準を合わせる前にタッチダウン攻撃を仕掛けて来た。そのパワーは、まさかの魔導ボディが尻餅をつく威力。
それを見た後衛陣の子供たちは、思わずおおっとビックリ声……それから一転、頑張れルルンバちゃんとの熱い応援がAIロボへと降り注ぐ。
それを受けて、不死身の
現在は、レイジーの召喚した火の鳥と空中戦を繰り広げている所。
風と炎の属性のじゃれ合いは、どちらも優位には立てずに
何しろ、ずっと宙にいられたらレイジーやコロ助の攻撃が届かないのだ。火の鳥たちは、健気にもご主人の元に中ボスを導こうと奮闘中。
その間に、グリフォンが召喚した竜巻は、呆気なくレイジーとコロ助が潰してしまった。怒れる風の精霊は、真価を発揮しないまま送還される運びに。
その間も、空中でのグリフォンと火の鳥たちの格付け合戦は続いていた。その支援だが、召喚主のレイジーが《咆哮》スキルで抜かりなし。
その格付け合いに決着がついたのは、それから数刻も経たない内の事。グリフォンの上を取った2羽の火の鳥が、猛烈なプレッシャーを与えて相手の翼の自由を奪ったのだ。
そして高度が下がったと見たレイジーが、首の『赤灼熱のマフラー』を発動させて蛇炎を伸ばす。それが見事に中ボスの右脚に巻き付き、一瞬にして捕獲に成功。
同時にグリフォンから離れて行く炎の鳥たち、それを合図にルルンバちゃんのレーザー砲が炸裂した。一気に力が抜けた中ボスを、レイジーは力任せに地面へと引っ張り降ろす。
そこに待ち構えていたコロ助は、満を持しての『剛力』スキル込みのハンマーの撃ち降ろし。ゴキっと物凄い音と共に、致命傷を負ったグリフォンは
流れるようなコンビプレーは、まさにチームの団結力そのものって感じ。もちろんそれは、個々の力あってのモノだし、それ以上にレイジーの統率力がモノを言った。
何にしろ、こうして10層の中ボスの片割れは見事に討伐されたのだった。
そしてもう一方の妖狐だが、コイツは確実に炎属性のよう。尻尾の数も4本と、強いのかそうでもないのかよく分からない半端な感じを受ける。
それでも、姫香の斬撃をヒラリと
そして反撃の狐火を放って来るが、姫香もそれを丁寧に『圧縮』スキルでブロックする。そんな戦いを続けて、こちらの戦いも
向こうもそう思ったのだろう、或いはこちらの弱みが茶々萌コンビにあると見抜いたのかも。それはある意味正しいが、その狙い方がえげつなかった。
何と妖狐は、《変化》から人型へとフォルムを変えて、茶々萌コンビへと襲い掛かって行ったのだ。虚を突かれたチビッ子コンビは、人型の妖狐の持つ炎のチャクラムに切り刻まれそうに。
それを回避したのは、ある意味アッパレな茶々丸の機転だった。いや、ただ単にコッチだって《変化》は出来るんだとの意地の張り合いだった可能性も。
つまりは茶々丸も、仔ヤギの姿から
綺麗に前方向へとでんぐり返りを決めて、着地から相手の背後を取るまでの流れと来たら。まるで示し合わせたかのように、茶々丸(遼)と萌とで挟み撃ちの格好に。
中ボスの妖狐は、明らかに慌てた様子で得意の回避技もこの状態ではさすがに無理だった。何しろ、人間形態の茶々丸の装備も『王者の王冠』や『ヴィブラニウムの槍』など、無駄に高スペックな品で固められているのだ。
これも、空間収納と瞬間着替えの訓練の
その訓練を、末妹と定期的にやってたお陰のこの結果なのかも知れない。前後からの鋭い突きで、見事に勝利を掴み取るチビッ子コンビであった。
やったねと
後衛陣の毎度の行動は、戦いが終わった証でもある。
「ふうっ、手強い敵たちだったけど何とかなったねっ! レイジー組もお疲れさまっ、さすが10層の中ボス戦ともなると敵の討伐も大変になって来るよね。
おっと、中ボスのドロップ品が落ちてるよ、香多奈」
「あっ、今回はスキル書とオーブ珠が1個ずつなんだっ! 魔石は中くらいのサイズかな、なかなかの儲けだねっ……ようやくA級ダンジョンらしくなって来たんじゃないっ?
さあっ、ドロップ品を回収するよっ、ルルンバちゃん」
指名されたAIロボは、疲れも見せずに末妹に追従してお仕事をこなし始める。それから宝箱はどこかなとの問いに、アッチかなと神社の本殿の前を指し示す。
立派な造りの本殿だが、周囲は人やモンスターの気配もなく静かなモノ。その参拝場所には、しめ縄や賽銭箱に混じって、確かに立派な宝箱が設置されていた。
それから次の層へのゲートと、退出用の魔方陣も綺麗に並んで窺える。それらを確認しながら、家族の面々もその前にと集合を果たして行く。
そして姫香が代表して、宝箱の中身チェック……中からは鑑定の書や魔玉(光)に加えて、大量の薬品類が出て来た。薬品類だが、エーテルや浄化ポーションが圧倒的に多い。
それから強化の巻物や、お札や破魔矢なども何セットか。妖精ちゃんによると、それらも魔法アイテムだそうでここでも結構な儲けが確定しそう。
ついでにお洒落な羽根つき帽子や、赤い宝石の付いた杖も魔法の品なのだそう。やったねとご機嫌な末妹は、早くも赤い宝石の杖を振り回して物騒極まりない。
姫香がすかさずそれを取り上げて、ペット達にお水とエーテル上げてと指示を出す。それを受けて、私達も3時の休憩にしようと紗良もお茶の用意を始める仕草。
つまりは、休憩をしてこの先もうひと踏ん張りって事。
――“津和野ダンジョン”の探索も、まだ予定の半ばである。
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