第937話 遅い昼食を食べて午後からも探索を頑張る件



 現在の来栖家は、7層の駅のホームにいた獣人の混成軍をマルッと倒し終えた所。それから敵が全滅したのを確認して、ようやくの昼食を食べる事が可能となった。

 一応は結界装置を作動させて、駅舎に入っての昼食休憩である。ようやく空腹を満たせた面々は、人心地ついてそれぞれ満足そうな表情。


 それは末妹から、おこぼれを頂戴したハスキー達も同様だったり。そんないつもの昼食風景と、それぞれお腹を満たしての食後のくつろぎタイム。

 それはペット達も同様で、姫香ママにくっついて出番が貰えないと甘えるヒバリは騒がしい限り。茶々丸はその逆で、ハスキー達と一緒に駅の床に寝そべって大人しい。


 何となく探索者の貫禄も出て来た気もするが、恐らくそれは錯覚だろう。そんな失礼な事を考えながら、護人はチームの体調チェックに余念がない。

 何しろこの後は、久々の15層を目指して午後の探索が待っているのだ。長丁場の1日掛かりの間引き作業は、小さな体調不良から崩れて行く可能性だってある。


 幸いながら、ペット勢に関しては皆がいつものペースでまだまだ余裕はある感じ。それは子供達も同様で、今は巻貝の通信機で各所に連絡を取り合っている所。

 その結果、他のA級チームも午前の探索に問題は無いとの話でまずは一安心。外の拠点の島根の協会への通信でも、B級チームから急報は入っていないそう。


 どうやら、来栖家が偶然迷い込んだ4層みたいな仕掛けは、他のチームには及ばなかったようだ。それはそれで良かったが、何だか理不尽な気がしないでもない。

 そんな事を話し合う子供たちは、ここまでのペース配分には満足そう。時間が掛かったのはエリア渡りをした3層のみで、他は30分程度でクリア出来ている。


 イレギュラーの4層も、実際の移動距離はほんの少しで済んでいた。目の前の教会にゲートがあったので、移動より戦う時間の方が長かった程だった。

 移動ボスに巡り合った6層など、15分程度でクリアとなった次第である。そんな訳で、来栖家の昼食休憩は何とか1時前にはとる事が出来た。


「とは言え、15層の間引きが決定だとすると、あと8層も残ってるもんね。先は長いから、ペース配分をしっかりして午後は挑まないとねっ。

 そんな訳で、ハスキー達も余力を残しながら行くんだよっ!」

「ペース配分は良いとして、エリア配分はどうなんだっけ、護人さん? このままずっと、私達の探索は“汽車エリア”でいいのかな?」

「いや、その辺は臨機応変で良いそうだよ。A級チーム同士で話し合って、一応はなるべく満遍まんべんなくが理想ではあるのかな?

 とは言え、広いダンジョンだから、たった数チームでは限界はあるだろうしね。飽きたら別のエリアに移動するとか、その辺の融通は利くだろう。

 ただまぁ、エリア移動も時間が掛かるだろうからね」


 それもそうだねと、マンネリの大嫌いな姫香辺りはそれを推奨する構え。獣人の相手ばかりでは、確かに飽きが来ると言うか嫌になって来る気持ちは良く分かる。

 来栖家的には、まだ1歩も足を踏み入れてない“神社エリア”にもおもむいてみたい所。それを我がままと取るか、目先を変えての効率の向上と取るかは難しい問題ではある。




 そんな話をしながら休憩を終え、さあ探索を再開しようと気合も新たな来栖家チームの面々。ゲートはすぐそこで、そこに飛び込めば次は8層目である。

 約半分の踏破は、間引きのお仕事的にも順調と言えるかも。巻貝の通信機の情報では、異世界+土屋チームや『ライオン丸』+『坊ちゃんズ』チームも似たような階層で休憩中だった。


 来栖家チームは、今回は一応この遠征レイドの取り仕切り役となっている。下手に他のチームに後れを取っては、少々対面が悪いって考え方も。

 まぁ、そんな考え方は護人がと言うより、主に子供たちが勝手に抱いているプライドではある。護人としては、他のチームの実力も相当なので、間引き作業で劣っていても仕方が無いって思いしかない。


 そんな結果を良しとしない姫香は、リーダの為にも頑張るよとハスキー達に発破をかける。それを受けて、午前以上に気合いがみなぎっている前衛陣だったり。

 そうして出た8層だが、相も変わらず線路は続くよどこまでもってエリア構成。その周囲には、まるで道を作ってるようなコンテナの山の障害物が。


「確かに、相変わらずな景色を見てると、何か他のエリアも見てみたいって気になるよね。近くにエリアの接合部は無いのかな、ツグミは分かる?」

「言った端から落ち着きが無いね、香多奈っ。ハスキー達の、ヤル気をそぐような命令を出すんじゃないわよっ……ツグミ、従わなくていいからねっ!

 それより、この先に敵の気配がして来たよっ!」

「そうだな、エリア渡りは他のA級チームとの兼ね合いもあるからな。こっちだけの都合で、勝手にホイホイと移動は出来ないよ、香多奈」


 ちぇっとつまらなそうな末妹は、色々行けた方が楽しいのにねと妖精ちゃんとヒバリに対して愚痴モード。撮影者としては、色んな景色を映したいって思いは当然なのかも。

 それは戦闘を頑張るハスキー達には、確かに全く関係のない話。今も集団で出て来た、ゴブリンとオークの混成軍を根性で押し返してその奮闘振りは称賛のレベル。


 それに中衛陣も加わって、相変わらず一度で大量に出現する獣人軍の相手は大変そう。さすがA級ダンジョンである、そして間引きがおざなりだったツケはかなりの酷さ。

 オーバーフロー直前まで放置されていた、ダンジョン内はどこもかしこも敵だらけの有り様だ。他のチームも、戦う相手が不足するって事態はまず起きていない筈。


 そんな事を考えながら、後衛陣も戦闘をフォローして8層最初の戦いは数分で終了。そして休憩する間もなく、上空に警戒の視線を飛ばすハスキー達である。

 それを受けて家族も周囲を見回すと、コンテナの上や電柱に停まっている大カラスが数羽。その更に上空には、この層も出現したワイバーンの姿が数匹ほど。


 大盛況だねとの末妹の軽口に、護人は構わず迎撃の準備をするよと肩口の軟体幼児に告げる。それに合わせて、ミケさんもゴーと軽い末妹の催促が。

 紗良の肩の上のミケは、寒い所から気温の丁度良いダンジョンに入って明らかに機嫌は良いみたい。我が儘とも取れる香多奈の言葉に、仕方無いなと宙の敵に狙いを定める。


 今回も数の割と多いワイバーンの群れだが、前回と少し違う点が見え隠れしていた。何だか鞍がつけられて、獣人っぽい奴が操縦しているような?

 それに気付いた時には、既に空から大量の何かが投擲された後だった。慌てた護人は、全員に対空防御を命じてムームーちゃんにはそれの撃ち落としを依頼する。


 それは何割かは爆弾で、もう何割かは鋭いとげの付いた鉄球だった。凶悪なその攻撃だが、何とか紗良の《結界》が後衛陣を守ってくれた。

 前衛陣と中衛陣は、コロ助と姫香の防御スキルで何とか被害を最小限に留める事に成功する。そして、そのご無体な敵の仕打ちに怒り心頭なニャンコの反撃が。


 怒髪天を突くと言うが、今のミケはまさにそんな感じ。天を裂くような稲妻が、何筋か天と地を行き来したのが家族の目にはハッキリと窺えた。

 そして当然の如く墜落して来る、騎乗兵とワイバーンのセットが4体ずつ。護人とムームーちゃんが手を下すまでもなく、天空の脅威は全て駆除される流れに。


 呆れた事に、落ちて来る物体に向けて追撃の《猫パンチ》を放つミケであった。まぁ、魔石になっていないって事は、確かにまだ息があるって意味ではある。

 とは言え、この念の入れようはよほど腹に据えかねたようだ。護人や姫香はやや引いているが、香多奈は珍しいスキルが見れたよと大はしゃぎしている有り様。


「凄いよっ、ミケさんの必殺技の1つの《猫パンチ》が見れちゃった! 動画にも撮れたし、これは今回の最大の見せ場に間違いはないねっ!

 能見さんにも、絶対にここ使ってって言っておかなくちゃ!」

「何を興奮してるのよ、アホ香多奈っ……残虐なニャンコの一面を、無理に動画で披露する必要は無いでしょうに。でもまぁ、ミケが怒る気持ちは良く分かるし仕方が無いかな。

 あれっ、いつの間にか大カラスの群れも倒されてるや」

「これこれ、姫ちゃん……例え実の妹に対しても、あまり酷い悪口は言っちゃ駄目だよっ。それにしても、ミケちゃんは相変わらず凄いねぇ。

 ミケちゃんにとっては、空を飛ぶワイバーンもワンパンチだねぇ!」


 凄過ぎるよねと盛り上がる後衛陣だが、前衛陣は落下したドロップ品の回収に忙しそう。幸いにも、宙から落ちて来た棘付き鉄球は、獣人騎手の死亡と共に消えてなくなってくれた。

 何個か敵に使う用に欲しかったねと、そんな事を口にする姫香はちょっと物騒かも。そんな主に、ツグミも探してみるねと言わんばかりに周囲に散らばるドロップ品を熱心に集めてくれる。


 それをルルンバちゃんもお手伝いして、その姿は戦闘時より数倍幸せそう。そして落ちていたワイバーン肉をゲットして、嬉しそうに後衛へと運んで行く。

 自身も大きな魔法収納を持つのに、収穫物を見せびらかすのは本能なのだろうか。紗良や香多奈に喜んで貰えて、ルルンバちゃんも大満足と言う。



 そんな回収も一通り終わって、一行は探索を再開して線路に沿って前進する。目標は次の層のゲートだが、間引きも目的なので敵との遭遇でも問題はない。

 などと思っていると、呆気無く線路の先にこじんまりした駅舎とホームを発見。今回も陸橋には大蜘蛛が待ち伏せており、駅のホームには車掌パペットの姿が。


 ついでにゴーレムも数体いるようで、獣人の姿も散見される。控え目に数えても、敵の集団はざっと20匹以上は確実にいる模様。

 その事実に全く怯む事なく、レイジーは《咆哮》を使用して味方の鼓舞と敵のヘイト集め。ツグミとコロ助も、武器を咥えてさっさと来いやとヤル気満々。


「あっ、また駅があったね……敵の数は多いけど、厄介なのは混じって無いかな? それじゃ、みんな頑張って敵をやっつけてねっ!」

「了解、右のホームにいる敵の接近が一番早いみたいだね。そいつらから倒すよ、ハスキー達っ!」

「それじゃ、今度こそ遠隔支援を頑張ろうか、ムームーちゃん」


 やってやるデシと張り切る軟体幼児は、明らかにさっきのミケの武勇に影響を受けている模様。とは言え、ミケのいる高みに登るにはまだまだ上る階段の数は多過ぎる。

 それでも新入り家族に、良いお手本(?)を示す家猫ミケは何とも後輩思いなのかも。まぁ、ただ単に腹が立ったからっただけが真実な気もするけど。


 これでスライム幼児まで、ご無体な殺戮を振り撒くようになったら目も当てられない。その点、護人父ちゃんに従順なムームーちゃんはまだ御しやすい存在なのかも。

 そうして護人とムームーちゃんの遠隔部隊は、前衛陣のフォローに大車輪の活躍を見せる。そうして10分も掛からず、駅舎の中にいた敵を含めて全て殲滅し終える一行であった。


 ここに来て、敵の魔石のドロップにも小サイズの割合が増えて来た。例えばオーク魔術師や大蜘蛛、アイアンゴーレムなどがその良い例である。

 それだけ難易度も上がっている、“津和野ダンジョン”も次はもう9層。





 ――区切りの10層まで、後ほんの少しの道のりだ。







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