第936話 5層の中ボスも何とか退治し終える件



 SL機関車から溢れ出て来た獣人軍は、何かに急かされているかのような慌て振り。それらを冷静に、接敵する端から片付けて行くハスキー軍団。

 それをお手伝いする茶々萌コンビも、テンション高く戦闘に参加している。ルルンバちゃんは、遠隔攻撃で後方の銃や弓矢持ちの退治に余念がない。


 それを指揮する姫香も、前線を突破しようとする獣人の駆逐に忙しい。とにかく敵の数が多いのだが、幸いにも敵の砲台と投石機はミケの『雷槌』で綺麗に破壊されてくれていた。

 お陰で敵の強烈な遠隔攻撃は、心配せずに済んで何よりである。それでも2両目、そして3両目と続々出て来る獣人軍はかなりの脅威。


 最初は40匹程度かなと思っていたが、ひょっとしたらそれ以上いるかも? パペット機関士も混じって来て、戦闘は段々と混沌とし始める。

 特に巨体のオーク兵は、ハスキー達にもパワーで負けていないので厄介だ。それでもコロ助などは、それ以上のパワーで押し返す勇猛振り。


 ついでにレイジーの召喚した炎の狼軍団も、敵陣を良い感じにかき乱してくれていた。後から合流しようとして来る連中は、そんな邪魔者に気を取られて気もそぞろ。

 そこに付け入る、戦闘巧者のハスキー軍団は今や押せ押せの状態である。敵が多くても何のその、そいつ等を押し返すハスキー達の底力は恐るべし。


 相手が雑魚モンスター多めと言う事もあるが、これには後衛陣も安心して状況を見ていられると言うモノ。姫香もその波に乗って、ルルンバちゃんを率いて列車へと近付いて行く。

 その時だった、大型の獣人らしき叫び声と共にオークの親玉が登場。ソイツはオーク将軍らしく、列車の天井に上がって来栖家チームを挑発している。


「あっ、あれが親玉じゃ無いかなっ……装備は凄いけど、まぁオークには変わらないよね。叫び声がうるさいから、さっさと倒しちゃって!」

「勝手な事言ってるんじゃないわよ、香多奈のお馬鹿っ! 横に魔術師も2匹いるねっ……ルルンバちゃん、遠隔で倒せるっ?」

「俺も前に出ようか……2号ちゃん、ここの守りは頼んだよっ!」


 そんな訳で、満を持しての護人とムームーちゃんが前へと出て行く。姫香は末妹の文句をマルっと無視して、まずは厄介な魔術師タイプを倒すようAIロボに指示を出す。

 それは正解で、片方の奴は召喚士だった模様。宙にゲートが束の間湧いて、その中から巨大な目玉と触手が這い出ようとする気配が。


 アレはヤバいよと、警告する末妹は出オチを狙っちゃえと前衛陣を急かす素振り。それに従って、ルルンバちゃんのレーザー砲がその目玉へと見事着弾した。

 ちなみに、護人の『射撃』での弓矢が召喚術士を射抜いており、どちらが召喚を阻止したのかは分からず仕舞い。とにかく、厄介そうな新たな敵の出現は事前に封じる事が出来た。


 それを見て、明らかに狼狽ろうばいした様子の敵のオーク将軍はずるいぞって目でこちらを睨む。構ってられない一行は、列車に取り付くように敵の殲滅を続けて行く。

 その甲斐あって、数分後にはコロ助が見事にオーク将軍へと辿り着く事が出来た。左右にいた魔術師は、既に遠隔合戦で倒されて列車の上から退場の憂き目に。


 ここはヤバいと悟ったオーク将軍は、そんな訳でそこを降りて背後から軍団の指揮を執っていた模様。そのために退治は遅れたけど、結局はコロ助によって倒される破目に。

 他のオーク軍やゴブリン集団、それから少量のパペット兵士も、いつの間にやら全ていなくなっていた。10分以上の激闘だけに、さすがに達成感の半端ない来栖家チーム。


「ふうっ、ようやく全部の敵を退治する事が出来たかなぁ……ちなみにあのSL機関車は、倒すってか壊さなくてもいいのかな?

 アレが中ボスってオチじゃないよね、叔父さん?」

「いや、さすがにアレを壊すのは普通の探索者じゃ無理だろう。ルルンバちゃんのレーザー砲でも、あの機関車の全壊は難しいと思うぞ。

 出来るとしたら、ミケかレイジーくらいじゃ無いかな」

「チームに2匹も、可能性がある子がいるってのも考えたら凄い話だよね。まぁ、まずは中の様子を確認してからじゃない? 

 ひょっとしたら、お宝とか乗ってるかも知れないじゃん」


 それもそうだと、香多奈は自分の言葉を撤回して、まだ壊しちゃ駄目だよとミケに告げる。そのつもりも無かった老猫ミケは、冷めた目で何も語らず。

 それから姫香とツグミのコンビで、まずは先行しての車両チェック。その結果、次の層へのゲートと、ついでにミニ宝物庫まで発見してしまった。


 その報告に大喜びの末妹は、喜び勇んでそのミニ宝物庫へと駆けて行く。後に続く護人と紗良は、保護者気分ではしゃぎ過ぎないようにねとお守りが大変そう。

 そんなミニ宝物庫の中身だが、半分は武器庫でもう半分は食糧保存庫って感じ。前半は重オーグ鉄の装備品が十数点、それからミスリル装備も数点混ざって置かれてあった。


 そして消耗品の矢弾や砲弾が木箱の中に、砲台も2点ほど置かれてあった。持って帰って使うかは微妙だが、香多奈はツグミに全部の回収をお願いしている。

 そのガメつさはさすがだが、奥にも保存食が袋詰めで置かれてあった。その中身は豆や小麦粉など、穀物類から始まって缶詰やレトルト食品など様々。


 後は鑑定の書や魔玉(炎)や薬品系、魔結晶(小)が10個にオーブ珠が1つ。それから、強化の巻物が2冊ほど入った普通の宝箱も奥に置かれていた。

 ちなみに、推定中ボスのオーク将軍ドロップは、魔石(中)にスキル書が1枚と平凡そのもの。たくさんの部下たちの、ドロップ魔石を拾うのも一苦労と言う有り様だった。


 その辺は、ツグミやルルンバちゃんの活躍で数分で済んでまずは良かった。そうしてミニ宝物庫の回収も一通り済ませて、お隣の車両のゲートへと入り込む。

 心配されていたSL機関車の動向だが、大人しいモノで勝手に動き出す気配は無し。ダンジョン仕様で変な動きをされたらと思っていた一行だが、心配は杞憂きゆうに終わって何よりだ。

 そうして一行は、そそくさと6層エリアへ。




 そろそろお腹が空いて来た一行だが、さすがにあのSL機関車の中で食事をする度胸は無かった。そんな訳で移動を優先させたが、この6層もいきなりの獣人達のお出迎えが。

 雑魚のゴブリンとコボルト集団だったが、それを前に呑気に昼食休憩など出来ようもない。討伐が先だねと、姫香も前衛~中衛陣を率いての間引き作業。


「う~ん、お昼を食べる良い場所が、近場になかなか無さそうだね。強引にその辺で食べちゃうのも、ちょっと気が休まらないし嫌だよねぇ。

 あっ、さっき見た駅の中ならお手頃なんじゃ無いかなっ?」

「ああ、確かにそうだな……この層から、空を飛べる敵も出て来るみたいだし。あの電柱やコンテナ上にたかってる大カラス、モンスターで間違い無いよな」

「嫌な感じでこっち見て、なかなか襲い掛かって来ないよね。ハスキー達も苛立ってるし、確かに建物の中の方が落ち着いて食事が出来るかも。

 それじゃ、それが見付かってお昼にしようか」


 そんな感じで来栖家チームのお昼の計画は決まったが、実際はそう簡単には行かなかった。ちなみに、例の見張りカラスの集団は、次のオーク軍団の待ち伏せに合わせて襲って来た。

 それは全て返り討ちに出来て、スッキリは出来たけど中には1メートル級の奴もいてあなどれない敵ではあった。オークの軍団も、魔術師タイプが混じっていて難易度は確実に上がっている。


 ただし、6層の探索では駅のホームは発見出来ず。その前に巨大な4メートル級の石炭ゴーレムに遭遇して、それを倒した途端にゲートがその場に出現したのだ。

 お陰で、メインで戦ったコロ助とルルンバちゃんは割とすすだらけ。紗良が濡れタオルで処置をしてくれたが、怪我の類いは無くて何よりである。


 それにしても、6層はたった15分程度でゲートを確保出来てしまった。6層から間引きを本格的にするって話とは、真逆の速度だがまぁ仕方がない。

 その分奥まで進めばいいよと、呑気な子供たちの言葉はその通りになりそう。島根の協会からも、気合を入れてお願いしますと釘を刺されているのだ。

 仕切り役としても、その願いはきっちり叶えてあげなければ。


 とは言え、来栖家の現状の願いとしては、さっさとお昼の食べれる場所の確保である。出て来た7層の探索の途中に、良い感じの場所があれば良いのだが。

 具体的には駅のホームとか駅舎だが、さびれた感じでもちゃんと屋根があれば一応はくつろげる筈。それを探し求めて、来栖家チームは7層の“汽車エリア”を彷徨さまよい歩く。


 子供たちの会話は、そんな訳でお腹空いたねぇのワードが8割を占める事に。それに構わず、ハスキー達は出て来るゴブやコボルトを軽々と蹴散らして行く。

 ついでにこの層でも出て来た、大カラスやオーク軍団も返り討ちにして探索そのものは順調である。そうこうしている内に、上空を滑空するワイバーンを末妹が発見。

 予想していたが、やはりこのダンジョンは大物も普通に徘徊はいかいしている模様。


「あっ、ワイバーンを発見……2匹いるけど、向こうもこっちを見付けたっぽいねっ。急降下して襲われたら嫌だから、ミケさん1匹お願いねっ。

 もう1匹は、ルルンバちゃんが倒せばいいよっ」

「ふむっ、それじゃあ俺は、2人が敵を撃ち洩らした時用に控えておこうか。まぁ、その心配はいらないと思うけど、念の為って事で。

 おっと、そんな事を話している内に来たぞっ!」

「頼んだよっ、ミケにルルンバちゃんっ! サクッと倒して、ワイバーン肉をゲットだよっ!」


 そんな姫香の応援に、食いしん坊でないミケは特に感銘も受けなかった模様。それでも、末妹のお願いに上空から急降下を始めた先頭のワイバーンににらみを利かせる。

 そのミケの《魔眼》の発動で、ピッキーンとなった飛竜は空中で動けなくなって地上へ真っ逆さま。見せ場も無く可哀想ではあるが、来栖家のニャンコに睨まれたのが運の尽き。


 もう一体の追従して急降下を始めた飛竜も、見事にAIロボが1発で仕留めてくれた。やったねとご機嫌な末妹の声掛けに、ガッツポーズのルルンバちゃんである。

 それから割と近場に落ちた飛竜のドロップ品を、家族で拾いに向かう。そこには目論見もくろみ通り、魔石(小)とワイバーン肉が1セットずつ。


 ちなみに今までの獣人は、低確率で金貨や銀貨をドロップしてくれている。それから素材系や、人には使えない装備もたまにドロップ。

 ボス級だった石炭ゴーレムは、予想通りに魔石(中)と共に結構な量の石炭を落としていた。それらも一応全て回収している来栖家は、品物は大事に使う精神が行き届いている。


 そんな7層の移動も、20分が経過して倒した獣人の群れも3つに及んだ。1つの群れが10匹~20匹なので、魔石(極小)の集まりも半端ではない。

 ここまでまだ7層しか攻略してないのに、魔石(極小)はもうすぐ200個に届きそう。さすが広域ダンジョンだけある、強い敵こそまだそんなに遭遇してないけど難易度は高い。


 そんな感想を話しながら、二言目にはお腹空いたが口癖になりそうな香多奈は正直者。そんな末妹の願いが届いたのか、ようやく視界内に駅のホームが見えて来た。

 獣人軍もそこには集っているようだが、それらを片付ければようやく寛ぎの場所が得れそう。そんな訳で、末妹の熱のこもった『応援』にハスキー達もヤル気がみなぎっている。





 ――明確な目的を得て、恐らく7層最後の戦闘スタート。







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