第935話 闇エリアを抜けて区切りの5層へ到着する件



 現在は教会の建物に入り込んでの、待ち構えていた闇の軍勢との戦闘中。闇の塊から出て来たボス級は、レイジーとコロ助で既に退治済みである。

 唯一、最初から茂みに隠れていた泣き女を、姫香が討伐しようと奮闘中。老婆姿の泣き女は、インプ召喚と絶叫スキルでいやらしく抵抗して来る。


 とは言え、周囲にたくさんいたゾンビとスケルトンの群れは、皆の頑張りでほぼいなくなってくれた。紗良の最初の《浄化》スキルも、かなり効果を発揮してくれた。

 護人も飛び回るインプを撃墜して、前へと出て来たが依然として闇のプレッシャーは強烈なまま。どうした事かと辺りを窺うと、確かにまだ闇の塊が稼働している気配が。


 また何か召喚されたら厄介なので、護人が『ヴィブラニウムの神剣』で斬りつけようとアクションを起こす。それと同時に、何と闇の塊から盛大な反撃が来た。

 それは爪もエグい巨大な手で、闇の塊からニュッと生えて護人を敵とみなして掴みかかって来た。それをすんでの所でブロックして、力比べを挑み始める《奥の手》と薔薇のマントである。


 護人はひたすら驚いていて、自身の“四腕”にひたすら感謝。薔薇のマントもそうだが、《奥の手》もオート防御を覚えてくれていたとは。

 真っ黒で巨人並みに太い腕は、護人の“四腕”防御に動く事も出来ない様子。そこに再度の愛用の剣での斬り付けで、大きく揺らぐ闇の塊であった。


 そこに加勢の、ルルンバちゃんの水鉄砲攻撃が闇の塊へと加わった。容赦なく降り注がれる浄化ポーションが、直接闇の塊の中心部へと注がれて行く。

 萌も持たされていた魔玉(光)を、無感情にポイッと闇の中心部へと放り込む。それが最後の後押しとなって、魔玉の破砕音と共にはじけ飛んでしまう闇の塊であった。


 その頃には、姫香も泣き女を退治し終わってホッと一息。あれだけ湧き出ていたインプの姿も、綺麗に消え去って動く敵の姿は無し。それを見て、ようやく安堵の来栖家チームの面々である。

 紗良と香多奈も、ようやく《結界》から出て来てご苦労様と家族にねぎらいの言葉を掛けて行く。それから紗良はペット達の怪我チェックを始め、末妹は2号ちゃんとドロップ品の回収を始める。


「それにしても、まだ4層なのに強敵がいっぱい出て来たねぇ……ほら見てっ、魔石(中)が3個に魔石(大)が1個落ちてるよっ!

 この丸い珠は宝珠じゃないね、何だろう妖精ちゃん?」

「これだから、イレギュラーの対応は嫌なんだよねぇ。まぁ、今回は儲けも多いみたいだから、一応は怒る程じゃないけどさっ。

 ゾンビとスケルトンだけで、40体位いなかった、護人さんっ?」

「まぁ、その位はゆうにいたなぁ……それに加えてボス級が3体と、召喚装置みたいな闇の塊がずっとあったから冷や冷やしたよ。

 ルルンバちゃんに萌、最後は手伝ってくれてありがとう」


 お礼を言われたAIロボは、何てことないよと手をあげてのリアクション。萌もクゥーと喉を鳴らして、リーダーに褒められてちょっと嬉しそう。

 それからドロップ品を拾い終わった一行だが、それを見た妖精ちゃんは顔をしかめて不満顔。どうやら、結構な確率で呪いの品が紛れているらしい。


 それを聞いた末妹も、戦い損じゃんと憤慨する素振り。とは言え、スキル書とオーブ珠も1個ずつ拾えてその点は満足そうと言う。

 本当に表情が豊かだなと感心する護人だが、近場にゲートが無いのには困ってしまった。てっきりこの場所にあると思っていたのだが、見渡した限りは発見出来ない。


 ハスキー達も困惑していたが、周囲を嗅ぎ回った結果十字架像の後ろに隠し扉を発見。十字架像を動かすと、幸いにもルルンバちゃんも通り抜けれる通路が出て来た。

 その奥は小部屋になっていて、ちゃんとゲートとついでに宝箱も見付かった。喜ぶ子供たちは、ツグミの罠チェックの後にそれを開封して中身チェック。


 中からは魔玉(闇)や薬品類、魔結晶(中)が10個に虹色の果実が1個。それからパンとブドウ酒が数個ずつに、聖書や十字架が幾つか出て来た。

 なるほどって品揃えだが、さすがに剥き出しのパンは回収を躊躇ためらってしまう。キリスト教では、パンとブドウ酒はイエス様の血肉って意味らしい。


 有り難い品なのかもだが、子供たちは回収を拒否してブドウ酒だけ頂く事に。そうして終わったよとチームに告げて、ようやく長かった4層の探索も終了の運びに。

 そして出た先だが、ちゃんと陽の光もまぶしい“汽車エリア”となっていた。喜び合うチーム員と、さっそく先行して探索を再開するハスキー達。


「ふうっ、ようやく重い雰囲気から抜け出せたよっ……これで晴れて、元の間引き探索に戻れるって事だよねっ?

 おっと、5層までは流して進むんだっけ?」

「そうだね、俺たちが力を入れるのは6層以降って一応の取り決めだな。時間次第では、15層辺りまで行くかも知れないからね、みんな。

 ペース配分は、しっかり各自で頼んだよ」

「了解っ、叔父さんっ……うわっ、久々の長時間探索だねっ! そんな訳で頑張るよ、みんなっ!」


 久々かどうかは不明だが、確かに15層を目指すのは来栖家にしては珍しいかも。そんな訳で、ペース配分を念頭に来栖家チームの探索は続く。

 5層に出た途端、周囲にあったのは3層でも見掛けた2本仲良く並んだ線路だった。それから周囲には、まるでその通路を囲い込むかのようなコンテナの山。


 色は派手なのもあるし、茶色系の地味な山も存在する。とは言え、企画が統一されているせいか、大きさに関してはほぼ一緒で列車サイズの模様。

 今回も獣人がわんさか出るのかなと、歩き出した子供たちは早くも呑気モード。それを聞き取ったかのように、出発して数分後にコボルトの大集団と遭遇した。


 ざっと数えて20匹以上だが、コボルトは獣人の中でも雑魚モンスターである。ハスキー達はこの犬モドキめと、挑発しては殲滅せんめつを繰り返し始める。

 相手の装備はほとんどが革鎧で、飛び道具を持つ敵もいない有り様。武器は小剣や槍が多いだろうか、ただし扱い方はお世辞にも上手くはない。


 この現象を、まだ5層だからと見るか、もう5層なのにと見るのかは微妙な所。ダンジョンにとっては、この5層はまだまだ浅層って事なのだろう。

 そんな戦いは、5分と掛からず終了して今回は他の隙間からの奇襲もなし。魔石を拾いながら、さっきの層との難易度の違いをしみじみ語り合う一行。


 そんな戦いが追加でもう1度、今度はゴブ獣人も半分混じって数は少々増えた程度。横の隙間からの奇襲はあったけど、数は4匹程度で護人が出る機会もなし。

 ムームーちゃんが魔法で2匹を倒すと、残りは私のとヒバリが勢い良く駆けて行く。それを温かい目で見詰める、紗良と香多奈である。


 一応は、香多奈は再度の応援で、ヒバリの『巨大化』を手助けしているが後は放置。それにしても、段々と巨大化もスムーズになって仔グリフォンも自信にしている感が。

 そして今や、ゴブリン程度は屁でもないヒバリである。そうして前衛陣も、何事もなく出て来た集団を蹴散らしての戦闘終了。


 5層の探索もこれで15分程度、2本の線路はうねりながらまだ先へと続いている。それを見ながら、ここも駅が見付かればゲートもあるのかなと話し合う子供たち。

 つまりは3層の仕掛けがスタンダードなら、階層渡りも当たりがつけやすくて今後の探索も楽になる。ところが見渡す限り、どうもこのまま進んでも駅の建物は無さそうな気配。


「あれっ、真っ直ぐな道に出たけど、この先にも駅の建物は見当たらないね。まだまだ歩かなきゃなのかな、それとも線路ルートの外れにゲートがあるとか?」

「どうだろう、そもそもここって5層だから中ボスの間がどっかにあるんじゃない? それとも大型のボスが徘徊してるとか、そっちのパターンなのかもね。

 そもそもあの4層がイレギュラーで、ここが続きの4層の可能性もあるかも?」

「えっ、そんな事ってあるのかな……でも、そう言われたらありそうな気もして来たねぇ。香多奈ちゃんの魔法のコンパス、一応使ってみたら?」


 紗良の言葉に、それがあったと慌ててボッケからそれを取り出す末妹である。妖精ちゃんも見守る中、コンパスの先が示すのはやっぱりまっすぐ伸びる線路の先。

 こっちで良いみたいと報告する香多奈だが、ハスキー達や姫香は別の事に気を取られていた。レールの微弱な振動は、その上を動く列車の存在を知らせている模様。


 線路を伝ってこっちに列車が来るよとの警告に、家族はかれちゃたまらんと脇へと移動する。と言うか、このダンジョン内で列車の到来が見られるとは。

 SLじゃ無いかなと、遠くでたなびく白煙を目にしてはしゃぎ声をあげる末妹。そうみたいだなと、戸惑い気味の護人は遠くを透かして見る仕草。


 そのSL列車は、意外とスピードを出しているのか程無く一行の前へと到着しそうな勢い。ポッポーとか汽笛まで鳴らしちゃって、臨場感はあるが果たしてどんな仕掛けなのかはまだ判然とせず。

 撮影に熱心な香多奈は、楽しいねと大いに盛り上がっている。ところが近付くにつれ、その列車の荷台に武装勢力が乗っているのを発見して騒然となる一行。


 メインはゴブリンだが、大柄なオーク兵やパペット車掌も乗っているようだ。しかもSL列車は、砲台や投石機で武装されている模様。

 そんな武装列車は、来栖家チームを確認して速度を急に落としての戦闘モード。売られた喧嘩は買うぜと、ハスキー達もヤル気満々である。


「うわぁ、思ってたのと全然違う展開だぁ……3両目くらいまで敵がわんさか乗っちゃってない、あの武装SL機関車って?

 酷いね、しかも砲台や投石機まで設置されてるよっ」

「敵の中にも、銃持ちが何匹かいるな……みんな、遠隔攻撃には気を付けて戦おうか。タゲられたからには、連中を倒し切るしかないみたいだからな。

 ってか、恐らくコイツ等が中ボスって認識でいいのかな?」

「あっ、こいつらが中ボスなんだっ! なるほどね、そう考えたら物凄くしっくりくるよっ……そんな訳でハスキー達、1匹残らず奴らをやっつけるよ!」


 姫香の号令に、ヤル気を漲らせたハスキー達は揃って戦闘モードに。レイジーなど、『活火山の赤灼ランプ』を取り出して炎の狼を召喚し始めている。

 そうはさせじと、敵の武装がまずは一斉に火を吹いた。向こうも大人しく待ってはくれる筈もなく、砲台や投石機がこちらをロックオン。


 それを姫香の『圧縮』防御や、コロ助の《防御の陣》で防ぐ来栖家チーム。それでもひあっと言う悲鳴は、後衛陣から上がってしまうのは致し方が無い。

 それに対する反撃は、ある意味熾烈しれつだった……うちの子にナニすんじゃあと、お怒りのニャンコが約1匹。ルルンバちゃんのレーザー砲の反撃など、それに較べればオマケのようなモノ。


 巨大な敵のSL機関車が、揺れる程の落雷攻撃は向こうも想定外だったのかも。そんな訳で、こちらに向けられていた砲台や投石機の類いは煙を吹いて使用不能に。

 見た目は格好の良い武装列車だったのだが、たった数分で悲惨な様なのはちょっと可哀想。まぁ、出オチじゃなくて良かったねと、慰めるしか無いがこの後は白兵戦が待っている。


 そちらはやや青ざめた、ゴブ集団やオーク兵がわんさか汽車から飛び出してある意味見モノだった。ただまぁ、ここにいると落雷にやられるとの本能がそうさせたのかも?

 とにかく、それを迎え撃つ来栖家チームもヤル気充分である。





 ――そうして、恐らく5層の中ボス戦は派手な中盤戦へ。







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