第924話 いよいよ間引き目標の10層へと到達する件



 倒した球根モンスターの数をチェックして、護人はすかさず空の敵の迎撃へと思考を切り替える。紗良も思ったより敵の数を減らせて、安心して《結界》の中へ引っ込んで行く。

 この辺は、いかにも真面目な長女らしく末妹の安全を最優先している感じ。敵の数は減ったとは言え、敵は爆弾を所有しているのだ。


 投げつけられて被害に遭うかもしれないし、そもそも空の敵から襲われる事だってある。こんな戦況の読めない乱戦では、大人しく引っ込んでおくに限る。

 そうすれば、他のチーム員も安心して戦えると言うモノ。それにしても、前衛陣が戦っているヒクイドリの集団は何と言うか酷過ぎる。


 一際大きな階層主など、ヒクイドリの名に恥じぬ炎のブレスを吐き出している始末。他の部下たちも、レイジーの炎のブレスに物怖じもしない所を見ると炎耐性があるのだろう。

 相性の悪さに加えて、体格もハスキー達に勝る猛禽類の集団はやりたい放題。4メートル級の階層主を中心に、今にも前線を突破しそうな勢い。


 そこに待ったを掛ける姫香は、愛用の『天使の執行杖』を大鎌モードにして一歩も引かない構え。敵がくちばしで、不用意に突き掛かろうものならしめたモノ。

 一瞬で伸びた首をねて、魔石へと変えて行くその手腕はさすが。


 恐らく《舞姫》も発動しているのだろう、舞うように移動して敵の集団に的を絞らせない。その献身的な盾防御に、ハスキー達も劣勢だった戦況を盛り返す。

 まずはコロ助が右辺から『咆哮』を使用して、敵の注意をそちらへとらす。鳥頭と言うだけあって、ヒクイドリの集団は幸いにもからめ手に関して耐性は低い模様。


 そんな注意のれた敵に、姫香やツグミが敵の刈り取り作業。茶々萌コンビもショートチャージを繰り出して、自分より大きな敵を見事に穴だらけにしてすぐに離脱。

 そうして中央にヘイトが向かったら、今度は左辺にいたレイジーが《咆哮》を使って自分へとヘイトを向けてやる。この頭脳プレイに、敵はまんまと引っ掛かって抜け出せず。


 ちなみにレイジーとコロ助の持つ“咆哮”は、似てるようで微妙に違うみたい。コロ助の『咆哮』は敵をビビらせつつもヘイトを稼ぐ技で、レイジーの《咆哮》は味方を鼓舞しながら敵の注意を自分に向ける作用があるみたい。

 レイジーのは特殊スキルで、さすが群れのリーダーって効用が付随している。コロ助のは盾役っぽい効果で、どちらも使い方によってはとっても有用である。


 しかし、まさかこんな使い方を思い付くとは、ハスキー軍団あなどりがたし。お陰で20匹以上の大集団も、いつの間にか1桁へと減っていた。

 ちなみにルルンバちゃんは、空からの敵を相手してこちらには参加せず。


「いいよっ、みんな……ナイスなコンビプレーだねっ、ヘイト管理が上手に出来てるっ! 茶々丸は突進したら、すぐに離れなさいって言ってるでしょ!

 萌は相棒が言うこと聞かなかったら、頭を叩いてやって良いんだからねっ」


 敵の数が減ったとは言え、相手の手数は割と多い。くちばしに蹴爪に、敵によってはフェザーシュートを使って来る奴も混じっているのだ。

 そんな集団に突進して行くのは良いが、その場に留まって暴れられると反撃を束で喰らう可能性が。そう姫香に叱られた茶々丸は、慌てて反転してまずは無傷で戦線離脱が出来た。


 ヤレヤレと心中でため息をつく姫香だが、そこにやって来る階層主の炎のブレス。敵も味方も関係ないその攻撃に、姫香は咄嗟に『圧縮』防御で対応する。

 本当に、油断も隙も無い敵の集団はようやく半ダースに減ってくれた所。その背後では、ルルンバちゃんが空中の敵にレーザー砲をぶっ放している。


 こちらも頑張って欲しい所、何しろ戦いの最中に頭上から爆弾を放り込まれたくなど無いっ。まぁ、そちらに関しては護人も遠隔攻撃に参加してるので大丈夫だろう。

 それより階層主らしき巨大ヒクイドリは、炎のブレスが効かないと分かると肉弾戦を挑んで来た。しかもかなりお怒りの様子で、こちらを踏み潰そうと蹴爪が凄い勢いで飛んで来る。


 それを華麗に避けて行く姫香と、フォローに左右から攻撃を仕掛けるハスキー達。急に階層主がバランスを崩したのは、恐らくツグミの闇魔法だろう。

 そんな大きな隙を見逃すハスキー達ではない、素早い攻撃で敵の急所に武器を振るっての止め刺し。そうして9層の階層主も、見事に討伐に至った。


 とは言え、他にもまだモンスターはいるので安心は出来ない。特に空から木の実爆弾を落として来るフラミンゴは、隙を見せたら超危険な存在だ。

 などと思っていたら、何とあれだけ空を埋めていた赤い鳥の軍団は残りもうわずかに。呆れた事に護人とルルンバちゃん、ついでにムームーちゃんの射撃部隊は、敵の2度目のご無体むたいは許さなかったようだ。


 残った飛行部隊はたったの2体で、落とした木の実爆弾は遥か前方に落ちてる始末。もちろん味方に被害は無いし、後衛陣が戦っていた球根モンスターもほぼ消え去っていた。

 そんな感じで、残った敵を駆逐し終えて勝利を確定させる来栖家チームであった。やったぁと元気に感情を表現する末妹は、さっそく落ちてる魔石を拾い始める。


「ふうっ、今回の襲撃はかなりハードだったな……前と後ろと、ついでに空から襲撃って今まで無かったかもな。

 みんな、怪我は無かったかい?」

「同時襲撃の挟み撃ちって、かなり殺意が高いよねぇ……ハスキー達は怪我は無いかな、茶々丸はちょっと怪しいけど」

「後衛陣は大丈夫だよっ、紗良お姉ちゃんはMP使い過ぎたから補給した方がいいよっ。ミケさんも、空の敵の退治はちょっとだけ手伝ってくれたねっ。

 多分だけど、爆弾落とされて腹が立ったんだろうね」


 そう言う香多奈だが、確かに紗良の肩の上のミケはご機嫌斜めな感じ。反対に香多奈は、転がってる魔石や球根を拾いながらご満悦な表情。

 それからこの球根は、秋植えか春植えどっちかなと、庭に植える気満々で叔父に質問を飛ばしている。秋植えだったら今年は植えれないねと、激しい戦闘終わりの会話とは思えない呑気さ。


 いつもの調子なのでアレだが、取り敢えずは紗良のペット達の体調チェックも無事に終わって一息つく一行。ちなみに建物の奥には、しっかりゲートも見付かった。

 つまりあの巨大ヒクイドリは、階層主で間違いは無かった模様。しっかり魔石(中)とスキル書まで落としてくれて、ついでにくちばし部分なのか骨素材もゲット。


 ゲートの側には宝箱も発見して、まるで中ボスの間みたいな仕様である。ただし、退去用の魔方陣は無いので階層の数え間違いではない。

 宝箱には鑑定の書や木の実や薬品類、魔玉(炎)が10個に魔石(小)が8個ほど入っていた。このダンジョンは魔石(小)を落とす敵も多いので、随分堪ったと紗良は報告して来る。


 後は売店で売ってるような、Tシャツや縫いぐるみやキーホルダーが少々。それから給仕箱や鳥のエサの入った袋、それに混じって鳥肉が割と大量に出て来た。

 それから鉤爪っぽい武器は、どうやら魔法アイテムの模様。


 鳥のエサに関しては、小鳥用の何かの穀物のようなモノが大半。ウチの鶏はこれを食べるかなと、末妹はそれを見ながら本気で悩んでいる模様。

 鶏は雑食で何でも食べる印象があるが、意外とデリケートで食べさせてはいけない物も多い。例えば畑で収穫出来るものでは、ジャガイモやホウレン草やネギ類である。


 そう言えば、このダンジョンには鶏が出て来ないねぇと姫香も話に乗っかって来た。元設定のテーマパークにも展示はされてないだろうが、敵役で出て来ても良いのにとは姫香の主張である。

 来栖家の敷地内ダンジョンでは良く目にするので、その気持ちは分からなくもない。キジ科の鳥は鶏冠とさかが見応えあって、チャーミングなのにねぇと長女も話に追従する。


「アレがチャーミングかは置いといて、キジはたまにウチの近くの山の中を走り回ってるよね。あの子達も鶏と同じで、飛ぶのが苦手みたいでハスキー達がたまに追い回してるよ。

 鳴き声は大きくて主張は激しいのに、飛ぶの苦手って可哀想だね」

「キジも鳴かずぱって奴だねぇ、山にいる鳥の中では比較的サイズも大きいから、昔から狩りの対象になっちゃってるのかな。

 あと、普通に国鳥で天然記念物だからね」

「まぁ、国鳥だけど狩猟鳥に指定されてるから、追いかけ回すハスキー達を叱る程でも無いかな。そう言えば、桃太郎のお供にもキジが入ってたね。

 ウチの鶏は温厚な子が多いけど、キジ科は喧嘩っ早い印象なのかもな」


 そんな護人の話に、へえっと興味深そうな末妹である。ちなみにキジ科には、ヤマドリと言うのもいるそうでちょっと紛らわしいみたいだ。

 まぁ、ケーンと鳴くのはキジの雄だけなので間違えはしない筈。そんな他愛もない話をしながら休憩を行う来栖家チーム、次はいよいよ目標の10層である。

 今回の間引き作業も、あともう少しで終わりが見えて来た。




 そうして休憩を終えた一行は、毎度のハスキーを先頭にゲートを潜って10層へと到達。迎えてくれた建物エリアは、植物の多彩な毎度の空間となっていた。

 ここの敵は植物系モンスターだねと、先読みする末妹は地面を見据えて待ち伏せを見破るぞって勢い。それに釣られて、リードで繋がれたヒバリも地面をクンクンし始める。


 ハスキー達と毎朝の散歩もこなす仔グリフォンは、行動も似て来ている気が。そんな苦労が見事に実って、先手で怪しい場所を発見する香多奈&ヒバリのコンビ。

 護人がすかさず駆けつけて、ムームーちゃんがその場に《闇腐敗》の魔法を撃ち込む。その途端、苦しみながら土中から出現する球根モンスターの群れ。


「わっ、こんなにいたんだっ……お手柄だよ、ヒバリっ! でも図には乗らないようにね、弱ってる敵は倒しても良いけど」

「そうだな、この位弱ってたらヒバリでも大丈夫だろう。おっと、前衛もウッドゴーレムと接敵したな……まぁ、アッチは放っておいても平気だろう」


 そんな事を話し合う後衛陣は、張り切るヒバリから目が離せない。その理由だが、何かヒバリがやらかさないかとの心配が9割以上を占めていたり。

 それは仕方がない、仔グリフォンはまだまだ子供で戦闘参加もほんの数回なのだ。経験も実績も足りないおチビちゃんを、家族が心配するのも当然の事。


 それにしても、軟体幼児が炎のブレスで退治のお手伝いをするのも許さないヒバリである。これは全部私の獲物って主張は、やり過ぎなのでキッチリ叱る香多奈である。

 それもあまり彼女には響いておらず、さてどうしたモノか。それでも10層の最初の建物エリアは何事もなく勝利に漕ぎつける事に成功した。


 そして間を置かず、倒した敵の魔石を拾って次の建物エリアへと移動を果たす。そこは今度は真っ暗闇の空間で、これも経験済みで敵の種類は前読みが出来る。

 その通りのフクロウ獣人が出て来たが、前回と違ったのは大コウモリが敵に混じっていた事。敵の数も合計で20匹以上と、なかなかの盛り上がりを見せた。


 来栖家チームも、すっかり対飛行部隊と地上処理班に分かれての対応も板について来た。不規則な飛行を見せる大コウモリも、護人とルルンバちゃんの射撃で次々と撃ち落とされて行く。

 その仲間に入ろうとするヒバリは、まだ『飛翔』スキルも自在には使えないお茶っピイさん。せめて巨大化が使えれば、家族の心配も軽減するのだが。

 それでも戦闘種族の幻獣なのだし、将来性は期待して良い筈。





 ――その頃には、せめてお転婆な性格は改善されて欲しい所。







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