第925話 “松江フォーゲルパークダンジョン”も探索終焉を迎える件
暗闇エリアも無事に切り抜けて、次の建物エリアへと進む来栖家チームの面々。時間は既に3時半を過ぎていて、探索開始から軽く6時間以上が経過している。
一行の疲労もそろそろピークで、さっさと中ボスを撃破してダンジョンを退出したい。明日は取り敢えず休めるので、その次の日のレイド作戦に向けて休息をしなければ。
そんな事を話し合う後衛陣は、香多奈の疲労具合を確認しながらの進行である。疲れが酷い場合は、ルルンバちゃんを後衛に下げて簡易座席に座らせる予定。
幸いにも、冬休みパワーでテンションが上がってる末妹は、この位はへっちゃらと元気をアピール。どの道もう少しなので、さっさと中ボスを倒して出て行く方が早いかも。
10層の3つ目の建物エリアだが、残念ながら中ボスの部屋では無かった。大勢のトキ獣人とパペット兵に出迎えられ、何だか敵の密度にも慣れて来た。
相変わらず張り切るハスキー達は、疲労ってナニみたいないつものテンション。とは言え、中ボスが単体だったらハスキー達には休んで貰う予定。
そんな事を考える姫香も、特に披露は感じず逆に暴れ足りない感じ。今日は大きなスキルも使っておらず、中衛ポジとしてはやや不完全燃焼かも。
茶々萌コンビみたいに、戦いが始まれば意地でも参加ってのは姫香にはちょっと無理。そこまでの機動力も無いし、後詰めで戦況を見定めて参加する感じ。
この形は悪くないと思っているが、考える事も多いので姫香の負担も意外と大きい。ハスキー達みたいに、出て来る敵は全滅っ! みたいな単純思考の方が楽には違いない。
まぁ、ハスキー達も斥候役で神経を使っているので、一概に楽をしているとも言えない。何より働き者のハスキー達を、楽をしてるだなんてとっても言えない家族の面々である。
そうこうしている内に、3つ目の建物エリアも制覇完了。
「これで3つ目の建物エリアだっけ、そろそろ次辺りが中ボスの間じゃないかな? 2匹目の中ボスも、やっぱり鳥型のモンスターかな?
それとも植物系が出て来るのも、充分あり得るよねっ」
「5層の中ボスも苦労したし、10層も気を引き締めて望まなきゃな。巨大サイズだったら、みんなで力を合わせて一気に倒すぞ」
「それじゃあ、小型サイズで1匹しかいなかったら私が行くね、護人さん。ハスキー達は戦い過ぎだし、中ボス戦くらいは私に譲ってよね!」
そんな事を口にする姫香は、最後くらいは遠慮なく暴れるぞと勇ましい限り。そんな訳で、示されたルートに従って進んで行くといつもとは違う大きな扉が出現した。
この先だねと、それを見た香多奈も目的地に着いたぞと気合を入れ直している。ハスキー達は、みんなで殴れる敵だったらいいなぁって表情。
そうして姫香が扉に手を掛けると、それは大きな音を立てて開いて行った。その奥はどこかで見た植物エリアで、周囲にはこんもりと樹々が茂っている。
それを見た子供たちは、今度は植物系かなぁと勝手に想像を
堂々と進み入る姫香は、今回の中ボス戦の相棒をルルンバちゃんに決めた模様。このAIロボも、今日の探索では慣れない中衛でストレスを貯め込んでいるだろう。
最後くらいは思いっ切り前衛ではっちゃけなさいと言われて、ルルンバちゃんは敵を殴れば良いのかと素直に頷きを返す。どの道彼は、戦闘よりお掃除に楽しみを見い出すタイプ。
敵の討伐は、邪魔な物体の排除と同義である……そんな訳で、このエリアで片付ける相手を探すAIロボは、すぐに1本の樹木の異変に気付いた。
そこに真っ直ぐ進み寄ると、向こうも隠密がバレたと気付いたらしい。巨体を揺らして、その姿を現したのは巨大な広葉樹トレントだった。
「おおっ、やっぱり予想通りの植物系だったよ……しかもド定番の、動く樹木だっ。大きいけど動きは鈍いから、姫香お姉ちゃんなら楽勝だねっ!
ルルンバちゃんも、最後の大舞台を頑張りなさいっ!」
「おっと、トレント系は召喚技があるんじゃなかったかな。まぁ、本体は姫香とルルンバちゃんに任せて、お邪魔虫が出て来たらこっちで潰して行こうか。
ハスキー達も、最後まで暴れたそうだしな」
「あっ、さっそく来ましたねっ……うわぁっ、まずはお決まりの甲虫かなっ。大きな蜂も混じってる、意外と数が多いなぁ」
紗良の言う通り、大樹トレントの最初の召喚はお決まりの甲虫や大蜂の群れを1ダース以上。それを無視して、接近戦を挑む姫香とルルンバちゃんのコンビ。
出番を察したハスキー達は、出て来た蟲の群れを相手に派手に戦いを始める。姫香の方に行かないよう、コロ助が『咆哮』でタゲを取ってレイジーが炎のブレスを敢行する。
それで弱った所に、各々が武器を振るって潰して行く作業を戦場の片隅で行う。メインは飽くまで、地響きを立てて移動する大樹とそれを迎え撃つ姫香達である。
こちらはお邪魔しないよう、こっそり討伐に励むだけ。
ところが大樹トレントは、姫香に接近戦など許さない暴れっぷり。木の実の爆弾を落としたり、蔦の触手をぶん回したりとやりたい放題。
これにはルルンバちゃんも苦労して、魔銃の反撃くらいしか手段が無い。それもあまり効果が無いようで、有り余る体力と防御力を持つ中ボスである。
しかも再召喚で出て来たのは、モスラかと思う程の巨大な芋虫だった。ついでに隠密手段を持つナナフシも召喚されたようで、戦場は混乱に包まれて行く。
茶々丸がその隠密モンスターの的になったようで、奇襲を受けて吹き飛ばされてしまった。騎乗していた萌も同じく、さすが中ボスだけあって一筋縄ではいかない。
巨体芋虫も粘糸を吐き出して、ハスキー達もそれに捕えられまいと慌てて回避している。そこにこれは介入案件かなと、後衛からの護人と軟体幼児のサポートが飛んで来た。
『射撃』での攻撃と炎のブレスには、さすがの巨大芋虫も
この辺は、死闘を潜り抜けて来た来栖家チームの底力はさすがである。レイジーも《咆哮》を放って、味方の強化と最後の追い込みに向けて自身を《オーラ増強》で囲って行く。
大ナナフシは3匹もいたようで、どいつも体長は4メートル級でかなり不気味な見た目である。それらを
コロ助も『電磁ハンマー』を咥えて、動く小山って感じの巨大芋虫に殴り掛かる。焼かれて苦しむ芋虫は、コロ助の攻撃に体液を吐き出してとっても苦しそう。
ツグミも『八双自在鞭』でその止め差しのお手伝い、さすが姉弟だけあってコンビプレーも秀逸である。何度かの攻撃の末、小山のような召喚蟲はようやく活動を止めてくれた。
一方の、中ボスの大樹トレントと戦う姫香とルルンバちゃんは、敵の猛威とその巨体さに取っ掛かりを掴みあぐねていた。何度か戦った事はあるとは言え、この手のモンスターはやはり得意ではない。
何しろ急所と言える場所も分かり難く、地道にダメージを与えて行くしか倒す方法が無いのだ。例えば竜などの強敵でも、首を切ればさすがに倒れてくれる。
ところが大樹トレントは首も無いし、胴体を切断となると全く現実的ではない。ルルンバちゃんのレーザー砲も、奴の表皮に大穴は開けたが貫通には至らず。
姫香も邪魔な蔦を何本か切断したが、それで敵の猛攻が鈍ってくれる気配は無い。今は愛用の『天使の執行杖』を大斧モードに変形させて、大枝の1つでもぶった切ろうと画策している所。
それでも嫌味な召喚もようやく途切れて、本体の暴れ方も落ち着いて来た。怖いモノ知らずの相棒は、木の実爆弾も蔦絡みも無視して接近戦に持ち込みに掛かる。
「いいよ、ルルンバちゃんっ……そのまま敵を抑え込んじゃって。根性だよっ、相手が大きいからって
「頑張れルルンバちゃんっ、みんなも頑張って……次の召喚が来るまでに、あのでっかいボスを倒しちゃえっ!」
後衛の香多奈からも激励が飛んで来て、バフ効果も貰ってテンションアップのAIロボである。その勢いで大樹トレントに、真正面から組み合う形に。
相撲で言えばがっぷり四つの形、まぁ大樹トレントに手も腰も無いのだが。そうして馬力に任せて、ルルンバちゃんはすくい投げを敢行する。ちなみに、柔道にもすくい投げは存在するが、全然違う技なので悪しからず。
とにかく技を喰らったトレントは、物凄い地響きを轟かせて地面に倒れて行った。よくやったよと褒められるAIロボだが、実はかなりのパワーを使い果たしてしまっていた。
それを見越したように、止めは私に任せてと姫香が倒れた中ボスに飛び乗って行く。それから大斧モードの『天使の執行杖』を『身体強化』込みで思い切り振り下ろす。
その瞬間、中ボスの部屋にカコーンという木こり音が響き渡った。それからメキメキと幹の割れる音、何と巨木を真っ二つにする呆れたパワーの姫香であった。
やったぁと、後衛から喜びの声が上がって戦いの終焉を喜ぶ末妹。召喚された昆虫類も、ハスキー達が中心となっていつの間にか討伐に成功していた。
これにて10層の戦闘も全て終了、すかさず宝箱の位置をチェックする子供たちである。護人も退去用の魔方陣を確認して、しっかりとあるのを目にしてホッと安堵のため息。
その間に、子供たちはドロップ品を拾い集めて宝箱へと一直線に駆け寄って行く。ちなみに中ボスのドロップは、魔石(大)にオーブ珠が1個ずつだった。
そして待望の宝箱からは、鑑定の書(上級)が8枚に木の実や薬品類がそこそこの数出て来た。それから魔結晶(大)が12個に、虹色の果実が2個。
後は腐葉土やら植物の苗木、それからじょうろやスコップなどの園芸用品も少々。妖精ちゃんが反応したのは、木製の杖と茶色いフード、それから木製の
「これは意外と多いのかな、それともA級を10層間引きしたにしては少ない? まぁ、本番は
「良くはないけど、この櫛は綺麗だね……装備品かな、昔の人は髪に差して飾ったんだっけ? 紗良お姉ちゃんに似合うかもね、探索の時は髪を結ってるしさ」
そんな事を話し合う子供たちは、回収品を次々と鞄の中に詰め込んで幸せそう。それからやっと終わったねぇと、今日の成果を確認し合っている。
時刻は4時を過ぎており、今回のレイド拠点の津和野に戻る頃には完全に夜になっている。それでも鏡のシェルターがあれば、中で夕食だって食べられちゃうのだ。
画期的だねと興奮する末妹と、遠征も随分楽になったねぇと感慨に
それから一行は、退去用の魔方陣を潜ってダンジョンを脱出。それから他のチームの
紗良の言う通り、移動中は鏡のシェルターで思い切り羽を伸ばせる訳だ。それから食事の支度だって出来ちゃうし、何ならお酒を飲んだり仮眠だって出来る。
本当に、この進歩はある意味『ワープ装置』以上かも?
――そんな事を考えながら、帰り支度を進める来栖家チームだった。
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