第922話 人気の鳥に出会えてそれなりの感動を得る件



 人騒がせな仕掛けから始まった第8層の探索だが、その後は定番のウッドゴーレムがお出迎えしてくれた。今回も薪と鳥の巣箱だと、それを見た末妹の感想は割と辛辣しんらつ

 それはともかく、追加でクジャク獣人が出て来て戦いはそれなりに盛り上がった。それでも怪我もなく、ハスキー達は出現した敵を蹴散らして行く。


 その追加のクジャク獣人だが、ここに来て新しい特技を披露して来た。どうやら派手な羽根をパッと広げて、味方に強化のバフ効果を与えるようだ。

 一番後ろに控えていたクジャク獣人が、まさにそんなノリで味方を鼓舞していたっぽい。結果、確かに敵の強さは微妙に上がっていたような?


「まぁ、想定内の範囲だけど強化スキルを使う敵は厄介だよね。今度から、翼を広げるクジャクがいたら真っ先に倒しちゃおうか。

 何しろ、範囲の敵全員に強化が掛かっちゃってたから」

「視覚の効果の筈なのに、あの羽根を見ていない敵にも強化が掛かるのは謎だよねぇ。でもまぁ、普通に倒せてたから別に良いかな?

 ルルンバちゃん、派手なクジャクは真っ先に倒すの覚えたねっ!」


 素直なAIロボは、魔導ボディを器用に操ってコクリと頷く仕草。分かればよろしいと偉そうな香多奈は、姉の姫香ににらまれて直ちにそっぽを向いている。

 そんなやり取りを挟みつつ、さて次の建物エリアの扉は目の前だ。次は綺麗な場所かなと、そう口にする後衛陣だが期待は見事に裏切られる形に。


 いきなりの荒野の景色に、低く茂るブッシュは草むらに蛇でも隠れてそうでちょっと嫌だ。乾燥したエリアの雰囲気は、天井も広くていかにも大物が出そう。

 空を警戒するねとの末妹の言葉に、ハスキー達は慎重に前進を開始する。中衛陣もそれに続いて、敵よ出て来いと周囲を見回す素振り。


 そうして出て来た最初の敵は、やっぱり空からでワイバーンが数えれるだけで4匹もいる。大盤振る舞い過ぎでしょと、文句を言う香多奈だがそれも当然か。

 護人が迎撃態勢を取っていると、それに釣られてルルンバちゃんもレーザー砲の準備を始める。ミケも半分間引くかなと、首を伸ばして空の敵を見据える仕草。


 その時、一行の不意を突いて近くの茂みががさりと音を立てた。見ると、2メートル級の派手な色の疾走する鳥が、1ダースほど出現して距離を詰めて来ている。

 それを迎撃に動き出す、ハスキー達と茶々萌コンビはコッチにも出番が回って来て嬉しそう。姫香も後詰めに前進して、数の多い敵の抑え込みに掛かる。


 空と陸の挟み撃ちは、何としても避けなければ大変な事になってしまう。具体的には、護人やミケやルルンバちゃんの集中力を乱さないように動くべし。

 もっとも、ミケの動きは一瞬で敵の運命もたったのひと睨みで決まってしまった。可哀想な2匹のワイバーンは、1匹は落雷に焦がされもう1匹は翼を切られて墜落中。


 続いて護人とルルンバちゃんの遠隔攻撃も、無事に速攻で3匹目を撃墜に成功。慌てて逃げ出そうとする4匹目だが、ムームーちゃんが翼を凍らせる意地悪を敢行。

 スライムにいじめられるワイバーンって、何ともユーモラスだが軟体幼児はそもそもスライムでは無い。割と離れた場所に墜落する飛竜に、ドロップ品を取りに行かなくちゃと末妹は早くも回収品の心配をしている始末。


 そしてハスキー達と戦うヒクイドリの群れだが、実はコイツ等はある意味ワイバーンより厄介だった。強力な蹴爪とくちばしの攻撃は、接近戦では猛獣に引けを取らない猛威を振るって来る。

 結果、またもや茶々丸が浅くない傷を負って流血沙汰に。コロ助も手傷を負っていて、茶々丸に騎乗する萌も何度も鎧に蹴りを入れられている。


 その点、レイジーは『針衝撃』と炎のブレスを有効的に使って被弾は無し。ツグミも《闇操》と『土蜘蛛』を使って、レイジーをお手歩に奮闘中。

 姫香も『天使の執行杖』を振るって、自分の距離を決して譲らない構え。気付けは難敵の群れは、いつの間にか片手で数えられる程に。

 その残った連中も、ワイバーンを倒したルルンバちゃんの参入で呆気無く没。


「ふうっ、ようやく敵が全部いなくなってくれたよっ。空と陸の同時攻撃は、ちょっとヒヤッとしたよねぇ!」

「ちょっとどころじゃないわよっ、茶々丸とコロ助がまた怪我してるっ! 紗良姉さん、治療お願いっ……ルルンバちゃんは、今回は良い動きだったよっ」

「おっと、茶々丸の怪我は割と酷いな……萌は平気かい、かなり獰猛どうもうな敵だっただろう」


 護人のその問いに、仔竜は喉をクゥーと鳴らして肯定の合図。ガシガシ蹴られてたもんねぇと、姫香も激しかった戦いを振り返る素振り。

 紗良の治療は毎度ながらも、素晴らしい結果で2匹はしばらく後に全快してくれた。それでも流した血までは回復しないので、今後のパフォーマンスは確実に落ちる予感。


 どうしようと話し合う家族だが、2匹のヤル気は少しも損なわれていない。結局は前に出るだろうし、どうせ目標の10層はもうすぐそこだ。

 そんな訳で小休憩しながら、護人と姫香は広い範囲に落ちたドロップ品を拾いに向かう。ついて来ようとするハスキー達を強引に留めて、休憩させるのもひと仕事である。


 そしてワイバーンのドロップした、ワイバーン肉や皮や骨素材を各々で回収して行く。それから魔石(小)も、落ちているのを探すのは超大変だった。

 ところが幸運な事に、広範囲を探した事で荒野に設置されていた宝箱を偶然発見。喜ぶ姫香に、やったデシとムームーちゃんもご機嫌に護人の肩の上で撥ねている。


 その中からは、薬品類から始まって魔石(中)や魔結晶(小)が10個ずつ。それから魔玉(風)や木の実や、強化の巻物やオーブ珠も1個出て来た。

 後はこのテーマパークの、売店に置いてあるような品々が幾つか。Tシャツやマグカップ、花の種や鉢植え、果てはポストカードや園芸用品などなど。


 最後にインゴットと羽毛素材が出て来て、残った鳥の絵柄の鞄はひょっとして魔法の品かも。何にせよ、かなり大当たりな宝箱だった。

 この戦果は、香多奈に知らせたらきっと喜びそう。




 ところが末妹は、ルートの外れに宝箱の設置があったのを知ってショックを隠し切れない様子。ここまで一体、幾つの宝箱をスルーしたのと、その可能性に呆然としている。

 姫香など、そんなのなかった可能性もあるじゃんとまるで取り合わない。これは考え方の違いなので、姫香のようにサッパリ諦めるのが正しい気も。


 そんなやり取りの後、小休憩も終わって再び進み始める一行であった。ルートに沿って進んで行くと、やがて次の建物エリアへの扉を発見するハスキー達。

 これでようやく、広大な荒野エリアとオサラバである。変に大き過ぎる建物内は、やはり我知らず緊張してしまって心情的に良くない。


 そして扉を潜って、騒然とする家族の面々……この建物エリアにも、何故か動く歩道が設置されていたのだ。さすがにさっきの今で、これに乗ろうと思う者はチームの中にはいない。

 それは2号ちゃんも同じく、歩道を無視して後衛陣と一緒に動く歩道の右側を歩き始める。その建物エリアだが、今の所はモンスターの気配は無し。


 そして終点に辿り着くが、いつもは賑やかに襲って来るゴーレムや鳥系の獣人の姿が無い。それはそれで不思議だが、ハスキー達はいると信じて警戒を続けている。

 周囲は木々も岩肌も多く、障害物の割と多いエリア構成。


 どこかに隠れていても不思議では無いと、歩みも慎重に探索は続く。そして次の建物の扉が前方に見え始めた頃、驚いて散開するハスキー達。

 その動きに中衛の姫香も驚いて、何を見付けたのと周囲を見渡すが何もいない。いや、何か置き物のようにじっと動かないあの物体は、ひょっとして大型の鳥では?


「あっ、あれが噂のハシビロコウかなっ……本当に動かないんだ、凄い潜伏能力だねっ! ハスキー達も、やっとこの距離で存在に気付いたみたいだよっ」

「ああっ、あれが滅多に動かない鳥か……ってか、攻撃を仕掛けて来る気配も無いな。さて、あれもモンスターならどうしたモノか。

 存在に気付いたら、やっぱり倒しておくべきかな?」

「う~ん、可哀想だけど私達も間引きに来たんだもんねぇ。アレがモンスターなら、確かに倒すのが筋だねっ。

 せめて抵抗してくれるなら、こっちも後腐れが無いんだけど」


 そう言う姫香だが、ハスキー達も警戒しているのか先に手を出す気配は無し。この暗殺者のように気配を殺す敵の、或いは真意を測りかねているのかも。

 そのハシビロコウは単体で、木と岩の間にじっと静かに突っ立っていた。その静止状態は、本当に作り物で生物感が無くて戸惑ってしまう。


 姫香もどうしようと困っていると、何だか違和感を感じて脳裏に警報が鳴り始めた。そう言えば、喧嘩っ早いハスキー達は何故そのまま動かない?

 そう思い至った次の瞬間、姫香の身体は金縛り状態で動かなくなっていた。アッと思った時には既に遅い、どうやらハスキー達もこの仕掛けに囚われてしまったよう。


 隣の茶々萌コンビも同じ状況のようで、ピクリとも動かなくなっている。ただし、ルルンバちゃんは毎度のようにその攻撃をスルーしていて、現状をよく理解していないよう。

 声も出せないので、後衛への警戒も発せない不味い状況の中。敵のハシビロコウの周囲が、急に暗くなってフクロウ獣人がわんさか出現して来た。


 うわっと驚いた声をあげる後衛陣は、幸いにも金縛りには掛かっていない模様。動かない前衛陣を助けようと、護人やムームーちゃんが出現したフクロウ獣人に遠隔攻撃を仕掛ける。

 それから末妹が、ようやく前衛~中衛陣の異変を察知してくれた。これは不味いと、護人と紗良をせっついての状況の打開を口にしている。


 遅まきながら、ルルンバちゃんも周りの家族のピンチに気付いてくれた。慌てて前へと出て、動けないハスキー達の壁役をになってくれている。

 その頼もしさは、巨体も合わさって献身的な動く防壁だ。


「紗良お姉ちゃん、良く分かんないけどハスキー達がピンチだよっ! ついでに姫香お姉ちゃんも、動かないんじゃなくて動けないみたいっ。

 範囲攻撃……あっ、この前覚えた召喚魔法を試してみたら?」

「えっ、あれってあんまり練習でも試してないんだけど……でもそんな事は言ってらんないよねっ、それじゃあ行くよっ!」

「2号ちゃんも前に出てくれ、俺たちは近付いたら不味いかも知れない。あのハシビロコウの能力かな、前衛陣はどうやら金縛り状態になってるみたいだ。

 くそっ、奴め……遠隔攻撃を防ぐ、防御フィールドまで持ってるるみたいだ!」


 護人もようやく敵の仕掛けに気付いて、キーとなるハシビロコウに攻撃を仕掛けるも。その辺は心得ているのか、バッチリ遠隔攻撃を遮断する能力持ちの敵である。

 そうなると接近戦しか無いが、近付くとハスキー達みたいに金縛りに陥る可能性が。余り迷ってもいられないが、ルルンバちゃんはフクロウ獣人の猛攻を防ぐので手一杯。


 そこに紗良の新スキル《烏天狗召喚》が、華々しくダンジョンデビューを果たした。呼び出されたカラス天狗のカー吉は、子供位の背丈の山伏やまぶし装束を着た天狗の子分である。

 まぁ、今は紗良の舎弟しゃていだが、果たしてこの状況を打開する能力があるや否や?





 ――前衛~中衛陣が硬直の大ピンチの中、戦いは新たな局面へ。







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