第920話 “松江フォーゲルパークダンジョン”も後半戦を迎える件



 5層の宝箱だが、それなりの良品は確保出来て何より。箱からして極彩色で、警戒していた一行だったが幸い妙な仕掛けは無かった模様。

 その中身だが、まずは鑑定の書や木の実や魔玉(風)や薬品類がそれなりの数入っていた。薬品系は、エーテルや上級ポーションが混じっていてまずは当たりかも。


 ついでに魔結晶(中)が8個に、強化の巻物も2枚ほど。後は羽毛に覆われたケープコートとか、クッション類が少々。ついでにインゴット系が、金やミスリルなどが幾つか出て来た。

 まずまずの収入に、末妹も上機嫌で昼食の準備を手伝っている。ちなみに中ボスは、魔石(大)とオーブ珠を1個ずつ落としてくれた。そして姫香の倒した風の精霊も、魔石(中)をドロップ。


 今は皆の治療も終わって、宝箱の中身も回収し終わって一息ついた所。そのままお昼に突入する予定で、子供たちは魔法の鞄から机や椅子の準備を進めている。

 紗良も用意して来たランチセットを取り出して、ご機嫌にそれを机の上へと並べ始めている。その匂いに釣られて、ハスキー達もテンションアップ中。


 先ほどのフェザーシュートの怪我の後遺症も、ペット達は全く無さそうで何より。変身を解いた萌も、今は茶々丸と仲良く地面に寝転がって寛いでいる。

 その隣には、ルルンバちゃんも動作を止めて大人しく待機中。何しろ、皆の食事中にお掃除すると、ほこりを立てないでと叱られるのは経験から分かっている。


 そんな中ボスの部屋での昼食も、とどこおりなく終わって食後の休息時間である。末妹は、ハスキー達にお裾分けをあげたり他のチームと通信をしたりと忙しそう。

 巻貝の通信機によると、他の2チームも探索は順調みたいでまずは良かった。どこもA級ダンジョンなので、それなりに苦労すると思ったがさすが特選チームである。


 こちらも順調だと告げる香多奈だが、回収品についてはまだ納得してないよと辛辣な批評を口にする。その隣では、護人が島根の協会の職員に定期連絡を入れている。

 こちらも当然、巻貝の通信機を使っていて本当に便利な魔法アイテムである。出来れば各チーム、1つずつは持っていても損は無いアイテムかも。


「ふうっ、いっぱいお話ししちゃった……ザジ達は、洞窟で銀製品をいっぱい回収してるんだって! それからミスリル装備も、結構出て来てるって言ってたよっ?

 あっちの方が、回収品に関しては儲かってるかもっ?」

「まぁ、“石見いわみダンジョン”って言う程だからねぇ……ミスリルも、正確にはミスリル銀って名前じゃなかったっけ?

 どっちにしろ、ウチらより儲かってるのは確実だねぇ」

「まぁ、変に競争意識を持っても仕方がないだろ、こっちは用心しながら進むだけさ。それより島根と愛媛のチームはどうだって?」


 護人の質問に、香多奈はそっちも普通に順調らしいと報告してくれた。さすがA級2チームだけあって、難関の“出雲大社ダンジョン”も問題は無さそう。

 元々、地元の『ライオン丸』に関しては、何度かここを探索した経験もあるとの話。前情報もあるのなら、そこまで心配する必要も無さそうである。


 肝心の来栖家チームの方も、5層の中ボスで少々手古摺てこずってしまって、末妹の言う程に順調では決してない。それでも、大型モンスター相手に被害ゼロと言うのも相当な難易度である。

 今後も大型の敵が出たら、とにかく慎重に討伐に当たるよと護人の釘刺しに。任しておいてと、子供たちの勇ましい返答。何よりハスキー軍団が、2度とあんな不手際は起こさないと燃えている。

 そんな話し合いの内に、昼食休憩は終了の運びに。




 そして午後から、ダンジョン6層目からの探索の再開である。元気に先頭を張るハスキー達は、まだまだ元気でヤル気がみなぎっている感じ。

 それは良いのだが、いきなり出迎えたのは何と『動く歩道』と言うサプライズ。妙なギミックが仕掛けられてないかと、ハスキー達はそれに乗るのを拒否している。


 その通路を使わずとも、奥には一応進めるようにはなっている。とは言え、仕切りで囲われた動く歩道は、パッと見は安全そうではある。

 ちなみに6層エリアの景色だが、下の層と大きな変更点は無いみたい。建物エリアを進んで行けば、別の建物の入り口と繋がっている模様。


「わっ、6層以降もこんな感じで建物エリアを1つずつクリアして行けばいいのかな? 変更点と言えば、この歩道とか妙な仕掛けくらい?」

「う~ん、どうだろうな……この歩道は、確か元のテーマパークにも設置されていた筈だったような?

 つまりは、大きな変更点は無いって事になるのかな」

「そうなんだ、それよりこの歩道は使っても良い奴なのかな? 変な罠とか、くっ付いてたら嫌だな……ハスキー達は、ただ単に気持ち悪いから避けたっぽいけど」


 確かに姫香の言う通りで、ツグミも特に怪しい仕掛けを発見して避けたのではないみたい。ただ単に、動く床が気持ち悪かっただけの模様。

 ただ、それを見ていた子供たちも率先してそれに乗っかろうとは思わなかったようで。結局は、それに乗ったのは最後衛の2号ちゃんだけと言う。


 ルルンバちゃん本体は、皆の進む安全そうなルートを選択していた。ただし、動く歩道の安全性も確かめてみたいとの末妹の我がままに、人身御供を差し出した感じ。

 一見薄情だが、まぁ2号ちゃんもルルンバちゃんの一部なのでセーフ? そんな孤独な移動を果たした防御特化ゴーレムだが、無事に50メートル先の終着点へと到着した。

 それを静かに見守って、言葉もない子供たちである。


「あっ……本当に何にもなかったんだ。凄い深読みして損したね、紗良お姉ちゃん」

「う~ん、でもまぁ……そう見せかけておいて、次は嫌な仕掛けがありましたってパターンかも知れないし?」

「うん、それは確かに嫌だな」


 紗良の深読みに、護人も苦い顔つきでその深読みを指示する構え。結局は無事に動く歩道を渡り切った2号ちゃんは、そんな皆の視線を浴びてちょっと居心地が悪そう。

 何も悪い事をしていないのに、可愛そうな気もするがこれも新入りの立場と言うしか。まぁ、動かしているのは《並列思考》を駆使しているルルンバちゃんなのだが。


 とにかく、その動く歩道の終着点でようやく6層の最初の敵と遭遇した。そいつ等は最初ダチョウかと思ったのだが、どうやらダチョウサイズのエミューらしい。

 どちらも似たようなモノだが、2本足で失踪して来る姿はかなり迫力がある。それに負けじと、つっこむ姿勢をみせる茶々萌コンビである。


 ハスキー達も普通に待ち構えて、まずはレイジーが炎のブレスで敵を慌てさせる。同時にダメージも入って、隊列が乱れた所に突進して行く前衛陣&茶々萌コンビ。

 姫香も後詰めに待ち構えているが、どうやら今回も戦闘の役目は回って来なさそう。隣のルルンバちゃんは、辛うじて魔銃での援護をこなしている。


 その戦いは数分で終了して、このエリアの敵は全て駆逐し終わった模様だ。コイツ等も、蹴爪やくちばしでの突き攻撃は当たればかなり危険な感じではあった。

 それを無傷でクリアして、一行は勇んで次の建物の扉を潜る。今回は一転して、緑の多い植物園エリアで気温もちょっと蒸し暑い。


 こんな感じでコロコロ変わるエリアは、現実世界だったら管理もさぞ大変だろう。ところがダンジョン攻略中だと、そんなモノだと不自然にも感じないと言う。

 このエリアは植物モンスターかなと、先読みが大好きな香多奈の呟きに。やっぱり出て来た、前の層とそんなに変わらないパペット兵&ウッドゴーレムが数体ずつ。


「あらら、毎度お馴染みのモンスターだ……どうやらこのダンジョン、本当に中ボスの間を過ぎてもパターンは変わらないみたいだね。

 それはそれで、戦うのは楽で良いけどさ」

「油断するなよ、姫香……ここも毎度のパターンと思わせて、何かを急に変える演出があるかも知れないぞ」

「あっ、一番後ろのゴーレムが変かもっ? いつもの鳥の巣箱じゃなくて、大きな蜂の巣がくっ付いてるよっ!

 姫香お姉ちゃん、気を付けてっ!」


 末妹の観察力は秀逸で、確かに一番後ろに控えるウッドゴーレムは、脇の下にゴツい蜂の巣を抱えていた。その巣が一瞬光ったと思ったら、ラグビーボールサイズのスズメバチが3匹ほど召喚された。

 うわっと驚く姫香だが、次の瞬間には護人が『射撃』スキルでその蜂の巣を射抜いて破壊していた。これで追加の召喚の心配は無くなり、後は目の前の敵を順次倒すのみ。


 それも数分で片付いて、ついでに後衛陣も待ち伏せ型の球根モンスターや蔦型モンスターも倒してしまった。慣れとは恐ろしいモノで、これでは待ち伏せの意味もなし。

 全て倒したと姫香に合図を送る護人に、頷いた少女はハスキー達に出発オッケーと声を掛ける。かくして、6層エリアも順調に探索は進んで行った。



 と思われた矢先、次の扉を潜った一行は途端に戸惑う破目に。何しろ周囲は真っ暗で、建物の中は窓も証明も無い暗闇仕様となっていたのだ。

 これは意地悪だねと憤慨ふんがいする末妹だが、姫香は仕掛けの一種でしょと深読みを発動する。それを受けて、それじゃあ夜目の利く敵が出るのかなぁとの長女の呟き。


「ああっ、そう言う事かぁ……じゃあ何だろう、植物には目は無いから関係無い? 鳥だったら、鳥目って言うくらいだからそれこそ関係ないよねっ?」

「あら、コウモリとかフクロウとか夜行性の鳥もいるよ、香多奈ちゃん。まぁ、コウモリは鳥類じゃなくて哺乳類だけどね。

 案外、そっち系のモンスターが潜んでるのかもっ?」


 こちらも先読みが好きな紗良が、後衛でそんな話を末妹へと振っている。それを耳にして、なるほどと納得する姫香は魔法の灯りを用意してハスキー達の後へと続く。

 ルルンバちゃんも電灯を用意して、何が出て来るかなと周囲を照らしてくれている。その灯りの輪の中に、一瞬何かが飛翔する姿が入り込んだ。


 それは巨大なフクロウで、これでこのエリアの敵は判明した。何ならアレは階層主かもで、無音で暗闇から襲撃して来るハンターはかなりの脅威だ。

 などと家族で情報共有していたら、地上にも何かいるよと末妹の警告が。ハスキー達も気付いていたそいつ等は、何とフクロウ顔の獣人達だった。


 羽毛に覆われた猛禽類の顔は、独特で確かにフクロウである。装備も立派なその集団は、ホーホー言いながらハスキー達と壮絶なド突き合いを始めてしまった。

 茶々萌コンビもそれに参加して、前線は途端に賑やかに。中衛の姫香とルルンバちゃんは、空飛ぶ大フクロウの襲撃に備えて周囲を窺う素振り。


 後衛陣も同じく、下手に襲撃の的にされては大変なので備えはバッチリ。2号ちゃんも護人の対面に立って、か弱い紗良と香多奈を囲い込んで盾役をこなそうとしている。

 そんな来栖家への階層主の奇襲だったが、とっても残念な結果に。サイレント襲撃に腹を立てたミケが、闇夜を切り裂く雷を落としたのだ。

 気付けば前衛陣も、フクロウ獣人の群れを全部始末し終えていた。





 ――かくして、階層主の鋭い爪は誰にも届かず終いの結末に。







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