第919話 “松江フォーゲルパークダンジョン”を快進撃で潜って行く件



 小休憩をとった来栖家チームは、見つけたゲートを潜ってようやく4層へ。時刻はもうすぐお昼だが、いつも通りなら昼食は中ボスを撃破後に取る感じだろうか。

 そんな事を話し合いながら、すっかり慣れた建物エリアを進んで行く。先頭はもちろんハスキー軍団で、それに続く中衛陣は姫香と茶々萌コンビに、今回からルルンバちゃんが加わっている。


 巨体の魔導ゴーレムは、たまに後衛の香多奈から撮影の邪魔だよと理不尽に怒られてちょっと可哀想。ルルンバちゃんも撮影器具をくっ付けているので、前衛の戦闘シーンはしっかり撮れている筈なのだが。

 末妹の場所からは、モロにAIロボが邪魔なのは確かな事実。呆れる姫香だが、今回の位置取りに関しては試験的な運用である。


 取り敢えず試してみて、良いならそのままルルンバちゃんは中衛へ。駄目なら慣れてる後衛に戻って貰って、護人や香多奈が指示を出せば良い。

 それに慣れてしまったせいで、自発的な戦闘参加をしなくなったのならちょっと悲しい。何にせよ、この魔導ゴーレムが物凄く強力なユニットなのは間違いない。


 遠隔からは、ほぼ的を外さない魔銃に加えて必殺のレーザービーム砲を有している。そして近接では、無敵の魔導ボディに武器も振るえる器用さを持っている。

 なのに家族からは、ミケやレイジーとは明らかに違う便利で素直な子扱い。縁の下の力持ち的な存在は、得てしてそんな感じで周囲の評価は薄かったりする。


「ルルンバちゃん、香多奈の文句は放っておいていいからね。意識は後ろじゃなくて、ちゃんと前に向けて探索するんだよっ!

 ハスキー達のフォローに敵や罠の察知、やる事はいっぱいあるよ」

「そうだな、ルルンバちゃんも急な配置転換で混乱してるだろうに。我がままを言って混乱させちゃダメだぞ、香多奈」

「ええっ、だって動画アップ作業のためにも、撮影は大事だよっ?」


 そうブーれる末妹だが、家族の理解は得られない模様で残念な限り。みんな素直で言い返せない性格のAIロボに、情を傾けるのはある意味当然。

 そんなやり取りを挟みながら、来栖家チームの探索は順調に進んで行く。そんな訳で、この4層も水鳥エリアを苦も無く抜けて、ずんずんと奥へと向かう一行。


 水鳥エリアは、水属性の魔法を使う水鳥型のモンスターがまず半ダース。それから、風のカッターを飛ばして来る半ダースの鳥の混成軍で、なかなか派手な戦いとなった。

 ハスキー達も容赦なくスキルを飛ばして、中衛のルルンバちゃんも名狩人振りを発揮する。結果、1ダースいた水鳥と派手な色の中型の鳥たちは全滅の憂き目に。


 その次の建物エリアには、もはや定番のペンギン獣人がやっぱり1ダース。更に次のエリアでは、さっきの層で出て来たトキ獣人がわんさか出現した。

 敵のフェザーシュートに苦しめられながら、幸いにも負傷者は出さずにそいつ等も撃破して行く。かくして、来栖家チームの快進撃はこの4層も続く流れに。


「毎回出て来る階層主にはビックリだけど、ようやく良い調子になって来たねっ。みんなも慣れて来たし、今回もワイバーンとか大物が来てもドンと来いだよっ!

 さあっ、そろそろ出て来るんじゃないかなっ?」

「建物エリアの渡り具合いからして、そろそろかなっ? あっ、あそこに見えるのがゲートなら、その近くに階層主がいるねっ!」

「どいつが階層主だろうな、毎度のペンギン獣人がいるのは見えるけど。あの中に、他より強い奴が混ざってるのかな?」


 混乱する護人だが、後衛のややか細いペンギン獣人の頭に羽根の艶やかな九官鳥が止まっていた。それを見て、何となく嫌な予感に見舞われる護人。

 ハスキー達は構わず、ペンギン獣人の群れに突っ込んで行く。そこに後衛から、頑張ってといつものように末妹の『応援』が飛んで行く。


 その瞬間、敵の九官鳥も香多奈と全く同じ声音で「頑張って!」との味方への鼓舞。それを受けて、何と次々と強化されて行くペンギン獣人の群れであった。

 酷い奴になると身体が倍加して、まるでコロ助を見ているよう。うわっと驚く子供たちだが、これはひょっとしてあの九官鳥が階層主?


 気を付けてと家族内に警戒の呼び声が掛かるが、それすら声真似する憎たらしい九官鳥である。そして何と、レイジーが敵の一団に放った炎のブレスも真似する階層主。

 これには子供達もビックリ、声真似だけじゃないのと敵の性能に呆れた表情。とは言え、最後尾からの炎のブレスは、敵が混乱しただけと言う。


 芸は達者だが、どうやら使い道はイマイチみたいな階層主である。真似されたレイジーは何だコイツって表情で、咥えたほむらの魔剣で接近戦を挑んで行く。

 それに対する防御の術は、声真似の得意な九官鳥は持っていなかった様子。護衛のペンギン獣人と共に、あっさりと真っ二つにされて燃えながら倒される敵であった。


 そしてドロップしたのは、魔石(中)とスキル書が1つずつ。本日2枚目で、相変わらずドロップ運は良い来栖家チームである。

 ついでに近くの岩の後ろに、割と大きな鳥の巣をツグミが発見。その中には、鳥の羽根やら木の実や薬品類、それから魔結晶(小)が5個に枕が幾つか。


 恐らく羽毛入りの良い奴なのだろう、末妹がそれを持って茶々丸と萌をパフパフして遊んでいる。それを見て、ちょっかい掛けないのとたしなめる姫香である。

 まぁ、羽毛まくらで殴られても痛くは無いし、茶々丸は構われて喜んでるまである。ただし、仔ヤギの角で枕が破れたら元も子もないのは事実。



 そんな感じで休憩も同時になして、これで4層の探索は終わって次は5層である。いよいよ中ボスの間のエリアだが、階層主をこんなに相手していると今更な感も。

 そんな事を話しながら、屋根付きの建物エリアを順調に進んで行く一行。5層も賑やかな植物モンスターと、鮮やかな鳥モンスターが迎えてくれる。


 それらを蹴散らしながら、進む事20分程度……ようやく、明らかに他と違うなって建物が目の前にドンと拡がる事に。何しろ、高さも幅も他より倍も大きい。

 それを見た来栖家は、これは大物が出るねと敵の予測を始める始末。


「またワイバーンかな、それだとちょっとワンパターンかなぁ……それじゃあ竜とか、それ位大きい奴が出て来るとか?

 でもまだ5層だし、それはまず無いよねぇ」

「アンタはいい加減、その無駄口をふさぐ事を覚えなさいっ! 変にフラグを立てて、自分でへし折るんじゃないわよっ!」

「まぁ、5層で竜は無いだろうけど……今までの階層主より、手強い奴が出て来る可能性は高いかも知れないな。この建物エリアの大きさから察するに、俺も巨体の中ボスが配置されてる気がするな。

 ルルンバちゃん、遠慮せずに先制でレーザー砲を撃ち込んで構わないからね」


 そんな護人の言葉に、シュタッと手をあげて返事するAIロボであった。そして広大な建物エリアを半分ほど歩くと、急に空が陰って驚く一同。

 何事かと空を見るが、そこには巨鳥が悠然と飛んでるのが窺えた。そして来栖家が向かう先に、その巨体はゆっくりと舞い降りて行く。


 驚き声も出ない一同だが、ずっと飛ばれていなくてまずは良かった。そんな事態になっていたら、マジでルルンバちゃん位しか手が出せなくなっていた。

 その巨鳥の中ボスだが、着陸してもそこらの木立より体長があってすごい迫力。猛禽類の顔立ちに、太いり脚は近接でも強そうだ。


 ゲートの位置も確認出来たし、その隣には立派な宝箱が置かれてあった。後は中ボスを倒せば、晴れてその中身も拝めるし昼食休憩も取れる。

 張り切って行くよと号令を出す姫香と、みんな頑張れと声援を送る香多奈。護人とルルンバちゃんも、飛ばれては面倒だとまずは翼へと遠隔攻撃を仕掛ける。


 護人の弓矢攻撃も、今では各種矢弾を使い分けてなかなかのレベル。それに加えて必殺の、ルルンバちゃんのレーザー砲が中ボスの右翼にヒット。

 物凄い甲高い悲鳴を発して、巨鳥は怒りの反撃をして来た。それはフェザーシュート込みの暴風で、後衛すら巻き込んで意外と大惨事の事態に。


 幸いにも、か弱い紗良と香多奈は2号ちゃんが護衛に成功。4枚の盾状に背負った翼を広げて、敵の範囲攻撃をシャットダウンしてくれた。

 豪風の中、自分の重さで揺るぎもしない2号ちゃんはとっても頼りになる。護衛の鏡とも言うべき行動だが、操っているのはルルンバちゃんである。


 一方の前衛陣は、体重の軽いレイジーやツグミは吹き飛ばされてしまっていた。茶々萌コンビも同じく、巨大化したコロ助は何とか踏ん張っている。

 その代わり、フェザーシュートのダメージは甘んじて受けて耐え忍んでいる模様。中衛の姫香は、ルルンバちゃんに護衛されてダメージは無し。


「うおっ、これはひどいな……みんな、無事かっ!? さすが中ボスだな、とにかく相手のやりたい放題を何とかはばむぞっ!

 俺が前に出るから、後衛陣は守りを固めておいてくれっ!」

「うわっ、あの大きい鳥さんっ、風の精霊を追加で召喚したよっ!? クセの強い敵だねっ、みんな頑張って!」

「恐らくロック鳥ですね、他のダンジョンでもボス級の難敵です。飛べるとは知らなかったなぁ、でも翼にかなりダメージが入ってるのでもう飛べない筈っ!

 みんな、このまま倒し切っちゃって下さいっ!」


 長女の紗良の言葉に、そのつもりだよと勇ましく返答する姫香である。皆が一律にダメージを喰らったものの、幸い風に飛ばされて軽微で済んだ模様で良かった。

 護人がロック鳥に向かうのを見て、姫香は新たに召喚されたハリケーン風の精霊を抑えに向かう。転がされた場所から復活したツグミが、そのフォローへと駆けて行く。


 前線では、コロ助が孤軍奮闘でタゲを取って頑張っていた。珍しく《咬竜》の連発で、これによってロック鳥の首筋は血にまみれて結構なダメージ振り。

 代わりにコロ助も、飛んで来た蹴爪をけ損なってフサフサの毛が真っ赤に染まっている。壮絶な戦いは、しかし護人の乱入で一気に来栖家ペースに。


 まずはムームーちゃんの《氷砕》で、凶悪な武器の1つである脚を固められて移動が不自由に。それでも繰り出される杭のようなくちばしの突きは、食らうと一撃で戦闘不能に追い込まれるレベル。

 それを『硬化』した薔薇のマントでいなして、接近戦へと持ち込む護人。そこからの『ヴィブラニウムの神剣』の一振りで、周りの樹々より巨体な敵は首と胴体が泣き別れに。


 やったと後衛からはしゃいだ声が聞こえる中、魔石(大)に変わって行く中ボスであった。周囲を確認すると、丁度姫香とツグミのペアも風の精霊を倒し終えた所。

 意外と遠くへ飛ばされたレイジーと茶々萌コンビは、戦いに参加出来ずに悔しそう。それでも受けたダメージはコロ助程でもなく、取り敢えずは良かった。


 治療役の紗良が、慌てながら回復しますとコロ助の元へと駆け寄って行った。そうだったと慌てる香多奈も、ポーションを取り出して治療のサポートに向かう。

 奮闘したコロ助は、自分の傷より活躍出来た事に上機嫌で、幸い怪我の具合は見た目ほどでもない感じ。それよりほぼ全員が怪我をしていて、治療には少し時間が掛かりそう。

 それをかんがみて、昼食込みの長時間の休憩をとる事に。





 ――それにしても、5層でこの難敵はさすがA級ランク。







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