第895話 6層以降も屋根渡りルートを確定させて行く件



「わっ、空を燃えてる車輪が飛んで来てるよっ、何だろうあれっ? ルルンバちゃん、また絡まれないように注意してねっ!

 アレも妖怪なのかな、何かヘンなのが車輪に乗っかってる!」

「ああっ、アレは確か火車かしゃって名前の妖怪かなぁ……化け猫の一種って言われてるけど、思いっ切り火属性の敵だよね。

 ハスキー達も、炎攻撃に注意してねっ!」

「周りの建物に火が移ったら、ひょっとして火事になるのかな? 取扱注意の敵だな、ムームーちゃんは水系の魔法攻撃を頼むよ」


 分かったデシと、護人の肩の上の軟体生物は空飛ぶ車輪に水の槍をぶつけて行く。ハスキー達も、それぞれスキルを飛ばして炎属性の団体さんに嫌がらせ。

 その攻撃は普通に通って、燃える飛行車輪は次々と墜落して行った。幸いその途中で魔石化して行くので、護人の心配は杞憂きゆうに終わりそう。


 近く事さえ許されなかった火車かしゃは、そんな感じで数分後には全滅の憂き目に。やったねと喜ぶ末妹は、ルルンバちゃんに魔石の回収を命じて楽しそう。

 そんな飛行ドローンのAIロボが、ある家屋の2階の窓辺で何かを発見した。護人が飛行能力で見に行ったら、2階の部屋の中に宝箱が置かれてあった。


 日本の和室の畳の上に、宝箱がドンと置かれてあるのは割とシュール。そんな思いは引っ込めて、さっさと中身を回収してチームの元へと戻って行く護人であった。

 ちなみに中身は、鑑定の書や木の実や魔玉(光)などの普通の回収品がぼちぼち。それから古いレコードやカプセルの玩具、安い駄菓子の詰め合わせが入っていた。


 これは子供たちが喜ぶかなと、回収を終えた護人はルルンバちゃんと共に飛んでチームに合流。何か良いのあったと訊ねる末妹に、お菓子やレコードを回収したよと返答する。

 昭和だねぇとの姫香の相槌あいづちだが、もちろん彼女は昭和を知らない。平和だった頃にテレビで見た、その程度の知識だが大きく間違ってなさそう。


 今回の回収品は、そんな感じなのかなと香多奈もちょっと楽しそう。そんな一行だが、瓦屋根を伝っての移動は取り敢えず順調に進んでいた。

 おっかなびっくりのメンバーもいるが、落下してしまう者は今の所は存在せず。そもそも2階の高さからの落下程度で、レベルを有する探索者は大怪我などしない。


 それでもやっぱり怖いのは、人の本能なのだろうか。そもそもレベルをまとっていると言っても、打ち所が悪ければ怪我や捻挫だってしてしまう。

 ステータスの上昇も万能ではないが、やはり一定の効果は当然ある。末妹の香多奈など、学校生活でそれをセーブするのが大変みたいだ。



 それはともかく、その後も空の襲撃は2度ほど追加であった。懐かしの一反木綿やら、浮遊して近付くケサランパサランが集団で来た時には一同驚きの表情に。

 そいつ等は案外と凶悪で、近付くとどうやら動物の鼻や口に入り込もうとするらしい。相手の窒息死を狙って来る妖怪だが、見ると幸せになると言う言い伝えもあるとの事。


 実際は、動物だとか植物だとか謎の生物だと言われているが、一応は妖怪として認定されてもいる模様。そしてそいつ等は、特段に強く感じなかったけど、何と全部の個体が魔石(中)を落としてくれると言う奇跡が。

 全部で5匹いたので、これで魔石(中)を5個ゲットである。


「やった、レイジーがあっという間に燃やしただけで、5万円が5個も降って来たよっ! さすが雪ん子だねっ、幸せを呼ぶ妖怪だよっ!」

「えっ、あれってケサランパサランじゃなかったっけ? ちなみにコロ助は、口を塞がれそうになってたから、意外と凶悪な奴だったよね。

 それとも、口から身体の中に入って大繁殖しようとしてたのかな?」

「怖い想像だね、姫香ちゃん……香多奈ちゃんが言ってたのは雪虫だね、冬に出て来るちゃんとした虫で、妖怪とは関係ない生き物だよっ。

 でもまぁ、あの強さで魔石(中)は確かにびっくりだねぇ」


 そう評する紗良は、ツグミが見事に回収した魔石に末妹と同じくビックリ顔。そんな斜めになっている屋根上の移動も、ようやく終点が見えて来た。

 3階建ての白いビルの近くには、立派な木が植えられていて伝って渡るには丁度良い枝ぶりである。至れり尽くせりな仕掛けだが、果たして上手く渡れるかは不明。


 まずはレイジーとツグミが、いとも簡単に屋根から木へと飛び移って白いビルの屋上へと消えて行った。下からは完全に死角で、そこが安全なのかは窺えない状況だ。

 それを確認するために、ルルンバちゃんも追従して何やら派手に魔銃を撃ち始めた。どうやら最後の待ち伏せが合ったようで、茶々萌コンビも参加しようと躍起になっている。


 努力した結果、仔ヤギも素晴らしい跳躍力でビルの屋上に到達する事に成功。あ~あ行っちゃったと呟く末妹だが、向こうはレイジーがいるので平気だろう。

 むしろ、自分も行こうとするヒバリを抑え込む作業で手いっぱい。


 護人も薔薇のマントの飛行能力で、ちょっと見て来ると言って姫香に後を任せて行ってしまった。そして数分も経たずに、ゲートが見付かったよと戻って来てくれた。

 これで一安心、ちなみに敵は安定の大蜘蛛の群れが1ダースほど待ち構えていたようだ。後はみんなで木登りタイムだが、無理なら護人が運送する予定。


 それに果敢に挑む末妹と、いさぎよく諦めて運んで貰うと申し出る紗良であった。2号ちゃんは、戻って来たツグミに再び《アビスドーム》の重力魔法を掛けて貰って進む模様。

 何だかんだでバタバタして、最終的に来栖家チーム全員が白いビルの屋上に到達したのは数分後の事。そこには四角い扉付きの階段入り口と、それから広い屋上スペースが。


「あっ、屋上の端っこに小っちゃいおやしろが置かれてるねっ。そこの扉がゲートになってるんだ、これまた小っちゃいけど何とか入れそうだねっ。

 良かった、これで次の層に行けるよっ!」

「これでこのエリアの攻略のパターンも、何となく理解できたかなっ? 5層までの応用も効いたから、そんなに時間を掛けずに来れたよねっ。

 後は、このダンジョンが何層構造なのかって疑問だけかな?」

「そうだな、延々と続くようなら10層かそこらで退出しなきゃだな。それを含めて、この後の探索も無理せずに行こうか。

 敵が多いエリアみたいだから、前衛と後衛の距離は離れ過ぎないようにな」


 了解っと姫香の元気な返事と、ハスキー達の尻尾振りで7層の探索は再開の運びに。ここも排出されたのは、昭和チックな町中の一角だった。

 近くにはゴミ捨て場みたいな広場と、それから町内掲示板に懐かしの電話ボックスが。川も近くに流れていて、土砂の堆積した場所はススキが背丈ほどに伸びている。


 昭和だねぇと呟く姫香に、香多奈も真似をして同じ言葉を追従する。確かに周囲の家は、黒い木板の古風な建物が多い気が。道端に停めてあった車も、何と懐かしの三輪自動車である。

 これは凄いと興奮する一行だが、この層にもしっかりと敵はいた。しかも意外にも、すぐ近くの川からカッパとカエル男の群れが襲い掛かって来た。


 郷愁にかられて油断していた人間と違って、ペット達はそれに迅速に対応して行く。何しろカッパもカエル男も、すっかり慣れた敵で倒し方も周知済み。

 水系のコイツ等は、攻撃力は意外と高いが防御に関してはそうでもない。先制でスキルを撃ち込んでやれば、さほど苦労せずに倒す事も可能である。


 茶々萌コンビも、今度こそ活躍するぜと果敢に突っ込んで行く素振り。水弾が飛び交う中、何とも無謀だが接近には成功して派手にカエル男が飛ばされて行った。

 萌も見事な槍さばきで、カッパの脇腹に黒雷の長槍を突き立てる。懐に入られた水の妖怪たちは、慌てて集団での対応が出来ない有り様。


 そこを遅れて接近したハスキー達が、各々の武器で始末して行った。姫香も一応参戦するが、カエル男を1匹倒すので精一杯。

 残りは全て、ペット達が片付けてしまった。



「ふうっ、まさか後ろの川方面から襲われるとは……油断大敵だね、でもまぁ定番の見慣れた敵で良かったよ。

 みんなご苦労様っ、怪我はないっ?」

「本当に油断したな、まさかこんな大物の回収品が配置されてるとは思わなかったもんな。しかし、この車は果たして持って帰ってもいいのかな?」

「護人さん、こんな骨董品が好きなんだ……でもまぁ、車としては新品だしガソリン入れれば動くのかな? ツグミ、この車だけど収納出来る?

 普通の魔法の鞄じゃ、この大きさは無理だよね、紗良姉さん?」

「無理だねっ、ツグミちゃんの《空間倉庫》スキルでも難しいんじゃないかな? それが出来たら、ルルンバちゃんの魔導ボディとか簡単に運べるのにねぇ?

 後は、我が家のキャンピングカーの搬送も便利そう」


 それは確かに便利だねと、子供たちも納得顔……そして肝心のツグミの能力だが、やはり軽自動車サイズの回収は無理だったみたい。

 申し訳なさそうなツグミを慰める姫香だが、やっぱりちょっと残念そう。護人の希望を叶えられなかったのが、個人的に悔しかったのかも知れない。


 そんな話をしながら、名残惜しそうにその場を離れる一行である。香多奈の示した方向だが、やはり町の外れに白いビルが建っていた。

 それを飛んで確認するルルンバちゃんは、案の定敵に見付かって絡まれて戻って来た。それを待ってましたと迎え撃つペット達、午後になっても疲れは無いようで何より。


 今回釣れたのは、前の層で見掛けた大蜘蛛の集団だった。中には落ち武者顔の奴もいて、建物の壁を伝って来て厄介な敵である。

 立体機動もそうだが、落ち武者顔の蜘蛛は粘着質のクモ糸を使って来るのだ。それに今回捕まってしまった茶々萌コンビは、割と悲惨な状況に。


「うわっ、茶々丸ってば……だから突っ込み過ぎるなって、いつも口うるさく言ってるのにっ! ルルンバちゃんも、近付き過ぎたら二の舞になっちゃうよっ?

 ツグミッ、仕方無いから救出に向かうよっ」

「頑張れみんなっ、空から一反木綿も寄って来てるよっ! そっちは叔父さんとムームーちゃんが対応するみたい、ヒバリは大人しくしてなさいっ!」

「あっ、ヒバリちゃんも頑張って飛ぼうとしてるねぇ……まぁ、飛ばれて行かれても困るけど」


 紗良の言葉に本当だよねと、憤慨しながらリードを操る末妹である。このヤンチャ娘は、今回も隙あらば敵を倒そうとあっちこっちにくちばしを突っ込もうとするのだ。

 お陰で、空飛ぶ敵に対して自分も飛ぼうと翼をはばたかせて勇ましい限り。そのせいなのか、一瞬だけ『飛翔』スキルが発動したような?


 こんな願望が、案外と取得したスキルを使いこなす基盤となるのかも。それならば応援したい気もするが、こんな探索の戦闘中は止めて欲しい。

 そんな感じに末妹が思っている間に、護人とムームーちゃんのペアは無事に一反木綿の群れを討伐し終えていた。ついでに大蜘蛛との戦いも、こちらの勝利で終了の運びに。


 良かったよとドロップ品を回収し始める香多奈と、それを張り切ってお手伝いするヒバリである。どうやら仔グリフォンは、自分が活躍出来るなら何でも良いらしい。

 ただし、同じく魔石を回収するAIロボを、邪魔するなと牽制するのは如何いかがなモノか。まだまだ子供のヒバリは、しつけも長い時間が掛かりそう。

 リードを握る末妹も、何とも呆れた表情を浮かべている。





 ――そんな感じで、7層の探索ももうしばらく続きそう。






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