第838話 家族間でのメダル増やし競争が熾烈になって行く件



 案の定と言うか、姫香の挑戦したスロットだが当たりはたったの2回のみ。しかも最低の10倍のみで、それも時間と共に消えて行ってしまった。

 ミケの招福パワーは、残念ながらたったの20分程度のチャレンジでは開花せず。もちろん姫香は愛猫ミケに当たりはしないが、うらみがましい視線を送るのは仕方がない。


 当のミケは知らん顔、ちなみにヒバリは飽きて姫香の膝の上で眠っている始末。そしてご主人の絶叫に目を覚まして、敵はどこって表情で周囲を見回している。

 そんなやり取りを、ツグミは冷めた表情で距離を置いて見守ると言う。ご主人たちの言動からすると、このエリアではスキルズルを使うのは駄目みたい。

 それなら、ツグミの出番は残念ながら無い。


「ああっ、最後の1枚が飲まれて行っちゃったよ……ミケってば、最近は活躍の場が少なくなってるんじゃない?

 その内、新参者のムームーちゃんとかツグミに人気取られちゃうよっ!?」


 そんな姫香の苦言も聞き流し、れっとヒバリの毛づくろいをし始めるミケであった。既にミケより大きいサイズの仔グリフォンだが、為すがままで気持ち良さげ。

 あからさまな仲いいよアピールを自分の膝の上でされて、姫香も憮然ぶぜんとした表情である。とは言え、けなす事も出来ずに仕方なく両者を抱えて場所移動。


 ツグミも我存ぜぬって顔でついて来て、何と言うか敗者の行軍って雰囲気である。そして合流した先の紗良と香多奈に、事情を説明して怒られるパターン。

 まぁ、怒鳴り散らかしたのは末妹の方だけだったけど。紗良は残念だったねと、こちらはねぎらいの言葉と共に戦利品の数々を見せびらかして来た。


 そちらも、敗者の姫香にとっては重い罰ゲームではある。何しろ獲得商品の中には、どうやら魔石(中)や魔結晶(中)、それからオーブ珠まである模様。

 随分と派手な景品を揃えている、出血大サービス型のクレーンゲームみたい。アームも信頼出来るようで、メダルの数も倍の120枚に増えているとの事。


 それは何よりだが、目標の3百枚には全然足りていない気が。姫香がそう突っ込むと、全ロスした人が生意気言うなと末妹に返されてしまった。

 確かにそうだが、残り時間はもう10分を切っている。


「これって、時間内にメダルの数が達成されなかったらどうなるのかな? まさかずっと閉じ込められるって事は無いだろうけど、ちょっと不安だよね?」

「そこまで酷い仕様じゃないとは思うな……精々が出直して来いって、ゼロ層フロアに叩き返されるんじゃないかな?

 それで、日にちを置いて再挑戦とか?」

「それはありそう……でも叔父さんが勝ってるから問題無いよっ、姫香お姉ちゃん。さっき確認したけど、競馬ゲームで3百枚を稼いだってさ。

 叔父さんって、意外とギャンブル強いんだねぇ!」


 そんな評価を末妹から貰った護人だが、実際はペット達のお手柄である。2レース目の挑戦は、レイジーの頭にムームーちゃんを乗せてエントリーしたら、見事通ってしまったのだ。

 他の騎馬(?)に較べると小柄なハスキー犬だが、騎手(?)も小柄なのでトントンである。そして倍率は3.6倍と、茶々萌コンビの半分でまずまず期待されている感じ。


 護人としては、もっと倍率が高い方が嬉しかったのだが仕方がない。愛犬に50枚ほど賭けて、彼女の勝利をひたすら願うだけである。

 何しろ妨害アリだと、軟体幼児の魔法のフォローも馬鹿に出来ない凶悪振り。実際にそうなって、荒れたレースは完走者たった3名と言うひどい有り様だった。


 そのレースで、見事勝利を勝ち取ったレイジーは本当に見事な忠犬振りであった。お陰で180枚の払い戻し、これで護人の持ちメダルは3百枚を超えてくれた。

 子供たちが仮に全部スッても、これで次の層へと進出する事が可能となった訳だ。時間はまだ10分近く残っているが、どうやら姫香は完全にメダルを失ったようだ。


 今は紗良と香多奈の集団に合流して、何やら文句を言い合っている。ちなみにクレーンゲーム組は、まずまず景品をゲットしているようで何よりだ。

 そうこうしている間に、残り時間も5分を切っていた。護人も適当に、周囲のゲームをチェックしながら子供たちと合流を果たす。


 先ほどからゲームの合間に、香多奈が様子を見に来ているのでお互いの情報は把握している。ちなみに姫香には、追加でメダルの融通はしてあげないそう。

 沼にはまらない為の処置だそうだが、意地悪も透けて見える姉妹関係である。どうしても普段は遣り込められる事の多い、末妹の精一杯の反撃なのかも。


 それはさておいて、3分前に合流を果たした一行は話し合って再びカウンターへと向かう。そして出迎えたパペット店員に、メダルを提示して勝利をアピール。

 パペット店員は機械でメダル数を計算すると、いつの間にか出現してたゲートへと一行を案内してくれた。ゲートの隣には、いつの間にか宝箱まで湧いている至れり尽くせり振り。


「やった、嬉しいねっ……でも中身はイマイチかな、多分ゲームで集めたメダルが少なかったからだね。姫香お姉ちゃんが、全部スロットでスッたから」

「それは何度も謝ってるでしょ、香多奈のアンポンタンっ! 次のエリアでは頑張るよ、絶対にリベンジしてやるんだから!」

「まぁ、程々にな……ギャンブルってのは、熱くなる程に損をする仕組みなんだから。紗良や香多奈みたいに、楽しみながら増やす位が丁度いいのさ」


 私も楽しんでたけどなと、納得のいかない姫香の呟きはともかくとして。宝箱の中身を回収して、一行はゲートを潜っていざ次の層へ。

 ちなみに宝箱の中身は、ポーションや鑑定の書や木の実が大半だった。もう半分は、昔懐かしのボードゲームや小型の液晶ゲームが幾つか。


 液晶ゲームも昔のモノばかりで、護人としては懐かしいなって感情が芽生えて来る。それから後は、けん玉やおはじきやメンコやビーズも少々。

 青空市で売れるかなと、子供たちの反応はそんな感じで微妙ではある。それでも、ノルマをクリア出来て良かったと、次の層へと勇んで向かう面々であった。



 そうして乗り込んだ、第8層エリアはやっぱりゲームセンター仕様だった。メダル頂戴と周囲を見回す子供たちだが、今回はドローンはどこにもいない。

 仕方無くカウンターへと向かうと、パペット店員がうやうやしくトレイを14枚差し出して来た。その上には、それぞれ10枚ずつコインが乗っている。


「今回はどうやって分けようか、叔父さん? 妖精ちゃんも自分用に欲しいって言ってるし、萌にも分けてあげても良いと思うのっ。

 逆に姫香お姉ちゃんのは、減らした方がチーム的には良くない?」

「何でよっ、ジャックポットで1千枚貰えるんだよっ? その可能性は、ちょっとは吟味して貰っても良いと思うけどさっ!

 だって、ミケがきっとその内仕事してくれるってば」

「他力本願はどうかと思うけど、今回も姫ちゃんは30枚で良いんじゃないかな? それで護人さんと私も30枚で、残りの50枚を香多奈ちゃんと妖精ちゃんと萌で分ければ?

 妖精ちゃんはメダル持つの大変そうだけど、萌ちゃんは自分で持てるね」


 その言葉に、そんじゃ萌には10枚上げるねと香多奈の行動は相変わらず軽い。相棒の妖精ちゃんの分は、自分が持ってて上げるとこれでこの話の決着はついたみたい。

 それから一斉に、ゲーセン内へと散らばって行く子供たち。何故なら既に、30分のリミットが発動していたからだ。今回こそはガッツリ稼ぐぞと、姫香の鼻息は過去一荒い。


 それに反して冷静な紗良ゆ香多奈は、どれで遊ぼうかとあれこれ見て回っている。萌もお小遣いを貰って、茶々丸と一緒に周囲を彷徨さまよい歩いている。

 護人としては、後ろを付き従うレイジーも楽しめる、さっきみたいなゲームがあればやってみる予定。ところが今回、何故かコロ助までついて来て出番頂戴と物欲しげな表情。


 どうやら随分と長い時間、見せ場が無かったのでストレスが溜まりまくりの状態らしい。これは末妹の護衛どころじゃないと、護人の元に寄って来たみたい。

 まぁ、香多奈に関しては茶々萌コンビが護衛しているので、何かあっても平気だと思われる。紗良の方は、今回はルルンバちゃんがくっ付いていて、一緒に遊ぶゲームを捜している。


 そんな状況だが、今回も一番初めにゲームを始めたのは姫香だった。4台ある内のスロットマシンの一番左の台を選んで、果敢にメダル投入から当たれと念じて操作を始めている。

 ミケとヒバリは相変わらず彼女の膝の上で、興味もさほど無さそうで残念な限り。姫香だけが、1人熱くボタンを押す指先に力を込めている。


 一方、香多奈と萌は別の場所で面白そうなゲーム筐体を発見して盛り上がっていた。それはメダルを左右に弾いて、スタートから坂上のゴール地点を目指す単純なゲームだった。

 強過ぎると穴に落ちてメダルはロスト、弱過ぎると単純に届かないと言う。ゴールまで6回のレバー操作が必要で、成功するとメダルが20枚貰えるそうだ。


 最初に挑戦した香多奈だが、3つ目のレバー操作で敢え無く失敗。隣でやりたそうな萌に場所を譲って、頑張ってと声を掛けて今度は見守る側に。

 萌の挑戦なのだが、こちらは絶妙な力加減はお得意の模様。メダルは順調に坂を駆け上がって、何と5回連続して1発で成功してしまった。


 おおっと興奮する香多奈だが、プレッシャーを与えまいとその声はつつましやか。とは言えやはり、その緊張は仔竜に伝播でんぱんてしまったのか最後に敢え無く失敗の憂き目に。

 残念と息を思い切り吐く末妹だったけど、次に挑戦しようと香多奈はすぐに気持ちを切り替える。ところが、それを阻むチビッこい影が背後から。


 何と、りょうの姿に変化した茶々丸が、満面の笑顔で順番待ちしていたのだ。次はボクの番だと信じて疑っていないキラキラした瞳は、メダル頂戴と訴えている。

 それを無碍むげに拒否出来るほど、香多奈は鬼畜ではない。内心では仕方無いなぁと思いつつ、頑張れと場所を譲って仲間に招き入れる仕草。

 かくしてチビッ子トリオは、仲良くゲームにいそしむのだった。



 その頃、護人とペット達はさっきみたいな参加型のゲームが無いか捜し歩いていた。今回はコロ助も後をついて来ており、積極的に出番を求めている。

 ここは敵が出ないエリアっぽいので、それは良いのだが果たして出番があるかは全くの不明である。ところが、そんなペット達の願いが通じたのか、フロアの端っこにいかめしい筐体が見付かった。


 それはモンスター同士のバトルを楽しむゲームで、どちらが勝つかにメダルを賭けれる仕様らしい。そしてこれが大事なのだが、さっきみたいに挑戦者募集中のランプが点灯中。

 これは行けるねとペット達に告げると、明らかに皆のテンションが急激に爆上がり。尻尾をブンブン振って、各々が自分を指名してと圧が凄い事に。

 それならトップバッターは、まずは可愛そうなコロ助だろうか。





 ――まぁ、この程度でペット達のストレス解消になるなら喜ばしい限り。





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