第837話 3つ目の“遊”のエリアを家族で訪れる件
「残念っ、また向こうは戦闘中だって……なかなかタイミングが合わないね、まぁ探索中だし仕方無いかなぁ」
「あんまり邪魔すると嫌われるよ、香多奈……それより2つ目の鍵もゲット出来たから、これでここにはもう用は無いよ、護人さんっ。
まだ3時前だけど、後残り2つの扉をさっさと回ろう」
「そうだね、厳密に言うと1つの扉と3つの鍵で出現する大ボスの間の1つかな? “知”と“武”と来たら、3つ目は何になるんだろうね?」
その護人の疑問に、何だろうと一斉に考え始める子供たち。そんな会話を挟みながら、一行は退出用の魔方陣を使ってゼロ層フロアへと戻って行った。
それから軽く小休憩をこなして、残り1つの扉を潜って行く事に。次の扉に
そんな呑気な会話をしながら、潜った先のエリアを見た子供達の目は点に。何故ならそこは、割と広いゲームセンターのようなフロアとなっていたからである。
ピンクや黄色と派手な床や壁紙が目を
例えばクレーンゲームも何台か置かれているが、中身はメダル入りのカプセルみたいである。他にも、壁際にスロットマシンが何台も置かれてたりと徹底している。
そして敵の姿は全く窺えず、次の部屋への扉も今の所は見当たらない。とか思っていたら、空中を飛んで近付いて来るドローンの姿が3台ほど。
思わず構える一行だが、彼らは攻撃の意思を示さず単なる運び屋だった。トレイに乗ったメダルを来栖家の前へと届けて、彼らは再び壁際へと去って行ってしまった。
それを見送るハスキー達は、敵じゃないんだと少し寂しそう。
「えっと、良く分からないけど、メダルが10枚入ってるお盆が全部で14枚あるね? ひょっとして、これを元手に遊びなさいって事なのかな?
それとも、メダルは増やした方がお得って事?」
「ああっ、そっか……次に抜けるためには何枚か増やす必要があるとか? 面白いって言うか、それはかなり変わったエリアだねぇ?
差し詰め、ここは“遊”のエリアって事でいいのかなっ?」
「おおっ、さすが紗良姉さん……その表現は、的を射ている気がするねっ。どこか交換所的な場所は無いかな、遊ぶ台を見ながらフロア内をみんなで見て回ろうよ」
そんな建設的な姫香の言葉に、ぞろぞろと動き出す一行はまず壁際のカウンター席へ。先を進むハスキー達は、いち早くそこにいるパペット店員に気付いていた。
コイツは恐らく敵ではないが、明らかなる違和感である。子供たちは交換所かなと期待するも、果たしてそんな感じの表記がカウンター奥に示されていた。
後ろから続く香多奈は、ペット達にもメダルを配ってくれるのは親切だねとにこやかな表情。紗良などは、でもペット達はゲームは出来ないねぇと困り顔である。
結局は、ペット達の分は家族の他の者が使う事になりそう。姫香は、前にも“パチンコ店ダンジョン”で出玉勝負をしたねぇと懐かしい発言を口にする。
向こうにスロット台もあるし、またミケの強運を頼るかなぁと姫香の呟きに。組み分けしてメダル増やして回ろうよと、楽しそうな末妹の追従が。
実際に、カウンターの奥にはメダルの交換品が大々的に張られていた。その中には、しっかりとメダル3百枚で退去用のゲート起動と示されてあった。
要するに、メダルを一定数増やさないと、このエリアから退去も出来ない仕様らしい。しかも時間制限もあるみたいで、パペット店員が指し示した巨大パネルには30分からカウントダウンが始まる数字が。
それを見て絶叫する子供たち、そして素早く誰がどこに行くかの議論が始まる。姫香はミケとヒバリを
何しろジャックポットを当てれば、一気に千枚貰えるそうな。
「うわっ、それは凄いねぇ……私はもっと、平和的なクレーンゲームとかが良いかなぁ? 楽しそうだし、そんな儲かる事は無いかもだけど。
香多奈ちゃん、一緒に行く?」
「クレーンゲームは面白そう……妖精ちゃんも、自分のメダルがあるなら遊びたいって言ってるね。それより叔父さんはどうするの、ハスキー達や茶々萌のメダルは誰が預かる?」
「そうだな、ぐるっと1周回ってどんなゲームがあるのかまずは見てみようか。ひょっとしたら、ペット達が遊べるゲームもあるかも知れないし」
自分で言っておいてアレだが、ペットが遊べるゲームなんてまず無いよなぁと思いつつ。スロットへと一直線の姫香と別れて、一行はまずクレーンゲームの筐体前へ。
親切な事に、そのゲームは1回1枚のメダルで遊べるようだ。クレーンは3本指で、丸いカプセルを掴んで出口まで運ぶタイプらしい。
こんなの、ルルンバちゃんの念動力で一発だねと、悪い顔をする香多奈は明らかにルール違反。ダンジョンがどの程度、不正を許してくれるか分からないが、それは明らかにアウトだろう。
そんな訳で、まずは紗良が自分のメダルを使って1度目の挑戦。軽快な音楽と共に、横方向に動き始めるアームを家族全員が熱心に見守っている。
そのプレッシャーに負けたのか、紗良の1度目の挑戦は敢え無く失敗の結果に。ああっと残念がる香多奈は、元気に次は私の番ねと挙手している。
それよりよく見れば、カプセルの中身はどれも微妙に違っている模様。覗き込んで確かめた結果、メダル以外にも鑑定の書や魔石や魔玉の入ったカプセルもあった。
「えっ、それを早く言ってよ、叔父さんっ……良く分からないまま掴んじゃったけど、これって喜び損なのかなっ?
妖精ちゃん、中身は何だか分る?」
「まぁ、1枚目でキッチリ取れてる時点で私より才能あるよ、香多奈ちゃん。あっ、ドロップが確定したね……これこれ茶々ちゃん、顔を突っ込んじゃダメだよっ」
ちなみに妖精ちゃんの答えは、知るもンかと言う冷たい返答。いつも通りではあるが、これでこの両者の仲は良好と言うのだから不思議ではある。
そんなカプセルの中身だが、紗良が苦労して茶々丸から奪い返して確かめた結果ハズレだと判明した。中身は魔石(小)が3個に鑑定の書が5枚と、簡易宝箱みたいな感じ。
ところがよく見れば、メダルが20枚位入ったカプセルも各所に点在している。
紗良と香多奈は、もうしばらくこのクレーンゲームにメダルを注ぎ込むとの事。必ず元手を増やすぞと、意気も高く仲良く次に狙うカプセルを話し合っている。
そんな子供たちと離れて、護人は他にどんなゲームがあるかチェックへと回る事に。他にも回収率の高いゲームがあれば、そちらをプレイするのが得策ではある。
護人もゲーム好きではあるが、今は探索中だって思いの方が遥かに強い。任務を忘れてゲームを楽しむとか、リーダーの立場上絶対に出来そうもない。
そんな護人の背後には、当然の如くレイジーが付き従っている。肩の上にはムームーちゃんもいるし、何故か茶々萌コンビもついて来ている。
紗良と香多奈の方の護衛だが、まぁコロ助とルルンバちゃんがいるから平気だろう。ツグミは結局、姫香の元へと合流してスロットの回転を眺めている。
意外な戦闘無しのエリアに、ペット達も戸惑いつつも護衛の任務は怠らない。その姿勢は本当にアッパレで、護人としても有り難い限り。
メダルを
これを元手に百枚以上稼ぐのは、ちょっと大変そう。
「さて、どうしたモノかな……みんな、どれか面白そうなゲームはないかな? おっと、アレは何だ……ああっ、競馬の1位当てゲームか。
懐かしいな、メダルゲームでは定番かな?」
そんなにゲーセンに通い詰めた口ではない護人も、この手のゲームは見た事はある。割と大きな筐体のこのゲーム、中央にはしっかり競馬用のトラックがあった。
そこには8体位の駒が並べられていて、その中の1位を当てれば良いらしい。出場馬が掲示板に表示されているが、微妙にそれぞれ倍率は違う。
と言うより、走るのは馬ですらなかった……死霊馬やヘルハウンド、ユニコーンや甲虫ゴーレムまでいる。なるほど、それで倍率の違いは何となく分かった。
そして強烈な違和感だが、8枠が出場者を絶賛募集中となっている。どういう意味だと覗き込む護人に釣られて、茶々丸もモニター前に割り込んで何ゴトってリアクション。
その途端、ビックリした事に目の前から消失する茶々萌コンビである。何があったと驚く護人だが、何とその姿はモニターの向こうに確認出来た。
つまりは8枠の出場者にと、ゲーム内へと召喚されてしまったようだ。驚きのダンジョン演出だが、その倍率は7.8倍と期待はされていないトホホな数値である。
そんな事は知らない茶々丸は、パニックで暴れ出す寸前なのは致し方が無い。萌が
そんな茶々萌コンビに、護人はこれから行う事を告げて行く。要するに、駆けっこ競争で頑張って1番になろうと、そんな掛け声と共にメダルを20枚ほど賭ける護人。
賭けが確定したからか、高らかなラッパの音と共に始まる競馬モドキである。茶々萌コンビもいつの間にかゲートにインしており、護人の応援にも熱が入る。
そんな茶々丸のコンディションは、やや入れ込み過ぎな状態だろうか。それでもゲートが開くと同時に、綺麗なスタートダッシュを決める仔ヤギであった。
萌も周囲のライバルを確認して、ちょっとギョッとした表情。しかも駆けっこモンスター群は、堂々と(?)相手を妨害しての無法振りを発揮して来る始末。
茶々萌コンビにもその魔手は伸びて来るが、萌の炎のブレスでの逆襲に次々に脱落して行った。そんなやり取りの果てに、いつの間にか逃げ切り態勢に入る大穴の仔ヤギである。
その速度はなかなかのモノで、駆けっぷりも堂に入っている。騎乗している萌も、本物の騎手みたいに空気抵抗を考えてかピッタリと密着姿勢をキープ中。
そんな人馬一体ならぬ、仔ヤギ竜一体の激走は見事に功を奏したようである。追いすがる死霊馬と、骸骨ジョッキーを退けての堂々の1位は素晴らしい。
何より、払い戻しが156枚と一気に目標額の半分に達してしまった。
「やったぞ、茶々丸に萌っ……1番だっ、凄いなっ! おっと、ゲームが終わったらちゃんと戻って来れるんだな。
良かった、お前たちのお陰でメダルもこんなに増えたぞっ」
それを聞いた茶々萌コンビは、途端に誇らし気な表情に。やっぱり子供たちは、褒められると素直に嬉しさを顔に出して見ていて気持ちが良い。
逆にレイジーは、自分には見せ場は無いのと不満顔。駆けっこなら自分も自信はあるよと、主に顔を
このゲームに再挑戦出来るなら、レイジーに頼むのも悪くはないかも。それより開始から10分経ったけど、他のメダルの増減はどうなっているのたろう?
とか思っていたら、端っこで姫香の絶叫する声が響いて来た。
――敵が出たのでない限り、あの声はメダルを盛大にスッた模様。
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