第834話 ここの扉を“武”のエリアと命名に至る件



 2階層目の鎧モンスターと蟲型ゴーレムの討伐も無事終わり、来栖家チームは続けて3階層へと至った所。相変わらず木造の塔みたいなエリアに、多少の違和感はあるモノの。

 護人的には、大昔にあった香港のアクション映画を思い出していた。確かアレは、カンフー使いの主人公が、塔の手強い階層主を倒しながら上の階を目指していたような。


 このエリアも、何と言うかモンスターのアクが妙に強い気がする。特に指揮官役らしき鎧モンスターだが、日本刀を振り回して武士のようなたたずまい。

 アクと言うか癖の強い武器使いのモンスターは、このエリアの鎧モンスターには多い気がする。そしてこの3階層では、和風の鎧モンスターが司令官として登場。


 周囲を囲む西洋鎧のモンスターや、3メートル級のゴーレムはどいつも手強そう。何気に蟲型ゴーレムも混じっているが、何故かその動きは拳法使いのそれである。

 人型のゴーレムも、足技が無駄に格好良くて蹴られるとルルンバちゃんでも吹っ飛びそう。そんなヘマをするモノかと、ハスキー達は低い体勢で特攻をかけて行く。


「あれっ、ここの部屋の奥にゲートが見えるね……上への階段も無いし、って事はここが最上階なんだ。

 だとしたら、あの和風鎧の奴が階層主かなっ?」

「そうみたいだな、なかなか立派な日本刀を持っているしそうだろう。それから、拳法家っぽい動きのゴーレム達にも、みんな気を付けて」

「今回のフロアは、数もそうだけど大きい敵も多いよねっ。ルルンバちゃん、殴り合いがしたいなら前に出てもいいからねっ!」


 末妹にそう言われたAIロボは、別に殴り合いはしたくなかったけどその場のノリでゴーレム前に。格闘家っぽい動きの3メートル級のゴーレムは、近接でやり合うには危険な相手だ。

 それでも指先でカモンと挑発されると、AIロボの心にも闘志がわき上がってしまう。幻聴なのか、どこかから古い戦闘シーンによく使われるBGMが流れる中、交わる拳が2つ。


 ルルンバちゃんは、もちろんそんなアクション映画の存在は全く知らない。それでも好敵手を前に、意外とノリノリで殴り合いを開始する。

 魔導ゴーレムのボディは意外と重量級だが、さすがに3メートル級のゴーレムと較べると見劣りする。それでも、低い位置からのアッパー気味の拳は見事に敵の股間にヒット。


 それを受けて引っくり返る敵ゴーレムと、それは反則だよとの末妹の絶叫が。えっと混乱するAIロボだが、瓦割のような手刀で転んだゴーレムの核を破壊する。

 何故か見事なたたずまいで接近戦を終えたルルンバちゃん、大丈夫だったかなと背後を振り返る。結局は姉妹から追加の文句はなく、続いて余ってる敵を捜しに前線へ。


 そんな喧騒が5分以上続いただろうか、気付けば中ボスもコロ助のパワーで粉砕されて姿を消していた。呆れる剛腕振りは、最近どんどん磨きが掛かっている気もする。

 これで第4層のゲートは確保出来て、その近くにしっかり宝箱も確認出来た。それを回収に向かう香多奈は、やったねと嬉しそう。


 ルルンバちゃんの禁断の攻撃など、すっかり忘れて上機嫌である。そして姫香とチェックした宝箱の中身は、薬品や魔結晶(小)がたくさんに魔玉(炎)や木の実もわんさか。

 おおっと盛り上がる姉妹だが、他にも武器関係が結構入っていた。鎖鎌やトンファー、手裏剣や暗器も出て来て何だか凄い品揃えかも。


 他にも、案の定に出て来た黄色と黒の繋ぎにこれはナニって表情の姉妹である。護人も敢えて説明はせず、昔の拳法着じゃないかなと注釈をえるのみ。

 紗良もペット達の怪我チェックをして、殴り合いに持ち込まれた茶々萌コンビの治療に忙しい。逆にハスキー達は、しっかり敵の近接攻撃は避けまくって戦闘を終えた模様。


「ハスキー達はやっぱり、運動神経が半端ないよねぇ……あんなに密集して、大きい敵がパンチやキックを繰り出してたのに怪我無しだなんて。

 鎧のモンスターも、割と凶悪な武器を手にしてたよねぇ?」

「持ってたね、でも全部避けるか防ぐかしてたかな……紗良姉さんの戦闘ベストも、しっかり役に立ってたからやっぱり新しいの必要だよね。

 コロ助とか、防御魔法あるのに時々無視して攻撃してるもんね」

「ああっ、コロ助ってばそう言う所あるよね……お調子者なんだよ、誰に似たんだろうね」


 そんな末妹の言葉に、やっぱり飼い主に似るんじゃないのとの姫香の返し。そこから恒例の姉妹喧嘩になる前に、紗良の治療は終わって護人も出発の合図を出す。

 今回の階層主は、魔石(中)こそ落としたけどスキル書の類いは落とさず残念な限り。日本刀も立派そうなのを持っていたのに、そちらもやはりドロップせず。


 残念がる子供たちだが、次に期待と相変わらずテンションは高めをキープ。そんな感じで向かった5層目、2つ目の扉で言えば2層目の計算である。

 そこもやっぱり木造の和風の塔の構造で、広い八角形の武道館のフロアには敵がわんさか待ち構えていた。具体的には15体程度だろうか、リザードマンやヤモリ獣人の混成軍だ。


 それぞれ槍や短刀、それから飛び道具に手裏剣もいきなり飛んで来た。それをブロックするコロ助は、やりやがったなと『咆哮』からの《咬竜》をお返しする。

 そこからは熾烈な戦いに突入、ごちゃ混ぜの乱戦となったけど『咆哮』のお陰で後衛に抜ける敵は無し。姫香と茶々萌コンビも乱入して、敵の数を減らすお手伝い。


 護人とルルンバちゃんも、今回は遠隔攻撃でのサポートに徹する構え。乱戦の経験もそれなりにある来栖家チームは、戦い方のバリエーションも豊富である。

 その甲斐あってか、数分も経たずに乱戦も収束して行ってくれた。ハスキー達は今回も完勝して、忍者風のヤモリ獣人も見せ場を与えず倒したようだ。


「ああっ、赤い忍者の衣装の敵もいたのに、何もさせずに倒しちゃった……ハスキー達って、本当に容赦ないなぁ。何か変わった忍術、見せてくれるかと思って期待して撮影してたのに。

 ツグミが速攻で、切り刻んでそれでお終いなんだもん」

「戦いに盛り上がりを求めてたら、怪我人とか出て大変でしょうがっ! 本当にダメ飼い主だねっ、その内に痛い目を見るわよ、香多奈っ」

「まあまあ、今回は完勝みたいだったし良かったじゃない。その赤忍者も、スキル書を落としてくれたみたいだし。

 このエリアも塔構造なのかな、上へ登る階段があるね」


 確かに紗良の言う通り、奥の壁際に次の階へと続く木製の階段がはっきりと窺える。それ以外は特に目立った物は無し、ドロップ品に手裏剣や暗器が混じっていたくらい。

 それらを回収して、次に進もうと階段前に集合する一行である。その辺はすっかりこのエリアにも慣れて、この“武”のエリアの癖も全員が周知済み。


 護人などは、映画だと強敵が1人で待ってたのになぁと、その違いに違和感を感じているみたい。まぁ、どちらにしても時間を掛けずに進めているなら問題は無い。

 次もサクッと敵を倒して進みたいけど、階段を上った先はやはり獣人の群れが10体以上。今回は人狼みたいな敵もいて、そいつは格闘技家の動きに手にはヌンチャクで何だか強そう。


 アイツと戦いたいなと、漢気おとこぎあふれる姫香はその存在が気になった模様。それを察したハスキー達は、そいつ以外の討伐に掛かってくれる。

 素晴らしい気遣いだが、周囲のリザードマンやヤモリ獣人もそれなりに強敵である。武器の振るい方が洗練されているので、対応がとっても大変なのだ。


 護人も後衛からサポートしつつ、前衛陣の戦い振りには気が気ではない様子。特に茶々萌コンビなど、猪突猛進で敵の奸計かんけいはまりやすいったらない。

 後衛からも、気をつけなさいと香多奈などから心配の声が飛んでいるが効果はあがっていない。結果、茶々丸と萌は飛んで来た分銅ぶんどう鎖に絡まって、地面に転がる破目に。


「ああっ、だから言ったでしょ……萌なんて、鎖使いとしての自覚が足りてないわよっ! 反省しなさいっ、茶々丸も突進ばかりして全然進歩がないんだから!」

「そうかも知れないけど、転がってる所を殴られたら危ないよっ……ルルンバちゃん、ちょっと行って助けてあげて」

「仕方ない、俺も行こうか……ミケ、後の事は頼んだよ。飛び道具も、手裏剣とか暗器とか飛んで来る可能性があるから気を付けて」


 後衛陣の安全も気掛かりだが、紗良の言う通りに転がった所をタコ殴り似合うのはとっても危険だ。特に茶々丸は、スッ転がった状態でヤモリ獣人2体にロックオンされている模様。

 護人も近付きながら、そいつ等を始末しようと『射撃』スキルを“四腕”で敢行……しようとした途端、何と茶々丸は《変化》でりょうの姿になって鎖を抜け出す強硬手段を発動した。


 呆気にとられる護人と後衛陣だが、着脱効果で素早く忍者服に着替えた茶々丸は、ヤモリ獣人を相手に接近戦を挑み始めた。意外と頭を使う仔ヤギだが、それは成長のきざしなのだろうか。

 萌の方は、鎖使いの面目躍如と『全能のチェーンベルト』で鎖絡みを相手にお返し。そして余裕で起き上がって、ちょっかいを掛けて来た敵をほふって行く。

 その姿に、やれば出来るじゃんと後衛の末妹の声援が。


 ついでに茶々丸も、護人の支援を得て何とか窮地を脱する事に成功した。しかしまさか、《変化》スキルを脱出に使うとは思いもしなかった家族の面々である。

 ちなみに姫香は、現在まさにこのフロアのボスっぽい人狼相手に接近戦をお楽しみ中。人狼の中国拳法は本物で、トリッキーな動きに姫香も手古摺てこずっているみたい。


 それでも他の敵が一掃される頃、姫香も愛用の武器で人狼の討伐に成功した。やはり大鎌モードでのリーチ差は、かなり有効に働いてくれた模様。

 そして落ちた魔石(小)に、納得のいかない顔付きに。もっと強かったでしょと、本人的には中くらいの大きさを期待していたようだ。


 まぁ、中途半端な位置のフロアボスなので致し方が無いとも。ドロップ品を拾い集めて、一行は奥に見えている階段を上って塔の最上階を目指す。

 4層ではここに階層主が控えてたが、今回も同じ造りだったみたい。東洋風の建物の奥に次の層へのゲートがあるのでまず間違いは無いだろう。


「あっ、ここにも拳法家っぽい人狼がいるねっ。あと、動く甲冑の剣士さんもいる……盾と剣を持ってて、こっちがひょっとして階層主なのかな?

 どっちでもいいや、姫香お姉ちゃんはまた拳法使いとやりたいんでしょ?」

「別にどうしてもやりたいって訳じゃないけど、まぁそれなら相手するわよ。盾と剣持ちの鎧騎士は、それじゃあ護人さんがすればいいよ。

 ルルンバちゃん、今回は後ろで後衛の護衛をお願いね?」


 そんな感じで作戦は決定……ハスキー軍団&茶々萌コンビは、今回もたくさんいるリザードマン(槍兵)とヤモリ獣人(忍者)の相手をする事に。

 その数ざっと15体以上で、今回も乱戦になったらお互いのフォローが大変そうだ。AIロボは、任せておいてと勇ましくポーズを取って頼もしい限り。


 末妹の香多奈としては、最近のルルンバちゃんの前衛の所作には疑問をていしたい思いも。何しろボディプレスや急所への突きなど、ハチャメチャ過ぎる気がする。

 これをダメと教えるのは簡単だけど、何故ダメなのかと問われると言葉にきゅうする末妹である。人道的とか言葉を選ぶも、敵もAIロボも人のカテゴリーには入っていないのだ。


 そんな事を考えている間にも、広い道場みたいなフロアでの戦いは始まっていた。相手の獣人軍、特に忍者の動きはさすがのハスキー達も手強く感じているみたい。

 一方の茶々萌コンビだが、何故か茶々丸は遼の姿のままでの参戦となっていた。こちらの方が、素早く動き回る敵に対して対処がしやすいと思い至ったのかも。


 それを自分で考えついたのなら、素直に凄いし大した進化には違いない。相棒の萌も、同じ槍使いとして早くも動きを合わせ始めている。

 このチビッ子2人のコンビ、ヤモリ獣人(忍者)に全く劣らぬ動きである。





 ――癖の強い相手を前に、茶々丸の成長は爆上がり中!?






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