第833話 2つ目の扉の構造を家族で紐解きに掛かる件



 中ボスの魔導ゴーレムは、オーブ珠と魔導ゴーレムのパーツを落としてくれた。そして奥に置かれた宝箱からは、鑑定の書や木の実や薬品類が幾つか。

 ようやくお出ましのポーションやエーテルに、紗良などは安堵の表情。一応は家からMP回復ポーションは持って来ているが、ダンジョン内で回収出来るに越したことは無い。


 他にも魔結晶(中)が6個に強化の巻物が2冊、それからインゴットが何本かと首輪と兜が1つずつ。これらは妖精ちゃんによると、念願の魔法アイテムらしい。

 肝心の鍵もちゃんと出て来て、その他は本や図鑑が割とたくさん。その中には、かなりレアな『魔導の書』が1冊ほど紛れ込んでいたみたい。


 妖精ちゃんが舞い上がっているが、過去に1度だけ来栖家もこれを回収した事があっただろうか。滅多に見れない魔法の品に、子供たちも同じく興奮気味である。

 それがひと段落ついて、退去用の魔方陣でゼロ層フロアへと帰還を果たす来栖家チーム。香多奈は巻貝の通信機を取り出して、こっちは一仕事終えたよとザジ達に話し掛けている。


 残念ながら、向こうは戦闘中で軽快な会話には至らず通信は終了。そんな事もあるよねと、一行はこの後どうするか計画を話し合う。

 お昼には少し早いが、区切りは良いので来栖邸に戻ってお昼にすべきだろう。そんな姫香の言葉に、賛成多数で敷地へと引き返す来栖家チームである。


 ペット達はやり切った表情で、先陣を切って家族をエスコートしてくれている。ダンジョンを出ると、しかし迎えてくれたのは肌寒い秋風だった。

 下手をするともう冬である、冷えて来たねぇと口々にそんな事を言いながら我が家へと歩く子供たち。ペット達は、毛皮のお陰でそんな寒さなど関係無さげで羨ましい限り。


「夏の暑さはてんで駄目なのに、ハスキー達ったら冬は我が物顔だよねぇ。ミケはちょっと辛いかな、体が小さいから仕方無いけど」

「寒かったら抱っこしてあげようか、ミケさん? 今年もハスキー達に、犬ぞりいて貰ってみんなで遊ぼうっと。

 遼君は、山の上の冬は初めてだっけ」

「そうか、この敷地で迎える冬が初のメンバーもいるんだったな。その辺は、皆で良くサポートしてやってくれ。

 広島市内とじゃ、まるで違う生活になるだろうからね」


 は~いと元気に返事をする子供たちは、冬の寒さも積雪もどんと来いってな表情である。護人としては、寒さはともかく雪は余り積もらないで欲しい所。

 何しろ建物には確実にダメージが入るし、麓に出掛けるのも命懸けになってしまう。山の上の生活は気楽で良いが、雪で閉じ込められるとなるとそうも言ってられないのだ。


 もうそんな季節なんだねと、曇り気味の空を見上げて姫香が呟く。そんな話をしている間に、一行は来栖邸の勝手口に到着を果たしていた。

 そこで装備をといて、家へと入って行く家族の面々。


 ハスキー達も縁側に待機して、活躍したから何か貰える筈の期待の視線を家の中に送っている。そんな来栖邸のキッチンでは、紗良と姫香が昼食の準備を始めている。

 ミケはヤレヤレと、所定の位置に陣取って家の主のたたずまい。その隣には、ムームーちゃんが気儘きままにゆらゆらとリズムに乗って揺れている。


 ルルンバちゃんはお掃除ロボ形態に戻って、今は廊下をお掃除しまくっている。その動きは楽しそうで、やはり戦闘よりは本来のお掃除が彼は好きみたい。

 護人と香多奈は同じソファに座って、お昼が出来るのを待ちながらさっきの探索を回想中。室内にはゆったりした空気が流れて、ダンジョン内とは全く違う。


 その内に料理が運ばれて来て、それを手伝い始める香多奈である。その辺のお手伝いをきっちりこなすのは、2人の姉に仕込まれているからに他ならない。

 それでも動き回るのが苦ではない末妹は、飛び回るように昼食の支度を行う。そして家族揃っての昼食の時間と、縁側から刺さるハスキー達の視線。


 仕方無いなぁと、縁側を空けてお裾分けのハムをあげる香多奈は優しい心の持ち主には違いない。そんな感じでそれぞれがお腹を満たして、食休み中に巻貝の通信機から連絡があった。

 向こうもようやく一息ついて、ダンジョン内で昼食にするみたい。探索自体は順調らしく、それに関してはお互いに何よりではある。


「ああっ、真っ暗闇エリアに入ってたんだ……あそこは本当に、何も見えなかったし動画映えもしなかったよねぇ。まぁ、みんなで頑張って敵を倒してね?

 私達は図書館とか実験室みたいなエリアを、午前中は探索してたよ」

「そうなんニャ……それよりサラ、お昼のお握りに梅干しは入ってないニャ!?」

「えっ、普通に入ってるけど? ザジちゃんが分かるように、お握りにしっかり印はつけてた筈だけどなぁ」


 誰かが悪戯いたずらして、その印を外した可能性はあるかも知れない。そう言うと、末妹がふいっとあらぬ方向を向いて表情を隠す仕草。

 それから猫娘の抗議の文句を聞き流して、お昼の報告会は終了の運びに。相変わらず向こうも騒がしいらしく、賑やかな探索で微笑ましい限り。


 香多奈に関しては、しっかり紗良にダメだよと怒られてはいたけど、そこも含めて平常運転ではある。そんな来栖家も、時間が来たので午後の探索の開始の合図がなされた。

 それに反応して興奮し始めるハスキー達、家族も再び装備をまとって探索準備に余念がない。他のペット勢はのんびり準備を始めて、茶々丸だけが早く装備をつけてと家族を急かしている。


 いつもの光景ではあるが、果たして2つ目の“ダンジョン内ダンジョン”のエリア構成はどんなものになるだろう。期待と不安を心に、一行は来栖邸を後にしてダンジョンへと進み始める。

 午後も相変わらずの天候で、ダンジョン内の方が過ごしやすいまである。それを知ってか、皆の歩調は幾分かウキウキ模様だったり。

 午後の探索は、こんな感じで始まるのだった。




「さあっ、2つ目の扉はこれでいいんだね、香多奈? それじゃあ行くよ、みんなっ……多分癖の強いエリアだろうから、充分に注意して行こうっ!」

「レイジーちゃんの戦闘ベスト、コロ助ちゃんのお古だけど何とか最後まで持ってくれるかなぁ? 心配だけど、無いよりはマシだよね」

「それは仕方ないな、しかしレイジーも巨大化を使い始めるとはなぁ。さっきの戦闘もド迫力だったし、ますます前衛に特化して来ている感はあるよな。

 頼もしい限りだけど、無理はしちゃダメだぞ」


 そうご主人に声を掛けられたレイジーは、尻尾を大きく振って平気をアピール。戦いこそ至上の喜びとの表情は、ハスキー達に共通する認識なのかも。

 そのせいで先行し過ぎ問題などもあったけど、今はそれもすっかり収まって良い調子だ。チームの協調に関しては、今や護人からしても何の文句も無いレベル。


 そして末妹が選んだ2つ目の扉だが、中は古風な寺院のような構造のフロアだった。最初の部屋に敵の姿は無いけど、奥には何かしらの気配が複数存在するようだ。

 さっそく戦いかなと奥の部屋を覗き込む一行だが、敵は意外と多かった。15体程度のゴーレムや動く鎧が、列をなして待ち構えていた。


 その奥には木製の階段があって、どうやらこの木製の寺院風の建物は塔構成となっているようだ。木板の広間はまるで道場のようで、柱や壁や天井の造りも和風である。

 そこに2メートル級のゴーレムや、鎧の兵士が歩いて来る姿はかなりの違和感がある。とは言え、倒すべき敵には違いないので容赦なく立ち向かう前衛陣であった。


 今回は姫香と茶々萌コンビが中衛をになって、敵の数の多さに壁役へと勇んで前へ出張っている。後衛陣は応援しながら、万が一の際のフォローの姿勢を取っている。

 今回も硬そうな敵が多いので、護人かルルンバちゃんが前に出るのが良いかも。AIロボには必殺の遠隔攻撃があるので、今回は護人が前へと出る流れに。


 その知らせを聞いて、張り切り始める肩の上の軟体幼児である。やはり定期的に出番がある方が、暇にならずにムームーちゃん的にも良いみたい。

 そんな訳で、回り込んでのゴーレムへの《氷砕》スキルは、2体も巻き込んで凄まじい破壊力。思わず護人もおおっとうなって、周囲への被害を気にする素振り。


 幸いにも、味方は巻き込まれずに済んだし敵も発生した氷の柱に身動きもままならない様子。一応は考えられての発動だった様で、あなどれないスライム幼児の戦場観察能力である。

 ハスキー達も、コロ助をフィニッシャーとしての連携攻撃は相変わらず美しいレベル。レイジーは『針衝撃』を駆使して、敵を転がしたり巨大化して破壊したりやりたい放題。


 ツグミも『土蜘蛛』スキルで敵を翻弄して、レイジーとコロ助の前に敵を追い立てている。コロ助は何も考えず、前へ来た敵をペシャンコにするのに熱中している。

 その点では、姫香と茶々萌コンビの方がやや苦戦していた感じだろうか。さすがに茶々丸の『突進』で壊れるゴーレムもおらず、萌の『土のハンマー』が何とかキル数を稼いでいる感じ。


 姫香も『天使の執行杖』をハンマーモードに変形させるも、使い慣れていない形状だけにいつもの勢いは無い。それでも戦線を破綻させずに、後衛の安全を図っているのはさすがである。

 そして気付けば、いつの間にやらフロア内の敵の姿は完全にいなくなってくれていた。ホッと息を継ぐ姫香と、ねぎらいの言葉を掛けて怪我チェックを始める紗良。


「お疲れさま、みんなっ……茶々丸ちゃんに怪我は無いかな、随分と硬い敵に頭をごっつんこさせてたけど。ハスキー達も平気かな、向こうの鎧のモンスターは凄い武器持ってたし。

 大きいハンマーとか、大剣持ってた奴もいたよねぇ」

「そうだね、動く鎧の中には武芸が上手い奴もいるから要注意なんだが。今回も、やたら動きのいい奴が後ろの方にいた印象があるかな。

 まぁ、レイジーとコロ助が連携で粉砕していたけど」

「あれは初見じゃ防げないよね、本当にえげつないフェイント入れるもん。最後までどっちが攻撃するのか、後ろから見てても分からない時あるし!」


 そう口にする姫香は、ハスキー達の連携攻撃を物凄く評価しているみたい。自分でも初見で防ぐのは無理と言っているだけあって、その効果は抜群なのだろう。

 それを聞きながら、落ちている魔石やドロップ品を拾い終わった香多奈とルルンバちゃんである。ドロップ品の中には、武器や部分鎧も少しだけ混じっていた。


 そして魔石はほとんど小サイズで、儲けはこのフロアだけでかなりのモノに。喜びながらも怪我人がいないのを確認した一行は、勇んで次のエリアへと向かう。

 階段を上がった2階フロアも、造りは下の階とほぼ同じだった。そこにはやはり前もって敵が配置されており、3メートル級の鎧モンスターと蟲型のゴーレムが5体ずつ窺える。


 難易度は進むごとに上がっていくようで、サイズ感もそうだが敵もかなり強そう。階段を上り切る前に、こんなのがあと何層あるのと愚痴り始める末妹である。

 それに対して、そんじゃあズルしようと姉の紗良を見遣る姫香。つまりは例の、敵が動く前の先制攻撃を仕掛けちゃえって事らしい。それにはルルンバちゃんも呼ばれて、遠隔攻撃×2発の大盤振る舞いに及ぶ事に。


 ここまで階段を上がる手前で騒いでいるのに、反応しない敵はある意味アッパレ。或いは哀れなのかもだが、同情している暇もなく放たれる《氷雪》スキルとレーザー砲であった。

 直撃を浴びた10体の敵軍は、哀れにもあっという間に瀕死状態に。ちなみにAIロボの直撃を受けた蟲型ゴーレムは一瞬で蒸発してしまっていた。

 後は弱った敵を、順次始末して行けばオッケーだ。





 ――多少の後ろめたさも、まぁダンジョン攻略の良いスパイス?







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