第832話 “知識”エリアの最終ボスと対戦に至る件



 休憩後に探し回った結果、フランケン氏のベッドの奥にゲートと宝箱を発見出来た。そして宝箱の中には、待望の錬金レピシの書が2冊ほど入っていた。

 喜ぶ紗良だが、姫香と香多奈は魔結晶(中)やオーブ珠の方が好きみたい。他にも魔玉(闇)や鑑定プレート、白紙のレポート用紙や大量のメモ用紙が出て来た。


 ここの宝箱からも、やはり薬品類や木の実は出て来ないようだ。先ほどの実験台の机の上から、毒薬に紛れて500mlほどMP回復ポーションが回収出来たのみである。

 ここまで徹底していると、逆に清々しい気さえして来るから不思議。来栖家も本を読む時の姿勢は、ちゃんとしつけた方が良いのかも知れない。


 そんな事を思いながら末妹を見遣る護人だが、まぁ漫画本を寝っ転がりながら読むくらいなら問題は無いかも。逆に堅苦しくして、本を読むのが嫌いになられるよりはマシな気がする。

 2層の宝箱は、他には特に目ぼしい物は入っておらず。一行は休憩の後に、恐らく中ボスの控える3層目へとゲートを潜って目指す事に。

 ここまで1時間と少し、時間は割と掛かっている方だろうか。


 そして3層目へと至った来栖家チームは、周囲を見回して嫌な予感に見舞われる。そこは2層と同じく、実験台が置かれたラボのようなたたずまいのエリアだった。

 ただし、机の上に置かれているのは、機械をいじる工具類で前の層とは明らかに違う。案の定、出て来たのはメタリックな質感のパペット兵達。


 手には大きなスパナやハンマーを持っていて、殴られたらそれなりに痛そう。ハスキー達は構わずに突っ掛かって行き、軽くいなしてから連携で倒している。

 今回のフィニッシャーはコロ助のようで、白木のハンマーの威力は『剛力』が効いているのか物凄いモノが。姫香と茶々萌コンビも、無理なく数減らしに貢献している。


「うわっ、今回は機械系の敵が出て来るのかな……ひょっとして、ルルンバちゃんみたいな魔導ゴーレムとか機神兵タイプとかも出て来たりとか?

 硬い敵は手強いかもね、喜んでるのはコロ助だけだよ」

「そうか、硬い敵のエリアか……それなら今回は、姫香と茶々萌に後衛に下がって貰って、俺とルルンバちゃんが中衛を務めようか。

 恐らくその方が、対処が比較的に楽だろう」

「えっ、それもそうかなぁ……仕方ないね、それじゃあこのエリアは見せ場を譲ってあげるよ、護人さんっ。

 ルルンバちゃんも、いっぱい活躍するんだよっ!」


 そんな訳で、姫香の許しも貰って護人とルルンバちゃんのコンビが今回は中衛を進む流れに。その決定に、姫香はともかくとして茶々丸はとっても不服そう。

 それでもしっかり護衛するんだよと、末妹の香多奈に言われて渋々とそれに従う仔ヤギである。萌は心得たモノで、敵は1匹も通さないって早くも護衛兵の顔付き。


 そんな3層エリアだが、机の上に置かれた工具一式はそれなりに良い回収品だった。護人も農具を整備する時にはお世話になるし、青空市で欲しがる人もいるかも知れない。

 そう言われて、回収作業を頑張る姉妹はとっても幸せそう。やはり探索の醍醐味は、山歩きと同じで不意に見つけるその土地の恵みなのだ。


 例えば松茸やタケノコや自然薯じねんじょを、山の散策中に見付けたらそれはもう舞い上がってしまう。そんな感じで、ダンジョン探索中の良品回収はお楽しみの1つには違いない。

 前衛陣のハスキー達は、その作業が終わるのを待って次の部屋へ。そこも実験室のような雰囲気で、部品があちこちに山になってやや仰々しいラボ仕様である。


 そしてまたもや、香多奈の予測が招いた形で出現する魔導ゴーレムが計3体ほど。とは言え、どれもルルンバちゃんより小型で、武器も大型の盾とランスのみだ。

 その間に、これまた3体ほど金属パペットがいて、そっちの方がある意味厄介かも。そいつ等は、武器に火炎放射器のようなモノをそれぞれ持っていたのだ。


 それが火を噴くと、意外と広範囲に炎が伸びて来て対処が大変。ハスキー達も、母ちゃんが炎を我慢してるのに相手だけズルくない? って表情でその敵をにらんでいる。

 レイジーはそれに較べて冷静で、静かに《オーラ増強》で対処している。そのスキルでコロ助並みに膨れ上がったレイジーは、炎の直撃も気にせずパペット兵を始末して行く。


 それを突破口に、コロ助もハンマーを振り回して魔導ゴーレムの1体へ攻撃を仕掛けて行く。護人とルルンバちゃんも、それぞれ硬い敵を相手取って奮闘中だ。

 前衛を交代しただけあって、その効果は抜群で敵の魔導ゴーレムも形無しである。護人は『掘削』スキルで、ルルンバちゃんは近接パンチで敵をほふって行く。


 そんな感じで、この室内での戦いは5分も掛からず終焉の運びに。手古摺てこずるかと思った戦いだが、意外とスンナリと気を蹴散らす事が出来た。

 敵のドロップだが、ほぼ魔石(小)と敵のレベルが分かる。


「わおっ、さすが強い敵が出て来ただけはあるよね……魔石の大きさが1ランク上がってるよ、この先もそんな感じになって行くのかな?

 ハスキー達も、充分に気を付けるんだよっ!」

「本当だね、今回は火炎放射器だったからレイジーが突破口になったけど。銃弾とかロケットが出来たら、コロ助がしっかりバリアで防ぐんだよっ」

「そうだね、そろそろ中ボス部屋も近付いて来るだろうからね。敵の攻撃も厄介になって来るだろうから、防御もしっかりと頑張ってくれよ、みんな」


 その護人の言葉に、分かったと大きく尻尾を振るハスキー達であった。コロ助も同じく、末妹の注意しろと言われた兵器は身をもって威力を知っている。

 過去に銃弾に撃たれた事もあるコロ助は、怒りをもってそれに抗する構え。そして末妹の言葉は、次の部屋で現実になると言う毎度のサイクル。



 そこで待ち構えていたのは、ルルンバちゃん並みの巨体を誇るバリバリ戦闘用の魔導ゴーレムだった。お供に火炎放射器付きの魔導ゴーレムが3体、それから半ダースの銃持ちパペット兵が。

 なかなかの兵団に加え、更に空中にはドローン型のゴーレムが半ダースほど。奥にはゲートが見えるので、最終戦に相応しい敵の勢力ではありそう。


 こちらも気を抜かずに行くよと、姫香の台詞と共に戦闘はスタートした。とは言え彼女は、空中の伏兵が後衛にちょっかいを掛けないよう防衛中。

 茶々萌にも同じライン役を命じるが、それが上手く行くかはトンと不明である。香多奈がしっかりしなさいと激励しているので、上手くやってくれるのを願うのみ。


「前衛陣は敵の火力に注意しながら、数減らしを頑張るぞっ……火炎系はレイジーで押し込んで、銃持ちは俺とコロ助とルルンバちゃんで潰して行こう。

 ツグミは大変だが、全体のフォローを頼んだぞっ!」

「ゴーゴーみんなっ、茶々萌は前に出過ぎたら駄目だよっ!」

「ミケも護衛お願いねっ……特に空を飛んでる兵器が、後衛陣に近付かない様に見張ってて」


 頼まれたミケは、ドローン兵器に対して蚊トンボを見るような冷めた視線。あんなのに何が出来るのと、完全に格下を見る態度はさすが王者の風格である。

 ただし、紗良や香多奈がこいつらに痛い目に遭う可能性はとっても高い。姫香と茶々萌コンビが頑張って落として行くが、どちらも明確な飛び道具を持っていない。


 あるとすれば、茶々丸の《飛天槍角》くらいだろうか……そんな本人は、脅威のジャンプで直接の撃ち落としにこだわっているみたい。それでも1機墜落させて、ドヤ顔で荒ぶっている。

 姫香も『圧縮』の足場を使って、なかなかの奮闘ぶりを見せている。とは言え、機動性のあるドローン兵器は、空気のカッターを飛ばしたりとあなどれない性能を示している。


 その時、室内に静電気が発生したかのようなしびれを皮膚に感じる後衛陣。それは姫香も萌も感じており、咄嗟に回避行動を取るのはさすがのチームの一員だ。

 茶々丸はアレだが、ミケの放った雷の矢弾はしっかりと仔ヤギを避けて敵に命中してくれた。その威力に関しては、さすがと言うしかないレベル。


 バチバチと機体から火を噴いて、墜落して行くドローン兵器は哀れでさえある。とは言え、相手もそれなりに見せ場はつくれたし、何より《猫パンチ》の方でなくて良かった。

 墜落して行く機体を見ながら、そんな事を思う子供達である。



 一方の前衛陣は、敵の火力に苦労しながら接近戦に持ち込もうと画策中。レイジーも同じく、火炎の放射は何でも無いけど、さすがに鉛球を喰らうのは不味い。

 敵は魔導ゴーレムとパペット兵が、兵団を組んで死角を無くしての攻撃を行って来ている。変に洗練された動きのお陰で、防御スキルが解除出来ない護人たちである。


 とは言え、ルルンバちゃんに関してはその硬質なボディを盾代わりに、どんと来いってな具合いである。逆に奥の手のレーザー砲の許可を、やっと護人に貰えて張り切るAIロボ。

 室内なので高火力の武器の使用は難しいのだが、この際そんな事も言っていられない。何しろ向こうが、遠慮なく火炎放射器や銃弾をばらいているのだ。


 それに対する、アンサーソングのような感じで放たれたレーザー砲は、実際そんな可愛い感じでは全く無かった。魔導ゴーレム1台とパペット2体をぎ払って、とんでもない威力を発揮している。

 1個師団が一瞬で消滅して、さすがに相手の敵兵団も驚いたようだ。ポカンと間が開いたのを良い事に、その隙にと躍り出るレイジーとコロ助である。


 それをフォローする影の触手が、パペット達の足元をすくうように伸びる。実際にスッ転んだ奴も何体かいて、その隙にコロ助のハンマーが見舞われて行った。

 それには慌てて護人も追随、何しろハスキー達の俊敏さには人間はとても敵わない。それでも何体かの止め差しには間に合って、ご主人の面目躍如は辛うじてこなせた模様。


 それより何より、炎の中を突進するレイジーの活躍が一番の見ものではあった。恐らくは『魔喰』スキルで、完全にその攻撃を自身の魔力へと転換して行くチートなハスキー犬。

 巨体化は目に見えてハッキリ分かる程で、紗良のお手製戦闘ベストもお陰でボロボロである。そして何故か魔導ゴーレムの腕に咬み付くレイジー、愛用の武器では生ぬるいと感じたのかも。


 それでも、首の一振りで腕を引っこ抜くパワーは家族全員が思わず引くレベル。最後の抵抗を試みようとする魔導ゴーレムは、まるで子供のオモチャのよう。

 一際大きな中ボス仕様の魔導ゴーレムは、火炎放射と反対側の腕の太い槍で、飛び出て来たレイジーを的にと見定めた。ところがレイジーは、そんな中ボスも軽くあしらう仕草。


 吐き出された炎を物ともせず、逆に自らの魔力へと変換して行くレイジー。そして繰り出された太い槍の突きは、軽くかわして咬み付いてのぶん回しを試みている。

 割と体格の良い敵の中ボスだったが、その最後は割とアッサリとしたモノだった。派手にスッ転んで腕を食い千切られ、その奪われた槍で突き刺されてのご臨終りんじゅうとなった模様。

 容赦ないなぁと、レイジーの暴れっぷりに思わず末妹も呟きをこぼす程。


「……うんっ、さすが来栖家のダブルエースだねっ! スキルだけじゃなくて肉弾戦でも圧倒したのは、ミケには出来ない頼もしさだよっ。

 でも、紗良姉さんの作った戦闘ベストがボロボロになっちゃったね」

「そうだねぇ、これはまた悩ましい問題だなぁ……コロ助ちゃんみたいに伸縮性を追加して、戻ったらまた試作品を作ってみるね?

 新しい素材も溜まってるし、リリアラとも相談しなきゃだねぇ」


 そう言って困った表情の来栖家の長女は、ペット達の装備問題に関しては一手に引き受けている存在である。レイジーも、そればかりは申し訳なさそうな表情。

 ただまぁ、戦闘で手抜きなど考えられない彼女である。





 ――ともあれ、これで1つ目の扉は完全制覇となった模様だ。






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