第830話 広大な図書館エリアを探索して歩く件



 宝箱がやけに重そうだなと思っていたら、中身はほぼ紙類で日本語の図鑑や参考書がギッシリ。ついでに鑑定の書や魔結晶(小)も出て来たけど、ポーション類は無し。

 図書室に水モノは厳禁とは言え、その辺の管理はしっかりしている。それを指摘する紗良に、末妹などは感心してそうなんだと言う表情。


 何しろこのド田舎である、近場に図書館など当然の如く存在などしない。あるとしたら小学校の図書室くらいで、当たり前だが管理人などいない訳だ。

 図書室では静かにってルールは感覚で知ってるけど、どんな空間なのかはいまいちピンと来ない香多奈である。勉強したり、単に涼みに来る人もいるからねと姫香も話に入って来る。


「えっ、それは図書館の仕組みとしてはどうなのっ? 図書館って、普通は本を読んだり借りたり、調べ物をしに来るところじゃないのっ?」

「そうだねぇ、新聞とか何年前のもストックされてるし……でも無料で使える快適な空間だと、どうしてもそれ以外の目的の人達も集まっちゃうんだよねぇ。

 まぁ、それも静かに規則を守って貰えれば問題無いよ」


 そうなんだぁと、唐突に始まる図書館マナー講座に香多奈も興味深そうな表情。それより召喚ゴーストのドロップを拾えと、妖精ちゃんは全く興味は無さそうだ。

 そんなドロップ品だが、魔石(中)とスキル書のドロップはなかなかのモノ。周囲に落ちている魔石と折り紙用紙セットは、ルルンバちゃんが回収してくれた。


 そんな感じで戦闘後の後片付けをして、いざ探索の再開となった。突入してから既に30分は経過しているので、そろそろ次の層へのゲートが見えて来ても良い頃だ。

 とか思っていると、呆気なく怪しい場所が見付かった。広い通路の突き当りの、2階のバルコニー部分の下のくぼみのような場所である。


 その左右の立派な本棚の間が、次の層へのゲートになっているようだ。洒落しゃれた造りだが、本棚は他にも星の数ほどあるので分かりにくいったらない。

 ようやく見つけたと喜ぶ香多奈だったが、先行するハスキー達は不用意に近付こうとはしなかった。後衛陣もそれに釣られて立ち止まり、何かいるのって表情。


 よく見ると、右の本棚の下には宝箱が設置されており、確かにこのダンジョンなら最後に敵が出るパターンだ。待ち伏せだねと元気に発言する末妹、確かにそれではバカ正直に突っ込むべきでは無さげ。

 それがバレたと知って、いきなり重厚な本棚がスライドして隠し部屋がオープン。そして中から、色とりどりのはたきが宙を飛びながら出現して来た。

 その最後には、ほうきかと見紛みまごう巨大はたきが出現。


 同時に周囲の本棚からは、魔法生物なのか巨大な本が飛び出して来た。自らページを開いて発光するその姿は、いかにも何かありますって雰囲気だ。

 アレは魔法を使って来るねと、決めつける末妹だが宙に浮くはたきと本の見栄えはそれなりにシュール。それでも敵認定したハスキー達は、武器を咥えて襲い掛かって行った。


 そして案の定、魔法の本からは炎や氷の矢弾攻撃がページの間から飛び出して来た。それを器用に避けるハスキー達は、さすが前衛慣れしている。

 それから浮遊するはたきは、完全物理の攻撃手段らしい。もっとも、はたきのフワフワで殴られて、痛みを感じるかはトンと不明だけど。


 思わぬ乱戦模様に、後衛陣も驚きつつも必死に応援を飛ばしてサポートの構え。護人も2人の護衛をルルンバちゃんに任せて、近場を飛ぶ本とはたきの迎撃に前へと出る構え。

 姫香や茶々萌コンビも同じく、ハスキー達だけに手柄を取られる訳には行かない。特にボスっぽい巨大はたきは、良い標的だと茶々丸の目には映った模様。


 勇ましく『突進』を仕掛けるのだが、それは呆気なくはたきのフワフワ部分でいなされてしまった。少し考えれば分かるだろうに、本当に猪突猛進な仔ヤギである。

 お陰で騎乗していた萌は、そのフワフワに絡まってしまい落ヤギして酷い有り様。何やってんのと、フォロー役の姫香は大わらわで大変そう。


 一方の魔法の本だが、実はこちらも一回り大きなボスっぽい奴が存在していた。使う魔法も雷撃とか1ランク上の強力な奴で、これは倒すのも手古摺てこずるかと思われたのだが。

 何が気に食わなかったのか、ミケが『雷槌』スキルでキツいおきゅうを据えてしまっていた。そんな訳で、早期退場したマジックブックは、現在は統制が取れていない状況。


 お陰で大した成果もあげられないまま、ハスキー達や護人に始末されて数を大きく減らして行っている。それははたき(小)も同じで、パタパタ攻撃は大した威力も無し。

 いや、どうやら珍しい聖属性の魔法が付与されているのだが、幽霊など仲間にいない来栖家には関係無し。メイドのヘスティアがいれば、攻撃を受けた際に多少はしびれていたかも。


 そして例の大はたきも、結局は姫香にへし折られてお陀仏だぶつの憂き目に。魔石(中)とスキル書を落として、エリアボスの面目は果たしてくれた。

 5分以上に渡る熱戦は、そんな感じでいつの間にやら終息へ。チームで互いに声を掛け合って、全員の無事を確認し合うフェーズへと移行する。


「みんな無事だったかい、茶々萌コンビが戦闘中に派手にスッ転げてたけど」

「一応平気かな、タンコブとか打ち身くらいは出来てるかもだけど。本当に茶々丸は考え無しだよねっ、背中に乗ってる萌がちょっと可哀想だよっ」

「あ~っ、敵の実体のない部分に特攻かましてたもんね……確かにアレは、今年の中でもベストオブお馬鹿映像かも知れないねぇ。

 バッチリ映してたから、動画の反応が楽しみだよ」


 それは大した怪我に繋がって無いからであって、大怪我していたら笑い話では済まない。紗良が念の為にと、両者に『回復』スキルを使っているけど茶々萌コンビは何とも締まらない表情。

 申し訳ないと思っているのか、恥ずかしいと感じているのか。どっちでも良いが、同じ過ちは繰り返さないで欲しいとせつに護人は願う次第である。


 姫香もプリプリ怒っていて、お馬鹿だねとその口調には容赦がない。あまり叱ったら可哀想だよと、香多奈は早くも宝箱の回収に気持ちが向かっている様子。

 そんな宝箱の中身は、案の定のはたきが何本かにお堅い本がたくさん。鑑定の書や魔玉(風)や、魔結晶(中)も5個ほど入っていてまずは好調。


 錬金レピシの類いは無いかなと期待する紗良だけど、そんな幸運は無かったようで残念。それでも本はちゃんと日本語で、それから古い雑誌の類いも入っていた。

 漫画本は無いねと、残念そうな末妹はとっても素直でなおも箱の中を物色中。とは言え、他にはペーパーナイフくらいしか良さそうな物はない。


 妖精ちゃんの鑑定では、ナイフは一応魔法アイテムみたいでまずは良かった。“鬼の報酬ダンジョン”には、そんな感じで外れの宝箱は極端に少ない感じがする。

 それに気を良くした末妹は、紗良の治療の終わった茶々萌コンビに話し掛けてダメ出しの続きなど。さっきかばったのもすっかり忘れて、止めを刺すような末妹の所業である。


 とは言え、本当に致命的な怪我をしてからでは遅いので、それも愛情の裏返しとも。そんな感じで休憩を終えた一行は、ゲートを潜って2層目へと足を踏み入れる。

 そこの景色は、本棚と実験室の配合である意味カオス。




「おおっ、この層も割と凄いかも……あの実験台とか、置かれてるビーカーとかメスシリンダーの中の液体の色が凄いね。何を作ってるんだろう、マッド系な何かかな?

 あっ、さっそく敵が出て来たよっ、みんなっ!」

「はいはい、案の定のパペット兵やホムンクルス兵だね……ちょっと“浮遊大陸”を思い出すね、ヘスティアは元気かなっ?」

「ヘスティアちゃん、巻貝の通信機では会話が出来なかったもんねぇ。スマホとか便利な通信手段も無いし、気楽に行き来も出来ないから辛いよねぇ」


 そんな事を話し合う子供たちは、ぞろぞろとやって来た敵兵の強さを見定め中。もっとも、ハスキー達は既に前に出て戦闘を始めている。

 ここも室内なので、お世辞にも戦う場所が充分にあるとは言えないのが辛い所。特に香多奈の『応援』で巨大化したコロ助は、パワーは凄いが場所取りさんである。


 それでも、コロ助のハンマーが一番パペット兵を倒しているのも本当。この程度の敵なら無双も可能なハスキー達は、敵を倒しながら安全エリアを拡張中。

 護人やルルンバちゃんも、一応は遠隔攻撃で援護の態勢は取っているのだが。その隙を与えてくれない、ハスキー達の頑張りで最初の敵は全て掃討が完了してしまった。


 これには中衛に控えていた、姫香と茶々萌コンビも出番がなくて呆れ顔。さすがに今度は暴走を許して貰えなかった茶々丸だが、出番すらないなんて。

 そんな恨みがましい視線は、間違ってもリーダー犬のレイジーには向けられない茶々丸である。そんな訳で姫香の腰に頭突きして、あんまりでしょとのアピール。


「痛いってば、茶々丸……出番が無かったからって、私に当たらないでよ。次はちゃんと活躍させて貰えるよう、レイジーに頼んであげるからっ。

 本当にもう、ウチのペットは我がままばっかりなんだから」

「何か視線が一瞬、こっちに向いたのは気のせい、姫香お姉ちゃん? 私はペットじゃないよっ、我が儘でも無いもんねっ!」


 それは大いに意見が分かれる所だが、取り敢えず茶々丸の頭突きは治まってくれた。それから魔石を拾った一行は、改めて周囲を窺って感想を述べあう。

 要するに、ここは何らかの実験施設の建物内って雰囲気のエリアなのだろう。出て来るのは、その実験で生み出されたモンスターや施設の護衛系みたい。


 そんな感じかなぁと、紗良も賛成して敵への心構え的なモノは出来た。ペット達は恐らく、出て来る敵は全て殲滅な本能を元から備えているから問題無し。

 敵には容赦なく味方には優しいハスキー達は、今も昔も来栖家には欠かせない戦力である。とか思っていたら、次の敵が奥からやって来た。


 今度は茶々萌コンビも前に出て、仲良くホムンクルス兵の相手をし始める。連中はのっぺりとした肌の人型で、硬化した皮膚が鋭利な刃物と化している。

 とは言え、スキルまで使うハスキー達の敵ではない。茶々萌コンビも上手く立ち回って、攻撃を喰らわない様にショートチャージを繰り返している。


 茶々丸は《飛天槍角》まで使って、先ほどのさを大いに晴らしに掛かっている。騎乗している萌は、やや呆れた様子でそれに付き合っている感じ。

 そして数分後には、敵の第2陣も全て討伐し終えていた。今回は活躍出来た茶々丸は、満足したようにひづめをかき鳴らして得意顔。

 それを見る家族は、揃って何だかなぁって表情。


「さて、それじゃあ次の層へのゲートを捜そうか。ついでに宝箱とかも回収して、お昼までにもう少し攻略を進めておかなきゃね。

 ザジ組も恐らく、ガンガン探索してる筈だから」

「そうだね、向こうの稼ぎに負けていられないよっ……頑張って、向こうよりたくさんお宝を回収しないとねっ!

 特にみっちゃんとか、威張りンぼさんだからねっ」

「香多奈ちゃんとみっちゃんは、何か波長が合うのか仲良しさんだもんねぇ……毎月のお泊まり会が恒例になって、本当に良かったねぇ。

 これも“アビス”でゲットした、ワープ装置のお陰だよっ」


 そんな事を話し合う子供たちは、ライバルとの競争を心から楽しんでいる様子である。そう言う意味では、本当に毎月のお泊まり会が恒例行事になって良かった。

 それから敷地内のダンジョンも、一応資産ととらえる程の余裕も出て来た。





 ――つまりは、鬼の計略にまんまとはまっているなと思う程度には。






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