第826話 西広島の平和を守る会合が開かれる件
「それじゃあ、取り敢えずこのメンバーで最初の会合を開こうか。市内から甲斐谷チームが来るかもだが、それはまた改めてだな。
西広島エリアで起きる、冬以降の予知はこの3つのギルドで主に対応して行くって事で」
「そうだな、ちなみにウチの“夢見”のツグムの夢見内容も似たようなモノだったかな?
他には魔素の高まっている、目ぼしいダンジョンが無い事からこの場所に新造ダンジョンが生えるとウチは
「あそこの“津和野ダンジョン”は、複合型のA級で間引きも大変だからな……島根のA級チームは、腰が軽くてあちこちを放浪して回っているそうだから。
取り敢えず、地元の協会に話をつけて冬前に乗り込むべきかな?」
島根のA級チームと言えば『ライオン丸』だが、確かに彼らは現在四国に活動拠点を移しているそう。その辺の事情を知る護人は、取り敢えずリーダーの
それを聞いた『ヘブンズドア』の鈴木は、よろしくと頷いて護人に目配せ。同じA級同士だし、地元を荒されたと後から難癖をつけられるのも面白くない。
『ライオン丸』との詳しい
ダンジョンという脅威に対しての構えは、そう言う面からして進んでいると鈴木も三笠も自負している次第。予知としてもたらされる情報も、上手く活用するに越したことは無い。
そんなギルド『羅漢』に所属する雨宮の話だが、
八神の言っていた“迷子”騒動だが、“夢見”のツグムによるとどうやら岩国で起きる確率が高いそうな。そして“天狗”の案件は、ほぼ日馬桜町で確定との事。
それを聞いて、
「いや、天狗については実は心当たりがあるのでそれは仕方がないとして……異界からの迷子だっけ、それは岩国で起こるのか。
詳しい日時については、やっぱり分からない感じかな?」
「それはさすがにね、まぁ“巫女姫”八神と同じく冬から春にかけてって事だろう。こちらは岩国チームがメインで対処するって事で、“天狗”案件については『日馬割』の
ギルド『羅漢』としては、雪に閉じ込められない限りは両方に協力は惜しまないよ」
それは来栖家チームも同じく、その対処法として『ワープ装置』での移動を各チームに打ち明ける護人である。それを聞いて、なるほどと感心するメンバーたち。
そして、ウチのギルドにも欲しいなと“アビス”探索に興味を示し始めるリーダーたち。“アビス”探索なら、何チームでも可能なので今度一緒にと思わず護人も口走ってしまう。
それは良いねと、ヘンリーや
何度も山の上に訪れている三笠が、それじゃあ希望チームは日時を決めて来栖邸に集合ですかねと纏めにかかる。この流れを止める術を持たない護人は、周囲で決まって行く事案ににこやかに対応するのみ。
実際、その“アビス”探索と島根の津和野への訪問の日程は、改めて決めましょうとの事。来栖家としては、時間を見付けて岩国と安芸太田町にワープ装置での開通を目指す感じだろうか。
それを本格的な積雪が来る前に、何とかやり遂げておくよと約束する護人である。その苦労は、同じく山の中の吉和在住の雨宮も良く分かっている。
そんな諸々の
そんな感じで、ようやく空いた食事のスペースに、売り子の面々も交替して食事にしようかと話し合っている。護人も場所を譲って、岩国チームの持って来た差し入れがまだ十分あるのを確認する。
ただし、大食いの彼らは出されたお握りはほぼ食べ尽くした模様。
「あっ、大丈夫ですよ、護人さん……自分達の分は、ちゃんと出さずにキープしてますから。それじゃあ順番でお昼にしようか、陽菜ちゃんにみっちゃん」
「おっと、姫香たちが店番に残ってくれるのか、了解した。それより怜央奈は遅いな……いつもなら、お昼の時刻には到着してるのに。
今回も、甲斐谷チームの車に同伴して来るって話だったろう?」
「そうだね、ラインでは到着が遅れるって通知が来てるし、そんな心配する事もないよ。甲斐谷チームもつい先週ウチに来たからね、そこまで話す事もないんでしょ。
ただまぁ、お昼が無いと
紗良は姫香の配慮に快く了解の言葉を発して、最初に休憩に入る陽菜とみっちゃんのお昼の支度を始める。ブースの奥で暇そうなペット達は、それを見て何か貰えるかなと期待顔に。
さっきは客を招いての昼食会なので、そんな意地汚い真似は見せなかったハスキー達である。しかし紗良やみっちゃんは、比較的に脇が甘いのは体験上知っている彼女達。
来栖家ブースの周辺は、いつものペースで時間が過ぎて行くのだった――
その頃、コロ助はキッズ達からお昼のおこぼれを貰って満足していた。いつものメンバー達が集まって、賑やかなお昼の風景は旧中学校の校舎裏での事だ。
ここはただ今、絶賛工事中でその為に持ち込まれた資材や工具が各所に置かれてある。それを眺めながら、来年からここに世話になる面々は感慨深げ。
何しろ、この旧校舎が再び学び
とは言え、別に子供の数が増えたからと言う、積極的な理由では決してない。電車で隣町に通うのも、今の時代は危険だからと言う後ろ向きな理由である。
それでも地元の父兄さん的には、有り難い決定には違いなく。新中学1年生の香多奈たちにも、時間を掛けて隣町まで通うデメリットが解消されて喜ばしい限り。
その分、新しい友達を作る機会は減ってしまうのは一応マイナスだろうか。ちなみにこの町から隣町の中学に通っている新2~3年生は、そのまま通う事になりそう。
その主な理由は、どうやら学校の先生の確保が難しかったからみたいだ。実際に、新しい先生として小島博士のゼミ生の三杉と大地が確定しているそうだ。
三杉は結婚もしたし、定職に
やはり大事な町の子供たちが集まる場所である、探索者登録をしている者も欲しいとの町の要望も強かった模様。ちなみに美登利と坂井戸は、小島博士の助手として博士が手放そうとしなかったので先生の道は没となった次第。
ただまぁ、こちらも小島博士の『スライム清浄機』の発明やら、同時進行の各論文の発表やらで忙しいのも確か。微妙にお金になる案件も含まれているので、以前ほどには教授も貧乏ではないみたい。
とは言え、相変わらず一番のスポンサーは来栖家の護人には違いなく。近所の子が集まっての塾経営は、無料で最近は人数も増えて来そうな雰囲気。
ここにいるキヨちゃんや太一の親御さんも、中学生になって何か習い事をさせたいと思っているよう。そんな要望を叶えるべく、最近は紗良が週に2度は岡野先生の元に通っている。
そしてピアノと習字をみっちり習って、教える側になろうと努力中
「へえっ、そうなんだぁ……紗良お姉さんが先生なら、優しいし凄く良いよねっ! 教室の場所は、やっぱり香多奈ちゃんの家になるのかな?」
「叔父さんは塾とか教室とか、人が集まる建物を離れに造ろうかって話してるね。ご近所との夕食会も、ウチでやると手狭だから広い集会所が欲しいらしくってさ。
ウチは山の上だから、幸いにも場所だけはたくさんあるし」
「ああっ、この間カナちゃん家に遊びに行った時ビックリしたもんなっ! 登った先に、いきなり新しい建物が建ってたから。
そしたら、新婚さん家だって言うじゃんか」
そう話すリンカは、その魔法のような手腕をやや疑っている節がある。実際、異世界のコネでほぼ数日で建った家なので、あまり大声では話せないと言う事情が。
それを言うと、山の頂上近くのリリアラの塔も大っぴらに話せない事案である。幸い樹々に阻まれて、敷地内からも麓からも見えないので助かっている部分はある。
一時はそんなリリアラを先生になんて案も、小島博士から出たのも事実である。それは案としては面白かったのだが、さすがに中学生に魔術や錬金術を教える訳には行かず。
そんな訳で、残念ながら断念される事となった次第。
子供たちはそんな学校の話をしながら、来年の自分達の境遇を語り合っている。穂積は来年新6年生で、双子や遼は上手く行けば5年生に編入出来そう。
週3日の山の上の塾通いで、確実に学力がついて来た熊爺家の子供たちはストリートチルドレンの頃とは見違えるほど。最年少の双子は、お陰で皆と一緒に学校に通える見込みである。
遼に関しても、やや準備期間は短いけど何とかなりそうとゼミ生達が言っていた。地頭が良くて素直な性格の遼は、知識の吸収も早いようで何より。
「そしたら、双子と遼ちゃんは来年から同級生かぁ……月日の経つのは、本当に早いよねぇ」
「何をお婆ちゃんみたいな事言ってるのよ、カナちゃん……それにしても、中学に上がっても上級生がいないってのは違和感しかないねぇ。
友達も増えないし、良い事ばっかじゃないよね」
「そりゃそうだ、学校は勉強する所だもんな……中学での3年間は、英語とか国語とか算数に追われる日々なんだろ?
探索者になるまで、先は長いよなっ」
そう口にするリンカは、勉強があまり好きではないみたい。キヨちゃんが、中学では算数じゃなくて数学だよと訂正を入れている。そんなキヨちゃんは、学年一の才女である。
香多奈に関しては、勉強よりもみんなで遊んでいる方が好きなタイプ。学校に通うのは好きだけど、ずっと机に座って先生の授業を受けるのはそれなりに苦痛である。
そんな子供たちの事情は置いといて、屋台で買ったお好み焼きを食べ終わった面々は何して遊ぼうとの議論に移る。中学校の校舎内は、探索するには範囲が少な過ぎて適さないかも。
そもそも、立ち入り禁止の校内をうろついているのを知られたら、大人たちに大目玉を喰らってしまう。すぐ側で青空市が開催されているので、人の目も多くてその確率はとっても高いのだ。
そんな危ない賭けをしようと言い出す者は誰もおらず、今回も外回りの町探索になりそうだ。張り切って行くぞと勉強嫌いのリンカの音頭で、動き出すキッズチーム。
今日もこのチームで悪者がいないか、町を練り歩いてチェックするのだ。日馬桜町の平和は、このキッズチームに掛かっていると言っても過言ではない。
少なくとも少年少女たちは、心からそう思って午後を過ごすのだ。危ない事があれば、まぁコロ助や萌やルルンバちゃんがいれば何とかなると思いたい。
勝手ながら、彼らもチームの一員なのだ。
――余所者が多く町に入る青空市は、良くも悪くも一大イベントなのだ。
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