第782話 のんびりとリッチ王のダンジョンを探索する件



 今日はのんびりモードでの、ゆっくりペースで探索する事に決めた来栖家チームの面々。今は第2層の巨大温室で、ゴースト軍を返り討ちにしたところ。

 それからツグミのワープ攻撃をネタに、大いに子供たちで盛り上がっていた。確かに闇系のスキルは汎用性はあるけど、あんなのが出来るとは知らなかった。


 いや、全員が通れる闇のトンネルを作ってくれたりと、そのスキルは家族全員が知っていたのだが。攻撃の手段で使っているのを見た事が無かったので、出来ないと思い込んでいたのだ。

 どうやらツグミも、日々の特訓でそのスキルの腕前を磨いているようだ。それとも、この闇系のエリアに触発されて、何かのきっかけを掴んだのかも。


 凄いねぇと姫香や香多奈に頭を撫でられるツグミは、普段と同じクールな表情。ただし、ご主人に構って貰えて尻尾はブンブンと荒ぶっている。

 それよりこの巨大施設、一部が研究室となっていて建物内の造りは割と複雑だ。ここでもメイドちゃんの呼び鈴の指示出しをして貰うねと、末妹は早くも興奮模様。


 短時間で随分と仲良くなったゴーストのヘスティアは、そんな香多奈の要望に応えて呼び鈴をご機嫌に鳴らしてくれた。それに反応する箇所は、今回も意外と多かったみたい。

 それらを手分けして回収に向かうハスキー達は、手柄は渡さないと物凄い張り切りよう。そして今回も参加を表明するルルンバちゃんやムームーちゃんは、負けないぞと音を頼りに散り散りに分散して行く。


 それだと危ないので、子供たちもそれぞれサポートにつく流れに。ちなみにさっきのレイスだが、魔石(小)と青色のコイン1枚をドロップしてくれた。

 敵を倒してもゲット出来るんだと、それを知った香多奈はテンション上昇。こぞって隣の敷地に入り込んだハスキー達も、色々見つけたよと報告して来ている。


 護人もムームーちゃんの我がままに従って、廃墟と化した巨大温室施設を探索中。キャットウォークのような中二階フロアへと、その足を(護人が)延ばして放置された鉢の中の宝箱を発見に至った。

 侮れない耳と勘の良さを発揮する軟体幼児、しかも回収した品も上品揃いである。鑑定の書が3枚に魔結晶(中)が4個、薬品瓶が3本に青いコインも1枚混じっていた。


 やったデシと喜ぶムームーちゃんは、宝物探しゲームに完全に夢中な様子。薬品には中級エリクサーも含まれていて、下手な宝箱の中身より凄いかも。

 一方の紗良と香多奈とルルンバちゃんのトリオは、薬品棚を発見して使えそうな品を選別中。他にも薬草の種や、ドライハーブなども棚には仕舞われていた。


 上機嫌の紗良だけど、末妹は不満そう……ルルンバちゃんに、もっと良い品を探し出してと文句を呟いている。とは言え、他のハスキー達も回収品は似たり寄ったり。

 鑑定の書や木の実や魔玉(土)や、薬品瓶に混じって安定の毒薬も数本ほど。さすか闇属性のダンジョンだけあって、そっち系の品も良く出るようだ。


 残念ながら、ハスキー達&茶々萌コンビの探索では青いコインは1枚も出て来ず。一番良い品だと魔結晶(小)とか魔法の品らしき小振りのナイフくらいだろうか。

 それから次の階層へのゲートも、ツグミが見つけてくれていた。


「さすがツグミだねっ、ありがとうっ……それじゃあ、休憩も大丈夫なら次の層に進もうか、みんなっ。この層も30分以上滞在しちゃってたし、この調子だとお昼までに中ボスは苦しいかもね、護人さん。

 ゆっくりペースにしたのは、正解だと思うよ」

「そうですね、急いで怪我してもつまりませんし……ただまぁ、もう1泊をあの古城で余儀なくされるのはアレですけど。

 あっ、ヘスティアちゃん……サービスが悪いとか、そんな意味じゃないのよ?」

「そっ、そうだな……是非とももう一晩、あの部屋に泊めてくれるようお願いするよ。何しろペットも室内同伴の宿泊所なんて、ここらじゃ探しても見付からないからね」


 それは確かにそうだねと、護人の言葉に笑いながらの末妹の同意に。メイドゴーストのヘスティアも、機嫌を直してオッケーとの承諾の素振り。

 そんな話をしながら、いざ3層エリアへと突入を果たす来栖家チーム。そこはいきなり真夜中で、しかも街外れの墓地エリアと言うシチュエーション。


 これは怖いねと、定番の仕掛けに何点あげようかと思案し始める末妹に対して。墓場の土を掘り起こして、続々と出現する死霊軍に嬉々として向かって行くペット達。

 ルルンバちゃんも後衛陣に確認を取って、水鉄砲と木の実爆弾を手に敵の殲滅へと駆け出して行く。後衛陣は、魔玉(光)や光源の設置に忙しそう。


 それから強敵が混じっていないかと、護人と姫香で充分に目を凝らしてのチェックを始める。まかり間違ってもA級以上のダンジョン、驚かしだけで終わる筈はない。

 そんな確信めいた予感は、程無く当たって敵に妙な奴らが混じり始めた。包帯の巻かれたゾンビだが、その動きはやたらと俊敏でまるで獣のよう。


 噛みつかれそうになったコロ助は、大慌てで回避行動から反撃の『牙突』を撃ち込む。敵もダメージは軽微で、反撃は熾烈な爪での引っ掻き攻撃だった。

 噛みつきに爪の引っ掻きとは、ますます獣っぽい敵ではある。そんな連中が、いつの間にか数えれる範囲で5体以上周囲に湧いている始末。


 レイジーは炎のブレスでいきなり燃やして、その後は『針衝撃』で燃やした敵を縫い付けて動けなくしている。何とも周到な解答振りに、サポートに駆けつけた姫香も呆れ模様。

 ツグミは大人しく、渡された白木の木刀でチマチマ敵を切り刻んでレイジーの元に送り届けていた。死霊系の相手は苦手なので、素直に手柄を譲っている感じ。


 茶々萌コンビに至っては、騎乗している萌が大活躍である。思えば萌の手にする魔断ちの神剣は、“喰らうモノ”ダンジョンで出遭った呪いの騎士戦で大活躍した刀である。

 護人の精神世界で、一体幾重の闇系の敵をほふって来たか……それが形を成したように、死霊系に対して魔断ちの神剣の切れ味は抜群の一言である。


「うわっ、茶々丸はともかく萌が無双してるかもっ!? この前の鑑定でも、もうすぐ50レベルの猛者だったもんね……そして出ました、このエリアのボス級の敵かなっ?

 何か気持ちの悪い、肉の塊みたいな奴がお墓の後ろから出て来たよっ!」

「えっ、3層開始5分でもうボス級の敵が出て来ちゃったのっ!? こんな早い展開なのには、何か意味はあるのかなっ?」

「どうかな、まぁ次のゲートを捜すまでは歩き回る破目にはなりそうだが」


 冷静な護人の返答に、それもそうだねと真っ暗な廃墟の街並みを見渡す姫香である。墓地エリアに隣接するバラックのような建物は、総じて陰鬱で半壊していた。

 元は貧民街だったのか、半壊は良い方で全壊の箇所も幾つも見受けられる。そして茶々萌コンビと不気味な死霊の戦いだが、茶々丸が敵に近付くのに手古摺てこずっている始末。


 どうやら呪い系の呪詛じゅそを放つ敵は、任意の場所に死霊の手を発生させる事が出来るよう。それに掴まれると途端にピンチなので、墓の上を飛び跳ねて移動する茶々若丸ちゃちゃわかまる

 確かにぴょんぴょん飛び跳ねる姿は、敵の攻撃を避けてそれなりに格好良いかも。ただし敵にも近付けないので、萌も手に持つ武器を振るえないでいる。


 その頃には、ハスキー達が周囲に湧いていた包帯巻きの獣ゾンビを全て倒し終えていた。そして監視役のヘスティアから、あのボス級死霊の正体が明かされる。

 どうやらドレインタッチの強烈な、通称レベルイーターと言う死霊ボスらしい。つまりは、そいつに掴まれると対象者はレベルドレインを喰らってしまうとの事。


 そんな恐ろしい敵らしいが、説明を聞いた香多奈は萌なら別に良いかって表情。何しろ突出したレベルの持ち主だし、1つ位下がっても平気な筈。

 そんな訳で、アンタ達頑張りなさいと末妹の容赦のない『声援』が後方から。墓石の上を飛び回る茶々丸は罰が当たりそうで怖いが、やっぱりレベルドレインも怖いかも。


 何より呪い散布も恐ろしい敵は、普段は勇猛な姫香やレイジーもお手上げである。そんな訳で、清浄&裂帛の木の実爆弾を放って様子を見る賢い萌だったり。

 それには怯んだ様子を見せるレベルイーター、その隙を確認して後衛の護人も、『霊木の弓』で聖属性の破魔矢を放ってやる。その一撃は、この墓地エリアに人外の絶叫をもたらした。


 その叫び声にビビり上がる子供たちだが、茶々萌コンビはその点では勇敢だった。一気に剣の届く有効範囲に近付いて、萌の魔断ちの神剣の一太刀で決着をつける。

 さすがのヤン茶々丸も、ぶよっとした死霊ボスに突進は嫌だった模様。


「やった、茶々萌コンビがボス級の敵をやっつけたみたい! 護人さんの援護射撃が効いたね、あれって聖属性の弓矢だっけ?」

「まぁ、そうだな……実は似たようなのを、紗良が錬金術で結構作ってくれていて、在庫は豊富だったのを思い出してね。

 しかし、思いの外に効果があったみたいだね」

「本当ですね、でもあんなに叫ばなくってもいいのに……ああっ、怖かった!」


 そう口にする紗良は、香多奈とヘスティアと一緒に肝が冷えたねぇと、ナイスリアクション中である。その姿は、まるで新装開店した幽霊屋敷の初見のお客さんのよう。

 それはともかく、戻って来た萌は手に魔石(中)とスキル書を手にちょっと誇らしげ。子供たちからも褒められて、茶々丸が焼きもちを焼くいつものパターンである。


 それから散らばった魔石を手分けして拾い集めて、さて次は青いコイン集めだねと口にする末妹。それに対して、この墓地エリアには隠されて無いよと、あっさりネタ晴らしをするメイドちゃんである。

 そんなら移動しようかと、姫香もあっさりした性格だけに切り替えは超早い。そんな訳でコンパスの針に従って、再び廃墟と化した市街地へと進む一行。




 暗闇の中の廃墟探索は、それなりに雰囲気はあったけど先行するハスキー達には関係ない。時折思い出したように出現する、ゾンビや骸骨を軽々と粉砕して進んで行く。

 あの程度の雑魚なら、ツグミの白木の木刀でも一撃で倒す事が可能である。レイジーもほむらの魔剣を使って、やっぱり一撃で燃やし尽くしている。


 コロ助は新武器の『電磁ハンマー』を振るって、やっぱり属性魔法での殲滅を選択したようだ。この巨大ハンマーも、巨大化したコロ助には玩具のサイズで丁度良い感じ。

 そんな訳で、このエリアも後衛陣に戦う機会はほぼ回って来ない有り様。真面目過ぎる護衛任務も、何と言うかちょっと悲しいかも知れない。


 姫香など、モロに暇だなぁって表情でヒバリにちょっかいを掛けて遊んでいる。こんなエリアで、1人で中衛は怖過ぎるので、現在の姫香は後衛寄りに位置している。

 そして紗良と香多奈は、現在はメイドちゃんことヘスティアと楽しくお喋り中。昔(生前)はどこに住んでいたのとか、昔からメイドさんだったのとか。


 ついでにさり気なく、リッチ王の武勇伝を聞き出した香多奈は、話の途中で聞かなきゃ良かったと後悔する破目に。話半分に聞いても、その存在は何と言うか死を振り撒く天災である。

 逆に姫香は興味津々、メイドの話に聞き入って凄いねと感心する素振り。とは言えその実力を真に受けると、確かに異世界チームの警告は正しかったと思い知ってしまう。


 ムッターシャやザジは、古龍や魔神を災害級と口にして出遭ったら即逃げろと忠告していた。それから死霊王や精霊王、上位の竜種や爵位持ちの魔人や古種の亜人も、同じく災害級と呼ぶらしい。

 向こうの世界では、S級とかA級とかの呼び名は使われないみたいだ。ちなみに、災害級は数万とか数十万の軍隊とタメを張れる魔物と言う意味なのだそう。


 つまりは、災害級ともなると個人やチームの力ではどうし様も無いって事になる。魔法やスキルの実力があっても、恐らくそれは同じなのだろう。

 あのリッチ王と、それから友達の冥界王はどうやら災害級らく、戦わずに済んで本当に良かった。ただまぁ、探索者が数万人で掛かっても倒せないかもな相手な訳で。

 そんなのが、宮島の上に居を構えているこの現実と来たら。





 ――それはメイドの語る武勇伝を聞いても、良く分かった一行であった。






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