第781話 コイン収集をしながらメイドゴーストと探索を行う件



「いいよ、やっちゃえルルンバちゃんっ……あんなの大きいだけの木偶でくの坊だよっ、全員でコテンパンにしちゃおうっ!」

「えっと……取り敢えず《浄化》スキルを試してみますね。ヘスティアちゃんに、範囲に入らないように言っておいてね、香多奈ちゃん」

「確かにそれは大事だな、一国の王から借り受けた大事な案内人なん……いや、確か観察者だったっけ?」

「ああっ、そう言えば……このメイドっ娘の視界を通じて、王様たちがライブ中継みたいにこっちの探索を見学してるんだっけ?

 人間世界の技術も魔法っぽいけど、本物の魔法も便利だよねぇ」


 良く分からない感想を述べる姫香だが、興奮している末妹よりかは冷静だったみたい。ヘスティアを下がらせておいて、巨人ゾンビから家族を護るために前へと出て行く。

 それは護人も同じく、『ヴィブラニウムの神剣』を手に巨大な動くしかばねと対峙する構え。そこに予告通りに紗良の《浄化》魔法が放たれて、巨人ゾンビは大変な事態へと突入して行った。


 あれだけ大きいと、溶けて行く姿も見モノではある……まるでアニメの巨神兵だねぇと、呑気な末妹の呟きに。浄化されるならもっとスッキリ昇天しなさいよと、姫香も勝手な文句を口にしている。

 そして弱って行った巨人ゾンビの群れに、レイジーによって放たれた炎の鳥が次々と止めを刺して行ってくれた。こちらも新アイテムの『活火山の赤灼ランプ』を使用しての、お試し召喚によるモノ。


 それを見て興奮する末妹と、ドロップの魔石(中)とスキル書に驚き顔の姫香である。魔石(中)は5個落ちてたので、巨人ゾンビは5体いたらしい。

 スキル書は1枚だったけど、1層から何ともハードな仕様みたい。新造ダンジョンってのを差し引いても、さすが推定A級ダンジョンである。


「さすがに体積あると、紗良姉さんの《浄化》スキル1発だけじゃ倒れてくれないねぇ。その分、今回はレイジーが冴えてる感じがするかなっ?

 あっ、そうだ……このダンジョンの特性も分かって来たし、こっちも装備の交換とかしなきゃだね、護人さんっ!」

「そうだな、レイジーは上手くスキルで対応してたけど……白木の木刀とか、俺の予備の魔断ちの神剣とか、ハスキー達に手配した方がいいかな?

 後は紗良の秘密兵器も、萌やルルンバちゃんに持たせておこうか」

「ああっ、木の実爆弾ですねっ……了解しました。後は、浄化ポーション入りの水鉄砲も取り出しておきますねっ」


 1層も終盤となって、遅ればせながらのチーム方針の決定ではあるけれど。まさか死霊軍の王の造ったダンジョンが、安直に死霊系だとは思わなかった面々である。

 もう少しひねりがある筈とか、そんな思いでここまで来てしまった。最終的にあの巨人ゾンビを目にして、このダンジョンの特性を断定せざるを得ずの結果に。


 そんな訳で、みんなに集合をかけての対死霊兵器の分配作業を行う来栖家である。香多奈はその間に、コロ助とルルンバちゃんに何か収穫あったのと訊ねている。

 彼らも呼び鈴のヒントから、魔石(小)や金貨の入った袋を回収出来ていた。宝飾品やポーション瓶も少々、ただし瓶の中身は腐敗系の毒薬だったみたい。


 それでも何かには使えるでしょと、褒めて貰った1匹と1機はご機嫌に対死霊用の兵器を受け取る。ルルンバちゃんは、浄化ポーション入りの水鉄砲と木の実爆弾を受け取って嬉しそうに構えを取っている。

 コロ助も白木の木刀を貰って、こちらはハンマー程の重みが無いのに不満顔。そして結局は、こちらも死霊には効果あるかなと『電磁ハンマー』を受け取る流れに。


 白木の木刀は、そんな訳でツグミが受け取る事に決定した。それから護人の予備武器の魔断ちの神剣は、何と萌が装備する流れに。日本刀を振るう半人半竜の萌は、なかなか格好良いねと香多奈はちょっと楽しそう。

 それと一緒に木の実爆弾を受け取った萌は、あまり良く分かっていない様子。ちなみに何も貰えなかったレイジーだが、彼女はどうやらゴースト相手でも燃やし尽くしてしまえるみたい。

 相変わらずの剛腕に、改まって武器の支給の必要性も感じない子供たちである。



 それから魔法のコンパスの指示に従って、廃墟と化した町中を歩く事10分以上。意外と広いフィールド型のエリアに、これは予定外だなと心中で護人は複雑な思い。

 第1層に突入して、既に40分近くが経過している。このペースでは、とてもじゃないけど1日で2つのダンジョンを踏破は無理である。


 元々、スケジュール的に無理があったかなと、護人は内心で反省して軌道修正に掛かる。つまりはこの廃墟都市ダンジョン”を、誠実に1日掛かりで探索すべし。

 無理に味方を急がせて、初見のダンジョンで消耗するのは得策ではない。ましてその状態で、2つ目に挑むなんて自殺行為に等しい思考である。


「ああっ、確かにそうかも……この1層でも、もうすぐ1時間経っちゃうもんね。倒した敵も、雑魚混じりとは言えもう50体近くいってるんじゃないかなぁ?

 レイジーも割と、既にMP節約モードに入ってるよ」

「ああ、だからツグミや萌に手柄を譲ってたんだ……凄いねぇ、長丁場を見越して体調管理って、さすがハスキー軍団のリーダーだねぇ」

「ここが7層構造との前情報で、アッサリ踏破出来ると思ったんだけどな。さすがA級ランクのエリア構成だ、香多奈もしっかり査定をしたいだろうからね。

 そんな訳で、焦らず慎重ペースの探索に切り替えようか」


 了解との子供たちの返答に、ペット達もそれぞれ尻尾を振ったりと反応を返してくれる。これぞ来栖家クオリティ、メイドちゃんもビックリ顔。

 ヒバリも一丁前にピイっと返事をしているが、恐らく良く分かっていない筈である。それにしても、なかなかに込み入った廃墟エリアの第1層には苦労させられている。


 雰囲気もどこを眺めても陰鬱いんうつな感じがして、長居をしたくないのに次の層へのゲートが見付からないと言う。その間にも、骸骨やゾンビの襲撃が定期的に発生している。

 その中にはゴーストも混じって来ているけど、備えを完璧にした来栖家チームに戸惑いはない。与えられた武器で、サクサク退治して魔石(小)をせしめて行っている。


 そう言う意味では太っ腹な新造ダンジョン、廃墟の街並みの造り込みも相当なレベル。そのお陰もあって寂寥せきりょう感が半端ないのだが、ようやくそんな街並みの徘徊にも終止符が。

 彷徨さまよい歩いた挙句に何とか見付けたゲートは、半壊した建物の地下への入り口にしつらえられていた。ようやく見つかったと喜ぶ子供たちは、さぁ次の層へと行くぞと元気をキープして意気も高い。


 その辺は、連日となった探索業を心配していた護人も安心ではある。ペット達もそうだが、遠征やら厄介な依頼やらをこなすうちに、チームの継続力も強化されて来たのかも。

 嬉しい誤算には違いないが、果たして今回の査定任務も無事に切り抜けられるかは全くの不明。何しろ相手の機嫌が変われば、こちらの頑張りも無碍むげにされてしまうのだ。

 そうならない事を、内心でひたすら願う護人である。


「あっ、2層も廃墟なんだねぇ……寂しいエリアは、査定にはマイナスかなぁ? あっちに敵の反応があるね、ハスキー達行っておいで」

「ああ、定番のゾンビ群だね……ただし、今回のは獣人のゾンビっぽいね。この街の滅亡の原因は、やっぱり人類と獣人軍の戦争とかなのかなぁ?

 まぁ、それが分かったからってどう仕様もないけど」

「さっきの層では、巨人のゾンビも見掛けたしね……それにこの街並みは、完全に人類が生活してた感があるもんね。

 紗良姉さんの言う通り、滅亡の原因を気にしても仕方無いのかな?」


 そんな事を話し合う子供たちだが、ハスキー達は敵の殲滅にしか興味は無さげ。お手伝いの茶々萌コンビも同じく、与えられた対死霊用の武器を有効活用して敵を倒している。

 そしてスッキリした顔で戻って来て、さぁどっちに進むのと末妹にお伺い。どうやら死臭の漂うこのエリアでは、彼女達の鼻も利きにくいみたい。


 魔法のコンパスでは、今度は郊外の方向にルートは続いている模様である。そちらも建物の数は減ってはいるけど、戦争の影は闇を落としている感じ。

 臨時の防衛線の塁壁が幾つか作られていたり、敵軍らしき死骸があちこちに散らばっている。嫌な予感がするねと末妹の呟きに応じたように、その死体達がゆっくりと起き上がり始める。


 横目で妹をにらむ姫香と、数が多いので《浄化》を使いますねとの紗良の報告に。ペット勢も、それに備えた陣形を取り始める。

 姫香も同じく、ルルンバちゃんも前に出て良いよと敵の数減らしに応援要請をAIロボに依頼する。自身もその背後の座席に乗り込んで、エリアに散らばる敵を駆逐すべく動き出す。


 実際に、紗良の《浄化》スキルに生き残った死霊兵は半数にも満たなかった。タフな見た目のオークゾンビやら、元はオーガのスケルトンやら。

 それらを白木の木刀や魔断ちの神剣で、次々とほふって行くペット勢の皆さん。ルルンバちゃんも機動力を活かして、遠くで生き残った敵を姫香と一緒に討伐して行く。


 それからドロップ品の回収を、嬉々として行って行くと言う。魂の役割的には、実はこちらの方が楽しいし適役なのだろう。

 元は牧場とか、或いは田園地帯だったのか広い空間にすでに動く影は無し。ただし少し行った所に大きな建物が建っていて、香多奈によればコンパスはそっちを指しているそう。


 あの建物は何だろうねと話し合う一行だが、大き目の厩舎とか温室とかそんな感じではなかろうか。周囲に他に目立った建物も無いし、そんな目的に見えて仕方がない。

 そう口にしていた護人の予想は大当たり、中は立派な植物園みたいな空間となっていた。元は温室か何かで、植物を栽培していたと思われる。


「おおうっ、一転して綺麗なエリアに出たねっ……作業員さんはいないけど、植物はすくすく育ってるのは水の供給とか自動化が成功しているのかな?

 さすがにこんなエリアで、スケルトンやゾンビは出て来ないよね?」

「分からないけど、ゴースト辺りは出て来そう……ほら、噂をすれば向こうの麦畑っぽい場所にたくさん浮き上がって来てるよっ。

 みんな、戦闘準備してっ!」

「えっとね、メイドちゃんがレイスが混じってるから気を付けてって」


 ゴーストは触られると生気を吸われるが、レイスになると知性も高くて魔法を使って来る個体もいるらしい。厄介さはゴーストの5割増しとの事で、気を付けてねとヘスティアの助言が飛んで来た。

 それを律儀に訳す末妹は、そんじゃメイドちゃんもレイスなのと素朴な疑問。返って来た答えは、私は魔法も念動力も使えますとの大威張りの返事だった。


 良く分からないが、向こうのゴースト集団(レイスを含む)は気を付けた方が良いみたい。実際に2体の幽霊が、闇系と風系の魔法をこちらに向けて放って来た。

 それを察知して、狙われた後衛陣を護るべく防御魔法を張る面々。ルルンバちゃんも壁となるべく立ち塞がって、その勇姿はまるでナイトのよう。


 反撃を行ったのは、影渡りで一気にゴーストの群れに近付いたツグミが1番乗り。いつの間にそんなスキルを習得したのか謎だが、白木の木刀を振るって幽霊ズを始末して行く。

 コロ助も巨大化して、攻撃するならボクにしろと『咆哮』を放って的役になっている。その影からスルッと飛び出した茶々萌コンビは、萌の魔断ちの神剣が大活躍。


 一気に厄介な魔法使いのレイスを斬り捨てて、後衛陣の安全を確保している。盾役のコロ助も、弟分たちの絶妙な働き振りにはビックリ仰天。

 それでも、そのフォーメーションが上手く機能しているのは確かだ。





 ――後は後衛陣の安全を確保しながら、敵を駆逐して行くだけ。






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 この『ダンジョン民宿』のスピンオフ作品、『夢幻のラビリンス』をちょっと前から投稿中です。良ければ覗きに行ってあげてください。

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