第780話 リッチ王の“廃墟都市ダンジョン”に挑む件



 取り敢えずは準備万端の来栖家チーム、2日連続での探索にしてはコンデションは悪く無さげ。ハスキー達も元気だし、簡易巣内のヒバリも超元気にピィピィ鳴いている。

 朝食もしっかり食べる事が出来たのは、隠れた紗良のファインプレーである。用意周到な長女は、念の為にと食材を多めに探索に持参していたのだ。


 お陰で失踪仲間の『チーム白狸』も、数日振りのまともな食事にありつけたと感謝してくれた。立派な造りの死霊軍の古城だが、生命活動に必要な食材は貯め込んでいなかった。

 それはともかく、昨日の探索疲れも感じないのはこの城内の魔素の濃さゆえだろうか。レベルを獲得した探索者は、無意識に魔素をエネルギーにするとの報告もあるそうな。


 それが本当かは不明だが、レベルが高い程にそう言う傾向が強いとも言われている。末妹を人外寄りといつも揶揄からかう姫香だが、実は家族揃ってそっちの道へ足を踏み込んでいる可能性すらある。


 笑えない状況だけど、家族チームの雰囲気は全くもって悪くは無いと言う。それどころか、呑気にダンジョン前の最終チェックをリッチ王と行う末妹である。

 評価を50点満点で行うとの話は付いたけど、中のランクに関しては相当高い事だけは分かっている。作った本人的には、“太古のダンジョン”の一番高いエリアを参考にしたとの話である。


 つまりはA級相当だろうか、そんな手造りダンジョンは現在は7層構造だそうな。そして“太古のダンジョン”の人気にあやかって、コイン回収形式も導入するとの事。

 それを聞いて、俄然がぜん張り切り始める子供たちは単純そのもの。とは言え、追加で報酬が貰えるってのは、とっても嬉しい報告には違いない。


 その辺は、とても太っ腹な死霊軍団の王である……暇潰しのこの遊技だが、クリアしての無罪放免も信じて良いかなって気にはなって来た。

 報酬を与えておいて、その後に殺害するのは何と言うかチグハグ過ぎる。


 そんな感じで護人も、この窮地からの無事な開放ルートが見えて来た中。末妹とリッチ王は、最終的なダンジョン査定ルールの確認に忙しそう。

 それから追加で、チームにメイドゴーストが追従するとの報告が。どうやら彼女の魔法の目を通して、2人の王も途中の探索風景を楽しむ手筈だとの事。


「へあっ、それは便利な魔法があるんだねぇ……ヘスティアちゃん、今日は1日よろしくねっ! 危なくないように、ちゃんと一緒に後衛にいるんだよっ?」

「彼女はゴーストだから、下手な攻撃は受けないでしょ。でもまぁ、他のゴーストについて来られるよりは、彼女の方がずっといいよね」

「そうだねぇ、お掃除が好きな人に悪い子はいないもんねぇ」


 そんな事を口にする紗良だが、内心ではちょっとした葛藤を抱えていた。このメイドゴーストが、実はレベル47の猛者であることは、家族には伝えた方が良いのかなぁと。

 結局は内緒にしておいて、とにかく探索中に仲良くなる方針を取る事に。相手の言葉を信じれば、このメイドの役割はただの監視役である。


 つまりは来栖家チームを害する心配は、極めて低い存在には違いなく。探索中に情を絡めて行けば、ひょっとして仲間に引き込める可能性だってある。

 それを自然に行っている末妹は、本当に天然の人たらしには違いない。つい最近に判明した、末妹の《人類皆友達》と言うスキルはひょっとしたら最強なのかも?




 そんな事を紗良が考えている内に、リッチ王の創造したダンジョン前へと一行は案内されていた。そして推定高難易度のダンジョン探索へと、進み始める来栖家チーム。

 もっとも、末妹の香多奈に言わせれば、今から行うのはダンジョン査定なのだろう。その姿に気負いはなく、その点は先行するハスキー達も全く同じ。


 ダンジョン入り口はゲート型で、恐らくは中の階層移動もそうなのだろう。その点を念頭に入れつつ、リーダーの護人は今日は特に慎重に行くよとチームに声掛けする。

 ハスキー達は至っていつも通り、ご機嫌にチームに先行してゲートを潜ってダンジョン内へ。それに続く茶々萌コンビも、一晩過ぎて体調はバッチリ戻している模様。


 そして肝心の後衛だが、香多奈はさっそくメイドゴーストのヘスティアと話が盛り上がっていた。他の面々も、囚われの身ながらぐっすり眠れたようで何より。

 それはともかく、改めて眺めたエリア内は一面が廃墟と化した街だった。西洋感がある石畳や建築様式は、今やすっかり面影が無い半壊のモノばかり。


 もちろん人の気配も無しで、その代わりにモンスターの姿はいきなり半壊した建物の影から窺えた。そいつ等に喧嘩を吹っ掛けるハスキー達は、至っていつも通り。

 茶々萌コンビも参加して、途端に騒がしくなる“廃墟都市ダンジョン”の第1層である。後衛の護人は、この騒ぎで他からモンスターが寄って来ないか警戒中。


 廃墟に潜んでいたのは、案の定の平民ゾンビや骸骨戦士の群れだった。それをほむらの剣でほふって行くレイジー達は、こんなモノかと手応えに不満そう。

 それから護人の予想通りに、喧騒けんそうに寄って来たゾンビ犬の群れが背後から。そちらは姫香が躍り出て、ルルンバちゃんのサポートを貰いつつ片付けて行く。


「案の定の、ゾンビとスケルトンのお出迎えかぁ……これは残念ながら、サプライズ度は低いかなぁ。でも廃墟型のフィールドは、今まで見た事はないかもっ?」

「確かに広そうだねぇ、これはゲート捜すのも一苦労かもね。それから、コインも回収しなきゃダメなんだっけ、香多奈ちゃん?」

「敵は今の所、それ程に強くは無さそうだな……とは言え、向こうはA級って言ってたんだし、何かしらの仕掛けか強敵が混じってるんだろうな。

 充分に注意して、階層を進んで行かないと」


 そんな慎重論を口にする護人だが、敵をアッサリ倒して戻って来た姫香は至って呑気。末妹の『魔法のコンパス』で進むべき方向を確認して貰って、それじゃあ行くよとハスキー達に指示出ししている。

 こちらも廃墟から出て来た死霊を倒し終えた前衛陣は、言われた方向へと率先して進んで行く。廃墟と化した街並みは、ダンジョンとは言えもの悲しく映ってしまう。


 一行が出た場所は恐らく大通りで、すぐ背後には半壊した城壁が半分だけそびえ立っていた。残り半分は無残に崩壊していて、一体過去に何があったのとかなり怖い。

 幸いにも、末妹が指し示した方向はまだ建物が比較的残っている居住区らしき場所だった。まぁ、それはそれで死角が多いし、移動は大変かも知れない。


 そして5分も行かない内に、再び道を塞ぐゾンビ&スケルトン軍である。アンタ達は減点対象だよと、それを見た審査員の香多奈の口調は辛辣である。

 ハスキー達の対応は、関係ないぜと殲滅せんめつに全く躊躇ためらいはなさそう。そして手応えの無さに、モノの数分の戦闘にやや不満そうな表情。


 それでも戦闘が終わったら、コインも集めてよねとの香多奈の無茶振りが前衛に飛んで来る始末。確かに周囲の建物は、壁も半壊して出入りはかなり自由である。

 ゴーストのヘスティアも、頑張って集めてとゼスチャーであちこち指し示してノリノリな様子。ゴーストにしては陽気な彼女も、意思疎通はペット達とは出来ないようで残念な限りだ。


「そうは言ってもさ、こんな広いエリアで建物や家具もいっぱいなのに、小さなコインを捜すのは無茶でしょ。

 何か手立ては無いの、ヒント的なあれこれとかさぁ?」

「確かにそうだねぇ……メイドちゃん、姫香お姉ちゃんもそう言ってるし、何かヒントみたいなのないのかなっ?」


 そんな香多奈の問い掛けに、少し考える素振りのメイドちゃんことヘスティアゴースト。或いは来栖家チームの事を、お仕えするご主人だと認識したのかは不明だけど。

 それならとどこかから取り出したのは、小さな呼び鈴型のアイテムだった。それを済まし顔で鳴らすヘスティア、その澄んだ音は周囲にこだましてある種の反応があちこちに。


 それを聞いてビクッとなる、耳の良いハスキー達である。そして事情を聞き出した香多奈は、この鈴の音は魔石とかの宝物に反応するんだってと興奮気味に報告して来た。

 それを受けて、姫香が音頭を取ってのハスキー達の捜索隊への指示出しを始める。魔石とかコインがあったら教えてねと、ここからしばらくは宝物の回収タイムに移行する模様。


 心得たペット勢は、さっきの記憶を頼りに怪しい場所の探索に赴いて行く。これもゲームのようなモノで、1つでも多く見付けてご主人に褒めて貰うのだ。

 それには茶々萌コンビも参加して、何故かムームーちゃんもやってみたいと珍しくおねだりする素振り。そんな訳で、香多奈が頭の上に乗っけてメイドちゃんにアンコールの催促など。


 そして再び鳴った呼び鈴の音の反応音を頼りに、一斉に動き出す来栖家チームの面々である。意外と遠くまで反応するので、次第にチームは散り散りになって行く。

 護人と紗良は、当然のように動き回る末妹の護衛に同伴を決め込んでいる。ルルンバちゃんも、このゲーム面白そうと思ったのかコロ助と一緒に隣のむねにお邪魔する模様。


「あった、これがコインかなっ、メイドちゃんっ? 何か青くて、ヘンな材質で出来てるみたいだね……日本の硬貨とは、全然手触りが違うや」

「どれどれ……ああっ、本当だな。確かに妙な質感だな、大きさは500円硬貨くらいか。これをたくさん集めたら、何か良いモノと交換が可能ってルールだっけ?」

「あっ、向こうでレイジーちゃんも何か見付けたみたいですね。ちょっと私が行って来ま……わっ、一瞬ゴーストが出たけどレイジーちゃんが焼き殺しちゃった。

 炎の蛇が見えた気がしたから、新しい装備の効果かなっ?」


 レイジーは、宮島遠征から新装備の『赤灼熱のマフラー』を装備していてその姿はとってもキュート。とは言え、“太古のダンジョン”では水系の敵ばかりが出現して、その出番はほぼ無かったと言う残念さ。

 その効果を今回試しているようで、本人も実戦での手応えに満足しているよう。何より、通常の物理攻撃で倒せないゴーストを焼き払えた威力は、素晴らしいと言える。


 紗良も新手の敵の出没に注意しながら、レイジーの方へと近付いて行って。その手腕を褒めながら、何を見付けたのと普通に話し掛けている。

 実際、ハスキー達ペット勢とお喋りが出来るのは、『友愛』と言う変わったスキルを持つ香多奈だけである。とは言え苦楽を共にする内に、紗良もペット達の感情がある程度分かるようになっていた。


 もちろん、ハスキー達のレベル補正による知能の高さもその一因ではあるのだろう。何にせよ、ハスキー達が人間の言葉を理解しているのは確実には違いない。

 そしてレイジーが指し示したのは、キッチンに作り置きの開き戸棚の内部だった。さっそく紗良が開けて見ると、食器と共に魔結晶(小)と魔玉(闇)が数個ずつ出て来てくれた。


 やったねと再び褒めそやす長女に、レイジーも満更でもない素振り。そこにツグミも合流して来て、陶器に入ったポーションを空間収納から取り出して来た。

 そちらも褒めてあげて、長女の周囲はあっというまにホンワカ空間に早変わり。とは言え、例のコインはたくさん配置されているって感じでは無さそうな気配が。


 実際、茶々萌コンビが手にして来たのは、良く分からない人形とかオルゴールとかのガラクタ品だった。他にもバケツとか花瓶や本立てとか、日用品ばかり。

 それでも優しい紗良は、偉いねぇと茶々丸と萌を交互に褒めている。それを見る末妹は、甘やかしは本人達の為にならないのにって冷ややかな表情。


 護人は敢えて何も言わず、コロ助とルルンバちゃんはどうなったと話題転換などしてみたり。姫香が様子を見に行こうかと建物を出ようとした瞬間、建物が派手にきしむ音が唐突に響き渡った。

 何事と外に飛び出す面々が見たのは、10メートル級の建物を見下ろす巨人の群れだった。いや、どいつも腐敗がかなり進んで、総じてゾンビなのは定番ではある。

 そんな連中が、生き物の気配を嗅ぐように顔を近付けて来る気配。





 ――そんなやからの頭を射抜く、AIロボのレーザー砲で狩りは始まった。






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