第779話 リッチキングのダンジョンに挑む事になった件



 次の日は普通に訪れて、捕虜の身にしては爽快な目覚めの一同。いや、護人は昨日の疲れでぐっすり眠ってしまったが、今考えるとそれは不味かったかも。

 何しろ周囲は敵だらけ、恐らくはSS級以上の敵の本拠地である城内なのだ。まぁ、自分達はゲームの駒らしいので、寝込みを襲われたりはしないだろう。


 そんな向こうの目論見を計算しながら、しかし昨日の末妹の計算は見事だった。B級探索者チームを危険から遠ざけながら、自分達の儲けを確保すると言う。

 昨日少しだけ話し合った『チーム白狸』だが、いかにも消耗していてダンジョン探索などとても無理。それなら、確かにあの2体が手掛けたと言うダンジョンには、自分達が挑んだ方が良さそうだ。


 その余力があるかと問われたら、まぁ何とかありそうではある。ペット達も充分に元気だし、少なくともあの怪物級の死霊軍とその大将を相手取るよりは建設的だ。

 割と気さくな性格の死霊王たちだったけど、それは相手の命を歯牙にもかけない裏返しとも取れる。気に入らなければ指先1つで、部下なり敵なりの命を刈り取れるのだと。


 そんな思考が透けて見えて、昨日の話し合いの最中はずっと生きた心地がしなかった護人であった。それなら少なくとも、用意されたダンジョン内の方がずっと安全だ。

 変な話だが、心からそう思って探索が待ち遠しい護人だったり。子供たちも心細くは思っているかもだが、家族が一緒なので平穏は保たれている感じ。

 それは何よりだし、昨日の末妹の機転は本当に素晴らしかった。


「それで、朝ご飯を食べ終わったら探索準備をすればいいのかな、護人さん? それにしても、荷物を取り上げられなかったのは良かったね。

 お陰で、異世界チームや山の上のメンバーと普通に会話出来るよ」

「携帯は通じなかったけど、巻貝の通信機は本当に優秀だよねぇ。とは言え、さすがの異世界チームも助けには来れないみたいだけど。

 取り敢えず、家畜の世話は和香ちゃん達に頼めて良かったよね」

「そうだな、出来るだけ波風を立てずに、香多奈の計画に従ってダンジョン審査を行おうか。具体的には、ムッターシャやザジの忠告に従って、間違っても死霊王たちに喧嘩を売らずにこの窮地を乗り切りたいな。

 こちらの審査に満足して貰って、平穏無事にここを抜け出せたら万々歳だ」


 紗良の用意した朝食を食べながら、慣れない外観の室内で所在なさげな護人の言葉に。子供たちも、それが出来たらいいんだけどねと自信は無さげ。

 唯一、根拠のない自信の塊の末妹は、任せておいてよと元気な笑顔を浮かべている。この古城の客室にも適応しているようで、朝から動画まで撮影している始末。


 特に、メイドの幽霊が客の相手をしようと、近付いて来た時の盛り上がりと来たら。一緒に映ってよと無茶振りまでかまして、一緒にピースしてノリノリな一部の子供と幽霊である。

 ちなみに、本当に来栖家チームは客人扱いされているみたいでその点は安心出来るかも。隣の部屋に押し込まれている、5人組の『チーム白狸』も同じく丁重な扱いを受けているそうだ。


 とは言え、食べる必要のない幽霊のメイドは、こちらの食事の用意などする筈もなく。用意が出来たら王の間に来てくださいと、慇懃いんぎんな口調でメッセージを繰り返すだけ。

 取り敢えずだが、そんな半幽閉ゆうへい状態の中で聞き出す事に成功した情報が幾つか。他の失踪したC級3チームだが、どうやらこのリッチ王とその友人の遊戯ゆうぎに巻き込まれて全滅してしまったらしい。


 つまりは2つのダンジョンは既にこの城の地下に存在し、それぞれ7層構造とまで分かっているそう。そこの大ボスを討伐出来れば、晴れてこちらの勝利なのかも知れないし違うかも。

 完全にボスを倒してしまって、相手の逆鱗げきりんに触れる可能性も大いにある。要するに、彼らのルールはとってもあやふやで掴み切れないのだ。


 そこに乗じて、香多奈が勝手にルールを押し付けてしまったのは、実はなかなか良いアイデアだったかも。少女の言い分は、2つのダンジョン査定を来栖家チームが担いましょうって提案である。

 それがスンナリ通ったのは、何と言うか向こうの聞き分けの良さに起因している気も。つまりは、暇潰しさえ出来れば内容は何でも良いと思っているのだろう。

 それこそ、少女の唐突な我がままを聞いてしまう程に。


「それじゃあ、今日の予定としては……ええっと、午前中にリッチ王のダンジョンに潜って、余力があれば午後から冥界王のダンジョンに潜る感じかな?

 そこで子供たちは査定を行って、その結果を2人の王に発表すると」

「その後に、張れてお役御免ごめんとなってくれればいいけどね。向こうの宮島のチームと一緒に、地上に戻してくれれば救助依頼は一応成功だねっ」

「大丈夫だよっ、向こうの王様と友達になればいいんだからっ」


 そんな末妹の明るい打開策に、周囲の面々は呆れた表情。いやまぁ、それでこの窮地を乗り切れるのなら、全然末妹に任せて構わないのだが。

 不安なのが、種族の違いによる向こうの感じ方、それから考え方だろうか。特に香多奈はたまに突飛な行動を起こすので、それで周囲の大人に怒られる事がよくあるのだ。


 考えて見れば、来栖家チームの面々どころか、この周辺の住民の皆さんの命運をこの少女は握っているのかも。そんな緊張感は微塵みじんも感じさせない香多奈は、現在は一生懸命にポイント表を作っている所。

 どうやらダンジョン査定の話は本気らしく、その査定で評価するポイントを考えているらしい。例えば難易度とか宝箱の配置だとか、サプライズ度とかそんな感じ。


 特に末妹的には、宝箱の数や中身とサプライズ度は外せないらしい。後はオリジナル性かなぁと、何とか5項目はひねり出そうと奮闘中の模様。

 妖精ちゃんもそれに参加して、チームの危機だと言うのに何だか楽しそう。それは別に良いのだが、こちらも真剣になるのが馬鹿らしく感じてしまう護人である。


 姫香も同じく、楽しそうな妹に批判的な視線を送りつつ。ハスキー達を撫でながら、朝のペット勢の体調チェックをしてくれている。

 恒例の朝のマラソンは出来なかったけど、探索前にこの位はしておかないと。紗良も鞄の中のあり合わせで家族の朝食と、それからお弁当を作ったりと大忙し。




 そうこうしていると、この古城の王の使いのメイドが部屋へとやって来て、さっきの騒ぎとなった訳だ。向こうの王たちも、どうやら獲得した駒の休息は充分とみて、そろそろ役割を果たせとの催促らしい。

 まぁ、そんな案内メイドもゴーストで、向こうが透けて見えるのが何ともアレなのだが。とにかく探索準備の終わった来栖家チームは、昨日の謁見えっけんの場ではなく地下へと案内された。


 この古城にも窓はあるけど、外は暗闇で上の階も地下もあまり関係はない気はする。それでもダンジョンの入り口は地下にあるそうで、メイドは軽快な足取りで一行を案内してくれる。

 メイドはゴーストなので、足は無くて浮遊しながらの案内である。災害クラスの死霊王の2人は、ダークオーラ全開で地下へと続く階段前で待ち構えていた。


 ――待ちびたぞ、勇気ある英雄チームの者どもよ。さて、それではお主たちの申したやり方で、我らが手掛けたダンジョンに挑んでみよ。

 ただし、最後のボスを倒しても、ダンジョンコアは壊さぬようにな。

「えっ、それはズルいよっ……探索者はね、コアを見付けたら壊すモノなんだからねっ! 壊して欲しくなかったら、代わりに何か貰うからねっ!」

「こ、これっ、香多奈っ……!」


 慌てる護人だが、昨日から議論で押されっ放しの死霊王2人は、どうしようとお互いに内緒話モード。それから、せっかく持ち寄ったコアが壊されるよりはと、何と少女の言い分がすんなりと通る流れに。

 香多奈の口を後ろから塞いでいた護人は、その話の流れにマジかと呆気にとられた表情に。良いアイテム用意しておいてよねと、飽くまで強気の末妹である。


 姉達もそんな香多奈の言動を、いさめるべきか考え中の模様。護人も同じく、何しろ昨夜の異世界チームからの通信による忠告は、自身の推測を裏付けるのに充分過ぎていた。

 つまりは、この死霊軍の王の実力は一介の探索者チームがとても敵うモノではないと。異世界のモンスターにも色々と区分けがあるけど、彼らのランクはたった1体で国が亡ぶレベルらしい。


 幸いにも、異世界チームは無事に“太古のダンジョン”を帰還済みとの事である。こちらの事情も協会に通達してくれるとの事で、新たな失踪チーム扱いにならずに済みそう。

 いや、任意で戻れない点では失踪と言えなくも無いのだが。前向きに新たな探索依頼を、異界の領地の王から貰ったと考えればそんな考え込む程でもない?


「そうだよね、思い悩んでも仕方ないしね……取り敢えずは目の前の任務をみんなで片付けて、無事に探索から戻って来る事を目標に頑張ろうっ!

 幸いペット達も体調は万全だし、A級ランクのダンジョンでもへっちゃらだよっ」

「まぁ、A級ランクのダンジョン程度なら、過去にも10層以上の間引きを行った事もあるからね。問題は、その後に起こるかもしれない災厄の方なんだが。

 今の所は、香多奈に頼るしか無いってのが何ともだなぁ」

「全くそうだよ、護人さんの言う通り本当にナンともな状況だよねっ」


 そんな子供たちの呟きは、幸いにも死霊王たちの耳には入らなかったようで何より。そして古城の暗い地下にある、2種のダンジョンゲートを見ておおっと驚く一行。

 それは意外と大きくて、普通の奴より活きが良さそうな印象だった。出来たばかりとの話だが、果たして本当に7層で収まってくれているのやら。


 その入り口で、香多奈がさっそく自分で作った採点基準の説明を始めた。それを大人しく聞いている2体の死霊王は、ムッターシャの言う災害級にはとても見えない。

 その基準点は合計で5つ、1つ目はダンジョンの適性難易度を見るそうな。それにはモンスターの強さや、宝箱の配置やらも含まれるとの事。


 次にオリジナル性、50以上のダンジョンを制覇して来た来栖家チームは、その点には厳しいらしい。いや、末妹の言ってる事なのだが、何だか護人も思わず納得してしまいそうに。

 3つ目はダンジョンの魅力度だそうで、それには金銭的な意味も含まれるそう。それはアンタの採点は厳しいわねと、姉の姫香はすかさず茶々を入れている。


 それはともかく、4つ目はサプライズ度を見るとの末妹の宣言である。ビックリするような仕掛けがあれば、探索も楽しくなると言うモノ。

 それはどうかなと護人は思うのだが、香多奈にとっては重要らしい。そして最後の5つ目は、総合的な魅力で、何度も訪れたくなるようなダンジョンかどうかを見るそうだ。


 それを聞いた2体の死霊王は、ひそひそと会話をこなしてそれでオッケーとのサイン。何となくホッと胸を撫で下ろす一同だが、実はまだ何も始まっていないと言う。

 そう、これから死霊王たちが造った推定A級ダンジョンを、命を懸けて挑まねばならないのだ。まずはリッチ王“常闇王”ダァルの手掛けたダンジョンへと、午前中いっぱいで挑む予定。


 時間があれば、その後に2つ目のダンジョンに挑む予定ではいるのだが。無理はしたくない護人がこんなプランを提示したのは、もちろんこんな死霊軍の拠点に長居したくないからに他ならない。

 末妹の香多奈はお気楽で、ゴーストに友達が出来たとメイドのヘスティアとお喋りしている。本当に呑気である、こちらは生きた心地がしないと言うのに。

 ただまぁ、意外と死霊王のお2人さんはフレンドリー。





 ――それが末妹の交渉能力の賜物たまものだとしたら、末恐ろしいのは香多奈の方?






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