第772話 中ボス戦と初ガチャとを両方楽しむ件



 4層はそれ以上の盛り上がりは無く、ゲートへと到着する事が出来た。コインの追加ゲットも無く、5層へと侵入を果たして探索を再開の流れに。

 ここまでまだ2時間程度で、フィールド型にしては好調過ぎる道のりである。このまま中ボスを撃破して、昼食コースが理想ではある。


 コインは何枚かゲットしたけど、宝箱は無かったねと不満そうな末妹。それを含めて、ガチャで良品を当てれば良いじゃんと、姫香は至って呑気な物言いである。

 それもそうだねと、すぐに機嫌が回復する香多奈もかなりアレな性格には違いない。そんな事を話し合いながら、進む第5層も涸れ谷エリアは続いている。


 曲がりくねってはいるけど、前の層と構造的にはほぼ変わらないこのエリア。ついでに敵の編成も、そこまで変化はなくロックやワームがぼちぼち出現。

 追加で回収出来てしまったワーム肉に、再び長女の紗良も微妙な表情に。捨てる訳にも行かないし、どうやって処理すべきかと頭を悩ませているに違いない。


 或いはハスキー達なら、美味しく頂いてくれるかもだけど。家族の一員に、ゲテモノを勧めるのも至って心苦しく感じてしまう紗良である。

 それなら、異界の隠れ里のドワーフ親方のお土産にすればと、香多奈が妙案をひねり出してくれた。それは良いわねと、つい乗っかる紗良は意外と正直者なのかも。


 それはともかく、前衛陣はいつの間にか曲がりくねった涸れ谷を進んでその突き当りへと到着していた。自然界では存在しない奇妙な形の終着点には、円形にくびれた水溜まりが。

 そこも水と言うよりは、浅い泥沼のエリアで待ち構える中ボスもバッチリと確認済み。どうやら従者も数匹いるようで、ここでも熱い戦いが期待出来そう。


 それよりガチャはどこだろうと、せっかちな末妹はお楽しみを捜す素振り。敵の処理が先でしょと、姫香は中ボス戦には参加表明の素振り。

 ハスキー達も心得たもので、ボス戦くらいは譲るよと太っ腹な所を見せている。とは言え、道中の獲物は全部彼女らが平らげたので、公平とは言い難い気も。


「それじゃあ、中央の大きなタニシキメラは私が貰うねっ。周囲の大タニシとか大アメンボは、みんなで倒しちゃっていいからね!」

「コロ助と茶々丸は、これ以上泥んこにならないでねっ……本当にもう、ヤンチャで困っちゃうよ。後できれいに洗うのは、私達の役目だってのに。

 まぁ、既に手遅れな状態ではあるよね」

「そうだねぇ、出先だからお湯の手配が難しいのに、こんなに汚れるとは想定外だわねぇ。でもキャンピングカーに入る前には、しっかり綺麗になって貰わないとねぇ」


 そんな戦闘とは関係ない心配をする紗良と香多奈は、自分のチームが勝つのを信じて疑っていない。何しろここはC級ランクである、手古摺てこずるとすら思っていない節が。

 そんな雰囲気の中、中ボス戦の戦いの火蓋ひぶたは切って落とされた。ちなみに中ボスは、大タニシと水カマキリとタガメの蟲キメラだった模様。


 かなりのサイズ感で、水カマキリとタガメの鎌が厄介に思える敵ではある。ところが姫香は、のそのそとしか動けない中ボスをあなどって無造作に近付いて行く。

 そして『天使の執行杖』を大鎌モードに展開して、一薙ひとなぎで胴体を切り裂いて行った。中ボスも4本腕の鎌を振り回すが、かすりもしない姫香の動きはさすがである。


 結局は、そのままの勢いで完勝を収める剛腕の姫香であった。フォローしようとスタン張っていたツグミも、出る幕が無くてアレっという表情を浮かべている。

 その間にも、残りの面々は周囲の泥沼を移動していた敵たちを次々と撃破に至っていた。遠隔攻撃を行う護人を、ムームーちゃんもお手伝いして予定より素早い殲滅振りに。

 末妹は大喜びで、さぁガチャを捜そうと大張り切り。


「それより先に、宝箱とゲートが一番奥の浮き島にあるな。一応、泥沼のふちを歩いて行けば、泥まみれにならずにあの島に辿り着けるみたいだね。

 うん、宝箱の横に置かれているのが噂のガチャ機なんじゃないかい?」

「えっ、あんなに小っちゃいサイズなのっ!? だって、大きな景品とか入ってたら、どうやって交換すればいいのよっ。

 交換券だけ入ってて、交換場所は別にあるのかなっ?」

「どうだろうねぇ……あっ、姫ちゃんがまたコインをゲットしたって手を振ってるね。さっさと向こうに渡って、姫ちゃん達と合流しよう、香多奈ちゃん」


 紗良にそう促された末妹は、急ぎ足で一足先にゲート前へと辿り着いた前衛陣の元へ。紗良も急いで合流して、ペット達の怪我チェックを始めている。

 それから長女は、泥んこのコロ助と茶々丸にしかめっ面を見せるが効果は無し。その隣では、姫香がスキル書と鬼のコインが4枚回収出来たよと報告して来ている。


 他の雑魚からは魔石(微小)くらいしか回収出来なかったようだが、中ボスのドロップはかなり良かった模様。上機嫌の姫香は、これでガチャ引こうと香多奈と同じテンション。

 その前に宝箱にも、コイン入ってるかも知れないよとの護人の言葉に。素直な姉妹は、揃ってそれもそうだねと宝箱チェックを始める始末。


 結果、中からは鑑定の書や薬品系が3種類に魔玉(水)が4個、木の実も5個と平凡な並びのみ。ただし、甲殻素材に混じって巻貝の通信機が1セット出て来てくれた。

 こちらは協会が50万円以上で買い取ってくれるので、当たりの類いである。来栖家も今は8セット程所有しているので、ギルド財産にしても良いし売っても良い。


 他には目立ったものは入っておらず、お目当てのコインも見付からず仕舞い。残念だねと口にする姉妹は、それじゃあガチャを回そうかと切り替えも早い。

 その肝心のガチャ機だが、末妹が文句を言う程度には小型だった。と言うよりは、駄菓子屋のお店の前にひっそり置かれている、百円で回せるあのタイプである。


 それが2種類並んでいて、どうやら護人が聞いた説明は合っていたらしい。つまりは、1枚で回すタイプと3枚でしか回せない高級タイプが並んで置かれているみたいだ。

 中身の景品を覗き込む姫香と香多奈だけど、色のついたカプセルの中身は判然とせず。取り敢えず3枚ガチャを回そうと提案する姫香に、末妹はミケさん来てと幸運の招き猫を呼び寄せて万全を期す構え。


 それを聞いた紗良が、ミケを肩に乗せて合流して来てくれた。それからコインを眺めて、鬼と竜と幽霊コインの枚数を数えて2回引けるねと告げて来る。

 それじゃあ、1回目は私が回すねと遠慮のない香多奈の宣言。それを横取りするのも大人気ないので、敢えてスルーの姫香である。


 香多奈は慣れた手つきで投入口に3枚のコインを差し込んで、レバーを勢いよく一回転させた。出て来る商品を楽しみに待つ子供たちの前に、例のカプセルが勢い良く転がり出て来る。

 それは色付きの、子供の手にスッポリ収まる大きさのカプセルだった。それを見て、明らかにガッカリした表情の末妹。何しろこのサイズでは、魔石か魔玉くらいしか入っていそうにないのは明白である。


 ところが、香多奈が蓋を開けた途端に、転がり出る数々のアイテムたち。どうやらカプセル自体が魔法の鞄みたいな空間収納仕立てだったようだ。

 それに驚き、声をあげる面々である。


「うわっ、ビックリしたっ……こんな小さいカプセルなのに、空間倉庫の魔法アイテムなんだっ! 出て来たアイテムより、そっちの方が凄いかもっ?」

「確かに……ちなみに、入ってたのは薬品と魔結晶と巻物だけだね。見た事ある奴ばっかりで、これは外れなんじゃないの、香多奈」


 外れかぁとガッカリする少女に、妖精ちゃんも散らばった品を眺めて外れだナと無慈悲に宣言を下した。巻物は『帰還の魔方陣』らしいが、綺麗な瓶に入った薬品は硬化ポーションや上級ポーションらしい。

 魔結晶も小サイズが7個で、金額的にはまずまずだがパッとしない結果には違いない。ミケさんが仕事をしなかったねと、何故か末妹の恨みは愛猫へと向かう始末。


 そんじゃ次は紗良姉さんが回してよと、ミケの能力を信じて疑わない姫香の発言に。残り1回の権利を譲って貰った長女は、ミケを肩に乗せた状態でガチャ機を操作する。

 そして出て来たカプセルを、ヨイショと開封した途端に。転がり出て来たのは、見事なサイズの魔結晶が3個……当たりだナと、何故か不満げに呟く妖精ちゃん。


 魔結晶(特大)は、サイズにもよるが軽く百万円で取引される。それが3個は、確かに大当たりの部類には違いなさそう。当のミケは、転がり出た魔結晶に全く興味はなさげでそっぽを向いている。

 それでも凄いを連呼する末妹の中で、ミケの株は爆上がりの様子。


「凄いのは分かったから、この後はちょっと検証しようよ。そんな訳で、1枚ガチャの方も何回か回していいかな、護人さん?」

「えっ、そんなの勿体無いよっ……コイン3種類揃えて、大物のガチャ狙った方が良くない、姫香お姉ちゃんっ!?」

「でもまぁ、1枚ガチャでも良いアイテムが出て来る可能性もあるかもだしな。確かに検証は大事だと思うぞ、香多奈」


 そう護人に取り成されて、それもそうかと納得する末妹であった。そんな訳で、余った鬼と幽霊の柄のコインを使用して、1枚ガチャを2回ほど回す流れに。

 結果、それぞれ出て来たのはスキル書が1枚と、魔玉詰め合わせ10個セットと言う。スキル書はまずまずの当たりだが、魔玉詰め合わせは外れである。


 検証の結果としては、やはり大当たりを狙って3枚ガチャを狙う方が良いみたい。そう話し合いをしながら、そろそろお昼と言う事で中ボスの間でお昼休憩をする流れに。

 そんな訳で、いつもの紗良の先導で設置されて行く椅子やテーブルセット。




「でもやっぱり、人気が出る理由は分かるよね、この“太古のダンジョン”って。ガチャで運が良かったら、本当にイッパツセンキンなダンジョンだよねっ!」

「香多奈ちゃん……それを言うなら、一攫千金いっかくせんきんの方だよっ。一髪千鈞いっぱつせんきんは極めて無理な事って意味だから、逆の意味になっちゃうよ」

「そうなんだ、何か語感に違和感があると思ったら……まぁ、一発で大金を獲得するって意味なら、香多奈の四字熟語でも合ってるよね。

 だからまぁ、そんなに目くじらを立てないでも……目くじらってナニ、紗良姉さん?」


 そんな他愛のない会話をしながら、食後の寛ぎタイム。ハスキー達も末妹からおこぼれを貰って、満足そうに家族の周囲に寝そべって休息中。

 ちなみに、目くじらを立てるの“目くじら”は目尻という意味でクジラとは全く関係が無いそうだ。何だ残念と言葉を漏らす末妹は、明らかに凄い大仰おおぎょうな意味を期待していた模様。


 目元から大物は発掘出来なかったけど、ガチャ機は熱いよねと香多奈は未だに熱が冷めないみたい。確かに一攫千金だったよねぇと、紗良も正しい用法を末妹に教える素振り。

 6層からも張り切ってコイン集めだよと、当初の目的をすっかり忘れた子供たちの発言はアレとして。護人もここまでの道のりで、何の発見も出来ず半ば諦め模様である。


 ひょっとしたら、5層の宝箱から遺品が出て来るかなと構えていたけれど。失踪したC級探索者チームは、どうやらもっと上の層にまで足を延ばして行ったらしい。

 それは予想でしか無いけど、恐らくは確定の事実だろう。このガチャ要素と言うのは、何と言うか人間の欲望を刺激する要素が満載なのかも。


 それにうっかり誘い込まれて、失踪したチームは深い層へと潜って行った可能性はとても高い。それで実力不足で、敵の群れだか罠の仕掛けで全滅に追い込まれた?

 シンプルだが、そう考えるのが一番しっくり来る。





 ――欲のかき過ぎは良くない、探索者の自制心に期待は出来ないとしても。






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