第771話 失踪したチームを捜して階層を下る件



 2層の探索では、それ以上のコインの回収は無し。いや、本当は失踪事件の手掛かりの発見の方が重要なのだけど。ツグミは何も反応せず、この層も20分で次のゲート前へと到着してしまった。

 そんな訳で、今度はこちらからザジ達へ通信を飛ばしてみる香多奈である。ご機嫌にコインを回収出来たよと告げると、さすがに手掛かりを探せとザじに怒られる始末。


 当然だねと呟く姫香は、末妹から通信機を奪い取って簡潔にゲートに到着と手掛かりなしの内容を告げる。ペット達は休憩中だが、敵の弱さもあってMP回復ポーションの補給を欲する者は今の所おらず。

 向こうも似たようなモノらしく、ただしダンジョン内は遺跡エリアだとの事。なので見て回る支道も自然と増えて、時間がこっちより掛かりそうとの話である。


 その点は皮肉かも、こちらはフィールド型なのに涸れ谷の進行ルートはほぼ1本道なのだ。恐らくは、ここを進んだ2チームもこの道順を外れる事はしなかった筈。

 余程の難敵に追われたとしても、この両側の壁を駆け上がるのは至難の業だろう。そんな逃亡ルートを選択されると、こちらとしても手の施しようはない。


 何しろダンジョン内は、自浄作用で前に入ったチームの痕跡などほぼ探しようが無いのだ。ハスキー達の鼻が幾ら良くても、向こうからヘルプコールを発してくれない限りは難しいかも。

 だから、もし失踪したチームを発見出来るとしたら、彼らが叫んだり信号を発する場合だろう。ハスキー達はもちろん耳も良いので、そんな遠くの音も拾ってくれる筈。


 そんな一縷いちるの望みに賭けての、護人としては救出依頼の遂行だったり。協会側も恐らく、10日以上も経過した探索歴の浅いチームの生還など考えていない気がする。

 それでも周囲に、一応の捜索はしましたよとお披露目しないと体裁がつかないのだろう。組織ってそう言うモノ、探索者協会も同じだと思われる。



 そんな事を護人が考えている内に、3層の探索は始まっていた。ここも乾燥したエリアだが、幸いにも日差しはそんなに強くなくて過ごしやすい気候である。

 何よりだけど、敵はちゃんと出て来て気が抜けない。そして毎度のワームが、今度はワーム肉をドロップ。コインじゃないのかとガッカリする末妹と、お肉に微妙な顔色の長女。


 長女の紗良としては、素材を無碍むげにするのは勿体もったい無い精神が働くらしい。とは言えワーム肉などゲテモノである、かつては昆虫色が確かに流行はやったとは言え。

 などと議論していて、足を止めていたのが或いは不味かったのか。上空からワイバーンが飛来して、果敢にも一向に襲い掛かって来た。


「わっ、ワイバーンが出たよっ……だけど、そんなに大きくないねっ。いつもの半分くらいのサイズかな、さすがランクの低いエリアだねっ。

 ルルンバちゃん、小さい分攻撃は当て難いかなっ?」

「ふむっ、2匹いるな……どれ、1匹は俺が撃ち落とそうか」

「了解、一応地上で備えてるねっ」


 姫香がそう言って、後衛陣を護る位置へとついての防御態勢に。ミケは特に反応なし、頭上を飛ぶ小型ワイバーンを雑魚と認定したのかも。

 そしてルルンバちゃんが今回使う魔銃に込められた弾丸は、この前に回収した『魔玉弾丸製造機』で試しに紗良が作ったモノ。溜まっていた属性石の有効利用にと、3ダースほど製造してみた感じ。


 今回の探索も、“鬼の報酬ダンジョン”に引き続き、新装備や新スキルを積極的に使って行く方針である。じゃんじゃん使っていいよと言われているので、ルルンバちゃんも遠慮は無い。

 そして相変わらず、その射撃技術はスキル持ちの護人並みに正確なAIロボである。3連射の全てが小型ワイバーンをとらえ、見事に撃墜に至った。


 一方の護人も、こちらも安定の『射撃』スキルの披露で残ったワイバーンを射止める事に成功する。それを確認して防御の構えを解く姫香と、すかさずドロップ品に駆け寄る末妹。

 今回もコインが落ちたよと、魔石と一緒に回収した香多奈は嬉しそう。それを覗き込む姫香だが、デザインがさっきのと違うねと口にする。


「ああ、このダンジョンでドロップするコインは、全部で3種類あるそうだね。3種のコインを集めて回すガチャの方が、当たる景品が豪華みたいだよ。

 1種だけだと、そこまでじゃないみたいな事を支部で聞いたかな?」

「そうなんだ、このコインのは竜のマークみたいだね。さっきの奴は、確か角の生えた鬼の顔っぽい刻印があった気がしたなぁ。

 後1種類あるんだ、どんな敵が落とすんだろうね?」

「それより、ルルンバちゃんの魔銃の弾の威力、なかなかだったねぇ。属性の威力は控え目だったけど、体の大きな敵もちゃんと倒せてたし。

 これは引き続き、製造して行くべきかな?」


 コインの話で盛り上がる姫香と香多奈とは対照的に、ルルンバちゃんの手際を褒めながら冷静に新武器の性能を考察する紗良である。確かに5メートル級と言えども、弾丸3発で倒せた威力は凄いかも。

 護人も『射撃』スキルを使って、急所に当てて一撃で倒した手際は凄いけど。そもそもあんな小っちゃな弾丸で、何でそんな威力があるのと香多奈の素朴な疑問。


 日本は銃社会とは無縁なので、ビー玉程度の弾丸が手や足に当たっても、死にはしないだろうと思っている人も多い。ところが弾の威力にもよるが、銃と言うのは殺傷能力は高いのだ。

 ライフル弾ともなると、人体に当たった衝撃はかなりのモノとなるらしい。周囲の組織を破壊して、失血死に至らせるまで数分と掛からないそうな。


 博学な紗良は、その辺もちゃんと勉強して弾丸製造に励んだ模様である。そもそもレア種から回収した『魔玉弾丸製造機』は、対モンスター用の強力な弾丸を製造出来るようだ。

 今回と前回の探索で、試射した感じは紗良としては上々だった。大物モンスター相手でもちゃんと仕留めれる威力は、今後レーザー砲に頼らずに済みそう。


 レーザー砲は飽くまでも必殺技扱いだし、再び焼き付いたら修理も面倒臭くなりそうとの事。ドワーフ親方にそう言われ、今後の扱いも慎重にしようと家族会議でも決まった次第である。

 それに代わる強力な武器を得られたのは、チームとしても素直に喜ばしい。これによって、ルルンバちゃんも更に強力なユニットになった気が。



 そんな3層の探索だが、涸れ谷にも少しだけ水が残っているのが確認出来た。水溜まりと言うか、小さな池みたいな場所が右側の崖沿いに広がっている。

 そこに数匹の大タニシと大アメンボがいて、射程内に入ると水弾を放って来た。それを華麗に避けて、スキル技でお返しして行くハスキー達。


 スキルの撃ち合いは数分も掛からず終わって、水場の戦いも呆気なく制したハスキー軍団であった。そこからしばらく進むと、すぐに次の層へのゲートを発見。

 何とも順調過ぎる探索道中だけど、ここまでの道のりで他の探索者チームの痕跡は無し。ハッキリと断ずる事は出来ないけど、少なくともハスキー達は何も反応しなかった。


 護人の《心眼》にも、特に引っ掛かるモノは無し……他チームの痕跡など、今まで注意して視た事は無かったので何とも言えないけれど。

 とにかく、4層へと辿り着いた一行は、すっかり見慣れた涸れ谷を進み始める。例の如くにハスキー達が先頭で、恐らくは失踪したチームの捜索も行ってくれてる筈。


 なかなかにハードなのは分かっていたけど、間引きだけの探索の何と楽な事だろうか。記憶を辿たどれば、チームが分断されて家族をダンジョン内で探し回った事も過去に何度かあった。

 それを思い出した護人は、何とも嫌な感情に見舞われてしまった。ああ言う負の感情を抱いての探索は、何度も行うモノではないとハッキリ分かる。


「あぁ、そう言えば家族が分断されてダンジョン内を捜しまわった経験は、実は何度かあったなぁ。今まで忘れてたけど、思い出したら嫌な気分になったよ。

 あんな思いは、2度と味わいたくないよなぁ」

「そう言えば、この前の“魔獄まごくダンジョン”でも、ひどい罠ゲートの仕掛けに苦しめられたねぇ。

 意外と多いのかなぁ、そっち系の凶悪な仕掛けって」

「香多奈もこの前、捜索対象になった事があったわね、地元の“駅前ダンジョン”で。そう言われたら、私達のチームって意外と捜索案件を手掛けてると言えなくも無いのかな」


 そう言って首を傾げる姫香だが、香多奈は好きでダンジョンで孤立した訳じゃないと憤慨ふんがいしている。確かにあの時も、とにかく必死で末妹の救助に奔走した記憶が。

 ハスキー達の能力は、身内の捜索にはこれ以上ないパワーを発揮してくれていた。それは確かで疑いようは無いけど、赤の他人の捜索となるとはなはだ怪しい所。


 ぶっちゃけ、宝物を発見してからその中に遺品を見付けるってパターンの方が、有り難いまである。少なくとも人数分の遺留品を持ち帰れば、任務は無事に終了である。

 とは言え、2チームの全滅を願う程に来栖家チームの面々は落ちぶれてはいない。例えその内の1チームが、青空市で桃井姉弟にいちゃもんをつけて来た連中だとしてもだ。


 生きてさえいれば、ちゃんとダンジョン脱出の手助けをするのにやぶさかではない。チームが全滅していたら、それが無理だって話である。

 厳しいようだが、探索者ってそんな職業なのだ。



 そんな感じで4層を進んで行くと、再び水溜まりとなっている場所を発見した。水と言うよりは泥の池で、今度はそこから数体のマッドマンが出現する。

 そいつ等は人間サイズの泥人形で、いわゆる泥で出来たゴーレムモドキである。核を潰せば簡単に倒れてくれるけど、泥のせいで肝心の核が見付けにくいと言う。


 そいつと一緒に大タニシが数匹と、タニシとザリガニと水蛇のキメラが1匹出現した。ザリガニがメインのキメラは、とっても硬そうで厄介かも。

 それを受けて、張り切ってハンマーを咥えて突進するコロ助。泥んこになるのなんて関係ないぜと、泥沼で戦闘を始めてしまう。


 護人もムームーちゃんに魔法を頼んで、水の槍でマッドマンを射抜きに掛かる。この方法だと、泥を撥ね飛ばして核を発見するのがかなり楽になって便利。

 その核を、茶々萌コンビが破壊して行くと言う見事な連携を見せる。姫香も手伝って、泥沼前の戦いは、幸いにもこちらのペースで進んで行く。


 大タニシも同じく、レイジーが焼き殺したりツグミの『毒蕾』で弱ったりと良い所は無い。硬い殻に水の弾の射出で、本来は動く砲塔みたいな厄介な敵なのに残念。

 そして泥んこになったコロ助も、それなりの成果をあげくれた。と言うか、甲殻キメラの装甲をマルっと無視して、完膚なきまでに敵を破砕していた。


 それなりに大きなサイズの敵だったのに、C級ランクの悲しさなのだろうか。コロ助も物足りないなって表情で、泥沼から戻って来た。

 ただし、甲殻キメラはコインを5枚もドロップしてくれた模様。ツグミが泥の中から回収してくれて、お礼を言って受け取った姫香は姉妹でそれを眺める。

 それは何となく、ゴーストのイラストの刻印に見える気が。


「えっと、イラストは竜と鬼とゴーストの3種類なのかな……一応は全種類集まったね、これで1回は3枚ガチャが回せるんだよね?

 楽しみだなっ、早く中ボスの間に行こうっ!」

「本当にそこにガチャあるの、護人さんっ? まぁ、退去用の魔方陣があるのが確認出来たら、随分と楽なのは違いないよね。

 確か、捜索依頼は今日と明日の2日だっけ?」

「そうだね、それだけ依頼料は弾んでくれるらしいけど、さっさと済ませて観光なり帰るなりにシフトしたいよな。

 異世界チームも、宮島の観光に興味を持ってたし」


 そうだよねと答える子供たちも、どうやら気持ちは一緒みたい。それは良いのだが、ここまで手掛かりは1つも見付かっていない模様。

 まだまだ探索は続くと思われ、その顛末は未だ不透明と来ている。





 ――そう思えば、ガチャに楽しみを見い出す位は許されるのかも?






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る