第770話 いよいよ救出活動を本格的に開始する件



「それじゃあ、この右のゲートに私達は進むからねっ! えっと、巻貝の通信機は協会の人とザジ達に渡し終わってるし、もう進んでも大丈夫かな?

 さあっ、頑張ろうね……えっと、行方不明者の救出作戦!」

「そんなウキウキで言うセリフじゃないけど、まぁ頑張ろうか。B級チームの失踪が5日前らしいから、救出はギリ可能かもしれないしね。

 異世界+星羅チームなら、ザジの斥候能力があれば何か手掛かりを持って帰れるかな?」

「う~ん、日々更新されるダンジョンの中じゃ、人の通った形跡を探るのはかなり難しいかもニャ。でもまぁ、何か手掛かりが落ちてないか、精一杯頑張って見付けるニャ。

 不測の事態に備えて、お互いの連絡は密にするニャ!」


 そう真面目な対応を行うザジは、割と珍しくシリアスモード。おおっと感心する香多奈には、是非とも見習って欲しい所ではある。

 現在2つのA級チームは、弥山みせんの山頂の巨石群に出来たワープ通路を潜った所。そこはいわゆるゼロ層フロアらしく、目の前には色の違うゲートが8つ。


 ここが“太古のダンジョン”の入り口らしく、色の薄い方からC級~濃い方のA級となっているみたい。協会のスタッフから説明を受けた面々は、なるほどと等間隔で並ぶゲートを眺める。

 10日前後に渡る失踪事件は、どうやらその真ん中の2つで起きているとの話。そんな訳で、末妹の決定によって、右のやや薄い方を来栖家チームが潜る流れに。


 ザジ達も左のゲートで文句はないらしく、そんな訳でようやく“太古のダンジョン”の探索がスタート。失踪したチームが何層にまで到達したかも定かでないけど、追跡を頑張るのみ。

 来栖家チームとしては、ハスキー達の鼻が頼りの救出作戦ではある。協会の事務員の話では、こちらはC級2チームが失踪したゲートだとの事。


 B級チームは、直近で失踪した可能性の高いチーム救助を優先した模様である。つまり来栖家チームの方のゲートは、最長で10日前の失踪チームが出たエリアだ。

 かなり期待薄ではあるけど、実績と技術は圧倒的に異世界チームのメンバーの方が高いとの護人の判断である。ムッターシャも承諾してくれて、難易度の高さなど気にしない素振り。


 向こうのチームには、協会職員の土屋と柊木もいるし、いざとなれば《蘇生》スキルを使える星羅もいる。思えば贅沢過ぎる救助メンバー、是非とも手柄を立てて欲しいと護人は心から思う次第である。

 そして来栖家チームの面々も、とにかく頑張るぞと気合は充分っぽい。子供たちはいつもの通りだけど、ハスキー軍団も同じく期待されてヤル気マックス状態だ。


 そして家族で飛び込んだエリアだけど、何といきなりのフィールド型だった。これは苦労しそうと、周囲を見渡して文句顔を露骨に浮かべる香多奈である。

 とは言え、一応怪しそうなルートはあるねと姫香が涸れ谷を指し示す。それは幅は約10メートル、深さは4メートル程度の小峡谷だった。

 それが緩やかにうねりながら、大地の向こうまで続いている。


 肝心の大地はほぼ茶色で、まるで岩石砂漠みたいな味気の無さである。見渡す限りがそんな感じなので、何と言うか気分は飛行機が墜落した系の遭難者だ。

 そんな事を呑気に呟く末妹だけど、ハスキー達は勤勉に涸れ谷に沿って進めば良いと悟った模様。いつものように隊列を組んで、本隊に先んじて先行して行く。


 その辺は信頼して良いなと、護人も特に何も言わず天を見上げる。本当の砂漠なら、灼熱の太陽に焦がされて数分彷徨さまようのも命懸けである。

 ところがこのエリアは、そこまでリアリティを追求した感じは無さそうで何より。これなら子供たちに、日差しに注意しなさいと言わずに済みそう。


 ハスキー達も、毛並みが立派だけに強烈な暑さは苦手なのだけれど。このエリアはそこまで暑くはないようで、探索に大きな支障は出なさそう。

 そこに1層の敵が転がって来て、それに反応する前衛陣。どうやら岩の形状をしたロックと言う敵みたい、戦法はこの転がってのアタックがメインだった筈。


 とは言え、そこまで速度がある訳でもなく、コロ助の白木のハンマーでサクッと退治に至ってしまった。サポートのツグミの影縛りからも逃れられず、弱い敵認定は間違いなし。

 さすがC級ランクの入り口だねと、それを見ながら末妹の一言。


「うんっ、魔法のコンパスもこの先を示してるねぇ。敵も弱そうだし、どんどん進んでいいよっ、ハスキー達っ」

「アンタは3秒で任務を忘れるトリ頭だね、香多奈っ。救出任務なのに、サクサク進んでどうすんのよっ。

 何か怪しい仕掛けとか敵とか、そう言うのを捜すのが仕事でしょうが!」

「うん、確かにそうだな……例えば以前、俺たちが引っ掛かったトラップゲートがまず1つ目の候補だな。それにチームで引っ掛かって、別の場所に飛ばされて戻れなくなった可能性はあるな。

 それからレア種が出現して、強敵相手に逃げきれずにチームが全滅、または半壊した可能性もあるかな?

 C級チームなら、そう言うトラブルに対処し切れないってのはありそうだ」


 護人の推測を聞いて、なるほどと素直に頷く子供達。過去の経験が生きてるねと、どちらも引っかかった事のある身としては、この上ない仮定の推理に納得顔の姫香である。

 香多奈も同じく、ハスキー達に叔父の推理を説明して、そんな仕掛けを捜しておいでとの無茶振り。ハスキー達は困り顔ながら、頑張る姿勢は崩さない。


 罠系の察知なら、『探知』スキル持ちのツグミが頼りの綱だろうか。ちなみにその将来の相棒候補のヒバリは、今回も巣のような手提げ袋に入れられて探索に同行中。

 大抵は香多奈が袋を前掛けにして、一緒に探索してる感を味わっている。悪路だったり戦闘が長引きそうな時は、ルルンバちゃんの座席にお預けとなる場合も。


 そんなヒバリは、たまにピィピィと存在を主張して割とかまってちゃんな気質みたい。今の所は、グリフォンの高い戦闘能力は全く見られる気配は無し。

 せっかちな末妹は、ムームーちゃんを見習いなさいと先輩の軟体幼児を例に挙げて言い聞かせる素振り。それを言われると、かばうに庇い切れない護人ではある。


 何しろムームーちゃんの所持する魔法スキルの並びは、今や一流探索者もうらやむほど。MP量が少ないのがネックだが、炎や水や氷と属性も豊富である。

 最近は薔薇のマントの悪影響か、積極性も出て来てしまったこの軟体幼児。護人の肩の上をすっかり定位置にして、家族での探索も楽しんでいる様子である。


 そんな本人(スラ?)には、妖精ちゃんの手下と言う自覚はほぼ無い有り様。それは全く構わないし、ミケと喧嘩して貰っても困る家族としては有り難い限りである。

 それからアンタの妹だよと紹介されたグリフォンのヒバリも、異種族過ぎてピンと来ていない模様。それも全くその通りで、意外と常識を備えている異世界のスライムモドキである。


 とにかく、グリフォンのヒバリが戦闘参加するとしても、まだまだ先なのは間違いない。世界樹にんでいた好奇心旺盛な精霊が、来栖家にかれてついて来たと妖精ちゃんは語っていたけど。

 さて、その後の共同生活はどうなって行く事やらである。




 末妹の無茶振りはともかくとして、探索そのものは順調に進んで次のゲートが見えて来た。この層に出現したのは、ロックの他はワームや大蟹モンスターくらい。

 移動時間は20分程度で、ハスキー達に言わせると怪しい仕掛けは無かったようだ。護人や姫香も気を付けて見ていたが、特に気にかかる点は無し。


 もっとも末妹は、宝箱が無いかばかりを気に掛けていたみたい。まぁ、そちらも失踪者の遺品が入ってる可能性があるので、大事には違いない。

 とは言え、幾らC級探索者でも1層や2層程度で全滅は考えにくい。そんな訳で、一行は発見したゲートを潜って次の層へと向かう事に決定。


「あっ、ザジ達のチームから通信が来たよっ、叔父さんっ。ちょっと待ってて、お話しするから……は~い、もしもしっ。

 そっちの調子はどんなっ、こっちは順調だよっ!」

「だから探索の調子じゃなくて、捜索の事を話しなさいよ、香多奈。通信係は、紗良姉さんがやった方が良いんじゃないの?」

「えっ、でもこう言うのも経験だからねぇ……意欲は買ってあげようよ、姫ちゃん」


 紗良としては、こういう役割は経験して上手くなって欲しいとの事らしい。回数をこなせば、要領も良くなって上達して行くだろうとの説明なのだが。

 姫香の方は、軽い性格の末妹をそこまで信頼していないのがアリアリである。とは言え、短い通信はそんな会話の間にも終了となっていた模様。


 それから香多奈の報告は、向こうも2層に到着して何も不審な点は無かったよとの簡潔なモノ。それを聞いた護人は、5層辺りまでは何も無いかもなぁと推測を述べる。

 それでも一応は、用心して進むのはチーム方針としては変わらないよと。リーダーが一行に改めて告げての、2層の探索の開始である。


 その2層も涸れ谷と岩石砂漠の景色は変わらず、全く寂しい風景である。今度のスタート地点は涸れ谷の底なので、壁が邪魔して見通しはあまり良くはない。

 見渡す限り茶色の光景は、緑が豊かな山の上育ちの身としては寂しい限り。そんな事でダンジョンに文句も言えない一行は、ただひたすら前進するのみ。


 立ち塞がる敵は相変わらず雑魚ばかりで、ワームが少々驚かし役かなって程度。突然壁や地面から飛び出て来るのだが、体長は4メートル程度でそこまで大型って訳でもない。

 ハスキー達もそこそこガタイが良いので、奴らのおちょぼ口では丸呑みは不可能だろう。それでも消化液の散布は怖いので、ハスキー達はスキルでバッチリ遠隔で始末している。


 転がる岩のロックに関しては、完全にコロ助と萌が倒す役割となっていた。萌も魔法の鞄を渡されており、その中にはしっかりハンマー系の武器が入っているのだ。

 半人半竜の姿の萌は、意外に小柄だけど膂力りょりょくは人の何倍もある。そこは腐っても竜と言うか、レベル30超えの実力の持ち主である。

 C級ランクの敵など、ほぼ一撃で粉砕出来てる頼もしさ。


「あっ、今度はカメ型の敵が出て来たね……さっきのカニと言い、水際にちなんだ敵が出て来るのは何でかな、叔父さんっ?」

「何でだろうな、ここが元は川だったからかな? 涸れ谷って、外国では確か雨期になると川の流れが復活するんじゃなかったっけ?

 それも意外と凄い量で、その水の流れでこんな感じの谷が出来るんだそうだよ」

「へえっ、そうなんだ……でもあれ、しっかりカミツキガメだね。カメってのろまなイメージあるけど、噛む瞬間の素早さは厄介だよねぇ。

 あっ、レイジーがしっかり首をねてくれた、さすがっ!」


 この層から出現の大カメを華麗に倒した一行は、少し進んだ場所で岩ゴーレムと遭遇した。これまた初対面のこの敵は、体長2メートルと割と強そう。

 とは言え、動きはカメ以上にノロくて、コロ助と萌のハンマーで簡単に粉砕されて行った。そして魔石と一緒に、何かのコインを1枚ドロップ。


 何だろうと興味を示す子供たちだが、護人は協会の職員に説明を聞いて知っていた。ここの“太古のダンジョン”は、敵のドロップや宝箱からまれにコインが回収出来るそうで。

 それを使ってのガチャ要素があって、それがこのダンジョンの異様な人気の1つらしい。何しろガチャである、外れも当然あるけど当たりも混ざっている。


 それを聞いた香多奈は大興奮、さっそく回そうよと叔父に強請ねだるもガチャ機は周囲には無し。それが存在するのは、中ボスの部屋のみとの噂である。

 こうしちゃいられないと、すっかり最初の任務など頭の隅に押しやる末妹の発言に。呆れた様子の姫香だが、その気持ちは良く分かる。

 何にしろ、何かの痕跡を求めて来栖家チームも進むのみ。





 ――“太古のダンジョン”探索、もとい救出作戦は始まったばかり。






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