第768話 思いがけず(?)宮島方面から依頼が来る件



 秋も段々と深まって、朝夕の涼しさも肌寒さにまで感じるようになって来た10月。山の上の生活は、秋植えの野菜も既に植え終わって一息ついた感じ。

 サトイモやサツマイモの収穫もぼちぼち終わって、収穫した柿や柚子の処理をどうしようかと話し合っている所。サツマイモ掘りも、家族どころか近所総出で楽しみながらの一大イベントではあった。


 柿の収穫も同様で、今年もルルンバちゃんの飛行ドローン形態は大活躍してくれた。何しろ柿の木は背が高く、割と山の斜面に育っているのだ。

 それは栗の木も同様で、こちらも山の斜面を利用して来栖家の敷地内に何本か存在している。とは言え、売る程ではなく飽くまで家族で楽しむ程度である。


 それは柚子の木やらの柑橘類も同じく、ちなみにキウイの収穫はもう少し先の予定。週末もそんな農作業で忙しい来栖家だが、依頼は容赦なくやって来た。

 しかも協会の仁志支部長と能見さんの方から、わざわざ車に乗って山の上まで。地元のノリで両者の仲は良いので、護人としては呼び出されても何も思いはしない。


 とは言え、向こうはこちらを格上認定して、わざわざ足を運んで来た模様である。と言うか、A級ランクの探索者に無礼があってはいけないと思っている節もあったり。

 それはそれで悲しいが、礼儀としてはお願いをする立場は向こうである。真っ当な力関係をかんがみるに、別段おかしなところも無いのだろう。


 そんな来訪者に、子供たちはおもてなしに忙しく走り回って、特に何も思っていない様子。これでA級チームの権威をひけらかすようでは、護人としても頭を悩ます所ではあった。

 紗良は普段の通りに、お茶の準備と家の中でのお持て成し係で問題は無し。姫香に関しては、この間採った柿をお裾分けしてあげるよとお土産の準備に奔走している。


 香多奈も同じく、後で敷地内を茶々丸に乗っけて案内してあげるよと歓待モード。大人のお客は意外と山の上には来ないので、張り切る子供たちである。

 仁志支部長はありがとうと言いながら、末妹にお土産のもみじ饅頭を手渡す。それを目敏めざとく見付けた妖精ちゃんが、さっさと開けろと香多奈の頭に飛びついて来た。


「えっと、このもみじ饅頭には深い意味はあるの、仁志支部長? 何か最近、宮島方面で問題が発生してるって噂がネットでささやかれてるけどさ。

 わざわざウチまで来たって事は、そのお願いなのかな?」

「いやまぁ、実はその通りなんですけどね……さすが姫香ちゃん、鋭い推理ですな。実は救助依頼を受けたB級チームも消息を絶ってしまって、向こうの協会支部も困り果ている次第でして。

 そんな訳で、ウチの方にA級チームを紹介してくれって話が」

「へえっ、何か凄い事になってるんだぁ……叔父さんっ、妖精ちゃんがうるさいからこのお土産開けていいかなっ?」


 そんな感じで、リビングに通された客人の周りで騒がしい子供たち。真面目にお持て成しの準備をしているのは、紗良だけと言う有り様である。

 そして肝心の、協会の来訪目的が呆気なく判明してしまった。宮島に繋がった“太古のダンジョン”の現在は、実に4チームが失踪すると言う酷い顛末に。


 その内訳だが、まずは行方不明のD級チームが1つにC級が2チーム。それから救助依頼を受けたB級チームが、3日経っても戻って来ない事態との事。

 さすがにこれは洒落にならないと、広島の本部にも報告が上がったそうなのだけれど。広島を拠点にしている有名チームは、皆が県北レイド戻りでさすがにオーバーワークとの判定らしい。


 そんな訳で、同じ廿日市はつかいち市を拠点とする、ギルド『羅漢』か来栖家の『日馬割』に頼もうと言う話になったそうな。そしてギルド『羅漢』からは、B級チームの失踪を聞いて改めて拒否られたとの事。

 『羅漢』の森末は慎重な性格なので、その判断も何となく分かる護人である。ギルドも大きくなっているそうなので、たくさんのメンバーの為にも下手は打てないのだろう。


 一方の『日馬割』ギルドだが、来栖家チームが断ってももう1チームA級が存在する。土屋と柊木もB級なので、そちらに出向を願っても構わない。

 そんな訳での依頼のお願いだけど、子供たちは割と乗り気と言ういつものパターン。特に末妹は、宮島にもうでに行きたいと叔父を説得に掛かっている。


 その隣では、自分の身体サイズのもみじ饅頭をパクついている妖精ちゃんの姿が。それをホッコリしながら眺めている能見さんは、紗良から貰ったお茶でのどを潤している。

 護人の反論は、ウチのチームは今まで捜索依頼なんか受けた事など無いとの一点に尽きた。実績も能力も無いのに依頼を受けて、やっぱ無理でしたでは話にならない。


 ギルドの名も傷付くし、そもそも行方不明の人命にも関わる可能性だってあるのだ。“太古のダンジョン”に関しても、前に不慮の事故で入っただけで事前知識など皆無である。

 しかもB級チームが行方不明となると、洒落にならない事態の可能性が大きい。


「えっ、でも私達が不適切かって言われたら、そうでもないんじゃないかな、護人さん? だってウチのチームは“浮遊大陸”に知り合いいるし、ワープ装置で向かう事も可能だし。

 “太古のダンジョン”で手掛かりが掴めなかったら、上陸して探索も出来る訳だしさ。ムッターシャチームと星羅チームも誘って、土日にパッと行ってこようよ」

「あっ、“浮遊大陸”に行くんなら宝の地図も持って行かなきゃ! 向こうの知り合いって、魔導ゴーレムの皆さんの事だよね、お姉ちゃん。

 ルルンバちゃんの友達がいっぱいいて、凄い所だったよねぇ!」


 そう言ってはしゃぎ始める末妹に、頭を抱える護人であった。姫香の言う事は確かに筋が通っていて、まぁ他のチームには出来ない捜索方法かも知れない。

 ただし、土日でパッとは飽くまで希望的観測に過ぎないとも思う。休日の月曜を含めても、3日で行方不明の4チームを探し出すのは苦しい気も。


 とは言え、この被害を前に気が乗らないから行きませんとも言えない護人である。何より子供たちが乗り気だし、仁志支部長も既にホッとした表情になっている。

 なるべく、依頼料その他のサービスは、宮島の協会に吹っ掛けますねと語る支部長。A級2チームの出動となれば、確かに最高のお持て成しで迎えてしかるべき。


 そんな訳で、いつものように周囲から依頼の承諾を固められて行くのだった。幸いにも10月の3連休に、秋の宮島旅行だと子供たちに悲壮感は全く無い。

 仮にも行方不明のチームが4つも出たので、不謹慎だと怒られても仕方が無いのだけれど。受けませんと拒否られるより数倍マシなので、仁志は笑顔でそれを見守るのみ。


 それから詳しい事情や、改めて“太古のダンジョン”の入り口付近の情報を教えて貰う来栖家チーム。そこは弥山みせんの頂上から入るしかなく、ちょっとした山登りが必要らしい。

 ロープウエーが通っているので、探索者は大抵そちらを使うとの事。頂上に新たに宮島の協会支部が出来ていて、詳しい話はそちらでも入手は可との話である。


 とは言え、子供たちは困ったねぇと頭を寄せ合って思案顔に。異世界チームを誘うとしても、ルルンバちゃんとズブガジは間違ってもロープウエーに乗れそうもない。

 どうやって山のてっぺんまで運ぼうかと、確かにそれは大きな問題には間違いなさそう。自力で登って貰うにも、彼らの足でも麓から1時間は掛かるかも?


「それじゃあ、金曜日に前乗りして……2人には、朝早く出掛けて貰うとか?」

「それしか無いかもねぇ……まぁ私も乗せて貰って、一緒に登山ルートで登っても良いし。2台だけじゃ、迷っちゃわないか心配だもんね。

 金曜日の前乗りを含めて、それでいいかな、護人さん?」

「それは構わないけど、まずはムッターシャ達に話を通すのが先だろう?」


 向こうのチームが参加を前提として話が進んでいるけど、それはある意味失礼でもある。そう言うと、それもそうだねと元気に駆けて行こうとする末妹だったり。

 一緒に行ってあげるよと、姫香と能見さんも立ち上がる素振り。協会の人がついて行ってくれるのは、ある意味当然の話でもある。


 そうして向こうのチームが了承したら、これはもう本決まりとなってしまう気配。かくして、10月の次の週末の来栖家の探索予定は、呆気無く埋まってしまう破目に。

 しかも慣れない行方不明チームの救出作戦、かなりハードな週末になりそう。




 そうして、あっと言う間にやって来た週末の金曜日。香多奈が学校が終わると同時に、来栖家は海側へとキャンピングカーで降りる算段である。

 宿泊の準備は姉の紗良がバッチリ済ませてあるので、後は旅行……もとい、週末の救助任務を頑張るのみ。この任務には、お隣りの異世界+星羅チームも参加するとの事。


 そんな訳で、救助任務については随分と楽になりそうな予感が。2チームで潜るとなれば、8つのルートがあるとの噂の“太古のダンジョン”探索も何とかなりそう。

 まぁ、向こうの協会の話では、入って行ったゲートは3チームとも判明しているそう。それから救助に向かったB級チームも、同じくどのゲートに入ったか分かっている。


 それについては、当日になってまごつかなく済んで良い知らせではある。ムッターシャ達は、“浮遊大陸”のダンジョンと聞いて張り切っている模様である。

 ただしそれは探索についてなので、救出作戦を真面目にやってくれるかは疑問の残る所ではある。そこは一緒に同行する、土屋や柊木の協会職員に頼るしかない。


 実力については問題無いので、案外行方不明のチームの行方もゲットしてくれそうな期待感はある。特にザジなど、天性の勘と索敵能力はどの探索者にも引けを取らない。

 異界で揉まれた実力は本物で、それに期待するのも他力本願ではあるとは言え。来栖家チームは救出については素人なので、そちらに頼るのも致し方なしって感じである。


 或いはハスキー達に頼るとか、その位しか取れる作戦が無いのが辛い所。指名した協会側も、一体何を考えてるんだかって話である。

 A級だからって、万能な能力を有する訳では決して無いのだ。


「あっ、でも前に“車庫ダンジョン”で捜索の真似事はした事あったよね。確かあの時は、遺品を見付けてビックリ残念な結果になっちゃったんだっけ?

 今回は、ちゃんと生きてる人を助けられたらいいよねぇ」

「本当にね……でも最初の失踪から、随分と時間が経ってるそうだからねぇ。確か、最初の失踪チームが出たのが10日以上前だっけ。

 それでB級がインしたのが、依頼日から3日前って言ってたかな?」

「う~ん、それは随分と時間が経っちゃってるねぇ……無事だと良いけど、ダンジョンの中だから心配だよね。

 えっと、今日の夜は宮島の宿に泊まって、明日の朝早くに突入だっけ?」


 今は麓で香多奈を拾って、家族揃ってキャンピングカーで宮内串戸の方面へと山を下りている所。もちろんペット達も同伴して、明日の探索の準備もバッチリだ。

 カーゴ車にはルルンバちゃんの魔導ボディも搭載済み、それは後ろのムッターシャ達の運転する車も同じく。とは言え、今夜はゆっくりとお泊まりを楽しむ予定。


 その辺の宿代や持て成しその他は、宮島の協会が担ってくれるので問題は無し。宮島のフェリー乗り場で合流予定で、既に今夜の宿も予約してあるとの事。

 向こうもまさか、A級2チームが揃って来るとは思ってもいなかったかも。それでも変な噂が広まって、探索者チームに宮島から一斉に逃げられるよりは数倍マシな筈である。


 護人としては、この日程が無事に終わってくれれば言う事無しである。それでも、観光地の宮島に足を運ぶのは、ちょっとワクワクしないでもない。

 ムッターシャチームも喜んでくれるといいねと、子供たちは車内で呑気にお喋りをしている。地元の有名な観光地は、意外と足を向けないパターンの来栖家だったり。


 そんな訳で、家族揃ってフェリーで宮島に渡るのは、実は初の来栖家である。異世界チームも同じく、もっとも厳島神社がダンジョン化して、宮島も観光客が遠のいてしまった。

 それでも旅館やお土産屋さんは、根性で続けている所もあるとの話。山の生活以上に、島の生活は大変なのだ……それ故に、島民も気合いの入った人が多いのかも知れない。

 何にしろ、今夜の宿は楽しみな一行である。





 ――そうしている間に、護人の運転する車はようやく宮島口へと到着した。






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