第765話 “墓地ダンジョン”を見事攻略して昇格に至る件



 ツグミの心配とは裏腹に、新人ズの探索は至って順調に進んで行った。部屋の雰囲気を無視して明るい雰囲気の昼食後、再び洞窟タイプのダンジョンを進んで行く。

 ここは6層からのマイナーチェンジは無いようで、その点は惑わされずに済んでラッキー。ただし、やっぱり敵の強さは中ボスの部屋を超えて上がって来ている感じ。


 定番のゾンビやスケルトンの耐久力もそうだし、新たにカラスのゾンビなど気持ち悪いのも混じり始めた。コイツはちゃんと空を飛ぶし、隙あらば目ん玉を突こうと厄介極まりない。

 久遠も盾を上手に操って、そんな攻撃を華麗に防いでいる。今の所は何とか、6層の雰囲気にも耐えている新人ズの面々は上出来の類いかも。


 それは7層に到達しても同じで、6層以降も1層を20~30分ペースは変わらず。本道を進めば次の層への階段はあるし、支道は1層につき1~2本とパターンも同じ。

 そんな支道だが、初めてシャドウ族と相まみえた遼は驚き顔で良いリアクション。ツグミが存在を教えてくれた動く影は、攻撃力こそ低いけど特殊な敵には違いない。


 そいつは対象の影に潜んで悪さしたり、或いは精神に悪影響を与えたりと特殊なモンスターである。コアも小さいので、物理で倒そうと思ったらかなり大変だ。

 それでもやっぱり闇属性には違いなく、浄化ポーションの一撃でやっつけられてくれた。ついでに、壺の中にゴーストが潜んでいたりと、支道の仕掛けは賑やかになって来ている気が。


 とは言え、宝箱が置かれている訳でもなく、7層まで収穫の伸びはイマイチな感じ。それでも途中のゴーストから、魔石(小)の2個目をゲットして、意気上がる少年少女達である。

 それを温かい目で見守る、後衛に陣取る保護者たち。


「いいねっ、久遠のワントップでも意外と機能する気がするね、このチームって。まぁ、念の為にルルンバちゃんは、もう少し前衛にいて貰う予定だけど。

 どう、香織かおりさんっ……この成長いちじるしい新人チームはっ?」

「いや、うん……でもまぁ、まだまだ駆け出しのヒヨッ子たちだからなぁ。もう少し温かく見守って、丁寧に育てても良いのでは」

「土屋さんは、案外と過保護なんですねぇ……気持ちは分かるけど、過保護過ぎても子供たちの成長が止まっちゃいますよ?

 でもまぁ、3人だけのチーム編成はやっぱり心配ですねぇ」


 そうだろうと物凄い勢いで同意する土屋女史に、それなら今度は双子を誘って5人チームが良いかなと姫香の返し。幸いにも、年齢も近いし龍星りゅうせいの方は前衛職だ。

 天馬てんまは後衛の動きに慣れてるし、茜と遼の良い手本になってくれる筈。最近の双子は、自警団チームとばかり間引きに行ってるので、良い気分転換になるだろう。


 そんな取り決めが行われているとはつゆ知らない新人チームは、マイペースで探索を続けていた。午後も順調で、いよいよ自力で8層へと到達する。

 この辺の層になると、当然ながら桃井姉弟も到達最深層である。心配性の茜などは、大丈夫かなと背後を何度も振り返る素振り。


 逆に前衛の久遠は、進む程に自信をつけて来たのか、振るう剣筋が段々と鋭くなって来ていた。相変わらず光属性の威力も凄まじく、ゾンビやスケルトンはほぼ一撃で沈めている。

 《勇者》スキルの恩恵なのか、剣の扱いもなかなかに堂に入る久遠である。隣のルルンバちゃんも、やるな新入りって目でホバリングしている。


 いや、久遠はこのAIロボとの会話は不可能だけど。来栖家の面々が普通に話し掛けるのを見て、最初の頃はかなりドン引きしていたのも本当。

 ところが2度も探索を一緒にすると、不思議とこの相方の気持ちが分かって来る不思議。そんなAIロボのサポート能力は、かゆい所に手が届くと言って差し支えない優秀さである。


 8層では初見の火の玉ゴーストすら、前衛の1人と1機で倒せてしまった。ちなみにこれを発見した時は、後衛陣など悲鳴を上げて逃げ出しそうな雰囲気だった。

 確かに火の玉の中に、恨めしそうな顔が浮かぶさまは精神的に来るモノが。それをマルっと無視する、ルルンバちゃんの鋼のハートをうらやましく思う程だ。


 それを乗り切っての9層も、チームに被害も無く階段まで辿り着く事地に成功した。次は10層で、このダンジョンでの2度目の中ボス戦が待っている。

 どうやら6~10層エリアのモンスターで、一番厄介なのはゴースト系の敵らしい。途中で毒持ちのゾンビも出て来たけど、こちらの被害は無くて一方的にやっつけてしまっていた。


 その辺の見分けは、敵の爪の色などで見分けるらしい。知識は全員で共有だよと紗良に言われて、思わずビクッとなる新人ズ3名である。

 この来栖家の長女は、普段はとっても優しいのだが、それだけに底が知れない所があって少し不気味。周囲の面々も必要以上に持ち上げて、裏のボス感が満載なのだ。


 それでも料理は上手だし、遼などは良く懐いていたりもする。ただしやっぱり、彼女に逆らったら周囲の面々の顔が青ざめる時があるのも事実。

 それはまるで、絶対に踏んではいけないミケの尻尾のような扱いと言えば分かりやすいだろうか。つまりは踏んだ瞬間、感電死まっしぐら的な命知らずな行為なのかも知れない。

 そう思うと、スパルタの姫香の言動もかわいく思えて来る不思議。



 そんな一行だけど、いよいよ最終目的の10層へと到達した。そこの本道を真っ直ぐ10分も進むと、お目当ての2つ目の中ボスの間が見えて来た。

 ここまで大した回収品が無いので、10層の中ボスまで来たのはある意味間違いではない。ここでガッツリ稼いで、胸を張ってダンジョンを後にすれば良いのだ。


 ただしそれは、中ボス戦に見事勝てたらの話である。5層の奴より確実に強いだろうし、油断は禁物なのは間違いなし。好調な久遠も、さすがにけわしい表情を浮かべている。

 後衛陣も同じく、浄化ポーションや投擲とうてき武器の補充がバッチリなのは有り難いとは言え。今回も中ボスの部下がたくさんいたらと思うと、やっぱり緊張気味なのは確か。


 それでも保護者陣は、待ってても日が暮れるだけだよと容赦はない。いざとなったらサポートするんだからと、姫香の言葉は百パー正論ではある。

 それに押される形で、久遠が中ボスの間の扉を開け放つ。中は暗い空間で、その中央にあるのは古い井戸だった。その前にしゃがみ込む老婆が、悲壮な表情で突然に泣き叫び始めた。


 そこからは割とカオスな戦場風景で、何と新人ズの3人がその場で釣られて泣き始める事に。そして中央の涸れ井戸から、這い上がって来るゾンビの群れ。

 恐らくこれが敵の襲撃パターンなのかも、まれば何とも恐ろしい戦術である。何しろ前衛の久遠など、その場に崩れ落ちて号泣している。


 驚いてるのは、その隣のルルンバちゃんである。当然ながら、彼にはそんな精神攻撃など全く効きはしない。それだけに、周囲の惨状にビビッて思わず攻撃モードに。

 つまりは近付くゾンビに水鉄砲を浴びせかけ、念の為にと持たされていた『木の実爆弾』を中ボス目掛けて投げつける。作業的には、それほど大した事はしていないとは言え。


 それが及ぼした効果は甚大で、何と中ボスのバンシーは木の実の爆弾の直撃を受けて消滅の憂き目に。呆気にとられる保護者の後衛陣は、さすがレベルの恩恵か誰も泣いてる者はおらず。

 慌てた紗良が駆けつけようとするのだが、周囲は既にルルンバちゃん無双で敵の姿は完全に消えている始末。これは仕方無いねと、姫香と土屋女史はその件について責めない事に。


「だ、大丈夫だった、みんな……敵の精神攻撃だね、あの後で襲われたら酷い事になってたかも。そう言う意味じゃ、ルルンバちゃんはお手柄だったよ」

「そうだね、新人ズの手柄を取っちゃったけど、まぁそれは気にしない方向で。とにかく全員無事に、10層クリアおめでとうっ!」

「うむっ、最後の中ボスは魔石(中)とスキル書を落としたな。さすがにそのレベルはまだ無理だから、本当に無事で良かった」


 言い換えれば、保護者陣の目論見の甘さも含まれていたのだが。ルルンバちゃんが機転を利かせて敵を倒してくれて、まずは良かったと言う事で。

 土屋女史の言うように、中ボスは魔石(中)1個とスキル書を1枚ドロップした。井戸から出て来たゴーストも、軒並み魔石(小)を落としてくれていた。


 それだけの敵が出て来たのだから、この惨状は仕方がない事。ようやく泣き止んだ一行は、お互いバツの悪い顔ながら、その保護者陣の説明に納得した様子である。

 そして最後に宝箱のチェック、中からは薬品類や鑑定の書(上級)に魔玉(闇)などが出て来た。それから骨素材に、魔法アイテムと思われる骨のアクセサリーや杖などが1つずつ。


 後は新品の骨壺が数個に、その中から小判が出て来たりと良く分からない組み合わせ。取り敢えずは、目標の10層に到達出来てまずは良かった。

 そんな事を話し合いながら、休憩後に一気にダンジョンを脱出する面々である。最年少の遼は少々お疲れ模様だったけど、何とか歩いて戻る事が出来て何より。


 これも毎朝、姫香やハスキー達とマラソンをしている効果なのかも。そして最初に、岡野先生に報告に上がる新人チームと保護者の面々である。

 少なくとも、これで半年間はオーバーフロー騒動の心配はいらない筈。その後も、紗良が何とか岡野先生のピアノ教室を、再開させようと口説いてみたのだが。

 年齢を理由に、見事に断られて珍しくションボリな長女であった。


「そんならさ、紗良姉さんがここで岡野先生にピアノと習字を習って、将来的に日馬桜町の習字とピアノの先生をやればいいんだよ。

 山の上の子供たちは強制的に生徒に出来るし、将来的にもいいんじゃない?」

「そっか、それは良い考えだねっ、姫ちゃん!」


 姫香の何気ない提案に、天啓てんけいにうたれたかのように思わず声を発する紗良である。この案が通れば、山の上の習い事の環境も随分と良くなって来る気が。

 或いは、香多奈あたりはブー垂れるかも知れないけれど。子供の将来を思えば、習い事の1つや2つは子供の内からこなしておくべき。


 そんな話で盛り上がりながら、岡野先生に挨拶をしてその場を離れる面々であった。将来的に教室を開くにあたって、新たに建物を敷地内に建てたいねとか言いながら。

 来栖家の子供たちの夢は膨らんで、それは周囲を巻き込んで行く雰囲気がプンプン。土屋女史も応援するぞと言ってくれて、外堀も埋まって行く感じ。

 かくして、探索成功の副産物も含みつつ新人ズの活動は終焉しゅうえんの運びに。




 それからその日のうちに、姫香と久遠の運転する2台の車は協会へとはせ参じての依頼クリアの報告。ついでに魔石の換金と、動画の編集依頼もこなす流れに。

 換金は魔石と鑑定の書や薬品類、それから回収した魔法アイテム2つも協会に売る事に。結果、80万円以上となってまずまず稼ぎである。


 魔石の稼ぎは約30万で、その他の品や魔法アイテムが50万円近くで売れる事に。半日の稼ぎとしては、かなりの稼ぎで2度目の探索は大成功と言って良いかも知れない。

 これらも3人で等分する事にして貰って、後は協会の依頼金が10万程。ついでに今回の魔石の換金によって、新人ズのランクがE⇒D級へと昇格する事が決定した。


 その知らせを聞いて、大喜びする茜は昇級に人一倍の思い入れがあったのかも。久遠や遼は、特に感動の表情も見せず素直に貰える金額に驚いている。

 昇格より現金とは、生活に困窮こんきゅうしていたキッズらしい反応には違いない。とは言えこの2人、いや茜を含めて新人ズの3名は、将来的には二つ名を獲得して大いに名が売れそうな気配が。


 何しろ所持スキルからしてそうなのだ、将来性は誰にも負けないに違いない。S級の市内を拠点に活動する甲斐谷チームより、恐らくは名が売れる存在になりそう。

遼にしても、スキル名が《闇の君主》だからって悪の道に進むとは限らない。むしろ周囲の面々が、そうはさせまいと諸々のサポートを頑張るだろう。

 山の上の面々の絆は、ギルド員でなくても強固なのだ。





 ――新人ズの3名も、その事実は遅からず身に染みて気付くはず。









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 家族が急遽、入院してしまってバタバタして、しばらく更新が滞ると思われます。すみませんが、ご容赦くださいませ。

 また落ち着いたら、更新を再開しますのでそれまでご容赦を。





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