第764話 新人ズの“墓地ダンジョン”探索が中ボス戦に差し掛かる件



 3層の支道にはスライムしかいなかったけど、4層では水瓶みたいな置き物を発見した一行。具体的には、遼と保護者役の姫香とツグミは、何があるんだとそれを覗き込む。

 すると、その水瓶の中を泳いでいるスライムを発見。と言うか、スライムで満ち満ちていて、ちょっと気持ち悪いねと素直な遼の感想である。


「こんな敵でも、コイツの消化液は触ると痛いからね。放っておくと、皮膚が溶けちゃうから絶対に油断したらダメだよ、遼。

 さて、どうやって倒すんだっけ?」

「コアを壊すんでしょ、でもどうやってこの壺から出そう……?」


 考え込む遼に、助け舟を出すようにツグミの影の触手が水瓶を引っ繰り返す。かなり乱暴にしたにも関わらず、そのかめは壊れずまるでスライムのカタツムリのような格好に。

 それでも核は見えるようになって、遼はそいつに短剣で斬りかかる。そして無事に討伐は終了、水瓶はどうやら関係なかったようで消滅せずそのまま転がったまま。


 ところがその底に、追加で魔玉(水)と昔の小判が数個ずつ入っていて驚く遼少年。良かったねと、お金になりそうな回収物に姫香も一緒に喜んでいる。

 ちなみに魔玉の扱いも、一応は新人ズには教え込んでる保護者一同の皆さん。こういう類いの、ダメージ源には最適だけど扱いに注意が必要な品はとっても厄介なのだ。


 香多奈も昔、探索と関係ない場所でお遊びに使って大人に大目玉を喰らった事がある。危うく山火事になりそうだったので、叱られても当然ではあったけど。

 ライター以上に厄介なのは、魔玉は衝撃を与えると爆発する性質を備えている所だ。知らずに扱って、自分もタージを受けたら洒落にならない。


 来栖家ではルルンバちゃんの魔銃や魔法で、使う頻度がとっても高いので専用の収納ケースも買ってある。新人ズも欲しければ、企業の移動販売車にまた来て貰うのも手ではある。

 未来的には、伸びしろしかない新人ズではあるが育成は大変だ。現状は《大魔導士》スキルを持つ茜は、小回復程度の魔法しか操る事が出来ないでいる。


 遼も同じく、何とかナイフを振るう影程度しか操作出来ず、圧倒的に攻撃力の足りないチーム状況なのだ。手っ取り早く火力を上げるには、魔玉を使うって手もアリかも。

 この探索では、浄化ポーションと『木の実爆弾』でフォロー出来ていて、その点ではラッキーではある。死霊系を相手にするのも、度胸付けには丁度良い感じ。

 少なくとも、姫香辺りはそう思っていて不思議ではない。


「戻ったよ、みんなっ……宝箱は無かったけど、ちょっとだけ回収品を見付けちゃった。茜お姉ちゃん、一緒に持ってて!」

「あっ、やったね遼君……危なくは無かった? 姫香お姉ちゃんとツグミがいれば、心配はないとは思うけど……」


 その姫香が一番のスパルタなので、無茶振りを言われる事態も無きにしもあらず。しかもこの層から、壁をすり抜けて音もなく接近するゴーストも出現し始めたのだ。

 コイツも強さ的には、浄化ポーション一発で倒せるレベルで脅威度は低いのだが。ドレインタッチの技があるそうなので、接近を許すと酷い目に遭ってしまう。


 そちらも一応心配していた茜だが、遭遇には至らなかった様子で何よりである。もっとも、姫香とツグミのコンビなら、そんな敵の不意打ちも許さず一撃で倒してしまう筈。

 この階層に出没するゴーストは、倒しても魔石(微小)しか落とさず本当に雑魚である。強いゴーストになると、ドレインどころか憑依系の特殊技もあるそうで怖過ぎる。


 そんな知識を吸収しながら、新人ズの探索は順調に続く。残念ながら宝箱には巡り合えてないけど、今の所は大きな失敗も無く良い感じ。

 そうして4層も無事に攻略を終えて、次は中ボスの間のある5層である。中ボス戦は1度だけ経験のある3人だけど、ここは死霊系しか出て来ないので勝手がまた違って来る。


 そんな話をしていると、いきなりゴーストが襲来して来た。小さく悲鳴をあげながら、思わず水鉄砲を使う茜は段々と場慣れして来た感じ。

 いいよと後衛からもお褒めの言葉が飛んで来て、ムフーと鼻息をつく茜リーダー。それから気を付けて進むよと、年下2人に注意を飛ばして進行を言い渡す。


 彼女だけは、どうやら先を見据えてこのチームの成長を模索している模様である。つまりは、後衛の保護者陣はいつかはいなくなってしまうのだと。

 そうすると、全てはリーダーの自分の双肩にかかって来る事になってしまう。探索の成功も失敗も、全ての責任を担うって本当に重責には違いなく。


 そう思うと、肩に力が入るのも当然……安全マージンが取れている間に、とにかくチームの形だけは作らなければと彼女も必死の模様である。

 そう言う意味では、実の弟の前衛での奮闘と伸びしろの多そうな遼の存在はベストな布陣かも。とは言え、茜のスキルのパワーアップの修行もあるし、やる事が多くて大変なのは間違いはない。


 今回の死霊系ばかりのダンジョンは、そう言う意味では水鉄砲のお陰で楽に経験値稼ぎが出来ている。この調子で行けば、本当に10層まで到達出来てしまいそう。

 まずは5層の中ボスだが、その部屋ももう目の前に。


「さあっ、いよいよ中ボスの間だねっ……とは言え、そんなに緊張しなくていいからね、みんなっ。取り敢えず、ボスは久遠がタイマンで遣り合ってみようか。

 茜と遼は、ルルンバちゃんと一緒に雑魚がいたらその処理ね」

「わ、分かりました……頑張ろうね、久遠に遼っ。私もサポート頑張るから、集中して乗り切ろうっ!」

「うんっ!」


 明るい返事が遼の口から、久遠はただ頷くのみでやはり緊張している模様である。ルルンバちゃんが気遣うように、隣でホバリングしているがあまり気休めにはなっていないよう。

 姫香もこう言うのは、経験の積み重ねととらえて荒治療に走るタイプ。そんな訳で、問答無用で木製の扉を開け放って、新人ズにゴーサインを送る。



 中ボスの部屋は、さっきまでの洞窟エリアともまた違った雰囲気だった。湿気ていて薄暗い印象なのは同じだが、不気味な威圧感が加えられている感じ。

 それを醸し出しているのが、部屋の中央に立つスケルトン騎士だった。元は立派だったらしき甲冑を身にまとい、手にする大剣もかなりの業物の雰囲気が。


 そして一行が部屋に入った瞬間に、一際昏い部屋の四隅からゴーストが湧き出て来た。怨念を撒き散らしながら、そいつ等は新人チームに殺到する。

 同時に動き出す敵の大将に、久遠は盾を掲げて交戦の意思を示す。それを機に骸骨騎士の大剣が久遠の盾に撃ち込まれ、部屋の中央で派手なメイン戦が繰り広げられる格好に。


 その周囲では、サポートメンバー達が右往左往しながら出現したゴーストの処理に追われていた。怖さ知らず(?)のルルンバちゃんは、見事に水鉄砲で左側のゴーストを見事に退治。

 一方の茜と遼は、恨めし顔の元は人間の接近にビビり倒していた。結果、目をつむったのかって攻撃は、何とか半分ほど命中して残った敵は2体のみ。


 それを見守る保護者の土屋は、ハラハラしながら後衛から指示を出している。それでも下手に手を出さないのは、ある意味立派な所業と言えよう。

 時には痛い目を見ないと、子供は成長しないのだ。


「うっ、茜がゴーストにとり憑かれたかもっ……姫香っ、これは助太刀すけだち案件ではっ!?」

「まだ大丈夫だよ……遼っ、茜お姉ちゃんに浄化ポーションをぶっかけてあげで。それで、とり憑いたゴーストは成仏してくれるから」

「わ、分かった、やってみるねっ!」


 最年少の少年も、慌てていたのだが闇属性の適性の為か、茜ほどでは無かった様子。素早く保護者からの助言を聞き分けて、水鉄砲の射出を手当たり次第ぶち撒けて行く。

 それが上手くいったのは、ひとえに運の要素が強かったのかも。それともゴーストの、避ける能力が意外に低かったせいもあるかもだけど。


 とにかくつたない遼の射撃の技術に、昇天して行く残りのゴーストさんたち。そんな中、中央で剣を撃ち合わせていた勇者と骸骨騎士の戦いは佳境に達していた。

 久遠の盾の技術も、スキルのサポートもあってなかなかのモノ。とは言え、骸骨騎士も鎧を着込んでいて、せっかくの剣に付与された光属性も本体に届かない。


 向こうも骸骨ながら、久遠より体格に優れていて腕力も上と言うずるさを備えている。それでも格上の相手が大剣を撃ち下ろした瞬間、久遠は盾をガードでなくパリィへと使用する初めて見せる技を披露した。

 そのせいで態勢を崩した骸骨騎士の、首筋に強烈な一撃を見舞わせる久遠。完全な作戦勝ちに、敵は弱点属性を喰らって次の突き技で魔石へと変わって行ってくれた。

 ホッと息をつく久遠に、後衛陣からわっと歓声が上がる。


「やったね、久遠……お疲れっ、お手柄だよっ! みんなもナイスサポート、中ボス戦を見事クリアだよっ!」

「お疲れさまっ、みんな……お昼も過ぎてるし、お昼ご飯にしたいけどいいかな? こんな場所じゃ、食欲も湧かないかもだけど。

 お腹が減ったまま探索するのも、子供たちは大変だもんねぇ」

「やった、お昼だ……!」


 素直に喜んでいるのは、遼だけで桃井姉弟は微妙な表情。何しろ周囲は、古井戸や卒塔婆そとうばが立ち並ぶ、割と陰湿な室内エリアなのだ。

 紗良もその辺をおもんばかっての発言だが、姫香や土屋は気にしていない様子。腹は減っては探索は出来ぬと、さっさと魔法の鞄からキャンプテーブルを取り出している。


 それらのセッティング中に、宝箱のチェックをしてなさいとの保護者からの提案に。新人ズの3人は、仲良く部屋の隅に置かれた宝箱を開封しての確認作業。

 その中からは、鑑定の書やポーションやエーテルが少量ずつに、魔玉(闇)や骨素材も同じく少々。それからカップ酒やロウソク、お供え物なのか果物や饅頭も出て来た。


 この品揃えにも、かなり微妙な表情の子供たちである。前回の“配送センターダンジョン”とは打って変わって、欲しく無いモノのオンパレードと言う。

 果物やお饅頭にしても、元がお供え物と知ると何となく忌避きひ感が湧いてしまう。もっとも遼に関しては、美味しそうと何も思っていないようだけど。


 この辺は、恐らく廃墟と化した民家に押し入って生計を立てていた名残なのだろう。生きるためとは言え、ストリートチルドレン問題は根深い問題には違いない。

 それらの回収を保護者に報告すると、ダンジョンの回収品は新品だから平気だよとの返答が。しかも魔素を含んでいるので、探索者的には経験値にもなるとの話。


 とは言え、食べ過ぎると“変質”の原因にもなるし、未だに嫌がる人も多いそうな。それを考慮に入れて、どう処理するかはそっちで考えてとの姫香の言葉である。

 それより美味しそうだぞと、紗良の用意してくれたお握りと唐揚げの山を見て土屋の昼食の誘いに。やっぱりあらがえない子供たちは、さっさと着席して昼食に取り掛かる。


 それを見る紗良は、やっぱり保護者の優しい顔付きである。午後からも頑張ってねと、一緒にお握りを頬張りながら子供たちを鼓舞している。

 ツグミはすかさず、遼の後ろに回り込んでおこぼれの確保に余念がない。いつもの風景だけど、新人ズの探索歴はこれでようやく2度目である。

 この後の攻略も、無事に進めば良いのだけれど。





 ――貰ったハムを咀嚼そしゃくしながら、ついそんな心配をするツグミだった。






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