第761話 運動会の代休を子供たちは遊んで過ごす件



 10月の3連休の最後の休みに行われた運動会が終わり、火曜日の今日は嬉しい代休である。山の上の子供たちは、そんな訳で休日を満喫中。

 町内には、うっかり張り切って参加したお陰で、今頃は筋肉痛に見舞われている大人も多い事だろう。幸いにも、来栖家の面々はみんな普通に起床は出来ていた。


 ただまぁ、小島博士とゼミ生達は揃って寝坊していたようだ。どうやらここにも、久々のハッスルの犠牲者が潜んでいた模様である。

 それとは逆に、昨日の主役の小学生たちは朝からとっても元気で走り回っていた。午前中には、稲刈りの終わった田んぼで野球をして楽しんでいる始末である。


 りょうもこの仲間に混じって、この数週間ですっかり田舎の流儀は身について来た模様。野球には当然のようにペット達も混じっていて、飛んで来たボールを追いかけ回している。

 既に夏の熱気は過ぎ去って、ハスキー達も超元気に走り回って楽しそう。ミケも日向ぼっこが似合うようになって来て、秋も段々と深まって来る気配。


「あっ、そう言えば今日は孝明先生が来るよっ! 遼ちゃんは初めて会うんだっけ、お髭の獣医の先生っ。ペット達も全員診て貰うんだ、なかなか大変なんだよ。

コロ助とか先生を見ると逃げるから、みんなで捕獲の手伝いをお願いねっ!」

「コロ助はシャンプーでも逃げるよね、球を打つのはあんなに上手いのに。萌も上手いよね、野球が上手なドラゴンって面白いねっ♪

 ルルンバちゃんは……まぁ、球を取る方はまずまずだったね」

「ひょっとして、レベルの差とかあるのかなぁ……僕と茜お姉ちゃんと久遠君、この前鑑定の書でレベル測って貰えたよっ。

 萌とかルルンバちゃんって、今どのくらいのレベルなのっ?」


 遼少年の素朴な疑問に、1試合終えて休憩中の子供たちは興味深そうにペット達を眺める素振り。鑑定の書(上級)は、実用性もあるので各家庭に置かれてある可能性も高い。

 そんな訳で、好奇心を満たすために各家庭からコッソリ持ち寄ったカードが合計3枚ほど。遼に悪い遊びを教えるのはアレだが、和香が後で謝りに行くからねとフォローは忘れていない。


 それから近くにいたコロ助を、まずは鑑定してその結果を皆で見て大騒ぎ。それから近くにいた萌とルルンバちゃんも、ついでに鑑定してみる事に。

 その結果、田んぼの隅っこで悲鳴に似た子供たちの声がこだました。



【Name】コロ助/Age 4/Lv 39


HP 230/232  MP 89/112  SP 140/152

体力 A+  魔力 C+  器用 C  俊敏 B+

攻撃 B+  防御 B  魔攻 B+  魔防 B+

理力 C  適合 C+  魔素 B+  幸運 D+

【skill】『牙突』『体力増』『剛力』『咆哮』

【S.Skill】《韋駄天》《防御の陣》《咬竜》

【Title】《放蕩護衛犬》



【Name】ルルンバちゃん/Age 9/Lv 37


HP 528/528  MP 85/100  SP 154/158

体力 A+ 魔力 D+ 器用 A+  俊敏 C  

攻撃 B+ 防御 A+ 魔攻 C‐ 魔防 B+

理力 C+ 適合 B+ 魔素 C+  幸運 D+


【skill】『吸引』『馬力上昇』『器用度上昇』『電子制御』

【S.Skill】《合体》《限界突破》《魔力炉心》

【Title】《床マイスター》《頑張る庭師》



【Name】萌/Age 1/Lv 48


HP 430/435  MP 612/688  SP 365/384

体力 A  魔力 A+  器用 B+ 俊敏 B

攻撃 B+  防御 A+  魔攻 B  魔防 B

理力 B  適合 B  魔素 B  幸運 C+


【Skill】『頑強』『騎乗』『サイズ補正』

【S.Skill】《宝石魅了》《竜の心臓》《竜の波動》

     《経験値up》《竜翼》

【Title】《意志ある宝石》《存在希薄な王》




「うわっ、みんな凄くレベルが高いっ……ステータスも凄く高い気がするっ!」

「ええっ、コロ助もルルンバちゃんも確かに高いけど……萌ってば50手前にまでレベルが上がってるよっ、何でっ!?

 ひょっとして、チームで一番強いんじゃないの、香多奈ちゃん?」

「えっ、ウチのチームのエースはミケさんとレイジーだよっ? 萌は茶々丸と同じラインで、どっちかって言うと下っ端かなぁ?

 あっ、でも……確かに生まれた時からレベル高かったし、それから《経験値up》ってスキルも持ってるから、この位は納得の数字なのかもね」


 そんな事を話し合う子供たちは、コロ助の高いレベルは完全に忘れ去っている模様。こちらもS級ランクの甲斐谷に負けない、立派な数値なのに不憫ふびんなコロ助である。

 それにしても、48レベルって凄いねぇと呆れた口調の子供たち。その内に穂積が、萌の称号が変だと言い始めた。確かに《意志ある宝石》もヘンだが、《存在希薄な王》はもっと変。


 どういう意味かなと萌本人に尋ねるも、仔ドラゴンは視線をらして聞こえない振り。そう言えば、あの“ダムダンジョン”で拾った卵の頃から変だったよねと、飼い主の香多奈の鋭い指摘に。

 何が変だったのとの和香の混ぜっ返しに、正確な指摘が出来ずにまごつく少女である。それにしても、HPやMPの値も呆れる程に高くてさすがドラゴンである。


 いや、本当は何なのかと問われたら、本人もきっとまごついてしまうだろうけど。本当の事情はそっと置いといて、こんな紙切れはさっさと処理してしまいたい萌である。

 まぁ、子供たちの興味に関しては、物凄い移り変わりの早さなので心配はいらないだろう。今も獣医の孝明先生のバンが到着したと、既に鑑定結果など忘れて騒ぎ始める子供たちである。

 そして、その姿を見てさっそく逃げ出すコロ助だったり。


 幼い頃に、散々予防注射だの何だのと怖い思いをさせられたのを未だに覚えているらしい。やっぱり逃げたと、香多奈は友達とペット達に掴まえてとお願いを発する。

 そんな訳で、午後も賑やかな来栖家の敷地内であった――。




 一方その頃、来栖邸では紗良がまだまだ大量にあるカブの消費に頭を悩ませていた。その大半は、植松のお婆に漬け物にして貰うよう預けてしまっているとは言え。

 まだ結構な量が残っていて、これはもう家畜の餌にするしかないかなって感じ。腐らせるよりはマシだが、それでは長女の矜持きょうじが許さない様子。


 そんな訳で、ネットや料理本を漁っての新たなレシピを検索中の紗良である。そんな姉を見ながら、姫香は膝にミケを乗せてリビングで護人と歓談中。

 護人の方は、ムームーちゃんを肩に乗せて午後の予定を紗良や姫香に話していた。要するに、孝明先生が家畜の診察に来るからねとか、後はダンジョン産の回収品の分配など。


「小島博士が『魔法の電気毛布』を欲しがってたそうだから、後で持って行ってあげてくれないか、姫香。それから『魔法の電気ストーブ』は、土屋女史が桃井姉弟の部屋にあげたいって言ってたかな?

 まぁ、普通の電気製品でもいいけど、魔石製品は探索者っぽいからね」

「そうだね、普通の家庭じゃ滅多に流通して無いもんね。それじゃあ、そっちも後で運んでおくよ、護人さん。これっ、ヒバリ……あんまり爪を引っ掛けないでっ!

 アンタの前脚の爪は、結構鋭いの忘れないでよね」


 自分も抱っこしてと騒ぐヒバリを、騒がないようにとしつける姫香は割と年季が入っている。何しろ家には犬猫のみならず、ヤギや鶏や牛や竜やAIロボまでいるのだ。

 それらのお世話をこなせば、スライムやグリフォンにも対応出来ると言うモノ。いや、決してそう言う訳でも無いだろうが、まぁ心構えが違って来るのも確か。


 前回の探索で得られた品物は、まだ他にもあってその用途も様々なので大変だ。例えば各種属性インゴット類は、隠れ里のドワーフ親方に持って行くのは決まっているモノの。

 それで何を作って貰うかは、未だ決まって無くて悩みの種である。『海鉱石のインゴット』など、既に水耐性アクセサリーは豊富にあるので武器にして貰うって手もある。


 『振電石のインゴット』は、アクセサリーにすると恐らく麻痺耐性も付くので良さそうだ。後は炎や土属性のインゴットだが、何が良いかなと姫香は護人に相談しつつヒバリをあやし始める。

 『ノームの魔法工具』については、便利なので家の専属工具箱にする事に決定。こちらはそんな大きくない工具箱なのだが、大工道具や農機具のくわやシャベル一式が収納されている優れモノである。


 つまりは魔法の工具箱で、中の道具にも軒並み『不折』や『鋭刃』などの魔法が掛かっている言う。本職の人なら、喉から手が出るほど欲しい工具箱に違いない。

 後は『ワームの堆肥』だが、これは敷地の奥の土壌の良くない畑に試験的に使う事に。隼人やゼミ生達も、積極的に手伝ってくれて気分は実験農地である。

 ただしこの場所は、日当たりも良くないし期待は薄いかも。


「後は特に、回収した物で仕分けしなきゃいけない奴は無かったよね、護人さん。属性耐性のアクセサリーで、余っちゃったのはギルド内配布でいいかな?

 それとも青空市で売る事にする、紗良姉さん?」

「う~ん、ウチのギルド内であぶれ始めたら売ってもいいと思うけど。探索してても、耐性装備のありがたみって本当に感じるもんね。

 それならウチの倉庫で腐らせるよりは、他のチームに行き渡るようにした方がいいよねぇ」

「特に水耐性はそうだよな……“アビス”のフィーバーが、この先に大々的に起こるかも知れないし。将来的には、土耐性も必要だって妖精ちゃんも言ってたかな。

 異世界には、石化を使って来る敵も割と多いそうだよ」


 それは怖いねぇと、ミケとヒバリを同時に撫でながらの姫香の呑気な相槌に。将来に備えて、またドワーフ親方に装備品を加工して貰わなきゃなと護人は同意の言葉を呟く。

 そんな奴は、ボクがやっつけてやるデシと、護人の肩の上で盛り上がる軟体幼児は置いといて。確かに強くなるのも備えの1つだねと、姫香など笑ってそれに応じる素振り。


 そんな事をしていると、敷地内に車が到着した音が聞こえて来た。どうやら孝明先生が、家畜とペットの診断に来てくれたらしい。

 来栖家としては、孝明先生は大事なお抱え獣医さんである。そんな訳で、今日は夕食をご馳走する予定……子供たちが刈って天日干しした新米は、既にバッチリ収穫済みである。


 それを振る舞う予定の紗良は、頑張って夕食の献立を豪華にする予定。もちろん主役は、子供たちが収穫して天日干しした新米に他ならない。

 ついでにお惣菜は、カブのクリーム煮やカブのソテー、それから大量のきんぴらである。こちらも既に家族は飽きた顔をされてしまうけど、頑張って消費しないと。

 もちろん孝明先生にも、有無を言わさず全部平らげて貰う予定。





 ――持ち帰りも可で、その為のタッパーも既に準備済みの紗良であった。






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