第759話 尾道組が来栖邸から去って少し寂しくなる件



 1週間以上も滞在していた陽菜とみっちゃん、それから怜央奈のギルド遠方組の去就だが。訓練探索の翌日に、また来月ねとアッサリ帰郷していってしまった。

 それは1つに、どうせ来月の初めにはまたお泊まりに来ると言う目論見があるのが大きい。それから、稼いだ魔石を地元で換金すると言う目的も。


 別に日馬桜町の協会支部での報告も、やって悪い訳では決してない。とは言え、小さな町の支部にそんな大金が割り当てられている筈もなく、負担になるのも確かである。

 魔石の稼ぎは探索者のランクアップにも繋がるし、計算のしやすい地元で行う方が分かりやすい。そんな目指せB級的なノリで、颯爽さっそうと帰って行った少女達であった。


 送り出す方も、どうせあと数週間でまた来ると分かっているので、しんみりした感情はまるでナシ。次もお土産期待してるよと、その辺のノリはすっかり親戚扱いである。

 それから自分達の探索での儲けも、しっかりと確認しないと大変な事に。後に伸ばして一度に提出すると、小さな町の支部の財政はパンクしてしまう恐れが。


 そんな彼女たちザジ班の成果だが、かなり満足の行く結果だったそうな。つまりは大ボス討伐を含めて、ダンジョン踏破を達成したとの事である。

 対する来栖家も、大ボスを倒してその後に出た宝箱も回収済みである。さすが大ボスの間に湧いた宝箱だけあって、中身はそれなりに豪華だった。


 その中身だが、薬品系や魔結晶(大)やら木の実や魔玉(雷)などの定番に加え、何故か家電製品も幾つか。例えばトースターとか炊飯器とか、DVDプレーヤーとか携帯ラジオとか。

 それから定番の属性インゴットとか、属性のポーションも入っていたようだ。その辺は紗良や妖精ちゃんが、鞄に仕舞い込む前に抜かりなくチェック済み。


 魔法の品らしきアイテムも幾つかあって、中でもハンマーは雷属性で結構使えそう。後はアクセサリーとかに混じって、追加で湯沸かしポットや目覚まし時計などの電化製品が色々。

 それらの品も、尾道組を見送って怜央奈を駅まで送り出した後に、のんびりと片付けながら鑑定を行う紗良であった。とは言え、この3連休はなかなか忙しくて、最終日には香多奈の小学校の運動会も控えている。


 地域行事なので尾道組は参加を控えたようだが、山の上のメンバー達は香多奈や和香や穂積の勇姿を見学に訪れる予定。本人たちも張り切っており、この前の秋祭りに続いて町内も盛り上がりそう。

 そんな感じで、バタバタしながらの仕分け結果がこんな感じ。



【クラゲ柄のケープ】装備効果:水耐性&水エリア能力up・特大

【水切りの長剣】装備効果:水属性&鋭刃&ステup・大

【人魚のヒレ】装備効果:水耐性&水エリア能力up・特大

【河豚のイヤリング】装備効果:水耐性&耐毒up・中

【魔法の丸桶】使用効果:完全耐熱効果・永続

【赤灼熱のマフラー】装備効果:炎耐性&炎の蛇化&能力値up・特大

【活火山の赤灼ランプ】使用効果:灼熱の炎召喚・大

【魔法の電気ストーブ】使用効果:暖房効果・永続

【魔法の電気毛布】使用効果:暖房効果・永続

【土竜のネックレス】装備効果:土耐性&物理耐性up・小

【ノームの魔法工具】使用効果:魔法の農機具や工具セット・永続

【ダイヤのシャベル】装備効果:土属性&物理破壊&耐性up・大

【電気ウナギの指輪】装備効果:雷耐性&耐麻痺up・中

【電磁ハンマー】装備効果:雷撃&耐性up&能力値up・大


その他:『強化の巻物』(耐性) ×2、『強化の巻物』(攻撃) ×2、『海鉱石のインゴット』(水耐性) ×4、『炎鉱石のインゴット』(炎耐性) ×5、『耐土のポーション』(土耐性付与) ×5、『地塊石のインゴット』(土耐性) ×5、『ミスリルの剣』×3、『ダマスカス鋼の剣』×6、『ワームの堆肥』×20Kg、『振電石のインゴット』(雷耐性) ×5、『耐雷のポーション』(雷耐性付与) ×5




 今回は武器や防具の類いは、比較的少なかった感じだろうか。その代わり、各種属性インゴットが入手出来て、これを隠れ里のドワーフ親方に持ち込めばアイテムにして貰える。

 最近はそんな伝手つても得る事が出来て、とっても快適な探索者ライフを送っている来栖家である。それに比例して、挑むダンジョンの難易度も上がっている気もしないでもない。


 それに備えてと言わんばかりの水属性の良品が、今回は2つも回収出来てしまった。『クラゲ柄のケープ』と『人魚のヒレ』と言うアイテムで、何と水エリア侵入時能力アップである。

 今までは、属性のデバフ効果を緩和する魔法アイテムをコツコツ集めていたと言うのに。このアイテムは、デバフをバフ効果に変えてしまう能力があるらしい。


 これは凄いねと興奮する子供たちだが、誰が使うかは今のところ未定である。そんなレア装備は炎属性にもあって、『赤灼熱のマフラー』と『活火山の赤灼ランプ』は間違いなく良品でレイジー行きとなりそう。

 能力は両方とも召喚系だし、レイジーの炎の軍団もさぞかし賑やかになりそうな予感。反対に土系は『ダイヤのシャベル』くらいで、これは何となく護人が貰う流れに。


 それから雷系の『電磁ハンマー』は、コロ助のサブ武器か萌が硬い敵と戦う時に使うのが良さそう。何しろ萌の相棒の茶々丸は、敵が硬かろうが突進の攻撃手段を放棄しないのだ。

 そんな時は、槍よりハンマーの方が家族も安心して見ていられると言うモノ。




 そんな訳で、午後の割と遅い時間に来栖家の面々は協会に赴く事に。途中で植松の爺婆の家に寄って、ダンジョン産の回収品のお裾分けも忘れない。

 何しろ結構な量の野菜を、ダンジョン内で回収してしまったのだ。家畜の牛やヤギも大喜び、そしてその晩の夕食にはきんぴらが山盛りと言う。

 それはきっと、今夜も同じでカブの料理も追加される予定。もっとも、その大半は植松のお婆に漬け物にしてしまう手筈の紗良である。


 お婆の漬け物の腕は天下一品で、青空市での評判も上々である。じゃがいもや山芋は日持ちするから良いけれど、回収した貝類や新鮮野菜はなるべく無駄を出さずに処理したい紗良である。

 ちなみに、スキル書とオーブ珠の相性チェックは、尾道組と前日に行ったけど全滅だった。残念がる子供たちだが、そもそもスキル技と言うのはそんなポンポン覚えるモノではない。


「こんにちはっ、動画チェックと魔石売りに来たよっ、能見さんっ! ちなみに陽菜ちゃんとみっちゃんと怜央奈ちゃんは、魔石の換金は地元でして貰うって!

 ここはあんまりお金ないから、良かったよねっ!」

「えっ、いやまぁ確かにそうですが……魔石の回収率は協会の実績になるので、それはそれで残念でしたね。とは言え、最近は地元のチームの頑張りが凄いですからね。

 昨日も林田のれん君が、自警団と間引きに行ったって換金に来てくれましたよ」

「あっ、そうなんだ……凛香のチームも定期的に探索に出掛けてるし、確かに地元の間引きペースは去年より圧倒的に順調だよねぇ。

 その上、山の上の新人チームもこれから始動する予定だからね!」


 そんな姫香の言葉に、頼もしいですねとヨイショする能見さん。その辺はどうなんですかと、仁志支部長も護人に現状の確認にと話を振って来る。

 新人ズの活動については、近々2度目の保護者付きのお試し探索を行う予定である。もちろんそれは末妹には内緒で、平日に近場のダンジョンで行う感じ。


 換金依頼を行いながら、少し離れた場所でそんな内情を告げる護人に対して。魔石の入った袋を受け取った江川は、その重さにやや怯んだ表情を見せていた。

 その逆で動画チェックを始める能見さんと子供たちは、楽しそうに会話を弾ませていつものペース。今回も敷地内ダンジョンの攻略は前もって伝えており、その辺の問題も無し。


 そして最初の水エリアに、ちょっと“アビス”みたいでしょと盛り上がる観戦モードの面々。そんな子供たちを眺めながら、ギルド員の動向の確認を話し合う護人と仁志である。

 林田の兄妹は、麓の空き家を借りてからの生活は至って順調みたいで何より。その点は神崎姉妹と旦那さんの家族も同じく、赤ん坊もすくすく成長してるとの事。


 赤ん坊の名前は美樹江みきえちゃんと言うらしく、女の子なのは護人も把握済み。香多奈など小学生チームは、たまに赤ん坊を見学に遊びに行ってるそうである。

 母親となった美亜みあの妹の恋歌れんかも、自警団の若者とお付き合いがあるそうなのだが。ここはなかなか結婚に至らず、周囲は割ともどかしく思っているとかいないとか。


 自警団と言ってもお手当は薄給で、言わばボランティアに近い青年団の集まりのようなモノだ。護人もそれを知っていて、装備やスキル書を寄付すると言う実情も。

 この辺がクリア出来ないと、なかなか結婚に踏み込めないのかも知れない。例えば思い切って、探索者として生計を立てる方へと行動を改めるとして。

 それはそれで、自分の命を懸けた職業に転職するって意味でもあるのだ。


「まぁ、消防団も言ってみれば、人命救助のために体を鍛えている職業ではあるんですけどね。明確に敵が襲って来るダンジョンでの活動とは、心の持ちようが全く違いますからねぇ。

 今後も探索者として金策目的ではなく、町の自衛目的の間引き作業でダンジョンに潜る姿勢は変らないそうですよ。

 そんな訳で、ガンガン探索してくれるチームは大歓迎ですよ」

「そうですね……新人ズに関しては、しばらくは保護者同伴が続くとは思いますけど。彼らもランクアップを励みに、実力をつけて行く予定ではありますよ。

 それでゆくゆくは、熊爺家の双子たちとでもチームを組めたらいいですね」


 そんな事を支部長と話し合う護人だが、別にチーム固定は深くは考えてはいない。さっき言ったように、双子とチームを組んでも良いし、土屋女史や凛香たちとチームを組むのもアリだ。

 林田兄妹のお兄ちゃんとでも良いが、妹の美玖みくに関しては最近は農業の方が楽しいようで。自治会長や植松家のお爺について、田んぼや畑を頑張っているそうな。


 兄のれんも、危険な探索に連れて行くよりはと、妹の選択には何の不満も無さそう。その分はお兄ちゃんが、自警団との間引きを頑張って貢献している形だろうか。

 神崎姉妹も同じく、ガッツリと探索業には重きを置いての活動は行ってはいないとは言え。毎月の青空市のスタッフ警備やら、自警団との間引き作業の手伝いは行ってくれている。


 それとは逆に、熊爺家の双子は割とアクティブである。月水金の午前中のゼミ生塾の後も、山の上に残って夕方の厩舎裏の訓練に毎回参加しており。

 そのお陰もあって、実力は安定のC級クラスで戦闘力に関してはピカ一である。双子ならではのコンビプレーは、或いはB級に迫る戦闘力を発揮する時も。


 ムッターシャやザジも目をかけていて、将来が楽しみな双子の探索者と新人ズの相性も今後確かめておかなければ。脳内でそんな事を考えていると、江川が換金を終えて戻って来た。

 今回はさすがに、魔結晶の小や中サイズが多かったみたいで4百万を軽くオーバーしたそうな。そんな訳で、今回も半額は安定の振り込みと言う形に。


 動画チェックのブースは、まだまだ賑やかに視聴に勤しんでいて楽しそう。今回も長尺なので主要箇所以外は倍速視聴なのだが、敵も多いエリアだったのでチェックも大変だ。

 そんな中、ようやく画面は土エリアの探索シーンに至ったのだろうか。突然に紗良が、そう言えばと魔法の鞄から今回のお裾分け品を取り出す仕草。


 それはもちろん、今回大量に回収した人参やゴボウやカブ類だった。山芋やジャガイモも少量ずつあって、まぁ欲しい人はどうぞって感じである。

 ダンジョン産の野菜も、協会スタッフには大好評の模様で何より。





 ――香多奈も夕飯のカブときんぴら攻勢が短く済みそうで、ホッとした表情?






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