第757話 3層目の中ボスとダンジョンボスを撃破する件



 さて、3層目の土エリアだが、先行する前衛は完全に元の陣形に戻っていた。つまりは炎のエリアのような変則ではなく、茶々萌コンビが普通にハスキー達と暴れ回っている。

 炎エリアで頑張ってくれたムームーちゃんは、再び護人の肩の上で休憩中。たくさん魔法を撃ったので、土エリアは完全に観戦モードである。


 姫香は毎度の中衛で、たくさん敵が出た際は前衛陣のヘルプに駆けつける恰好。後衛陣は、現在はルルンバちゃんの前衛能力の確認をどうするか協議中。

 後衛からの射撃や復活したレーザー砲は、既にチェック済みで問題無しとのお墨付きである。ただし前衛能力と言うか、くっ付いた魔導アームについては、まだ充分な確認が出来ていない。


 その辺はノリと言うか、余裕があればと言う感じでここまで来てしまった次第である。何しろハスキー達は、隙あらば先行して敵を倒して行くスタイル。

 彼女たちの通った道には、魔石だけが転がって動く影は微塵もないとの噂。


「そんで、結局はルルンバちゃんの前衛お試しコースはどうするの、伯父さん? このまま進んだら、ハスキー達が全部根こそぎ倒しちゃうよっ?」

「まぁ、そうだな……とは言え、ここのワームやモグラ獣人じゃ、ルルンバちゃんのサイズ感とは釣り合わないからなぁ。

 もう少し大きい敵が出て来たら、改めて頼むんだが」


 確かに小物相手はルルンバちゃんには似合わないねと、末妹も納得して頷いている。そんな3層の敵は、やっぱりロックやゴーレムがメイン。

 それから驚かし役のワームやモグラ獣人が、たまに地面からコンニチハして来る形である。それらを撃破して洞窟エリアを進んで行くと、今度は大アリの軍隊が襲い掛かって来た。


 前の層より多いなと思ったら、その中にはアリ獣人も結構な数混じっていた。なかなかに壮絶な敵の集団だが、レイジーと萌の火炎のブレスで敵の集団はあっという間に半壊して行く。

 それに加えて、出番だよと言われたルルンバちゃんのレーザー砲で、アリの大群はあっという間に数える程に減って行った。残りの敵兵を倒すのに、数分も掛からない有り様。


 その後に転がっていた魔石を数える末妹は、軽く30個以上はあるねと呆れた表情。もはや来栖家チームの本気は、30匹の大アリの軍隊程度では止められないようだ。

 そんな訳で、この層も順調なペースで進んですっかり見慣れた空洞の畑エリアへ。そこにも大カブがデンと生えていて、敵の姿は周囲には無し。


 敵を倒さず今回もお宝ゲットかと、ハスキー達もつまらなそうに待機モードへ。それじゃあ前回と同じ布陣でと、姫香とルルンバちゃんが引っこ抜き役へと前へ出る。

 それをサポートすべく、護人も大カブの葉っぱへと手を掛けて。いざ力を入れて引っ張った途端、簡単に引っこ抜けて尻餅をつく一同である。


 そして大カブの中から出現したのは、4メートルを超す巨大モグラだった。凶悪そうな面構えと何でも破壊しそうな前脚は、恐ろしいモンスターの気配がプンプン。

 それを迎え撃ったのは、多脚が幸いして尻餅をつかなかったルルンバちゃんだった。勇ましく突進して、畑に転がっている護人と姫香をかばおうと必死だ。


 そこに後衛の香多奈からの『応援』が飛んで来て、やっちゃるゼ的なスイッチが入るAIロボ。繰り出したパンチは、しかし巨大モグラの強靭な前腕とガツンと宙で激突する。

 アツい火花が飛び散る中、GマグナムがダメならGファントムだと、左のフックを巨大モグラのこめかみへと叩き込むルルンバちゃん。その魔導アームから、まさかのドリルが飛び出して来た。


 ルルンバちゃんの必殺パンチを浴びて、彼より体格の大きなモグラは一発でダウン。おおっと驚きの声を発する子供たち、何とか体勢を立て直した護人と姫香も間近でその戦いを見て驚きの表情に。

 そして魔石(中)と共にドロップする、ジャガイモの大量に入った袋。コイツもそうかと、野菜の追加ドロップに香多奈などは不満そう。


 どうせなら、スキル書とかが欲しかったよねと呟く少女はやっぱり強欲なのかも。その頭の上で、妖精ちゃんは甘味が欲しかったなと全く違う感想を述べている。

 紗良だけは、食糧はいつだって貴重なのにねぇと、長持ちする野菜の回収に嬉しそう。逆に日持ちしない野菜をどう処理しようかと、長女の戦いは脳内で既に始まっていたり。



 そしていよいよ突き当たりの空洞へと、先行していたハスキー達は足を踏み入れた。それからすぐに、入り口で立ち止まって後衛陣が辿り着くのを待つ姿勢。

 どうやら今回も、フロアボスっぽい敵はいない模様でハスキー達は残念そう。そんな土エリアの締めに指定されたのは、やっぱり木樽と生首の仕掛けだった。


「あっ、最後もコレなんだ……って事は、ここは中ボスいないんだねぇ」

「油断しちゃダメだよ、姫香お姉ちゃんっ……さっきの大カブで騙された事、ひょっとしてもう忘れちゃったの!?

 あれもルルンバちゃんがひっくり返ってたら、大ゴトだったんだからね!」

「珍しく香多奈の言う通りだな、罠があるかもだから俺が行こうか」


 珍しくってナニよと憤慨する末妹の頭を撫でて、今回は姫香の代わりに護人が黒ひげの仕掛けに挑む事に。へのへのもへじの黒ひげは、ちょっとカ〇ルおじさんに似ていなくもない。

 そんな事を思っていたのが、或いは不味かったのかも……周囲の地面に刺さっている剣に、護人が手を伸ばした瞬間に異変は訪れた。幸いだったのは、護人には薔薇のマントとムームーちゃんが護衛役に張り付いていた事。


 なので、急に10本の剣が勝手に飛び上がって、襲い掛かって来てもオートで対処出来てしまった。いや、子供たちの慌てた叫びでは、どうやら木樽にも変化があったみたい。

 姿を現したダンシングソード×10本は、本来なら初見殺し率は物凄く高い筈。それを薔薇のマントのとげ付き殴り防御や、ムームーちゃんの《闇腐敗》スキルを喰らって何の成果もあげられない有り様である。


 そして気配に振り返った護人が見たのは、木樽から出現した案山子型のパペット兵だった。硬そうなシャベルを手にしており、人形の癖に殺意に満ちた視線を向けて来ている。

 ただし、そのシャベルの突き攻撃は、完全に護人の『硬化』済みの《奥の手》に阻まれてノーダメージ。出遅れたハスキー達だか、姫香も手を出すのを控えているのを見て観戦モードへ。


 つまりは、見せ場は平等に作ってあげないとねの精神は、ある意味素晴らしい家族の絆ではある。そんな中で家族の期待の視線を一身に浴びる護人は、危なげなく敵の攻撃をかわし続けていた。

 その表情に焦りはなく、何故ならこちらを囲んでいた剣の魔物も、既に半数は撃ち落とされている始末。何とも優秀な護衛陣に、護人もゆったりと武器を抜いて攻撃を繰り出して行く。


 久々の出番に張り切る薔薇のマントは、容赦の無さではムームーちゃんを遥かに上回っていた。飛び回る剣をフン捕まえては、握り潰して魔石へと変えて行っている。

 お陰で護人も、安心して案山子型パペットとタイマンを張れると言うモノ。中ボス補正の入ったパペット兵は、なかなかに俊敏でそれなりに頑丈ではあった。

 とは言え、護人の放った一閃いっせんで呆気無く首と胴体が生き別れに。


「あらら、最後は呆気なく案山子の首ちょんぱで終わっちゃった。最初は一斉に剣が飛び上がって、叔父さんも大慌ての展開だったのにねぇ。

 やっぱり私の言った通り、油断させて襲い掛かるパターンだったじゃん」

「こっちも慌てたけど、薔薇のマントとムームーちゃんがちっとも慌てて無かったよね。ツグミも待ち伏せに気付けなかったのに、意外と優秀だよね。

 薔薇のマントや白ユリのマントにも、ひょっとしてレベルとかあるのかな?」

「さあねぇ、その場合は吸収したマントの数によるのかなぁ? とにかくお疲れ様でした、護人さんっ。ゲートも出現したし、そこの木樽が宝箱代わりなのかなっ?

 香多奈ちゃん、一緒に見てみようか」


 紗良にそう誘われて、そうだったと張り切って回収に向かう末妹である。今度中身が野菜だったら、ただじゃおかないよとの香多奈の気合いが通じたのかは不明だけど。

 3層最後の宝箱は、なかなかに豪華で薬品類や魔結晶(大)も入っていて価値はそれなり。妖精ちゃんも寄って来て、そこのインゴットは土属性だなと、価値の高さを保証している。


 それから恐らく、さっきの中ボスが使っていた、魔法の品のシャベルも出て来た。農機具も同じく魔法が掛かっていて、おまけに堆肥まで魔法の品なのだそう。

 それには末妹も、物凄く微妙な顔に……ただし、宝石類も結構出て来たので、報酬としては悪くない筈。最後に鍵もしっかり回収して、これにて土エリアの任務は全て完了の運びに。




 そしてゼロ層フロアへと戻って、家族で休憩しながらザジ師匠のチームと巻貝の通信機で連絡を取り合う子供たち。向こうも怪我人も無く、今日中に全部巡るとヤル気は衰えていない様子で何より。

 向こうのダンジョンはこっちより3層も多いので、それなりに大変だろうが頑張って欲しいモノである。そんな事を話し合いながら、こちらも残すは大ボスのエリアのみ。


 そんな訳で、3つの属性の色をした鍵を香多奈が使用して、4つ目の移動ゲートが床の一部に出現した。おおっとリアクションする子供たちと、入っていいのと家族に窺うノリノリのハスキー軍団。

 そうして許可を得て乗り込んだボスの間は、何と言うか夕暮れのフィールドエリアだった。薄暗くて気候は大荒れ、激しい音は落雷に違いなさそう。


「あっ、ここは雷エリアかな……敵はどこだろう、野外っぽいけど」

「本当だね、うわあっ……向こうの山に、たった今雷が落ちたみたいっ!」

「これは酷いな、みんな身を低くしておこうか」


 そう子供たちにアドバイスを告げる護人だが、周囲は高い土塀どべいとお堀と土の道路が続くエリアである。身を隠そうにも、それはちょっと難しそう。

 どうしたモノかと戸惑う子供たちだが、ペット達が急にそのお堀から敵が出て来たよと騒ぎ始めた。目をやれば、どうやら発光するウナギみたいな生き物が水から這い出て来ている。


 発光しているのは雷属性だからで、咬み付いたコロ助や踏んづけた茶々丸は大変な目に。その点、武器やスキルで処理するレイジーとツグミは被害は無し。

 そして次の瞬間、塀瓦の上に雷光と共に出現したのは大ボスモンスターだった。遅れて来た轟音に、思い切り怯む来栖家チームの面々。


 そいつはぬえで、4メートル級の妖怪型モンスターだった。頭はサルで体は狸、尾っぽは蛇で脚は虎と言う俗に言うキメラである。雷獣とも呼ばれるコイツの出現で、ここが雷エリアなのはほぼ確定した。

 そして放たれた雷の雨に、慌てて《結界》を張る紗良は悲鳴をあげつつ防御に必死。護人も《堅牢の陣》でサポートしつつ、大ボスの攻撃が終わるのを待つ。


 それに対して、香多奈は反撃しちゃってとルルンバちゃんに大声での指示出し。落雷の音はそれ程に酷くて、周囲は既にてんやわんやな感じである。

 何しろお堀から這い上がって来る電気ウナギの数が、半端では無く地上も動く隙間が無い有り様なのだ。レイジーや萌の炎のブレスも、連中のぬめりがカードしてか効果が薄いよう。


 ルルンバちゃんの必殺のレーザー砲も、雷の速さで動く鵺にはヒットせず。驚きの一同だが、頭に来た香多奈はとうとうミケに討伐のお願いを言い渡す。

 それを聞いた長女は、慌てながらも鞄から例の『迅雷の独鈷どっこ』を取り出して、肩の上の守護猫ミケへと手渡す仕草。ミケはようやく出番かと、器用にそれを尻尾で受け取ってくれた。


 ちなみに、猫又と化したミケの尻尾は、いつの間にか2本とも器用に動かせるように。それを振るったミケのお得意の『雷槌』は、大ボスのぬえの雷撃とは明らかに格が違った模様。

 お陰で紗良の髪の毛派逆立って、鼓膜も酷い有り様に。ミケの雷撃は、明らかに以前に比べて威力が上がっていて、味方の筈の家族も大わらわである。


 さすがの大ボスの鵺も、ミケのお怒りを買っては長くは生きられなかった模様である。紗良の《結界》の外は、建物も含めて割と酷い有り様となっていた。

 ダンジョンの建物は、基本的に破壊不能な筈だったのだけれど。無残に壊れた塀の隙間に、恐らく鵺の成れの果ての魔石(大)が1つ転がっていた。

 それから周囲にも、電気ウナギの成れの果ての魔石(小)がどっさり。





 ――いつの間にか湧いた宝箱ともども、良い稼ぎになりそうだ。





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