第756話 3つ目の土エリアもそれなりに癖が強かった件



 さて、ペースを上げるよと言われた前衛陣だが、茶々丸に関しては別の指令が姫香から言い渡されていた。つまりはせっかく覚えた新スキル、相性が良いこの土エリアで確実にモノにしちゃいなさいと。

 幸いにも、茶々丸のMPは仔ヤギにしてはとっても豊富で意外と優秀である。その辺は、特殊スキルの《マナプール》を使っている体感的に、家族も承知しての指示出しである。


 ただしその辺、本当の所はどうなのかなぁと香多奈の素朴な疑問に。紗良がさっき鑑定の書(上級)が何枚か回収出来たねと、鞄の中から取り出す仕草。

 そんな訳で、土エリアの2層へと探索に出掛ける前に、香多奈の久々のステータス鑑定が入る事に。今までご無沙汰だったのは、こんな紙切れも売れば1千円以上の値段になるから。


 鑑定の書(上級)だと、その倍の値段で今の所は値崩れも無し。つまりは紗良のような《鑑定》スキル持ちは、未だかなりレアな部類であるって証明でもある。

 紗良も人物の鑑定は可能だけど、紙に書かれた方が見やすいのは確か。



【Name】茶々丸/Age 01/Lv 32


HP 101/112  MP 125/258  SP 49/86

体力 B‐ 魔力 B   器用 D  俊敏 A‐

攻撃 C+ 防御 D +  魔攻 C‐ 魔防 B+

理力 D+ 適合 C+   魔素 D  幸運 D+


【skill】『跳躍』『角の英知』『突進』『岩獄』

【S.Skill】《刺殺術》《成長緩和》《マナプール》《飛天槍角》

【Title】《ヤン茶な逃亡者》



【Name】来栖 香多奈/Age 11/Lv 36


HP 122/128  MP 124/188  SP 81/109

体力 D  魔力 B‐  器用 D  俊敏 D+

攻撃 D‐ 防御 D+  魔攻 C‐ 魔防 D‐

理力 D  適合 B+  魔素 C+  幸運 B‐


【skill】『友愛』『応援』『魔術の才』『天啓』『叱責』

    『叱責』『一心同体』『命中率up』

【S.Skill】《精霊召喚》《人類皆友達》

【Title】《溢れる奇才》《将来は巫女姫》




 そして、ついでに今の自分の鑑定もしようと試みた末妹に悲劇が。いや、この年齢でレベル36は、とっても立派でA級ランクと名乗っても恥ずかしくないのは確か。

 茶々丸のレベルも、いつの間にか32でMP量も250オーバーは凄いかも。香多奈のMPも子供にしては凄いが、軽くそれを超えている。


 他に茶々丸の優秀なステータスを見れば、体力や魔力系のB評価と俊敏性A評価だろうか。特殊スキルが4つもあるのも、普通の探索者からすれば羨望せんぼうの的に違いない。

 ちなみに、称号の《ヤン茶な逃亡者》はピッタリ過ぎて泣けてくるレベル。幾ら厩舎に閉じ込めても、いつの間にか脱走していたあの頃の苦労はとにかく大変だった。


 そして肝心の香多奈だが、家族がその鑑定の書を見て口をあんぐりさせる事態に。茶々丸の鑑定のついでに、つい出来心でやっちゃっただけだと言うのに。

 アンタまたやったねとの姉の恫喝どうかつには、何もやっていないよと必死の言い訳の末妹である。ただまぁ、新しい特殊スキルの取得と、それから称号が生えて来た言い訳にはやや弱いかも。


 長女の紗良も、スキルの数が10個超えちゃったねぇとやや心配そうな表情。そして新たな特殊スキルは《人類皆友達》と言う名前らしい。

 何とも香多奈らしいねと、呟く護人もやや呆れた表情である。鬼や天狗も、ひょっとしてアンタが招いたんじゃと、姫香は相変わらず厳しい眼差しである。


「しかも2つ目の称号が、《将来は巫女姫》って洒落てるよねぇ、香多奈。その辺は、人外ルートに入らなくて本当に良かったね。

 姉としては、本当に安心しちゃってたからさ」

「ま、まぁそうだな……まぁ、香多奈はどうなってもウチの子だから、その辺は安心していいからね?」

「ヘンに慰めないでよっ、単に特殊スキルと称号か新しく生えて来ただけじゃんっ! 普通にある事だよっ、みんなも見てみたらいいよっ!」


 そう言われて二の足を踏んでしまう家族の面々は、取り敢えず探索を開始しようと話題を変えてその場はスルー。そんな訳で、ハスキーの先導で土エリアの第2層を進む事に。

 相変わらずの洞窟エリアだが、支道がほぼ無いので迷う心配は無い親切設計。ハスキー達も、立ち塞がる敵をちぎっては投げの勢いで探索を進めている。


 出て来る敵もさっきの層と変わらず、ワームやモグラ獣人やロックやゴーレムが数体ずつ。パーティを組むように、雑多な組み合わせで出現するのが面白いかも。

 半面、この層から出現した大アリの群れは、他のモンスターとは徒党を組まずに出現した。しかも1ダースどころか、巣穴が近かったのか20匹程度の大群である。


 それを嬉々として狩って行くハスキー達は、まるで“裏庭ダンジョン”を懐かしんでいる様子。あの頃はスキルもなく、護人や姫香もくわやシャベルで戦っていた。

 紗良や香多奈も懐かしいねぇと、まるで大アリを脅威には感じていないのはアレだけど。たまに蟻酸を吐く奴がいるので、コイツ等もあなどって良い敵では決してない。


 それでも全部倒し終わるまでに5分も掛からず、護人の先を急ぐよの号令はしっかり守られていて良いペース。魔石の回収もツグミがパッと済ませて、道のりも順調である。

 そして肝心の茶々丸の訓練も、まかりなりにも良い調子で進んていた。大アリの群れでは試せなかったけど、ゴーレムやモグラ獣人ではまずまず確保が成功している。


 たまに捕獲が甘くて逃げられてしまうけど、そうなると『突進』も避けられて凄く悔しい茶々丸である。その辺の因果関係が分かって来ると、土スキルの習得にも熱がこもり始める仔ヤギだったり。

 つまりは、『岩獄』スキル自体には殺傷能力は無いって事でもある。それはそれで、敵を無傷で掴まえたりと使い道は探せば出て来るかも知れない。



 そうしてやっぱり20分程度、暗い洞窟を進んで辿り着いたのは例の吹き抜けの空洞だった。陽光の差す場所に畑が作られてあって、案山子がそこを護っている。

 いや、前の層と同じならこちらに襲い掛かって来る事が確定なのだけど。ハスキー達も既に心得たモノで、かかって来いやと挑発を繰り返している。


 そしてついつい、萌が先制で炎のブレス攻撃に及んでしまってさぁ大変。燃え上がったまま突っ込んで来られて、茶々丸は大慌てで逃げまどっている。

 それを見て、思わず突っ込む姫香である。


「茶々萌コンビでナニ遊んでるのよっ、2人ともっ! 茶々丸っ、こういう時こそ新スキルで敵を動けないように捕獲するんでしょ!

 怠けてないで、しっかりスキルの練習しなさいっ!」

「姫香お姉ちゃんってば、本当に毎回スパルタだよねぇ……でもまぁ、茶々丸だからいいか」

「いや、まぁ……あんまり追い詰めないようにな、姫香」


 遊んでるとか怠けてるとか、散々言われる茶々丸が不憫ふびんで助け舟を出そうとする護人だけど。その間に宙から攻撃を仕掛けて来る案山子の軍団は、ハスキー達によって討伐されて行った。

 そして残ったのは静かな空洞の畑だけ、今回は畑を荒らすモンスター達は出現しないようだ。その代わり、畑の中央にバカでかい作物がそびえ立っていた。


 恐らくカブか何かだろうか、大人が3人手を繋いで何とか抱えられるってサイズ感は凄いかも。末妹はそれを見て、大きなカブって童話があったねぇとそんな感想を漏らす。

 確かにあったねぇと、長女も同意してこれを抜いたら何か起こるのかなと思案気な表情。奥へのルートはしっかりあるので、ぶっちゃけ無視しても別に問題の無い仕掛けではある。


 とは言え、今回の案山子は倒しても魔石(小)しか落とさなかった。ここで何らかの回答を導き出せば、追加で報酬が貰えるかも知れない。

 紗良はこんな時も優秀で、童話と同じくこの大きなカブを畑から抜けば良いんじゃと提案する。それに乗っかる香多奈は、ウチには馬鹿力のお姉ちゃんがいるからねとその案を支持の構え。


 馬鹿力と表現された姫香は、末妹をにらみつけながらも大人しく畑へと入って行く。それに護人も続いて、末妹に推薦されてルルンバちゃんも勇んで参戦。

 ハスキー達は、巨大野菜に興味は無さげ。基本は雑食の彼女達だが、ここまで大きいと食欲も湧く対象では無さそうだ。何よりやっぱり、ハスキー達の好物はお肉なのだ。


 それからは、力を合わせての大カブの引っこ抜き大会の始まり。童話みたいに一列にはなって無いけど、声を掛け合ってのパワープレーがしばらく続く事に。

 それにしても、『身体強化』スキル持ちの姫香と、魔導ゴーレムのパワーに抗うとは大カブ恐るべし。ただし最後は、年季の入った護人の手技で一瞬大カブが浮き上がってくれた。


 そこからは、香多奈のわっしょいの音頭に合わせての、大カブの葉をロープ代わりの綱引き大会。張り切るルルンバちゃんの足元など、半分近くが畑に埋もれてしまっている。

 その頑張りの甲斐があって、モコッと言う派手な音の後に、ポンッと言う軽快な音が響き渡った。気付けば護人と姫香は畑に尻餅をついた状態で、その前には立派な宝箱が出現していた。


 どうやら大カブは綺麗サッパリ消失して、宝箱へと変わってしまったらしい。それはそれで残念そうな子供たちだが、気を取り直して巨大な宝箱の中身チェックを始める。

 そして案の定と言うか、宝箱の半分以上を埋める収穫済みのカブとご対面。一気にブー垂れる末妹だが、それに混じって木の実や魔結晶(中)なども入っていた。


 それから強化の巻物が2本に、ネックレスなどの装飾品が幾つか。宝箱の底には肥料袋も入っていて、何と言うか至れり尽くせりである。

 それからもちろん、各種農機具も入っていて香多奈も微妙な表情に。紗良もどうやってこの大量のカブを消費しようか、頭を悩ませ始めている。


 宝箱の底には宝石の入った袋も入っていて、一応は換金性の高い品も混じっていてくれた。装飾品にも魔法アイテムが混じっていると聞いて、ようやく機嫌の回復する末妹である。

 それらを回収して、恐らくは最後の突き当りの空洞へと到着する一行。当然ながら配置されていた木樽と案山子の生首セットを、姫香が勇んで攻略に掛かる。


 香多奈も張り切って、早めにクリアしたら報酬も良くなるかもとノリノリである。そして姉と一緒に、当たりっぽいスリットを考察してすごく楽しそう。

 その純粋な想いは物凄いパワーで、何と4本目で首飛ばしに成功した。そして生首の落ちた場所に出現する、魔石(中)とスキル書が1枚。


 そして樽の中身だけど、何故か今回は人参とごぼうや山芋がすし詰め状態で入っていた。批難轟々ごうごうの末妹だが、幸いにも魔結晶(小)や薬品系も幾つか発見。

 刺さなかった剣もさや付きの回収品になってくれたし、その辺を踏まえればまずまずの回収の筈。次の層への通路&ゲートも出現してくれたし、怒る程でもない。

 とは言え、ハスキー達はボス戦が無くてつまらなそう。





 ――とにかく土エリアも次が3層目、中ボスは恐らく待ち構えている筈。






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