第754話 炎のエリアを無事に突破して次の扉を潜る件



 ちなみに、炎エリアの第3層の初見の敵はマグマ生物のワニだった。どいつも2メートル級で、もし咬まれたら燃焼ダメージと相まって大変な事になっていただろう。

 それをムームーちゃんの水の槍で弱らせて、華麗に片付けて行く前衛陣。数が多そうな時は、ルルンバちゃんに依頼が行くので取りこぼしも無い。


 良く出来た受注システムに、すんなりとマグマの川エリアを突破して、一行は火山を見上げながら洞窟の中へ。結局はあの火山、もくもくと煙を発していたけど何事も無かった模様。

 もっとも、もしアレが爆破を起こしていたら、探索者の能力をもってしてもどう仕様もないだろう。自然の脅威とは、ちっぽけな人間などに介入など不可能。


 そんな事を思いながら、最後の試練へと向かう護人とペット勢と子供たち。洞窟の中は前の層と変わらず、小部屋のような空洞に繋がっていた。

 そして驚きの発見、どうやら中ボスの姿はどこにも無しと言う驚愕の真実。まぁ、ボード盤の仕掛けで何かが湧くのは確定ではあるけれど。


 今の所は、紗良が頭をひねって最小数でクリアしてくれているみたい。今回も2匹程度なら、ルルンバちゃんとムームーちゃんの氷魔法×2連で楽勝かも。

 そう思いながら部屋を覗き込む護人と姫香は、何となく部屋が大きいねと話し合う。仕掛けのボード盤を手にした紗良も同じく、絶叫の理由は突然の仕掛けの変更にあるらしい。


「ズルいっ、マス目の数が8×8から10×10に変更されてるっ! バーの穴の数も、さっきまでより増えてる気がするっ。

 これじゃあ上手く設定しても、穴だらけの解答になっちゃう!」

「あっ、でも……落とす玉の数が2個に増えてるね、紗良お姉ちゃんっ。これはひょっとして、上手く設定すればお宝2倍のチャンスなんじゃないかなっ!?」

「おバカね、香多奈……そう言うのは、欲を通せば敵の数も増えるような仕組みになってるのよ。賭け事だって同じだよ、高い倍率は当たれば美味しいのはみんな分かってるのよ。

 滅多に当たらないから、賭けの胴元どうもとは儲かるんだよっ」


 そんな姉の姫香の発言に、それってズルくないと憤慨する末妹である。ズルくはないし、人生の縮図だねぇと悟った物言いの紗良はともかくとして。

 確かに玉を2つとも落とそうとすると、他のマスの穴あきもズンと増えてしまう事が判明。どう頑張っても、4つは出来ちゃいそうと残念そうな口調の長女である。


 1つ諦めれば、何とか2つで済むみたい……ちなみに最大に敵を湧かすと、8つ以上は余裕で湧かせる模様である。そう言いながら、レバーをいじる長女はやっぱり研究肌で統計を取るのが面白そう。

 カチャカチャとボード盤を操作しながら、色んなパターンを試している。


 そして結局は、話し合いで2個の宝箱を獲得する方向へと決定の流れに。つまり敵は4匹湧く事となって、さて中ボスの強さは最終的にどの程度か想像もつかない。

 それでも強欲が勝るのは、子供たちの飽くなき向上心のためと思いたい。それとも炎属性の良装備を、レイジーにプレゼントしてあげたいとか。


 そんな前向きな欲望なら、護人としてもやぶさかではない。何しろレイジーは、前衛陣のリーダーとして毎回物凄く探索を頑張ってくれているのだ。それ位の配慮は、当然とも思う次第。

 ところが、そんなこちらの配慮を読まない敵の中ボスの湧き出しは割と酷かった。確かに紗良がボード盤をセットした途端に、四角い中部屋には2つの宝箱が湧いてくれた。


 それと同時に天井から漏れ出した4か所のマグマ生物たちは、何と中央で合体する素振り。それを阻止しようとルルンバちゃんとムームーちゃんが氷魔法を放つも、結局倒せたのは1体だけと言う結果に。

 残り3体はまんまと合体して、3メートル級の人型尻尾付きのマグマ生物の完成である。紗良が慌てて追加で《氷雪》魔法を放つも、炎のブレスでブロックされてしまう始末。


 さすが中ボス、簡単には始末されてくれない模様でレイジーも見直した表情に。それなら萌と一緒に肉弾戦かなと、嬉々として室内へと乱入して行く。

 お供の萌も、心なしか楽しそう……段々とハスキー軍団の流儀に染まって行くのは、少々心配ではあるけど。やんちゃ坊主は、茶々丸だけで充分に足りている。


 中ボスらしき不完全合体のマグマ生物は、荒ぶりながら室内への侵入者を睨みつける。そして胸に手を当てたと思ったら、マグマの中から一振りの剣を取り出した。

 それを見たレイジーも、愛用のほむらの魔剣を口に咥えてご相手願おうって感じ。お供の萌は、どうぞご自由にと積極的には参加せずの姿勢。


 尻尾付きの人型マグマ生物は、巨体を揺らして侵入者を斬り刻もうと突進する。対するレイジーは、その斬撃を軽く避けて敵の足へと斬りかかった。

 マグマの肉体に、そんな斬撃は効かない……と思ったら、焔の魔剣は相当な魔法アイテムのよう。切り口から派手に炎が上がって、マグマさえ燃やすのは或いは使い手の手腕のせいかも。


 魔法生物の筈の人型マグマ生物だが、この攻撃には苦痛を感じているようだ。良く分からないが、炎属性の格の付け合いみたいなモノなのだろうか。

 つまりは、レイジーの方が格が上だと敵に知らしめている感じ?


「いいよっ、レイジー……ちなみに中ボスの核は、多分だけど喉元にあるかもっ? それを壊したら、レイジーの勝ちだからねっ!

 ちなみに5分以内に倒せなかったら、ルルンバちゃんとムームーちゃんの氷魔法×2連が横取りして行くよっ!」

「香多奈……アンタ何で、マグマの中の核の位置が分かるのよっ? 本当にこれ以上、変な能力を伸ばすの止めた方がいいよっ?

 でないとその内、人間扱いして貰えなくなるかもよ」

「ああっ、そう言う事もあるのかなっ? でもまぁ“巫女姫”八神さんも、それなりの地位を確立してるし大丈夫なんじゃないかなぁ?」


 そんな事を話し合う子供たちだが、戦闘がサクッと終わるのならそう言う能力もアリだと護人は思うタイプ。戦闘中のレイジーは、突然のタイムアタック通達にやや慌てている感じ。

 それでも敵を横取りされたらたまらないと、俄然張り切り始めるレイジーである。強欲なのは、飽くなき強さへの欲求のせいだと思いたい。


 そして交わされる剣技の応酬、それが起こったのは3分過ぎの事だった。萌も参加すべきか迷い始めた所で、剣の打ち合いで弾き飛ばされるレイジーの愛剣。

 うわあっと子供たちの悲鳴の上がる中、当のレイジーは全く慌てていなかった。恐らくは敵の中ボスは、これは好機だとほくそ笑んだ事だろう。


 ところが次の瞬間に、喉元に食い付くレイジーの牙。本当の攻撃手段はこちらだと言わんばかりの、だましのテクニックはさすがハスキー軍団のリーダーである。

 大事な核は、そんな訳で中ボスの喉元から華麗に奪われる事に。それを呑み込むレイジーは、ある意味普通の犬を辞めてしまったのかも知れない。


「うわっ、凄いねレイジー……同じ火属性の中ボスに、格を見せつけるように勝っちゃったよ。とにかくこれで火のエリアを見事クリアだねっ!

 さあっ、宝箱の中身をチェックしようっ!」

「策士だねぇレイジー……ただまぁ、最後に敵の中ボスの核を呑み込んだのはアレだったけど。結局は萌の出番も無しか、まぁ私達も戦わなかったけど」

「下手に室内に入ったら、マグマの熱にやられてた可能性があるからね。得意な2人に任せといて正解だったんじゃないかな」


 そう言う護人は、怪我や火傷を負わずにこのエリアをクリア出来てホッとした表情。それでも最後の安全確認に、子供たちに先んじて室内へと入って行く。

 それから天井を見上げるが、特に何も無いようで再度ホッと安堵のため息。子供たちはそれを見て、一斉に室内に侵入して宝箱のチェックを始める。


 紗良は一応念の為にと、レイジーの怪我チェックを行うが何も無いみたいで一安心。それはそれで、モフモフを存分に堪能する紗良である。

 姫香と香多奈は、その間に手分けして2つの宝箱のチェックを始めていた。中からは鑑定の書(上級)や魔玉(炎)が相当な数、それから薬品系や魔結晶(中)に、末妹の方からは魔結晶の大サイズが出て来た。


 とは言え、姫香の方の宝箱からも強化の巻物×2やオーブ珠や、キャンプ用のランプっぽいアイテムが。魔法の品かなとの問いに、そうだナと宙を飛びながら妖精ちゃんの返答。

 香多奈の方も、虹色の果実が2個にスキル書が1枚、それから変わった魔法のマフラーを1枚回収した。こちらも妖精ちゃんのお墨付き、しかもかなりの上物らしい。


 後は定番の大ボス部屋の鍵も回収出来たし、冬物用品もそれなりに入手に至って大満足。具体的にはカイロとか炭火とか、持ち運び可能の電気ストーブや電気毛布などなど。

 普通にコンセント使用のものと、それから魔石エネルギーの魔法アイテムまで入っているみたい。これは凄いねと、子供たちも思わず大喜びである。


 山の上の冬は寒さが割と厳しいので、それへの備えは幾らあっても大助かりである。例えば新入りの3名に分けても良いし、余剰分は来月の青空市で売るのもアリだ。

 そんな感じで話を弾ませながら、全て回収を終えた一行はいそいそとその場を去る事に。何しろ果汁ポーションの効果が切れたら、たちまち危ないエリアには違いないのだ。




「ふうっ、何とか被害もなく2つ目の扉をクリア出来たねっ! 水に炎エリアと来たら、次はやっぱり雷か氷か土かなぁ?

 あっちの“鬼のダンジョン”では、何の属性エリアがあったっけ?」

「雪原エリアはあったわね、後は炎のエリアも間違い無くあったわよ。ただまぁ、どんな報酬を貰えたかはさすがに忘れちゃったなぁ。

 レイジー、さっき回収した奴で欲しいのある?」

「さっきの赤いマフラーとか、レイジーに似合うかもねぇ……アレも確か、炎属性の魔法の品だったみたいだし」


 そんな事を言い合う姉妹は、次の扉を前にのんびりと休憩中である。ついでに家族メンバーの装備強化を話し合って、あれこれと夢想している所。

 ハスキー達は興味無さそう、とは言え姉妹の良い雰囲気に乗っかって精神を休められているのも確か。これで姉妹喧嘩とか始まったら、彼女達も気の休まる暇がない。


 その点は、いつもの遣り取りか起きていなくて護人も秘かに安堵していた。ゼロ層フロアは、皆が思い思いの場所に腰掛けてのんびりムードが蔓延している。

 香多奈の通信によると、ザジ師匠と弟子チームも随分と敵を倒して順調なようだ。こっちも負けないよと、あと3層プラスボス部屋だと気勢をあげる姫香である。


 新入りのヒバリも、辺りを駆け回りながらずっと巣籠りなんか真っ平だぜとアピール中。とは言え、この子が探索デビューするのは一体いつになるのやら。

 茶々丸や萌の例もあるので、全く無いとも言えない来栖家チームの現状に。紗良だけは冷静に、怪我だけはしないでねと再び鞄の巣へと仔グリフォンを押し込む構え。


 そうして休憩も終わって、いよいよ次は一番左の3つ目の扉である。口々に予想が上がる中、尋ねられた護人は無難に土エリアを予想するのだけれど。

 果たして、潜り抜けた先は薄暗い洞窟エリアだった。これは叔父さんが当たりかなと、大穴の雷に賭けた香多奈は残念そうな素振りでミケさんに報告中。

 つまりは、ミケさんの装備品は当分揃いそうにないよと。


「えっ、この前の独鈷どっこの武器をミケに使わせようって案はどうなったの?」

「あ~っ、アレは香多奈ちゃんが持ち出そうとしてたから、手の届かないように隠しちゃった。どこに置いたかな、多分持って来てるとは思うけど」


 そんな紗良の報告に、冷たい視線が主に護人と姫香から注がれる事に。ミケさんが欲しがると思ってと、苦しい言い訳の末妹の明日はどっちに転ぶのだろう。

 そんな3つ目の扉の1層目は、どうやら本格的に“土エリア”で確定みたい。何しろ出て来る敵が、ワームや岩のゴーレムばかりなのだ。

 懐かしのロックも転がって来て、コロ助のハンマーに粉砕されている。





 ――さっきに較べると、これはかなり難易度の低いエリアかも?







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