第752話 マグマの流れるエリアに苦心しながら進む件



「あっ、マグマの中からスライムみたいなの出て来たっ。蛇みたいなのもいるね、凄い熱そうっ……コロ助に茶々丸っ、火傷するから近付き過ぎちゃダメだよっ!」

「火傷じゃ済まなそうだけど、炎耐性が万全なら多少は大丈夫なのかな? 取り敢えず、近付かずにスキルで処理しちゃおうか。

 とにかく安全第一で行こうね、みんなっ」

「そうだな、試しにムームーちゃんの水か氷系魔法スキルの効きを試してみようか。そんな訳で、あのスライムに試し撃ちしてくれ、ムームーちゃん」


 分かったデシと、素直な軟体幼児は《水柱》を発生させての水の槍を前方の敵の密集エリアへと放つ。溶岩スライムは意外と大きくて、周囲の岩を溶かしながらこちらに近寄って来る途中。

 そんなスライムは、やはり水系の攻撃には弱かった様子。あっという間に熱を奪われ、呆気無くダウンの憂き目に。それはマグマの蛇も同じくで、魔石(小)を落として消え去って行った。


 魔石の大きさからして、どうやら炎系でも雑魚とは一味違うマグマ系のモンスター軍。ハスキー達も用心しながら、マグマ溜まりの横の岩場の道を進んで行く。

 マグマの川の流れはゆっくりで、ボコボコとあぶくが立って湯加減は体に凄く悪そう。岩場の道は時にマグマ溜まりを超えたり、岩の連なりで険しくなったり。


 そんな大変な道のりだけど、幸いにも周囲は篝火かがりびの設置で灯りには恵まれていた。もっとも、その炎から亀や猿や狼がポンポン生まれて来てさぁ大変!

 大抵は半ダース程度の群れだけど、難易度はまずまず高い気がしてならない。取り敢えずは、魔法のコンパスのお陰で進むルートが確定しているのが有り難い。


 15分も進んだところで、マグマ溜まりの川に何かが浮かんでいるのを末妹が発見した。それは丸桶のように見えるけど、マグマに浮かんでる時点でただモノでは無さそう。

 その中にアイテム類が入ってるのを見掛けて、何とか回収しようと騒ぎ始める香多奈である。とは言え、丸桶はマグマの川のど真ん中をゆっくりと流れている。

 岸からも3メートル程度で、手を伸ばした程度では届きそうにない。


「さて、どうしよう……マグマには近付きたくないし、飛んで行くのも危険だよねぇ。さすがにレイジーや萌でも、この中に入るのは無謀だし」

「何か良い案ないかな……例えば、ツグミの影の触手で何とかならない?」


 そう振られたツグミだが、どうやら何かが突っ掛かって影の触手では動かないみたい。しかもマグマは立派な光源なので、長時間の影の束縛は無理みたいである。

 それならとレイジーが、お得意の炎召喚で炎の鳥を呼び寄せる。自ら行かないのは、慎重なレイジーらしい……『歩脚術』を使えば、行けなくも無いだろうに。


 レイジーの『歩脚術』だが、水の上は歩けても雪の上は駄目だったりと良く分からない。垂直な壁すら歩けるので、マグマの上も平気そうではあるのだが。

 或いはスキルも、使ってる内に成長するので将来的には宙も歩けるようになるかも。そうなると本当にチートだが、取り敢えず今回は炎の鳥(ダチョウサイズ)に任せる模様。


 それが飛び立って、丸桶を持ち去ろうと上空から近付いた途端にそれは起こった。ザブンとマグマの中から顔を出す、灼熱色の甲羅を持つ大カメ型モンスター。

 その顔と言うか口元は獰猛どうもうで、噛み付かれたらヤバそうなタイプかも。とか思っている内に、敵はいきなり炎のブレスを吐いて来た。


 それに抗するように、レイジーも負けじと炎のブレスで迎え撃つ。悲鳴をあげて避難する子供たち、それから防御魔法があちこちで形成されて行く。

 そんな中、反撃を指示する香多奈の一声にルルンバちゃんがすかさず反応した。修理から戻って来たばかりのレーザー砲が、大カメの頭を正確に打ち抜く。


 その光線は、そのまま甲羅の中まで達したようで威力はバッチリである。以前より強まった感もあって、水エリアでは良く分からなかった威力についても立証された気が。

 凄いねと、AIロボを褒めまくる末妹と、見掛け倒し感が満載だった大カメのドロップ品を回収するツグミ。その手際は相変わらずで、姫香に褒められた彼女もやっぱり嬉しそう。


「あっ、丸桶ってそのままドロップ品になってるんだ。中身は瓶入りの薬品が5つと、それから魔玉と魔晶石の小サイズが数個ずつかな?

 後はスキル書が1枚入ってたよ、護人さん」

「ご苦労さん、姫香にツグミ……ルルンバちゃんもナイス射撃だったね、一撃で倒すとは恐れ入ったよ。水エリアだと、やっぱり光線系の技はパワーダウンしてたっぽいな。

 ドワーフ親方にも、改めてお礼言っておかなきゃ」

「本当だねっ、前より威力上がってるって凄いよっ! これでルルンバちゃんも、いよいよエース級への道のりを歩き始めたかなっ!?」


 そんな香多奈のとぼけた台詞に、いやいやレイジーとミケも凄いからねと姫香の反論。実際、この2匹も探索をこなすたびにレベルやスキル揃えは向上している。

 とは言え、ルルンバちゃんの《合体》スキルもチートには違いなく。それを持ち出して、一歩も引かない構えの末妹は一体ナニと戦っているのか。


 姫香は肩を竦めながら、ミケのあごの下をくすぐって愚かな子供がいるねぇと呟いている。ミケは為すがままで、姉妹喧嘩の行方などどうでも良い様子。

一方、姫香の推しの片割れのレイジーは、無傷の勝利に満足そうな表情を浮かべていた。その態度はどっしりしていて、さすがエースと言われる風格だ。


 彼女の新装備も、ひょっとしたらこの炎のエリアで回収は可能かも知れない。前回の“鬼のダンジョン”の属性エリアでも、そう言えば色々と回収出来ていた気もするし。

 そうなれば、レイジーのエースの座も盤石かも?



 それからようやくの探索再開、何しろ厄介なエリアなので滞在時間は少ないに越した事は無い。その点、香多奈の持つ魔法のコンパスは行き先に迷わずに済んで超便利。

 そんな少女の指さす方へと、一行は急かされるように移動して行く。炎のエリアでも、ハスキー達の先行偵察は変わらずの安定感を発揮している。


 敵の出現数はそこそこで、ここまで4層の平均は1つのエリア30~40匹だろうか。普通のダンジョンに較べると、倍近く多いのは鬼の変なサービス精神なのかも。

 つまりはいっぱい敵を倒して、レベルアップをして頂戴的な。それを含めて“鬼の報酬”なのだと、今では信じて疑っていない来栖家の面々である。


 マグマの川になるべく近寄らないように、一行は火山エリアを進んで行く。そうして辿り着いたのは、いかにも何かありそうな洞窟の入り口だった。

 そこからは熱源を感じないので、いきなり火攻めは無さそうな雰囲気。とは言え、ここが炎のエリアなのは既に確定しているので、何か炎に関する仕掛けはありそう。


 そう話し合う子供たちだが、最初の洞窟の小部屋で妙な仕掛けを発見した。今度の仕掛けも、何らかのボードゲーム仕様となっているようだ。

 そして今回の仕掛けの肝は、管ではなく8×8のパネルの穴と4つの面から突き出たレバーにあるよう。レバーは、縦と横のパネルを1列ごと動かせる連動式となっている模様。


「あっ、こう言うボードゲームが昔あったねぇ。確かマスに自分の色の玉を置いてって、レバーを対戦者と引き合うルールだっけ?

 そんで、穴の位置を操作して対戦者の玉を落として行くゲーム?」

「ああっ、そう言えば……確かにここに玉が1個だけ、最初から置いてあるねぇ? ところでこの台の上のボードゲームと、向こうの部屋の天井の部分があるじゃない。

 これって、連動して動く仕掛けだと思う?」

「あっ、本当だ……よく見たら、向こうの部屋の天井が8×8の区分けになってるね! そうか、ここで操作してこの玉をゲットすれば良いのかな?」


 そんな感じで話し合って盛り上がる子供たち、恐らくその推測は合っていると思われる。その操作は長女に一任されて、この手の頭脳作業はすっかりお馴染みに。

 その隣から香多奈が覗き込んで、あれこれと茶々を入れるのもいつもの流れ。予定外なのは、肩の上のミケがゆらゆらと揺れる玉に興味を示している事。


 変な誤作動があっては困るので、姫香がすかさずミケを抱っこして隔離する。子供たちのフォーメーションは、そう言う点でもバッチリだ。

 ただし、玉は簡単に落ちそうだけど、他にも穴あきの場所が幾つか出て来そうな雰囲気。それは良いのかなと小首を傾げる紗良と香多奈だが、いかにも罰則はありそうだ。


 このゲームの肝なのだが、縦と横のラインの穴が重ならないと下に貫通はしないのだ。ただしこの仕掛けに使われるバーだが、穴あき部分が結構多い。

 いかにも難易度が高めの設定で、これには紗良も困り顔である。隣の香多奈は、玉が落ちて来れば別に良いんじゃないかなとの呑気な考え。


 悩んでいても仕方ないので、取り敢えずこのパターンでファイナルアンサーにする事に。その方法だが、台座に戻して上の赤いスイッチを押せば良いらしい。

 その途端、紗良の推測通りに隣の小部屋に異変が起こった。天井が動き始める気配がしているので、紗良の推測は完璧に当たっていたようだ。


 おおっと、驚く末妹は部屋を覗き込んでひたすら天井を見つめている。ハスキー達も、何が起こるんだと警戒しながら入り口に詰め掛けて一緒に眺め始める。

 天井のレバー操作は、どうやら滞りなく紗良が指定した通りに行われたらしい。その結果、玉が置かれていた地点には大振りの宝箱が1個出現。


 それから入り口と反対の壁に、ぽっかりと通路&ゲートまで出現してくれた。やったと叫ぶ子供たちだが、思わぬ敵もついでに2体ほど天井の穴から落ちて来た。

 それはどう頑張ってもふさげなかった余分な穴で、紗良はそれを見て悔しそうな表情に。反対に、嬉々としてそいつ等を倒そうと、部屋に侵入するハスキー軍団たちである。


 ただし、その赤くて丸いボール状のモンスターは何だかヘン。ろくな反撃もして来ずに、ただただ膨脹して行ってるようにしか見えない有り様。

 倒せないぞコイツと、ハスキー達も怪訝けげんな表情で攻撃を続ける。部屋に入っていない後衛陣は、ヤバいを連呼して戻っておいでと、ハスキー達に退去指示をしきりに飛ばすも。

 アツくなった彼女達は、何としても倒してやると攻撃の手を緩めない。


「爆発するって、コイツ……うわっ、こんな何も無い室内じゃ、逃げ場所は出口か入り口しかないよっ! ハスキー達、そんな奴放っておいて逃げておいでっ!」

「コリャ不味いな……ムームーちゃんっ、氷魔法で固めるぞっ!」

「護人さんにムームーちゃんっ、手前の奴を固めてっ……奥のは間に合わないっ、コロ助と私で防御してみるっ!」


 そう言われると、スキルで殴るのを止めて《防御の陣》を張る素直なコロ助である。姫香も隙間を埋めるように、『圧縮』スキルでの防御を展開する。

 別に、敵が膨れ上がったからって爆発するとは限らないけど、火山エリアの敵である。少しでも想像力があれば、危機回避行動にかじを取るのは当然だ。


 そして、案の定に起きる大爆発……幸いだったのは、ムームーちゃんの《氷砕》が片方の爆発ボムを華麗に固めるのが間に合った事。お陰で爆破は1匹で済んだけど、その威力は凄まじかった。

 部屋に吹き荒れる爆風は、やっぱり熱気を帯びていて下手に吸い込むと大変な事になりそう。悲鳴を上げる子供たちだが、後衛周辺は紗良が《結界》を張ってくれた模様で何とか助かった。


 と言うか、2匹が同時に爆発していたら一体どうなっていた事やら。冷や汗をぬぐう護人は、皆の無事を確認しようとチーム員に声をかけて行く。

 紗良もそれに加わって、いつもの怪我チェックの流れは安心のクオリティ。前衛陣は酷い目に遭ったと、大人しく長女の前に並んで順番待ちの姿勢。


 そんな中、取り敢えず宝箱は無事だったねと、こちらもいつもの調子の香多奈の呟き。出現した通路の向こうにゲートもあるねと、この層のクリアは確保出来たっぽい。

 それは良かった、これ以上こんなのが続いたら身が持たない。





 ――次の層は、もう少しお手柔らかに願いたい所。





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