第751話 お昼休憩の後に次の属性エリアを目指す件

 


 最後の中ボスの室内も、酷い様相で激戦の後がクッキリ。それでも安全は確保されており、後衛の面々も安心して近付いて来た。

 幸いな事に、レイジーの《咆哮》バフ効果が解けた後も、ペット達に副作用は無さそうだ。これには怪我チェックを行っていた紗良も、ホッと安堵の表情を浮かべている。


 それ以上に楽しそうなのは、ようやく宝箱と面会の叶った末妹だった。ルルンバちゃんに宝箱を開けて貰って、護人の監修の元に中身のチェックを始めている。

 その中身だけど、水エリアのせいか薬品系が妙に多い気が。その中には上級ポーションや中級エリクサーも混じっていて、これには末妹も大喜び。


 それからすっかりお馴染みの『海鉱石のインゴット』が4個に、魔結晶(大)が4個。オーブ珠が1個に魔玉(水)も20個以上出て来て、さすが水エリアと言う並びである。

 それから妖精ちゃんの反応した、魔法のアイテムが幾つか。水色の長剣と人魚のヒレのアクセサリー、それからフグのアクセサリーも1つゲット、


 フグはモンスターでは出て来なかったけど、フグの置き物や珊瑚の置き物など、そっち系のアイテムも幾つか入っていた。それから装飾系の品々とか、真珠などの宝石も少々。

 紗良はフグの置き物を手に、魚の頭の良さについてウンチクを垂れ始めている。例えば形を覚えて4択に答えられるとか、タコなど蓋をしたビンを中から開けられるとか。


 それを聞かされた妹達は、微妙な表情で念話で話すスライムもいるもんねと素っ頓狂とんきょうな返答。それより今回も鍵があったよと、水色の鍵を掲げる末妹である。

 これで3層の攻略も無事に完了して、次の扉へと問題無く向かう事が出来る。時間は少々早いけど、お昼休憩を間に挟んでも良いかも知れない。


 そう話し合う護人と子供たちは、結局は来栖邸まで戻ってお昼を食べる事に決定した。巻貝の通信機でザジ達にそう話し掛けて、一行は帰還用の魔方陣からゼロ層フロアへ戻って行く。

 向こうはもう少し攻略を進めて、ダンジョン内でお昼を食べる予定らしい。向こうの方が3層分多いので、こっちよりハードな予定になるのは致し方ないかも。


 そう言いながらダンジョンを出て、10月の山の上の敷地へと戻って行く来栖家チームである。そろそろ時期的に空っ風なども吹いて、紅葉も見頃になって来た。

 落葉もボチボチで、そろそろ寒さによっては初雪が降ってもおかしくは無い感じ。朝夕の冷え込みば、それ程に厳しくなって来て朝の起床も一苦労である。


「うわぁ、改めてすっかり秋だねぇ……この前まで暑いねぇって言ってたのに、もうすぐ冬になっちゃうよ!」

「本当だな……まぁ、ハスキー達は何とか夏を乗り越えれて良かったよな。今年もプールが大活躍だったな、何故か茶々丸も使ってたし。

 冬はコッチは大変だけど、ハスキー達は安心だな」

「あっ、そう言えば家の前の道路の改装するって本当、護人さん? パイプを埋め込んで、温水流して積雪を溶かす工事をするって言ってたじゃん。

 それが出来たら、家の前の雪かきしなくて済むから便利だよね!」


 その姫香の質問を聞いて、それは凄いねとはしゃぎ始める香多奈である。ただし、それをするにも家の前の道路工事を頑張らないといけないのだ。

 なので、秋に突入しても予定が満載な来栖家である。これで協会から探索依頼が舞い込んで来たら、秋も割と大変なスケジュールになってしまう。


 姫香などは、宮島の案件がウチに振られるじゃないかなと予測しているみたい。同じ地域だし、チームの失踪が重なっているのは他人事じゃ無いよねと口にしている。

 そんな事を話し合いながら、チームは来栖邸に到着してのお昼休憩に突入。紗良と姫香がお昼の準備を始めてくれて、ハスキー達は縁側で探索の再開を待つ姿勢。あわよくば、末妹からおこぼれを貰おうとアグレッシブな攻めの姿勢でリビング前に待機している。


「それにしても、水属性のエリアとか属性ダンジョンを思い出すよね。ひょっとしたら、この後は炎とか氷とかのエリアが出て来るかもっ?」

「ああ、“鬼のダンジョン”で昔クリアした奴に、そう言えば似たようなのがあったな。そしたら、午後に巡る場所も属性エリアなのは、大いにありそうだな。

 属性耐性の魔法アイテム、用意しておかないとな」

「そうですね、ドワーフ親方に加工して貰った炎属性のアクセサリーも、人数分ありますし。次が炎のエリアなら、対応も随分楽になるかもですね」


 そんな事を口にする紗良は、さすが自チームの装備品の管理はバッチリである。そしてお昼の準備も、用意してあったお握りとスープ類を準備して抜かりは無し。

 それからは、いつもの和気藹々あいあいとした雰囲気の中で食事を行って。食休みをしながら、10月の予定や敷地内の予定を話し合う。


 田んぼの収穫は終わったけれど、柿や柚子の収穫はこれからである。今年も高い所の作業は、ルルンバちゃんに頑張って貰わないとねと子供の発言に。

 ムームーちゃんを頭の上に乗せた、お掃除ロボット形態のルルンバちゃんは、頑張るよと家族の足元を走り回る。ちなみに乗せたのは香多奈だが、本人たちは意外と楽しそう。


 ヒバリも狩猟本能を刺激されるのか、そんな走り回るAIロボを追っ駆け回している。意外とアクティブなグリフォンの子供は、順調に成長中の模様。

 探索中こそ大人しかったけど、室内では元気に走り回っている。まだ翼を上手く使う事は出来ていないけど、チョコチョコ歩き回る姿は何とも可愛らしいかも。


 そんなヒバリが一番なついているのは、やはり親認定している姫香だろうか。他の家族にも警戒感なと示さず、その点は室内で飼うにも安心ではある。

 他のペット達とも順調に打ち解けてくれて、特に萌とは仲が良い気がする。ミケには最初、厳しい仕打ちを喰らったけれど、その後は無事に家族の一員認定はされた様子である。

 その点は本当に、家内安全の観点でも主従関係が結ばれて良かった。




 食後の休息も無事に終わって、ハスキー達もしっかり香多奈から分け前を貰って上機嫌。そのままの勢いで、午後の探索に行くよと号令を掛ける末妹である。

 ペット達は跳ねるようにそれに従って、“鶏兎ダンジョン”へと駆けて行く。それに続く来栖家も、秋晴れの中で足取りは軽快である。


 ザジ師匠と陽菜たち女子チームは、午前中はなかなかに好調だったみたい。階層も随分こなしていて、宝箱の回収も凄いっスとみっちゃんの弾んだ通信内容に。

 負けてはいられないと、こっちも回収頑張るよと盛り上がる子供たちである。そして辿り着いた、“鬼の報酬ダンジョン”のゼロ層エリアで次の扉を選択する末妹。


 それを受けて、張り切って進み始めるハスキー軍団&茶々萌コンビである。そして程無く、2つ目の扉の全容が明らかに……岩肌剥き出しの山岳エリアは、妙に熱気にまみれており。

 意外と近くに火山口が窺えるこのエリア、恐らく火属性かなぁと紗良の呟きに。また招いたわねと、鋭い非難の視線が姫香から末妹へ。


「うむっ、向こうに溶岩の川が見えるし、岩肌に篝火かがりびが幾つも配置されてるな。間違いなく火属性エリアだろう、昔の“鬼のダンジョン”を思い出すね。

 あの時は、確かレイジーと萌が大活躍したんだっけ?」

「紗良姉さんのポーションも、確か凄く役に立ったんじゃなかったっけ? あれってまだあるの、紗良姉さん?」

「任せて、ちゃんと持って来てるよっ……しかも今回のは改良型だから、前のより耐性アップ効果は高まってる筈だよっ!

 後は、以前の探索で回収した魔法アイテムや、親方に『炎鉱石のインゴット』を渡してペット用に加工して貰った炎耐性のアイテムとか。

 今回は、前衛だけじゃなくて全員分あるからねっ♪」


 そう言って、その場で鞄から炎耐性のアイテムを取り出す紗良である。炎エリアと確定したのなら、それ用にこちらも万全の体制を整えるぞとの意気込みはアッパレ。

 何しろ猛烈な暑さはとかく、マグマや炎をちょくに浴びるのはとっても危険。命に係わる難関エリアなので、備えは最大限に配慮しておかないと。


 そんな訳で姫香と香多奈も手伝って、まずはペット達に耐火の果実ポーション(改)を飲ませてあげる。そしてドワーフ親方が『炎鉱石のインゴット』から作りだしたアクセサリーを、ペット達の首に掛けてあげる。

 それから回収品の、『深藍鱗のペンダント』や『赤珠のネックレス』や『炎蛸の指輪』を家族で分けて行く。後は果実ポーションを飲めば、備えは完了である。

 するとあら不思議、周囲の熱気をあまり感じなくなってくれた。


 何とも便利な果実ポーションの効能に、驚きの反応の子供たち。ペット達も同じく、これは凄いと話せはしないけど反応からご機嫌なのが丸分かり。

 とにかく縁の下の力持ちの長女のお陰で、この炎のエリアの探索がかなり楽になりそうな雰囲気。レイジーと萌がメインになるのは当然として、他の面々もこれなら活躍は可能かも。


 そんな訳で、香多奈が魔法のコンパスの結果を告げて、示した方向へと進み始めるハスキー達。その途端に、岩肌にしつらえていた篝火からこぼれ落ちる炎のつぶ

 それがみるみる形を取って、炎のトカゲへと変化して行く。半ダースほどの敵影に、炎耐性を貰った面々が一斉に襲い掛かって行く。


 核を狙いなさいと、この手の敵の弱点は散々戦っていた面々は既に周知の事実。実際、炎をまとったトカゲは肉体を持たない精霊みたいな存在である。

 つまりは、姫香の言う通り核を潰すのが一番楽な倒し方なのだ。


「いいよ、ツグミっ……影の触手で、どんどん相手の核を体の外に放り出しちゃって! コロ助や茶々丸は無理しないで、ツグミが取り出したした核を狙いなさい。

 レイジーと萌は、なるべく盾役をお願いねっ!」

「ハスキー達と茶々萌コンビだけでも、かなりいいフォーメーションだな……ムームーちゃんにも前に出て貰おうと思ったけど、その必要もないかな?」

「そうだねっ、それより向こうの赤い川はマグマが流れてるのかな? 幾ら炎耐性を高めてても、アレに落っこちたら一発でお陀仏だぶつだよねぇ。

 この辺はまだ岩場だけど、先は気を付けて進まないとね」


 そんな事を言う香多奈だが、ちっとも怖がっていないのは口調からも丸分かりだ。ペット達も同じく、さっさと出現した敵をほふったかと思ったら、先へと進み始めている。

 そして次の篝火からは、炎の化身のような猿型のモンスターが出現。こちらも半ダース以上が湧いて出て来て、不気味な吠え声をあげている。


 それを挑戦とみなしたハスキー達が、こちらもうなり声を発して襲い掛かって行く。派手な衝突は、近付くだけで火傷を負うこちらが圧倒的に不利である。

 それをレイジーと萌が盾になって、被害を最小限に留める戦法で抑え込む前衛陣。この辺は、戦闘をこなすたびに賢くなるペット勢の本領発揮とも言える。


 ツグミも被害を抑えるために、影の触手で敵の接近を抑え込む作業。向こうも相当苛立いらだっているようで、それを振り切ろうと必死に足掻あがいている。

 それが適う前に、さっさと止めを刺して行く優秀なレイジーと萌の完全炎耐性の持ち主たち。コロ助や茶々丸も、敵の弱点の核が見えたら速攻でスキルを撃ち込んでいる。


 そんな戦い方が功を奏して、全員が何の被害もなく最初の岩場の通路を踏破とうは出来た。その次に拡がるのが、隣がマグマの川の厄介な通路エリア。

 ここは近付くだけで熱波が凄いが、果実ポーションと耐性装備のお陰で、来栖家チームに酷い被害は無し。後は末妹の言うように、近付き過ぎてドボンとならないように気を付けるだけ。

 それが一番怖いけど、厄介な事にそのマグマからも敵の影が。





 ――それはマグマが形どった、スライムのような生き物たちだった。







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