第750話 水エリアの竜宮城探索を家族で楽しむ件



 さて、3層だがやっぱり水エリアに変わりは無さそう。ただし風景は、さっきのギリシャ風とは打って変わって東洋風な感じを受ける。

 と言うより、珊瑚の森の中に建っているのは龍宮城ではなかろうか。派手な銭湯の建物みたいだが、中庭や離れを含めて立派な造りに見える。


 この突然のイメチェンに、何だろうって戸惑う護人と子供達。ハスキー軍団は関係ないぜと、さっそく周囲の探索を始めてくれている。

 周囲は珊瑚の森がこんもりと生い茂っており、見晴らしは決してよろししくない。そしてやっぱり、水属性の敵がわらわら周囲からお出迎え。


 すっかりお馴染みのカサゴ獣人や、あの軟体の頭部はタコ獣人だろうか。それらの混成軍は、装備もしっかりと着込んで割と強そうだ。

 オマケにちゃんとしたサメ型の魚影も、上空から不意打ち気味にこちらを見定めて襲い掛かって来た。対する来栖家チームの面々は、後衛陣を護りつつの迎撃態勢を整える。


「何だか急に風景が変わっちゃったけど、出て来る敵はほとんど同じだねっ。ハスキー達、頑張ればこの層で水エリアは終わりだよっ!

 えっと……ゲートの位置は、やっぱりあの建物の中かなっ?」

「まるで龍宮城みたいだね、乙姫様が中で待ってるのかな? とにかく出て来た敵を、さっさと倒して建物の中に入ってみようか。

 そろそろお腹も空いて来たし、クリアしてお昼にしよう」

「そうだね、一応はお弁当も用意して来たけど……時間に余裕があるなら、家に戻って食べるのが良いのかなっ?」


 そんな事を話し合う子供たちは、至って呑気に襲い掛かって来る敵たちをお出迎え。前衛陣は獣人達を相手にして、紗良はサメの群れに《氷雪》スキルを撃ち込んでの対応。

 ルルンバちゃんもお手伝いして、周囲の水ごと凍らせての退治は相変わらず見事である。フォローにと構えていた、護人と姫香に結局出番は回って来ず。


 前衛のハスキー達&茶々萌コンビも、1ダース以上の敵を相手に怯む事なく立ち向かって行く。最終層だけあって手強い獣人軍だけど、レイジーの『可変ソード』はそんな連中を無慈悲に斬り刻んで行く。

 ツグミとコロ助もスキルと自身の牙を中心に、魚型の獣人と対峙して奮闘中。茶々萌コンビもお得意の突進技で、派手に敵の戦線をかく乱してくれている。


 そんな前衛と後衛の戦いも、5分程度で何とか終焉の運びに。再び静けさを取り戻す珊瑚の森と、建物の入り口の門へと続くお洒落な小路である。

 海の底にしつらえられた小路は、左右に発光する石灯篭とうろうが設置されていて何とも優雅に見える。そこを進むハスキー達は、全く油断の欠片も無く慎重そのもの。


 本隊ともそんなに距離を置かず、いざと言う時の備えは万全である。そんなチームの前に、今度は門番のガタイの良い獣人が立ちはだかって来た。

 狂暴なその顔は、恐らくウツボ系の獣人だろうか。武器は例によってトライデントだが、その切っ先の鋭さは雑魚とは一味違うよう。


 それを華麗に避けるハスキー達、水耐性のアクセサリー効果と水の精霊の加護はバッチリ効いてる様子。強敵相手にも怯まず、姫香が駆けつける前に倒してしまった。

 それから建物に入るよと、家族に伺っての敷地内への侵入行為。その建物は、庭の飾りも見事でみるからにお金が掛かってそうな凝り具合である。


 凄いねと、ようやく追いついた後衛の紗良や香多奈も、その景色には驚きの発言。珊瑚も綺麗だが、海草も色んな種類があってとっても綺麗だ。

 そんな訳で、一行は建物の入り口は無視して中庭を散策する事に。ここも何故か、石灯篭や池みたいなエリアも存在している。水エリアなのに池があるとか、ちょっと不思議だねと末妹からツッコミが。


「確かに変だけど、まぁ雰囲気的には池があっても不思議じゃないでしょ。でも本当に綺麗だね、向こうの建物とも調和してるし」

「本当だねぇ、ウチのおうちの庭も見習えばいいのに……ずっと変わり映えしないから、思い切って変えちゃえば楽しいのにね。

 あっ、てももう冬になっちゃうから来年だね」

「まぁ、中庭の植木の改装はやって見たかった事でもあるけどなぁ。植松の爺と相談して、春になったら手掛けてみるかなぁ。

 さすがに、こんなに派手な中庭には出来ないけど」


 ウチには池とかも無いもんねと、末妹は何故か鯉が泳いでいる池モドキを眺めながら呟く。それにしても立派な錦鯉、さぞかし値段もするのだろう。

 そう護人が呟くと、持って帰ったら高く売れるかなぁと、香多奈の目玉は途端に現金マークに。さすがにダンジョン産の生き物を売るのは不味いでしょと、姉の姫香のツッコミが入る。


 そうこうしていると、東洋風の建物の縁側にあわただしい雰囲気が。どうやらしびれを切らした敵役が、さっさとかかって来いやぁと出現して来た模様だ。

 ラインアップ的には、やっぱりマーマンやカサゴ獣人が多い感じ。ただし体格も良いし、武器や装備も立派な設えの奴らばかりである。


 ハスキー達が張り切って、建物の境目で肉弾戦を始めてしまった。姫香も混じって、そろそろ中ボス戦のウォーミングアップ的な感じの殴り合い。

 いや、ちゃんと武器は使っているし、何ならスキルも交えて敵を蹴散らしている。ハスキー達も次々と勝利を収めて、建物内へと乗り込んで周囲を窺う仕草。

 そこからは増援に次ぐ増援で、なかなかに大変な戦況が続く事に。


 そんな訳で、護人やルルンバちゃんも出張って、通路を塞ぎながら前線を構築して敵を通さない構え。こんな建物の通路で斬った張ったをやってると、何となく時代劇な気分ではある。

 ルルンバちゃんも雷や氷系の魔法を駆使して、水エリアの敵をぎ倒して行く。建物内は何故かふすまに、床は畳張りと言う和風仕立てでそれがずっと奥へと続いている。


 内装もかなり豪華で、さすが龍宮城だねぇと香多奈は呑気な物言い。敵は忍者風の衣装を着たタコ獣人も出て来て、割とカオスなのだがそれらを退けて行くハスキー達である。

 戦闘で騒ぎまくったお陰で、畳敷きの室内は酷い有り様となっている。仕舞いにはタツノオトシゴに乗った騎乗マーマンが、数体中庭から乗り込んで来たりして。


 背後を取られそうになって、慌てた護人やルルンバちゃんがそのブロックに向かう破目に。馬代わりのタツノオトシゴは、気性も荒そうで突進力も持ち合わせてそう。

 それを見た茶々丸が、ライバル出現と張り切り出したのは予想外ではあった。騎乗している萌の制止を振り切って、反転しての『突進』を繰り出して行く。


 お陰で場はひっちゃかめっちゃか、護人とルルンバちゃんはそのフォローをするべく大慌てである。それでも前衛のハスキー軍団は、忍者を含めた水系の獣人軍を寄せ付けず完勝。

 魔石には小サイズも混じってたので、まあまあ強い軍勢だった模様。そして後衛の騎乗部隊対決も、波乱の末になんとか終了の運びに。


 荒れ果てた畳やふすまの現場はさて置いて、タツノオトシゴは衝撃的だったねぇと末妹の呟き。どうやらあの騎乗スタイルは、少女の胸には刺さったようだ。

 茶々丸はなおも荒ぶっており、負けなかったもんねと家族にアピール中。そんな仔ヤギにまたがっている萌は、ちょっと放心状態なのが何とも。



 それはともかく、休憩を挟んでさて正解のルートはどっちかなと相談する家族チームである。香多奈は魔法のコンパスを取り出して、アッチだねと指をさした。

 その途端に、何の仕掛けかそちらの方向の襖がバタバタと開いて行った。驚いてビクッと身構えるハスキー達と、アンタまた何かやったねと姉ににらまれる末妹。


 私のせいじゃないよと必死に弁明する香多奈だが、何部屋か先までルートは既に確定してしまっていた。その突き当りには、恐らくここの最終ボスの姿が。

 それは派手な衣装をまとっていて、確実に女性型のモンスターだった。乙姫だかマーメイドだか判然としないけど、そんな感じの敵が1体とお付きのマーマン部隊が半ダースほど。

 どいつも屈強な体躯で、装備も充実した部隊が控えている。


「あっ、ここは3層だから水エリアの最終戦かなっ? あのゲートは恐らく退去用だね、宝箱も見えてるしあの人魚がラスボスっぽいねっ。

 そんな訳で、私がアイツの相手をするね、護人さん」

「構わないけど、ツグミのサポートはちゃんと受けてくれよ。それじゃあ残りの護衛マーマンを、ハスキー達と後衛陣で相手しようか」

「了解っ、みんな頑張って! 何ならヒバリもデビュー戦に混ぜてみたら、姫香お姉ちゃん」


 生まれたてのか弱いひなに、無茶振りするんじゃないわよと姫香は末妹を小突いて説教しつつ。それから鞄に収まってるヒバリを軽く撫でて、勇ましく先陣を切って進み始める。

 それに続くハスキー達、香多奈の『応援』を貰ってコロ助は既に巨大化して勇ましい限り。これで戦闘準備はバッチリと、数部屋先の敵陣を見据える一行。


 ところが、そう言えばレイジーも支援スキル覚えたんだっけと、一緒に先頭を歩いていた姫香の一言に。レイジーが反応して、披露しよっかと新スキル《咆哮》を初使用に至って流れは変な方向に。

 そこからは割とカオスな展開に、何とコロ助の巨大化がもう1段階進んでしまったのだ。お陰で伸縮素材の、犬用の探索着はパンパンではち切れそうに。


 レイジーとツグミにも効果が及んで、お互いの毛並みの色に明らかに変化が起こった。茶々萌コンビも同じく、その効果はサイズ感とオーラにも及んでいる模様。

 呆気にとられる姫香だが、どうやらレイジーの強化スキルはペット達限定らしい。それでもそのバフ効果を貰った前衛陣は、まるで無敵の軍団のように振る舞い始める。


 負けてはいられない姫香だが、そんな振る舞いをしたレイジーが完全にタゲを取ってしまっていた。マーメイドの中ボスも同様で、目の色を変えてレイジーに突っ込もうとしている。

 それをブロックする姫香とツグミだが、さすが中ボス補正の敵はかなり強力である。腕力もそうだが、水エリアの恩恵で素早さが半端ではない。

 敵の尾ひれは、自在にエリア移動を果たす強力な武器のよう。


「わっわっ、レイジー達ってば凄い勢いだよっ、叔父さんっ! これは私たちの手助け、全然必要じゃないかもっ?」

「そうだな、どうやらレイジーの新スキルの効果が物凄いらしいな。反動が無きゃいいけど、一応はサポート出来るようにしておこうか。

 それより、中ボスの乙姫も凄い移動速度だな」


 慌てる後衛陣だが、とにかく凄まじい勢いのハスキー達&茶々萌コンビの邪魔はしない事に。そしていざという時の用心に、サポートに回ってくれる万能振り。

 何だかんだと言われているが、護人や紗良がこのチームの屋台骨なのは純然たる事実である。前衛が毎回、無茶をして破綻しないのも、縁の下の力持ちの存在あっての事。


 そして今回、そんな無茶に振り切って戦闘に没入している姫香は、中ボスのマーメイドしか見えていない有り様。そんな敵が持つ武器も、一見すると杖のような武器である。

 その先端に理力の刃が生えており、トライデントを形成していた。その威力は姫香の『天使の執行杖』に勝るとも劣らず、ツグミのサポートがあっても良い勝負。


 それを見兼ねた訳では無いだろうが、姫香の白百合のマントが突然に闇の塊を放ち始めた。白百合のマントが新たに吸収した、闇属性の能力を発動させたようだ。

 それにすかさず反応する相棒のツグミは、闇スキルのエキスパートである。瞬時に姫香の周囲に湧いた闇を利用して、活きの良いマーメイドを闇の触手でとらえに掛かる。


 さすが合体技だけあって、その威力は今までにない強力な束縛となった。調子に乗って姫香を翻弄していた、中ボスのマーメイドは驚き顔で畳の上に放り出される。

 闇の密度が濃くなったお陰か、そうなった後も影縛りの力は衰えないまま。或いはレイジーのバフ効果の助けもあるのか、中ボスも形無しの束縛力はチート級かも?


 そこから姫香の止め刺しも、スムーズに運んで敵の姿はこれで全て無くなって行った。レイジーの《咆哮》強化スキル共々、前衛陣の強化は凄まじい勢い。

 他の新スキルや新装備の実践チェックも、これは楽しみな予感。





 ――かくして水エリアの制圧も、無事終了の運びに。






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