第749話 “鬼の報酬”水エリアを苦労して突破して行く件
この層の石像だが、サンゴや貝類がくっ付いてとってもユーモラス。そして倒すとたまにドロップする、サザエやアワビに紗良の嬌声が水エリアに響き渡る。
今月から陽菜やみっちゃんがお泊り合宿に来るようになって、お土産の海産物が見込めるようになったとは言え。そこはやっぱり日本人、お肉だけじゃなく海のモノは定期的に欲しくなってしまう。
こんな高級食材じゃなくても、紗良ならばサンマやめざしでも喜んだかも。“大変動”以降は海の資源は復活して、漁獲量はすこぶる良いとみっちゃんなどは言ってるけれど。
壊滅的な流通システムのせいで、山の上ではなかなか新鮮なお魚は購入出来ないのだ。海側のお店に買いに行くにも、片道約1時間の運転はさすがに辛い。
そんな訳で、海の幸の回収は例えダンジョン産であっても嬉しい来栖家である。他にも何か回収出来そうな水エリアに、紗良もウキウキ模様で一行の後に続いている。
ところで香多奈の『魔法のコンパス』の指標によると、進むのは海底神殿の細い通路らしい。そっち方向を覗いてみると、大蟹や大エイが結構な数ひしめいている。
そいつ等を見付けて、元気に
子供たちも呆れる程で、元気だねぇと思わず漏れる末妹の呟きだったり。それでも応援は忘れず、フォローの姿勢は崩さない構え。
「香多奈、本当に向こうの本道を行かなくていいの? 出た場所が廃墟の中央部分だったから、どっちにも進めた感じだけどさ。
今までのパターンだと、本道を真っすぐが王道でしょ」
「知らないけど、コンパスの針は向こうを指してるよっ。敵の密集具合も、この脇道が一番多い感じじゃない?
王道と魔法のアイテム、叔父さんはどっちだと思う?」
「う~ん、まぁ今日も朝早く家を出てダンジョン探索に来てるからね。ちょっとくらい寄り道しても、フォロー出来る時間は充分にあるんじゃないかな。
こっちをしばらく進んで、違うと分かれば戻れば良いんじゃないか?」
そんな訳で、支道と言うか細いルートを敵を倒しながらしばらく進む事に。ハスキー達は、後衛の安全確保のために張り切って敵を見付けては倒して回っている。
今の所は、出て来る敵はカサゴ獣人とか大エイなどが多い感じ。それから支道っぽい細道にも、彫像ゴーレムが出現して通せんぼをして来ている。
しかも上空から、トラップのように中型のクラゲが降って来るのがとっても厄介。長く伸びた触手は、触ると恐らく毒か痺れを喰らう予感がヒシヒシ。
そちらは後衛が対応して、姫香が『圧縮』でブロックした所をルルンバちゃんの魔法で処理を行う。途中、電撃が放たれてビビったけど、幸い喰らったのはルルンバちゃんのみ。
大丈夫と気遣う子供たちに、へっちゃらとのリアクションを返すAIロボ。無敵のボディに呆れ返る護人だが、まぁとにかく無事で良かった。
その見た目は、修理から戻って来てますますロボットっぽくなって来た。その前面に取り付けられた女性の左腕は、それ
今ではそれがメインの攻撃手段なのだから、進化って不思議。
それはともかく、しばらく支道を進んでいると脇に大部屋へと通じる扉を発見した。そこにも大ウツボや大タコが潜んでおり、張り切って討伐に勤しむハスキー達。
コイツ等はボス部屋のモンスターに較べると、一回り以上小型で落としたのも魔石(小)だった。問題無く倒し終えて、それらをキッチリ回収するハスキー達である。
大部屋と言っても30畳程度の空間で、屋根は高いけど見るべき所も無い。ただし奥へと通じる開きっぱなしの扉があって、ルートは続いているようだ。
ハスキー達は一度後ろに確認を入れて、そちらへと進み始めてくれた。灯りは充分とは言えないけれど、この奥にはいかにも何かがありそう。
案の定、敵はいなかったけど変な装置が突き当りの扉に設置されていた。丸い透明のゴムで出来たボールが入り口を塞いでいて、通路を通せんぼしている。
ただしゴムのボールにはスリットが入っていて、中へと入れるようになっていた。興味深そうにそれを覗き込む香多奈だが、危ないよと家族の制止が。
「これはどう言う仕掛けなのかな、押しても動きそうにないけど……あっ、その場では回転するみたいだねっ。入り口が広くなったよ」
「ああ、ボールにスリットが入ってるんだね。上手く角度を調整すれば、向こうの部屋に通れるようになるかも知れないよ」
「あっ、本当だ……中に入って角度の調整をすればいいみたいだねっ。ルルンバちゃんは通れるかな、ハスキー達は楽勝っぽいけど」
そう話し合う子供たちは、透明なボールのスリットの角度を計算中。そして話し合った結果、姫香とツグミが先行部隊でボールの中へと潜り込んで行った。
そして問題の角度調整だけど、人が通れる角度にするのに一苦労。結果、途中にハスキー達なら潜って進めるルートが何とか確保出来た。
それを見て、一足先に行ってるねとレイジーとコロ助が球の中へと仲間入り。そして、隣の部屋に敵の気配を感じたのか喧嘩を吹っ掛けに向かってしまった。
ツグミも追従して、ついでについて来た茶々萌コンビも何とか狭いスリットを潜り抜けるのに成功。ハスキー達の喧嘩の飛び入りに、嬉々として出向いて行く素振り。
それを呆れて見守る姫香だが、数分後に何とか人間サイズの通路の確保に成功した。それを見て、今度は護人を先頭に球の中に入って来る家族たち面々。
隣の部屋を覗いてみるも、とっくにハスキー達の戦闘は終わりかけている始末。敵が何だったのかも分からないまま、通路の先の安全が確保されていると言う事態に。
最近はこんなのばっかだよねと、肩を竦める末妹の言い分ももっともだ。後はルルンバちゃんだが、さてこのサイズは通行は可能か悩ましい。
もっとも、置いて行くと言う選択肢はないので、子供たちは揃って頭を悩ませ始める。結局は紗良が回答を導き出して、なんとか魔導ボディの通り抜けを成功させた。
それを見ていた姉妹は、揃って大喝采を浴びせかける。
「やったね、さすが紗良お姉ちゃんっ……良かった、これでルルンバちゃんだけ単独行動させずに済むよっ!」
「本当に助かったよ、球の仕掛けにギリギリの幅があってくれて。ルルンバちゃんもお疲れさま、何とか通れて良かったねぇ」
そんなやり取りを行う通った先の小部屋は、既にハスキー達の戦闘は終了して安全地帯に。その先には普通の扉があって、またも別の部屋へと通じているようだ。
今度も30畳程度の大部屋で、待ち構えていたのは貝や珊瑚をくっ付けた3メートル級の石像だった。ここの奴らは武器持ちも混じって、なかなかにハードな戦いに。
それでもコロ助のハンマーは、水エリアでも健在で何事もなく戦闘は終了。敵の数も少なく、護人や姫香が前に出るまでもなかった。
その次の部屋には敵が存在せず、代わりに例の仕掛けテーブルがドンッと置いてあった。今回も謎解きだぁと、楽しそうな香多奈の雄叫び。
それを受けて、紗良は真面目にテーブルの管とパネルを眺め始める。そして姫香やペット達は、逆に考えを放棄して寛ぎ始めるのも毎度の事。姫香はツグミやコロ助を撫でたり、茶々丸に怪我がないか確認したり。
その隣では、テーブルのパネルをカシャカシャと動かし始める紗良と香多奈の姉妹。今回は備え付けの樽が2つあって、テーブル下の受けコップも2つある。
つまりは管の通路を2つ繋げる必要があって、その分だけ難易度が高くなっている。とは言え、同時に流す必要があるかは不明なのでその辺は
それでも数分もすれば、紗良と香多奈は何とか正解を導き出すのに成功した。
「この十字のパイプ管、上と下で管が混ざらない仕様になってるみたいだね。それならこれで大丈夫な筈、せえので一緒に蛇口を
「オッケー、紗良お姉ちゃん……あっ、これってポーションなんだっけ? 溢れたら勿体無いから、受け皿に溜まった後はボトル瓶で回収しちゃおうっ!」
そんな事を話し合う優秀な謎解き姉妹は、自分達の成功を信じて疑っていない様子。それから蛇口を捻って、樽の中の液体が管を通って行く様を一緒に眺めている。
末妹は、鞄からすかさず空のボトル瓶を取り出して長女と分け合う周到振り。そして見事に作動してくれた、地下の通路の開く仕掛け。
やったねと
護人も、レイジーやムームーちゃんを撫でながらの待機休憩を終えて。これが開いたって事は、この奥がゲートだねと地下の通路の確保を戦闘部隊へと指示出し。
もっともそれは、敵がこの地下室に待ち構えている事が前提だけど。その指示は無駄にならず、ちゃんと大物の敵が待ち構えていてくれた。
そいつは発光が綺麗な大クラゲで、体長6メートルはゆうにありそう。
「おおっ、なかなか綺麗で大きな敵だね……ヒバリちゃん、見てるっ?」
「ヒバリは大人しいね、茶々丸と大違いだよっ。でもまぁ、ウチには萌もいるからね……キャラ立ては難しいかもね。
超甘えん坊キャラとか、まだいないから目指したらいいんじゃないかなっ?」
メタな発言の姫香はともかくとして、巨大クラゲはたった1匹で地下室の奥に発光しながらただ浮いていた。進み出た一行は、その地下室が砂地なのにすぐに気づく。
その違和感はハスキー達も気付いて、すぐに罠だと心当たりがついた模様。それと同時に、踏み込んだ先の砂地から巨大エイがブワッと飛び上がる。
その鋭い
巨大エイは巨大過ぎて、部屋の視界を遮って奥の巨大クラゲも見えなくなる程。その瞬間、どうやら巨大クラゲが雷撃を放ったようで周囲は酷い有り様に。
来栖家チームも全員が被害を負ったけど、何故か一番の被害者は仲間の筈の巨大エイだったと言う。そしてハスキー達と一緒に先行していた姫香は、《全耐性up》スキルのお陰か被害は少なくて済んだ模様。
消滅した巨大エイを
それは鈍く発光する球体の核で、魔玉程度の大きさしか無くて破壊は大変そう。それでも『天使の執行杖』を長槍モードにして、理力の穂先でその弱点を突きさしに掛かる。
その目論見は見事に一度で成功して、巨大エイと同じく瞬時に消滅して行く巨大クラゲであった。迎撃に姫香に絡み付こうと伸びて来た、無数のクラゲの触手は一歩及ばずの結果に。
やったぁと嬌声をあげる末妹は、意外な結末に喜び勇んで周囲を飛び回っている。砂地は危ないよと声を掛ける紗良だけど、どうやらこれ以上の伏兵はいない模様。
姫香に手柄を取られたハスキー達だけど、まぁ獲物は分け合うモノだよねと気にしていないようで何より。取り敢えず転がってる魔石(小)2つと、奥のゲートと宝箱も確認出来た。
宝箱の中には、魔結晶(小)が6個とスキル書が1枚、それから鑑定の書や魔玉(水)が幾つか。後は薬品系も少々と、それから食用の貝類が結構な量出て来た。
ついでにクラゲ柄のケープと言うか、透明な良く分からない防具は魔法アイテムらしい。これは良いモノだと請け合う妖精ちゃんだが、何だかすぐ破れてしまいそう。
とにかく、これにて2層の探索も全て終了だ。
――次は3層、恐らくこの水エリアもようやく終わってくれる筈。
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