第748話 パズルを解きつつダンジョン奥へと進んで行く件



 テーブル上の5×5のパネルは、1枚欠けていて自由にスライド出来るようになっている。パズルの定番の仕掛けだけど、紗良も同じくそう思ったようだ。

 香多奈に手伝って貰って、パネルをカシャカシャとスライドさせて管のルートを次々と確定して行く。そんな感じで、モノの数分でテーブル下の天秤のコップまでの水路の出来上がり。


 お手伝い役の末妹は、おおっと拍手しながらその手際の良さに感嘆している。姫香も同じく、樽に付いている蛇口をひねっていいかなと長女にお伺い。

 そして流れ出した液体は、テーブルの上に出来上がった管を通って無事にテーブル下のコップへと注がれて行った。そして作動する天秤の仕掛け、そして周囲に響く何かの作動音。


 見ると、真っ直ぐ続いていた石畳の通路の途中ががパックリと口を開けて、下への階段が出現していた。大掛かりな仕掛けに、再度おおっと驚く素直な子供たち。

 謎解きに成功した紗良も、まさかこんな仕掛けだとは思っていなかった様子。凄いねぇと驚きながら、薄暗い階段の先をしゃがみ込んで眺めている。



「謎解きは割と簡単だったけど、仕掛けはかなり大掛かりだったねぇ。これで1層はクリアかな、意外と簡単な水エリアだったね」

「そうだね、大型の敵もいなかったし……香多奈の大好きな宝箱も無くて、報酬ダンジョンにしては残念だったわね」

「本当だよっ……前も結構凄い魔法アイテムを貰えたから、今回も期待してたのにっ! でもまぁ、次以降のエリアに期待だねっ!」


 そんな言葉を口にして、ポジティブ思考の末妹は先に進もうと提言して来る。ところが妖精ちゃんは、こぼれてる液体はエーテルだぞと、仕掛けの液体の回収を助言。

 ええっと慌てる紗良は、すかさず空のボトルを末妹へとパス。そこからの一連の回収の流れは、惚れ惚れする程のチームワークではあった。


 階段を降りる手前で止まっていたハスキー達は、地下に拡がる空間に何か不穏な空気を感じている感じ。回収作業を待っていたと言うよりは、ゲート前のボスに備えているような。

 姫香もそれを感じ取ったようで、大物退治のフォーメーションを組み始める。例えば護人に対して、今回の探索で確かめる事案を再確認してみたり。


「ああ、修理から戻って来たルルンバちゃんの性能は、まずは確認しておきたいかな。それからレイジーや茶々丸が覚えた新スキルのチェックもそうだな。

 おっと、そう言えばムームーちゃんも覚えたんだっけ?」

「叔父さんと姫香お姉ちゃんのマントも、バージョンアップしたんじゃなかったっけ? 県北レイドは2つともA級だけあって、物凄く儲かったよねぇ!」

「確かにそうだけどさ、言い方ってモノがあるでしょうに……まぁいいや、とにかく今回はルルンバちゃんの性能チェックから行こうか?

 そんな訳で、修理の終わったレーザー砲の用意をよろしくね、ルルンバちゃん」


 そう言われたAIロボは、戻った新パーツの腕を振り上げて了解のポージング。随分とこぼれてしまったが、残りのエーテルを回収し終わった香多奈は進んで良いよと一行に告げる。

 それを聞いたハスキー達は、地下への階段を降り始める。幅広の階段の降りた先は、なかなか広い地下駐車場のような佇まいでいかにも何かありそう。


 と言うか、次の層への階段かゲートはあってくれないと困るのだけど。香多奈は魔法のコンパスを見て、この先にある筈と真っ直ぐ進んでと指揮をっている。

 それをさえぎるように、配置されていた大型モンスターが2体ほど。形状と言うか、あの太い触手は恐らく大タコか大イカだろうと紗良の忠告に。


 前衛を買って出た姫香からは、緑色とオレンジ色の蛸がいるねとの返答が。何で赤じゃないのと、不思議そうな香多奈の疑問に律儀に答えようとする真面目な長女。

 前衛陣は戦闘に突入するも、紗良の説明は止まらない。


「タコは軟体動物ってのは有名だけど、意外と凄い能力の持ち主なんだよね。例えば墨を吐いたり吸盤で張り付いたりは、香多奈ちゃんも知ってると思うけど。

 実は“擬態”能力もあって、体を様々な色に変化させる事も可能なんだよっ。海の賢者とか、海の忍者とか色んな呼び名を持つ不思議な生き物でもあるよねっ?」

「へっ、へえっ……?」

「タコは凄く頭が良くて、瓶に閉じ込められても自らフタを開けて出る事が出来るんだよっ。タコ足の複雑な動きも、触手の付け根に脳があるからなんだって。

 合計9個の脳と、ついでに心臓も3つあるって話だね! 外国じゃデビルフィッシュ何て言われて嫌われてるそうだけど、食べてみたらあんなに美味しいのにねぇ?

 あっ、ちなみにタコの日は8月8日なんだって!」


 怒涛どとうの喋りの長女に、やや引いた感じの香多奈は置いといて。戦闘は迫る触手とそれを切り捨てる護人と姫香と言う構図がしばらく続く流れに。

 そこに必殺技を使ってみてと言い渡されたルルンバちゃんの、久々のレーザー砲が炸裂する。その威力は鈍っておらず、むしろ修理明けでパワーアップしている感も。


 おおっと叫ぶ末妹は、説明地獄から解放されてちょっとホッとした表情。ルルンバちゃんの復活は、家族チーム的にも嬉しい報告には違いなさそう。

 そしてオレンジ色の大タコは、呆気無く蒸発して残り1匹に。コイツも地下室をタコ壷代わりにしていただけあって、相当に巨大でデビルフィッシュの名に相応しい顔つきだ。


 そいつは周囲に並んでいた彫像を、棍棒代わりにぶん回して酷い暴れよう。近付こうにも、触手はまだまだ元気で絡み取られたら酷い目に遭うのは必至である。

 その攻撃を丁寧にブロックしていた護人は、肩の上に乗っかる軟体生物に話し掛ける。つまりは、ルルンバちゃんのお披露目は終わったから、今度はムームーちゃんの番だよと。


 それに乗っかって、新しいスキルを披露すればいいデシねと張り切る幼児スライム。いつの間にか覚えていた、宝珠使用の《氷砕》を目の前の敵に向けて発動させる。

 飽くまで軽いノリなのは、戦闘度胸のある証拠かも。


 その魔法は《氷雪》のような範囲魔法とも、《水柱》のような水弾発射タイプとも違うようだ。いきなり敵と言うかまとの中央を凍り付かせて、それから破壊する感じだろうか。

 さすが宝珠から覚えただけあって、その威力はなかなかに凄まじかった。幼児の魔力でも、緑色の大タコの半分を凍り付かせてしまったのだ。


 おおっと感動したような叫び声をあげる後衛陣と、今がチャンスと飛び込んで行くコロ助と茶々萌コンビ。コロ助のハンマーで、凍った半身が破砕してこれで2匹目の大タコも討伐完了の運びに。

 2匹とも魔石(中)を落としたので、それなりの強さだった筈だがこの圧勝は凄いかも。さすがルルンバちゃんと、AIロボを褒める家族は彼の復帰に頼もしそうな視線を送っている。


 本人も褒められて嬉しそう、その喜びを新しくつけて貰った魔導ボディの両腕でアピールしている。それはドローン部分の後付けアームとは大違いで、ボディにとってもフィットしていた。

 恰好もより魔導ゴーレム的になって、ロボット感が溢れて来た。以前はどちらかと言えば、近未来型戦車とか運搬作業車みたいな見た目だったのだ。


 それが腕がついただけで、このスタイリッシュな変わりよう……後はロボットの頭が欲しいねと言う末妹は、感性が少しズレている気も。

 何にしろ、代わりのボディのよちよち歩きじゃなくなってホッと一安心の護人である。一発のパワーが戻ったのも有り難いけど、やはりいざと言う時の運搬能力は頼もしい。


 後でルルンバちゃんの前衛能力も見なきゃねと、後付けアームの戦闘力も見たい香多奈はそう口にする。隠れ里の工房のドワーフ親方は、しっかり魔導ゴーレム用の近接武器も用意してくれていた。

 確かにそれを使ってる姿も、チェックしておいた方が良いとも思う一同である。


「それにしても、この1層はまずまず楽に攻略出来たな。水耐性の装備を、こっちがあんまり持ってない設定での難易度設定だったのかな?

 その辺は分からないけど、この次の層もこの位なら有り難いな」

「そうだね、変な謎解きがエリアの途中に入ってたけど。ああ言う知識って、ダンジョンはどこで手に入れるのかなぁ?」

「知らないけど、前の時も結構クイズ要素が多かった気がするね。作った鬼の好みなのかな、良く分かんないけど」


 そんな感じでのいい加減なコメントの姫香は、考えるのは長女の仕事と割り切っているのが凄い。ある意味信頼とも取れるけど、末妹の視線はやや冷ややか。

 そんな事を言い合いながら、ゲート前の部屋で休憩をこなす一行。ちなみに大タコ討伐の報酬に、ゲート横に小さな宝箱が1個だけ湧いてくれた。


 その中には鑑定の書や瓶入りの薬品類が幾つかと、何故か瓶入りのキャビアやノリの佃煮が幾つか。魔結晶(中)や真珠の飾りも入っていて、金銭的にも価値は高そう。

 それらを眺めながら、まだまだ序の口だねと鼻息の荒い香多奈は今日も儲ける気満々だ。他にもタコの干物とか、お魚の缶詰も結構な数を回収出来た。


 それらを魔法の鞄に仕舞い込んで、向かうは次の第2層である。恐らく次も水エリアに間違い無いだろうし、気を引き締めて向かおうと護人の言葉。

 それに対して、子供達は元気な返事で応じるのだった。




 そして“鬼の報酬ダンジョン”の第2層も、予想通りの水エリアだった。しかも海底神殿のど真ん中で、目の前には海の神の石像らしきモノが凛々りりしく建っている。

 西洋チックなこのエリアだが、半壊した建物群もまさにそんな感じ。ギリシア風の建物ばかりで、大通りの両端には石像が等間隔に立ち並んでいた。


 アレッて動くのかなとの末妹の疑問の呟きに、それとなく近付いて反応を窺う賢いハスキー軍団。案の定に動き出したそいつ等に、ハンマーの鉄槌を喰らわせるコロ助である。

 いや、コロ助のハンマーは白木製だけど……茶々萌コンビも元気に『突進』をかまして、相手が石だろうと構わぬ様子。そんな感じで騒いでいると、遠くから魚影が近付いて来た。


 騒ぎを聞きつけて戦闘参加を決め込んだのは、結構なサイズのサメの群れだった。これはピンチと、姫香や護人も盾になるべく前へと出て行く。

 ただし、この水エリアの厄介な点は、魚型モンスターが容易に頭上を取れる事にある。防衛ラインを引いても、簡単に頭上から突破されて後衛陣がピンチに。


 そうはさせまいと奮闘する護人達、ルルンバちゃんも氷系の魔法で周囲の水ごと凍らせての攻撃を繰り出す。周囲は酷い有り様で、そんな中をサメの集団は大口を開けて泳ぎ回っている。

 その騒ぎにハスキー達も参加、どうやら近くの石像はすべて破壊し終わったらしい。喧騒は更に大きくなって、どうなるのか予断を許さない状況に。


 その時、末妹の水の精霊が手助けしてくれて、一行の苦境が一転した。掛けられていた“水の恩恵”付与の強化に、息を吹き返す来栖家チームの面々。

 1層で動きに不便が無かったので、家族も特に必要だとは思わなかったのだけど。実際にあると無いとでは、体に掛かる負担がまるで違う。

 そんな訳で、2層のスタート地点での逆襲が始まった。


「ふうっ、ちょっと怖かったね……1層が意外とスンナリ行けたから、楽勝かもって油断してたよ。今までの“アビス”探索でも、香多奈の“水の精霊”の加護付与は最初にして貰ってたよね。

 あれって段階が強化出来るんだね、知らなかったよ」

「うん、水の精霊が申告してくれて助かったよ……向こうのスピードが意外と速くて、逆にハスキー達が遅く感じちゃったからさ。

 そしたら水の精霊が、もうちょっと強化してくれるって言ってくれたの」


 この機転には、妖精ちゃんも満足気な表情……ただし、MPを余分に吸い取られた末妹は割とフラフラである。何にしろ、無事に危機を乗り切れて本当に良かった。

 探索に慣れて来ると、どうしても気の緩みが出て来るようになる。ダンジョンに挑むのに一定の危機感は大事だなと、家族内で改めて意思統一など行いつつ。


 もう他に申告漏れは無いねと、静かになった広間を見渡しながらの護人の言葉に。多分無いよと元気な返事をしながら、散らばった魔石と素材を拾う香多奈である。

 それを見て、家族の皆が何となく不安になるのは正常の証だろうか。





 ――そんな来栖家チームだが、気を取り直して2層の探索へ。






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