第747話 鬼の報酬ダンジョンの3個目へと挑む件
陽菜とみっちゃん、それから怜央奈が来栖家に泊っている時点で週末のイベントは半ば決まっていた。つまり彼女達は、ザジ師匠と共に敷地内ダンジョンへと修行へ出掛けて行くのは確定済み。
それを知った姫香や香多奈が、自分達も探索に行こうよと言い出すのは毎度の事である。そんな訳で、週末の朝からせっせとダンジョン探索の準備を進める子供達。
そんな来栖家の目的地である、“鬼の報酬ダンジョン”も今回で3つ目だ。過去2つもなかなか癖の強いダンジョンだったし、情報の無い初見の場所なのだ。
その点は気を引き締めて掛からないと、敷地内とは言え厄介な目に遭いかねない。担ぎ出された護人は、そこだけはしっかりと釘刺しを忘れない。
「分かってるよ、叔父さんっ……でも、過去にも良い魔法のアイテムがたくさん回収出来たからね。今回も鬼の報酬、有り難くゲットしないとねっ♪
そう言えば、小鬼ちゃんからもさっさと全部の報酬受け取ってと言われてたし」
「アンタ、ちょくちょく会ってるの……そっちの方がビックリだわよ。私か護人さんに、そう言う事があったらしっかり報告しなさいっていつも言ってるでしょ!」
「まぁ、確かにその通りだけど、こっちも色々と忙しかったからな。ここは月に1回程度通うので、丁度いい感じじゃないかな?
ルルンバちゃんも修理が無事に終わったし、慣らし運転にいいかもな」
そう言う護人に、そうだねと明るく応じる子供たち。修理が終わって戻って来たルルンバちゃんの機体は、今まで以上にピカピカで頼もしい。
心配されていたレーザー砲塔も、何とか部品を調達出来たのか綺麗に直って戻って来てくれた。本当に親方には感謝である、今度お
リリアラも、隠れ里のホビットだかノームの作業員を雇っていたし、不可能ではないのだろう。ただし、向こうが求めに応じて来てくれるかは全くの不明である。
この敷地内には、リリアラの塔とか錬金素材がいっぱい栽培されている温室とか、見所は意外と多い筈。それを案内してあげたいなと、末妹の思いは広がっている模様。
それはともかく、探索準備を終えた一行は現在“鶏兎ダンジョン”の3層に辿り着いた所。時刻は午前の9時で、いつもの家畜の世話と朝食を終えた一行は気合充分で意識を切り替えている。
ザジ師匠の率いる陽菜たち弟子チームも、同じ時刻で“鼠ダンジョン”に突入している。今回も巻貝の通信機を渡してあるので、途中での通信は可能な筈。
そんな、前回とほぼ同じ条件での“鬼の報酬ダンジョン”突入への期待は、当然良い魔法アイテムゲットに他ならない。頑張るぞと意気の高い末妹も、回収品がメインの模様。
護人としては、ルルンバちゃんの試運転や新スキルのお試しなども視野に入れつつ。無難にダンジョンを攻略出来れば、後は文句は何も無い感じ。
紗良の準備も、お弁当を含めてバッチリ……出来れば売れる品も回収出来たら良いねと、青空市の売り物補充も念頭に入れる子供達である。
それはともかく、これで3つ目のダンジョンだねと張り切り口調の香多奈。今回も頑張るよと、姫香も妹に続いてヤル気を口にしている。
そんな気合充分の来栖家チームは、現在3つ目のダンジョンのゼロ層フロアに辿り着いた所。ここも3つの扉が選択出来るようで、どれを選ぼうかとご機嫌な末妹である。
結局は一番右の扉から行こうと、そんな少女の発言で最初の行き先は決定の運びに。ハスキー達が先行して、最初のエリアの探索がいざスタート。
そしてそこは突然の海底エリアで、ハスキー達もどうしようと家族を待っていた。それを見て、すぐにいったん帰還を命じる護人はすっかり探索慣れした感も。
紗良も心得たようで、ゲートの扉を出てからすぐに水耐性の装備を鞄から用意し始める。香多奈もエリアに入ったら、すぐに水の精霊さん呼び出すねと張り切って申告する。
「“アビス”で慣れてるけど、がっつり水エリア仕様だね、この中のエリア。しかし敷地内のダンジョンだって言うのに、バラエティー豊かだねぇ」
「本当だな、どうやって用意してるんだか……とにかく、ウチのチームが水エリアに慣れてて良かったな。ここも抵抗なく攻略出来そうだ、敵の強さはともかくとして。
レイジーは災難だが、そこは工夫して前衛を率いておくれ」
「そうだねっ、ここのエリアじゃ私が活躍するからねっ。水の精霊とは、すっかりマブダチになってるから!」
そう言う香多奈は、グリフォンのヒバリを抱っこして得意顔。探索に連れて来たのは、妖精ちゃんの助言もあっての事ではあるのだが。
誰も活躍は期待はしておらず、今も末妹に『テルテル坊主の首飾り』を掛けて貰ってご機嫌な様子。他のメンバーも、いつもの水耐性装備を順次身につけて突入準備は完了の運びに。
再びゲートを潜ってから、香多奈の呼び出した水の精霊に『耐水魔法』を掛けて貰って仕上げもバッチリ。修理から戻って来たルルンバちゃんの魔導ボディも、心なしかいつもより輝きを増している気が。
家族から期待してるよと声を掛けられるAIロボだが、今回も実は後衛と言う。主にヒバリの積載役として、お兄ちゃん頑張れと懐かしのパターン再びである。
思えば萌や茶々丸が探索に同行し始めた時も、お兄ちゃんとして持ち上げられてたルルンバちゃん。今はこんなに成長して、頼りになる
頑張るぞと張り切る彼だが、復帰戦の舞台エリアが水仕様とはついていない気も。それでも装備を変更した一行は、気持ちも新たに初見エリアへと踏み込んで行く。
そして後衛の香多奈から、あっちの方向に次の層の階段があるよとの指示出しが。今回から初導入の『魔法のコンパス』は、末妹の現在お気に入りのオモチャである。
これでハスキー達の負担も、少しは軽減出来たらしめたモノである。特にここみたいな、薄暗い海底のフィールド型だとどちらの方向に進めば良いか判断に迷うのだ。
「そう思うと、確かにもの凄く便利なアイテムだね、この『魔法のコンパス』って。まぁ、ウチはハスキー達が優秀だから、探索中に階段とかゲートを捜して迷う事は無かったけど。
ここみたいな水エリアとかだと、ハスキー達も鼻が利かないだろうしね」
「そうだな、あともう1つ地図も回収したんだっけ? そっちも便利そうだが、確か回数制限があるんだっけ」
「魔法の地図は、鑑定の書みたいな使い切りですね……10枚制限で、使うとそのエリアのマップが浮かび上がって固定されちゃう仕様みたいです。
協会の能見さんに訊いてみたけど、ほとんど流通はしてないみたいですね。使い切りなのに、売るなら1枚2万円で買い取るって言われちゃいました」
お金に困っていない来栖家は、それを丁重に断った次第である。最近はレイド遠征も多いので、いざと言う時のとっておきに持っておくのは確かに良い手だ。
『魔法のコンパス』も便利だが、道順や距離や途中の地理は全く分からない。分かるのは方角だけなので、そう言う意味では不便な面もある。
とは言え、遠くまで広がるここみたいなフィールド型ダンジョンでは、進む方向が合ってる安心感は捨てがたい。そんな訳で、ハスキー達を先頭にいざ探索を始める一行である。
海底の景色だけど、上空を見上げるとほんのりだけど明るい感じ。深海では無いのは有り難いけど、岩が転がり砂地が拡がる海底は移動は割と大変である。
それも束の間、ハスキー達は数分もしない内に新たなエリアへと到着を果たした。途中に出て来た魚の群れモンスターや、半魚人型の獣人はハスキー達が華麗に始末してくれた。
敵の強さは、序盤の1層だけあってそこまでって感じでも無し。レイジーも『可変ソード』を咥えて、容赦のない斬撃を敵に浴びせていた。
元は白が基調の大理石構造だったのだろうが、今は半壊して見る影もない。おおっと感嘆する香多奈だが、次の階段だかゲートはこの奥にあるねと元気に主張する。
それなら進むねと、ハスキー達は探索を再開の構え。
それを阻むように、周囲の半壊した建物からモンスターの集団が。まずは
結構な戦力だが、気持ち悪いとの香多奈の台詞で、それなら消しちゃうねと紗良が《浄化》を唱えた。これで動きの鈍い海ゾンビは、全て消滅する破目に。
接敵もしていない内に、何とも悲哀に満ちた敵ではあった……その
コイツ等に突っかかって行くコロ助や茶々丸は、活きの良い敵とまみえて嬉しそう。頭突きやハンマー攻撃で、硬い敵の表皮はあっという間に崩れて行く。
それをサポートするレイジーは、お気に入りの剣を欠けさせないように慎重だ。ツグミもスキルに頼って、接近戦なんて野蛮な事はお断りって感じ。
姫香も少し手伝って、廃墟からの脅かし役は5分も経たずに退場の憂き目に。これで進む事が出来ると、魔石を拾いながらご機嫌な後衛陣である。
「あっ、はやくも魔石(小)が混じってたっ! このダンジョンって、意外に難易度は高いかもねっ……ツグミ、そっちの廃墟に宝箱とか落ちてない?」
「確かにゴーレムは、雑魚にしては硬いし強かったかもね。武器も持ってたし、1層から侮れないねぇ。でも水エリアのハンデを無効に出来てるし、コッチのペースには間違いないよ。
この調子で、もっと水耐性のアイテムも増やしたいね」
「ふむっ、ハスキー達も探してくれてるけど、水エリアじゃ鼻も利かないだろうしな。俺たちも手分けして、近くの廃墟を見て回るくらいはしようか、姫香」
それもそうだねと、それじゃあ大通りの右手を見て回るねと姫香の発言に。それを受けて、護人が左側に陣取ってのローラー作戦が施行される流れに。
面白がって、姉の姫香について香多奈まで廃墟を覗き込み部隊に加わっている。危ないから戻っておいでとの長女の言葉に、大丈夫だよと根拠のない返答。
ガメつい末妹は、こうなったらテコでも動かないと体験から知っている姫香は
実際、末妹の頭の上には入り口で召喚された水の精霊が張り付いている。いざとなれば助けてくれる筈と、姫香もお気楽に構えている模様。
その前方では、ハスキー達が肉食のピラニアみたいな牙の鋭い魚影に喧嘩を売られて交戦中。あっちもハッスル中だねと、末妹は宝物を捜しながら呑気な発言を口にしている。
そしてそんな苦労は、両面でほぼ同時に報われる事に。廃墟内の、昔は生活空間だった棚や机に置かれていた小箱から、魔玉(水)やらポーション瓶を発見出来たのだ。
他にも魔結晶(小)が5個に、金貨や銀貨の入った小袋が1つ。食器類や花瓶も見付かったけど、古風過ぎて青空市で売れるかは微妙かも。
護人が見付けた小箱からは、魚の鱗素材や骨素材も結構な量出て来た。これも価値としては微妙なので、次に期待だねぇとお宝を見付けてホクホク顔の香多奈である。
意外と広い海底エリアに、ここまで30分近く掛かってしまっている。それでも特に
大型の敵の姿も今の所は窺えず、後は無事に階段なりゲートなりを捜して階層クリアと行きたいのだが。荒れ果てた大通りの突き当りに、突然妙な仕掛けが立ちはだかった。
それはテーブルと樽のセットで、テーブルには正方形の可動式のパネルが5×5ほど
樽には下方に蛇口が取り付けてあって、その反対には天秤に乗ったコップが設置されている。そのコップを満たせば、何かが起きそうな気配ではある。
それを見た姫香と香多奈は、これってパズルじゃんと一斉にある方向を見遣る。
――その視線の先の紗良は、既に忙しく頭を働かせ始めていた。
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