第744話 秋も深まる中10月の青空市が開催される件



 怒涛の来栖家の敷地内で行われた、稲刈りの一大イベントも無事に終わって。その後の、陽菜とみっちゃんを招いてのお餅パーティと新米パーティも、盛況のうちに幕を閉じた。

 それを受けて、今回のブースの売り子は頑張るぞと、張り切って手伝いを申し出る両者である。そんな今回の青空市は、子供神輿みこしも開催されるそうで盛り上がりそう。

 ちなみに、市内在住の怜央奈は今日の内に合流との伝言が。


「それにしても、先週に来れば稲刈りも手伝えたのに残念だったな。ただまぁ、みっちゃんの実家が持たせたお土産のお魚と新米の組み合わせは、とっても美味しくてグーだったぞ。

 そんな訳で、今日の売り子は頑張ろうか、みっちゃん」

「本当に美味しかったっス、今夜のご飯も楽しみっスね……今日は全力で、売り子でも何でもやりぬく所存です」

「大きなタイとか貰って、昨日はおかずが凄い豪華だったねぇ……ありがとうね、みっちゃん! 稲刈りの事は気にしないで、人手は全然足りてたよっ。

 新人さんが、山の上に一気に3人も入ったからね」

「そうそう、あのギルドの新入り3人なんだけど……良い子達なのは確かだけど、ちょっと特殊なスキル持ちだからその辺は後で説明するね」


 そんな姫香の言葉に、それは興味深いなと陽菜の瞳がキランと輝く。やっぱり山の上は色々なイベントが起きるんだなと、何かの波乱を期待している感じ。

 一方の紗良は、今夜の夕飯のおかずも豪華になるよと嬉しそう。昨日も新米に鯛料理とは凄かったねって、ルンルンしながら青空市の準備を進めている。


 子供組は、今日の売り物を色々と揃える作業に忙しい。昨日の内に新米を少量ずつ分けて、お裾分すそわけ値段で売ってみようと盛り上がって計画していたのだ。

 他にも、お婆のおはぎ販売も午後からやる予定の来栖家ブースである。10月もブース2面対応なので、売り上げも2倍を目標に頑張るぞと子供達の意気は高い。



 青空市のイベント的には、午後から子供神輿で町中を練り歩くってのをするそうな。そちらにも参加予定の香多奈と和香と穂積、それから新入りのりょうも特別に入れて貰えるそうで良かった。

 来栖家の9月の探索事情だけど、結構多くあちこち出掛けたにも関わらず。青空市で売れるような品物は、あんまり集まらなかったと言う。


 特に県北レイドの2つだが、一般市民が喜ぶような品物はほぼ入手出来なかったと言う悲しい事情が。異世界のダンジョン探索も同じく、『温保石』や『涼保石』などの魔法の品は、なるべく家族やギルド内で使いたい。

 せっかく2面も用意して貰ったのに、売り物が増えなかったのは残念な限り。ただまぁ、過去の売り物の残りがわんさかあるので、ブースのいろどりは何とでもなる筈。


 12月の年末には、去年もやった福引みたいなイベントをやるのも良いねと姉妹で企画も行っている。在庫は溜まる一方なので、一気に売り払う機会は儲けるべきだと。

 取り敢えず今回は、売り子も揃ったし2面ブースの対応も完璧オッケーだ。それから新入りの3人も、売り子体験をさせてあげたい。


 何なら、新人チームがこの前の探索で回収した日用品も売って貰って全然良いし。その辺の話し合いも行いつつ、ブース準備を行う来栖家の子供達であった。

 そして今夜の夕飯は、売り上げを達成して豪華に行くよと紗良の声掛けに。配置についた子供たちは、頑張ろうと気合いの入った声を返す。


 この夕食会の主役も、もちろん収穫したての新米である。それにみっちゃんのお土産のお魚の残りとか、秋野菜のお惣菜もたくさん彩りを添える予定。

 ブースの売り子が初体験の新人の3人は、どうしてもやっぱり緊張気味な表情。陽菜は、紹介された3人が探索に関してはE級の新人と知って、途端にお姉さん振り始めている。


「いや、最初はみんなE級からだからな、そこから頑張って成長して行くんだ。幸いこの『日馬割』ギルドは、アットホームで信頼のおけるところだからな。

 もちろんそのギルドの古参の1人である、この私に相談しても全然オッケーだぞ」

「あっ、私も相談とか全然してくれて大丈夫っスよ……私は前衛も中衛も、それから後衛も立ち位置をこなすから探索の質問なら何でも来いっス!」

「陽菜はともかく、みっちゃんは粗忽そこつモノだからあんまり信用し過ぎちゃ駄目だよ、3人とも。でもまぁ、もうすぐ陽菜とみっちゃんはB級ランクに上がるそうだからね。

 格上の先輩なのは、取り敢えず間違いはないかな?」


 粗忽モノとはなんっスかと、真っ赤になりながらのみっちゃんの反論は周囲の笑いに包まれていた。そんないじられ体質の彼女だが、ムードメーカーなのは間違いない。

 そんな2人は、今回も1週間程度泊まり込んでザジに教えをう予定との事。週末にダンジョン探索も組み込みたいなと、彼女達は飽くまでアグレッシブだ。


 ついでに食欲も旺盛で、昨日も新米美味しいなとキッズ達に負けない程にお代わりをしていた。それを見て、負けずに食べなさいと新人の3人に発破をかける周囲の大人たち。

 相変わらずぎっちぎちの来栖邸リビング&キッチンでの食事だったが、和気藹々とした雰囲気の夕食は最高だった。そんな中、皆の胃袋を掴む紗良が今日の青空市は頑張るよとの発言。


 それに逆らえない子供達は、了解と敬礼しそうな勢いで返事をする。それに加えて、護人からも午後からの子供神輿のメンバーは頑張ってと激励の言葉が。

 そんなイベントを含みつつ、10月の青空市は開催されたのだった――




 そうして始まった青空市は、見事な秋晴れでこれは客足が見込めそうな気温。来栖家の面々は、キャンピングカーと白バンを出して、前乗りしてのブース準備はバッチリ終了済み。

 何しろ今回も、秋野菜を割と大量に持ち込んでの販売予定なのだ。それから目玉の新米だが、こちらは一袋5合でお裾分け販売する予定でいたりして。


 午後からはお婆に、押し寿司とおはぎを何セットずつか持ち込んで貰う算段だし。そんな訳で、今回もおばちゃん連中の襲撃は大ゴトとなる予感。

 午後から子供神輿のイベントもあるし、今回は買った荷物お預かりコーナーも設置する予定。そちらの人数も必要なので、陽菜とみっちゃんの参加は素直に有り難い。


 もちろん新入りの桃井姉弟と遼少年にも、朝から販売補助を頑張って貰う予定でいる。熊爺家の少年たちも、家から売り物を持って合流して来た。

 そんな感じで盛り上がりつつも準備に勤しんでいると、見回りの実行委員会お手伝いの土屋と柊木が話し掛けて来た。どうやら今月の青空市の集客、過去最高にタメを張りそうな勢いだとの事。


 去年もそう言えば、お祭り行事と合わせて行った月は凄い集客だった記憶がある。確かにそうだったねぇと、呑気な香多奈の呟きに初参加の新人ズは顔面蒼白の状態に。

 それに気付いて、熊爺家の双子が大丈夫だよと勇気付けている。和香と穂積も、一緒に死闘を頑張ろうと拳を握っての可愛いファイティングポーズ。


 熊爺家のキッズ達は、何度も参加していていい加減慣れて来た感じを受ける。サポートしてくれれば大丈夫だよと、同じ新入り塾生徒の緊張をほぐす素振り。

 実際、桃井姉妹と遼少年の役割分担はお預かりサービスの補助係だった。これなら怒涛どとうの勢いのおばちゃん軍団に対面する事も少ないので、何とかなりそうとの配慮である。

 それにはみっちゃんと熊爺家の須惠すえがついて、まず安心のサポート状態。


「そろそろ開始時間だねっ、みんな頑張って行こうっ! 年少組は午後から子供神輿があるから、ここで力を使い果たさないように気を付けてね。

 今回も袋に仕分けての野菜販売だけど、潰れそうなトマトや卵は別売りになってるからね。それから秋野菜のカボチャやさつまいも、新米の袋も別料金になってるね」

「了解っ、売り値を混乱せずに間違えないようにしないとな。それからお預かりサービスを望む人には、番号カードを渡すんだったっけ?」

「うん、そうだね……これも使い回す予定だから、ちゃんと荷物を渡し終わったら回収して行ってね、みっちゃん」


 了解っすと元気な返事のみっちゃんは、地面に敷かれたブルーシートに既にスタンバイ中。桃井姉弟と遼少年も、靴を脱いで一緒にシートの上に。

 コロ助が何の遊びと乱入して、一部カオス状態になっているけど。周囲を窺うと、他の屋台ブースも気合い入れまくりで最終準備に追われて大変そう。


 そうこうしている内に、10月の青空市の開始時刻となったようだ。支度はすっかり整った来栖家ブースだけど、この瞬間はいつも緊張する面々。

 それをあおるように、開始のアナウンスが会場に響き渡って行った。そして津波のように、ブースへと迫って来る宮島の鹿の群れのようなおばちゃん連中。


 そこから始まる商品のつかみ合いは、まさに血で血を洗う戦いが始まったのかと錯覚するレベル。それをさばく紗良や姫香、それから陽菜や熊爺家の長男はまさに豪風の渦中に放り込まれた感覚かも。

 ブースの上から消え去る野菜セットに合わせて、香多奈や年少組が次々と追加で商品を乗せて行く。それを繰り返す事30分近く、ようやくの事ブース前の嵐に終焉が。


 今回の野菜セットには、先月のトウモロコシは無くなったモノの、ナスやピーマン、オクラにキュウリはまだまだ健在。ついでにキャベツやネギが参加して、彩りは衰えていない。

 それに加えて、秋のセットとしてカボチャやさつまいもや広島菜やリーフ類が追加された。こちらはややお高い設定ながら、スーパーで買うよりは断然お得な値段設定である。


 そんな訳で、商品が消えて行く速度はやや安値の野菜セットとほぼ変わらない有り様だった。熊爺家提供の野菜&卵も、既に完売しており今回も大成功である。

 お預かりサービスも大好評で、購入者の半分以上が利用してくれたみたいである。残りの半分は、恐らくだがマイカーで来た客層なのだろう。


「ふうっ、何とか波は治まってくれたねぇ……みんなお疲れさま、残りの商品はどれだけある、香多奈ちゃん?」

「漬け物がちょっとだけかな、あとは野菜でセットに出来なかったのがちょこっとだけ。この調子だと、午後のおはぎ販売も凄い事になりそうだねぇ」

「本当だよ、限定数が限られてるから物凄い事になりそう……あっ、あれは怜央奈じゃない? ついでに甲斐谷さんと、お決まりのメンバーもいるね。

 今日は午前中の到着なんだ、とは言え怜央奈はいつも通りちゃっかりだね」


 修羅場をのがれて到着した友達をそう評する姫香だが、向こうは全く気にしていないよう。やっほーと楽し気に声を掛けて、売り子手伝うよと呑気な表情。

 ピーク過ぎを狙って来るとはとお怒りの陽菜だが、もちろん本気で怒ってはいない。甘味を買って来たから許してと、怜央奈は飽くまで妹属性が強いちゃっかりさを発揮している。


 一緒に訪れた甲斐谷や八神や椎名兄、それから『ヘリオン』の翔馬や『麒麟』の淳二は、同じく手土産を持参して用意周到。いや、これは先月の県北レイドの手伝いのお礼だと、素直に思いたい護人である。

 また断り辛い案件を、持ち込むための手土産だとしたら正直悲し過ぎる。そんなに身構えてくれるなと、甲斐谷などは笑って護人のいるブース奥へと入って来る素振り。


 要するに、今回も軽くミーティングを行いたいって意思表示なのだろう。そう察した護人は、キャンピングカーに皆を招いて紗良にお茶を出してくれるよう頼む。

 私がれるよと立ち上がった姫香は、厄介事をポンポン持ち込むなと鋭い眼差しで表明しているよう。まるで柔らかい性格の護人を護る騎士である、まぁ似たようなモノなのかも。


 そんな少女に対して、今日は本当にお礼を言いに寄っただけだからと、柔らかい口調の八神である。新しい予知も今の所は湧いて来ないし、今年の冬はダンジョン活動は比較的穏やかだとの見通しの“巫女姫”に対して。

 それはどうかなぁと、“トラブルメーカー”香多奈がこそっと呟きを返す。





 ――ただまぁ、その小さな声は近くのキッズ達しか聞き取れず。






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